「娘が有名な栗のお菓子が好きだと話していたんですよ…」非常識な贈り物を催促してくる得意客のうまい扱い方
プレジデントオンライン / 2023年6月12日 11時15分
■顧客から贈り物を要求されたら…
仕事をたくさんくれている顧客から、個人的に贈り物をするよう促されています。厚かましいので、それだけで腹立たしいのですが、このくらいの要求には応じるべきでしょうか――20代の会社員の方からのご相談です。
こうした要求をしてくる人は、残念ながらよくいるものです。あからさまで失礼な要求もあるのではないでしょうか。
私もある企業で私の業務を担当してくれていた人物(ここではA氏とします)から、何度も贈り物をせがまれたことがありました。
「松崎さんの地元、栗のお菓子で有名なのがありますよね」
「ウチの娘が食べたことがあって、とても好きだと話していたんですよ」
「おいしいんですよね」
「どんなものかと思いましてねぇ」
A氏は、20歳以上も年下の私に、こんなふうに切り出してくるのです。
■相手からの要求に応えるかは自分で決めてよい
こういう要求をどう扱うかは、自分(たち)で決めればよいことです。
こんな要求には応じられないと無視するのも、相手の望む通りにするのも自由です。
自分で事業をしていれば、どうするかは自分で判断することになりますが、会社に勤めていれば、会社や所属部門の慣行にしたがうことになるでしょう。
組織には、この手のことをどう扱うか、暗黙的にであっても、おおよその決まりがあるものです。
相手の望みを受け入れる場合、前もって承知しておきたいのは、こういう相手は、ひとたび要求に応じれば、繰り返し求めてくることです。
前出のA氏にも、指定された栗のお菓子を秋のシーズンに贈ったのですが、しばらくすると、「あのお菓子は秋限定ではないんですよね」「春は春で、いろいろあるらしいですね」「どんなものかと思いましてねぇ」と言ってきました。
こうした要求は応じると、それで終わるのではなく、要求に応じてくれるものと見なされ、繰り返しになることが多いのです。そのことをあらかじめ想定して、どう対処するのかを判断します。
どんな神経をしていれば、こんな要求ができるのかと思うことは多いのですが、残念ながら、相手はそういう人です。
厚かましいとか、恥ずかしいという感覚を持ち合わせていませんから、こうした事柄は一人で抱え込まず、そうした事実があることを自社内の誰かに伝えておくことをお勧めします。
■周囲との共有が気持ちをラクにする
要求を繰り返す相手の行為、それを話すときの相手の表情などは、実に醜いものです。
この手のことを扱うのが苦手な人は、それを一人で思い出し、ストレスを溜め込むことがあるかもしれません。
それよりは、起きていることを周囲と共有しておくほうが、ラクに感じることもあるでしょう。
特に抵抗を感じることもなく、へっちゃらな人もいますが、その場合でも、常識的とはいえない要求をされているのですから、それを記録すると同時に、できるだけ上司のような立場の人と、アップデート情報を共有し続けることをお勧めします。
![SHARINGと書かれたサイコロ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/8/1200wm/img_48e33a64d029f0595d74634166c943d6245976.jpg)
■信頼できる相手の会社の中の人に伝える
要求をしてくる相手の会社の中にも、信頼できる人がいれば、贈り物を求められ、それに応じていることは、上手に伝えておきましょう。
私も前出のA氏のことについては、A氏の会社の管理者で親しかった人(A氏の部下)に伝えておきました。
そして、求められたお菓子は、(一度目は、A氏の自宅に送付しましたが、)二度目は、もう自宅には送らないほうがよいと考え、会社の住所宛てに「皆様でお召し上がりください」と添え書きをして送りました。
すると追って、私が親しかった管理者は、A氏がそれを一人で自宅に持ち帰ってしまったことを話してくれました。
A氏は、もっと偉い立場の人でしたので、周囲は誰も注意できなかったようですが、ここではA氏の行為をA氏の会社の人たちの知る状態にすることが肝心だったのです。
管理者は、「まったく、しょうがない人だから。ごめんね」と言って、A氏が「他にもこんなことをしている」といったことまで話してくれたものです。
A氏のような人は、機会があればグレーなことを次から次へと行うものです。ここに詳細は述べませんが、私も贈り物を求められただけでなく、実は他のことでも利用されていました。
■贈り物をせがまれるのは関係を維持したい証
ただ、A氏のような人は、要求に応じてくれた相手に見返りを渡すことは多いのです。
贈り物をせがまれるのは、A氏が仕事上の関係を維持したいと考えている証(あかし)と受け取ることができます。
自分の立場を利用して贈り物を求めるのは、もうすぐ契約を切ろうとしている相手に対してできることではないでしょう。ですから、その分仕事の注文はしっかりともらうようにします。
