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すれ違うだけで感染することがある麻疹の患者が発生…子供のワクチン接種率の回復が急務なワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月9日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izusek

急速に海外との行き来が回復するなか、じわじわと麻疹感染者が増えており、医療関係者らが警戒を促している。小児科医の森戸やすみさんは「じつは現在、世界的に小児のワクチン接種率が下がっていて、非常に危険な状況にあります。定期・任意のワクチンをきちんと接種することが大切です」という――。

■「人流の回復」がもたらす感染症のリスク

現在、訪日外国人旅行者が増えていて、街中でも大きなスーツケースを持った人たちをよく見かけます。今年3月時点で180万人、2023年末には2000万人程度になるのではないかという推計もあり、ものすごいスピードといえます。外国から日本に訪れる旅行者は2019年には1カ月で250万人でしたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック下の2020年5月にはわずか2000人でした。

観光地や飲食店などがインバウンドによって、緊急事態宣言の頃と比べ、回復したのは大変喜ばしいことです。また、ゴールデンウィークには、日本から海外に旅行する人も増え、日本人の国内旅行も回復してきています。しかし、感染症に着目すると、急激な「人流の回復」は好ましいことばかりではありません。

2類相当だった新型コロナウイルス感染症は、5類になって水際対策が行われなくなりました。ワクチン証明書や出国前検査の提出が求められません。もともと新型コロナウイルス感染症以外の感染症に関しては、そういった対策が講じられていませんから、海外から日本にいろいろな感染症が持ち込まれるリスクが高いのです。

世界的な人流の停止によってなりをひそめた感染症も、人流が再開したら、また広まってしまいます。実際、根絶目前だったポリオは再興し、アメリカ、イギリスなどでは不活化ポリオワクチンの追加接種の対策がとられているのです。

■コロナ禍に低下した小児のワクチン接種率

そんななか、コロナ禍のせいで、子供が受けるべき定期接種ワクチンの接種率が世界的に下がって問題になっているのをご存じでしょうか? WHOによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こった2021年には、1歳以下の2500万人が三種混合やMRワクチンといった基本的なワクチン接種を受けなかったとのことです(※1)。割合にすると、2021年の「世界の小児ワクチン接種率」は81%で、2019年は86%だったので、ずいぶん低下してしまったことになります。

新型コロナウイルスのパンデミックが起こるまで、予防接種を受ける子供の数は年を経るごとに向上していましたから、この数は2009年以来の少なさです。WHOはビル&メリンダ・ゲイツ財団などの非営利組織(NPO)や国連児童基金(ユニセフ)、途上国のワクチン普及を目指す国際組織「GAVIワクチンアライアンス」などの機関と協力し、新型コロナウイルスのパンデミックで低下した小児定期ワクチン接種率の向上に取り組む事業を始めました。

じつは、日本でも定期接種のワクチンの接種率は下がっています。BCGだけは一部の報道で、「新型コロナウイルス感染症の予防に効果があるかもしれない」と言われたため、神奈川県川崎市など、接種率が増加した地域もあったようです(※2)。しかし、すでに発表されているように東京都府中市や新潟県新潟市をはじめとして、全国的に定期ワクチンの接種率は下がっています。(※3、4)

※1 WHO「Immunization coverage」
※2 日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について」(2020年6月17日 )
※3 日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について」(東京都府中市、2020年8月23日)
※4 日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症流行時における小児への予防接種について」(新潟県、2020年9月16日)

■MRワクチンの接種率の低下と麻疹発生

特に、予防接種推進専門協議会がお知らせを出しているように、MR(麻疹風疹混合)ワクチンの接種率低下は大問題です。麻疹も風疹も感染力が強いため、95%以上のワクチン接種率を保つことが大事ですが、2021年の接種率は93.5%でした。

2015年以降、日本では土着の麻疹を排除できていたのですが、去る4月27日に茨城県で麻疹感染者が報告されました。インドに渡航した30代男性で、4月23日に東海道・山陽新幹線のぞみで新神戸から東京駅、さらにJR在来線などで茨城県みらい平まで移動したことが公表されています。麻疹はすれ違うだけで感染することがあるほど感染力が高く、また潜伏期があるため、注意を呼びかけるためです。

実際、東京都で、5月10日に30代女性、11日に40代男性の麻疹感染者が報告されました。海外から帰国した30代男性と同じ新幹線を利用していて、その時に感染したとみられています(※5)

麻疹は、かつて「命さだめ」と呼ばれて恐れられました。現在でも感染した人の30%が合併症を起こし、高度先進医療を受けたとしても1000人に1人は命を失う危険性がある怖い病気です。幼い頃に麻疹にかかり、2〜10年くらい経ってから性格が変化して知能が低下したり、動作が緩慢になり歩けなくなったりする「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」という病気になることもあります。SSPEは難病で有効な治療法がありません。「ワクチンを受けるよりもかかったほうがいい」と言う人がいますが、軽々しくそんなことを言ってはいけないのです。

※5 東京都福祉保健局「麻しん(はしか)患者の発生」

痒さに、肌をかいてしまう人
写真=iStock.com/Singjai20
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Singjai20

■恐ろしい麻疹もワクチンで防ぐことができる

ただ、麻疹は恐ろしい病気ではあるものの、MRワクチンで防ぐことができます。海外から帰国した男性の麻疹ワクチン歴は1回だけでした。2006年より前はMRワクチン2回接種ではなかったので、他の感染者にも十分な抗体がなかったのではないでしょうか。