もともと、要求された通り贈り物をするのも、そのためにやっていることです。
残念なことですが、コンプライアンスがうるさく叫ばれる世の中でも、ビジネスの取引では、こんな人は相変わらず存在していますから、上手な対応が必要となるでしょう。
■自分から要求する行為はやめるべき
しかし、そうした慣行が存在しているからといって、自分から取引先の相手などに何かを要求する行為は、決してお勧めしません。
![一時停止の標識](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/1200wm/img_5dcf3e74f632538e4bea7cd47d2762b4400450.jpg)
第一に、立場を利用して取引先に金品などを要求するのは、あまりに恥ずかしい行為だからです。
また、ここまでの話でおわかりの通り、そんなことをすると、周囲の人たちも、その行為について知ることになります。
誰から注意を受けるわけでもなく、本人も気づかないままですが、何かを要求した取引先の日誌等に、そのことがしっかり記録されることもあれば、噂として多くの人が、そのことを耳にするでしょう。
世の中には、見込み客にさまざまな便宜を図り、賄賂を渡してでも、受注をしたい人たちが存在します。ある程度のことが、業界などの慣行として許されていることもあるでしょう。
注文をもらえた会社の担当者たちは、欲しかった見返りを得て、発注した人の愚かな行為はなかったものとして扱い、どんなことでもすっかり忘れているように振る舞ってくれるでしょう。
しかし多くの場合、その行為は、彼らの記憶の中に、いつまでも残っているものです。
■過度な要求にカッとなってはいけない
常識的と思えない要求を受けたときには、1つ注意点があります。
前出のA氏のように贈り物をせがむ人ばかりでなく、夜の街で遊ばせてほしいという人もいれば、海外では観光案内をしてくれという人など、さまざまなことを求めてくる人がいます。
私はあるとき、どうしても急に時間をとってほしいと言って聞かないクライアントが、事務所に押しかけてきて、何の話かと思っていると、「米国出張の際に、ディスカウントの航空券を買って、自分の会社には正規料金で買ったように見せかけて、上手く差額を懐に入れる方法はないだろうか」と尋ねられたことがあります。
こんなことに知恵を貸してくれと求められたら、私も含めた普通の人は、腹を立ててしまうと思います。しかし、どんな要求を受けても、カッとなって、怒ってはいけない理由があります。
倫理的に許せないと思う要求をされることはあるかもしれません。しかし、そんなときに「自分がどう感じたか」だけでは、対応の仕方は決めないようにします。
もっとも、前出の航空券のことなどは、そうした相談には応じられないと、はっきり答えれば済む話です。私もそのときには、そのように即答しています。
ただ、長く社会人をやっていると、「なぜこんなに平然と賄賂を求めてくるのか」と不思議に思うようなこともあるのです。
■自分の感触だけで返答してよいとは限らない
相手のあからさまな態度が不思議で調べてみると、(あくまでも一般的な話ですが)自分の会社から相手の会社へ、過去にその手のものを積極的に提供していたことがあったりするのです。
自社の担当者は変わり、現在は自分が担当者になっていますが、過去のある時期に何年間もそんな関係にあった相手が、それを周知のことと想定して話している――こんなことがあるものです。
そのため、そのときに自分が受けた感触だけで返答をするのが、よいとは限らないのです。
場合によっては、自分が担当する以前からの取引について、さかのぼって調査をして、その要求を「どう扱うべきか」判断することになる。倫理的におかしいと感じても、すぐさま相手にNoを突き付けられない――そんなところが、袖下関係の取り扱いの難しいところです。
なぜこんなふうに贈り物を求められるのか。調べてみると、そんな贈り物くらい何でもないと思えるような関係があった。あり得なくはない話です。
あまりに厚かましい相手がいたら、疑ってみてもいいでしょう。これを読んで、大げさすぎると感じられたら、もちろんそのほうがよいのですが。
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サイドマン経営・代表
もともとグローバル人材育成を専門とする経営コンサルタントだが、近年は会社組織などに存在する「ハラスメントの行為者」のカウンセラーとしての業務が増加中。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では、非常勤講師としてコミュニケーションに関連した科目を受け持っている。著書に『好きになられる能力 ライカビリティ』『英語で学ぶトヨタ生産方式』など多数。
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(サイドマン経営・代表 松崎 久純)
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