これまでにMRワクチンを2回接種したかどうかは、母子手帳を確認すればわかります。接種していない人、接種したかどうかわからない人は、ぜひ内科などでキャッチアップ接種をしましょう。昭和37年度~昭和53年度生まれの男性には第5期の風しん追加対策があって風疹ワクチンかMRワクチンを選べますし、市区町村によっては妊娠を希望する女性や妊娠中の女性および同居人にMRワクチンの助成があるので、保健所に確認してみてください。自費でも1万円くらいで接種することができます。

また、MRワクチンを2回接種していたとしても、感染予防効果は一生涯続くものではなく数十年後には抗体価は下がります。ですから、心配な場合はぜひ接種してください。抗体価を検査せず、接種しても問題ありません。ご自身だけでなく、子供や赤ちゃん、病気の人を守ることにもつながります。1歳になったのにまだMRワクチンを一度も接種していないお子さんは、早めに受けましょう。2回目の接種は就学前の1年間なので、予診票が手元に届いたら受けましょう。MRを2回受けたのに妊娠中の検査で抗体価が上がっていなかったという人から相談を受けることがありますが、測ることのできない細胞性免疫はできているためおそらく大丈夫です。心配な場合は、出産後に3回目のMRワクチンを追加で受けることもできます。

■全ての定期接種・任意接種のワクチンを

たまに、なるべく子供にワクチンを接種させたくないという保護者の方から「特に受けたほうがいいワクチンはどれですか?」と尋ねられることがあります。年齢によりますが、接種可能な全ての定期接種・任意接種のワクチンを受けるべきです。さらに海外に行くなら、国や地域によって感染しやすい病気があるので、その地域で必要とされているワクチンも全て受けていかないといけません。

感染すると、重症化したり後遺症が残ったり命に関わったりする危険性が高い感染症で、かつ開発がうまくいった場合だけワクチンがあるのです。よく「ワクチンを接種するより、感染したほうが免疫がつく」などと言う人がいますが、予防接種の目的は免疫をつけることではなく、合併症や後遺症で苦しまないこと、死なないことです。感染して抗体が上がっても、命を失ったりしては本末転倒でしょう。

また、日本では長いこと感染者がいない、あるいはとても少なかった感染症になった場合、すぐに診断できる医師は多くありません。ジフテリア、ポリオはもちろん麻疹や風疹ですら若い医師は実際に診察した経験がないのです。体が小さく未熟な子供、妊婦さん、基礎疾患を持っている人、またそういった人の近くにいる人たちは特にワクチンで自衛していただきたいと思います。

赤ちゃんのワクチン接種前にアルコールを含んだ脱脂綿で消毒中
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

■接種しておきたい新型コロナワクチン

以上のように、お子さんには定期接種および任意接種の全てのワクチンを接種していただきたいですが、そのほか新型コロナワクチンも接種していただきたいと思います。

最近の小児科外来は、新型コロナ対策をしていたおかげで少なかった溶連菌やRSウイルス、アデノウイルスなどのさまざまな感染症のために発熱で受診されるお子さんが多いです。そうして発熱外来に来たお子さんの保護者の方に、新型コロナワクチンの接種歴を尋ねると、「この子は1回かかったから受けていません」と言われることが多々あります。でも、新型コロナウイルス感染症は、一度だけでなく、何度もかかるもの。「インフルエンザにはかかったことがあるから、インフルエンザワクチンを受けません」という人はいないでしょう。

新型コロナワクチンは、今後は定期接種化することも検討されています。また、あまり報道されないので「子供は新型コロナウイルスに感染しても重症化しないし死なない」と思ったままの人がいますが、2022年1〜9月には20歳未満の基礎疾患のない人が29人亡くなっています。そのうち5歳未満は13人もいたのです(※6)。亡くならないまでも、後遺症で全身の血管炎である川崎病と非常によく似た「小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)」や「注意力障害」などになってしまった子供もいます。SNSを見ると「子供に新型コロナワクチンは必要ない。むしろ害しかない」などと言う人がいますが、大きな間違いです。

※6 新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報)

■今年度の新型コロナワクチンの接種について

さて、令和5年度春の新型コロナワクチンは、5月8日から始まりました。でも、厚労省のページでは誰がどのように受ければいいのか大変わかりにくいので、ここで解説したいと思います。まず基本的なこととして、小児の初回接種というのは1・2回目のことで、3回目以降は追加接種といいます。

生後6カ月〜4歳の乳幼児には、オミクロン対応の「2価ワクチン」が日本で薬事承認されていないので、「従来型ワクチン」を3回まで受けることができます。集団接種を行っているところは少ないので、市区町村の広報や保健所のウェブサイトで接種できる医療機関を探しましょう。

5〜11歳で、まだ一度もワクチンを受けていない場合は、従来型ワクチンを2回受けます。3回目からは2価ワクチンを受けます。初回接種から2価ワクチンを接種できないのは、その方法での治験をしていないからです。従来型ワクチンを3回受けていたら、4回目に2価ワクチンを接種できます。つまり、5〜11歳は現時点で新型コロナワクチンを最多で4回目まで接種できるのです。

12歳以上は大人と同じルールなので、2023年5月7日で終了した従来型ワクチンも2価ワクチンも、9月以降まで受けられません。基礎疾患がある場合は接種対象になることがあるので、お住いの自治体の保健所のウェブサイトを確認してください。例として東京都の説明も図やフローチャートがあって、参考になります(※7)。そしてどの年齢でも今年度中は無料で受けられますが、令和6年度以降はわかりません。ぜひ今のうちに接種しておきましょう。

※7 東京都福祉保健局「都からのお知らせ」

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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