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なぜ確実にやせられる「低炭水化物ダイエット」はあまり流行しないのか…人間の「食欲」をめぐる不都合な真実

プレジデントオンライン / 2023年6月9日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

ダイエットにはどんな食事法がいいのか。シドニー大学教授で栄養生態学の世界的権威であるデイヴィッド・ローベンハイマーさんらによる『食欲人』(サンマーク出版)より、健康的にやせる食事についての解説を紹介する――。(第2回)

■「タンパク質は健康によい」という誤った理解

人類史のほとんどの期間はそうではなかったが、今日では多くの人が体重を落とすことを目標にしている。体重を減らすだけでも大変だが、減らした体重をキープするとなるとさらに大変だ。よくあるのが「ヨーヨー効果」だ。

最新流行のダイエットで減量しては、もとの体重にリバウンドし、かえって前より太るなど、体重がヨーヨーのように増減をくり返す。減量産業にとっては夢のようなビジネスモデルであり、また人間の生物学的な仕組みと現代の食環境のせいで、これを避けることはほぼ不可能になっている。

タンパク質レバレッジの助けを借りれば、仕事はずっと楽になる。ヨーロッパのDIOGENES研究などの大規模臨床試験では、低カロリー食の期間(この研究では1日800kcalを8週間)中に減った体重をその後も維持するには、高タンパク質食(25%)と多量の健康的で消化の遅い炭水化物を組み合わせるのがよいという証拠が示されている。

初心者にありがちな間違いは、高タンパク質食のメリットが、タンパク質そのものから来ていると思い込むことだ。「高タンパク質食で体重が減った。体重が減って健康状態がよくなった。だから、タンパク質は健康によい」という、誤った三段論法がまかり通っている。

だがタンパク質は、糖尿病や心臓病などの肥満の合併症を改善する特効薬ではない。高タンパク質食は、ただ総摂取カロリーを抑えるだけだ。それ以外のメリットはすべて、カロリーを減らしたことからやってくる。

■「高タンパク質食ダイエット」は確実にやせる

最近では、「もしタンパク質がよいなら、多ければもっとよいはずだ」という考えに立つダイエットが流行っている。これもよくある誤った論法で、「よいものはどんなものでも、多ければさらによい」といっているのと同じだ。

有益な物質にも、摂りすぎると有毒になるものはたくさんある。塩、水、ビタミンなどがそうだ。同じことがタンパク質や、炭水化物、脂肪についてもいえる。高タンパク質食ダイエットが流行り始めたのは、しばらく前のことだ。

この考えを広めたのは、ロバート・アトキンスの著書だった。アトキンスは減量のために、低炭水化物・高脂肪・高タンパク質食を推奨した。彼は正しかった。そうした食事では、タンパク質欲が満たされ、全体的に食べる量が減るからだ。

アトキンスに続いて、パレオダイエット、ケトジェニックダイエット、肉食ダイエットなど、低炭水化物食やゼロ炭水化物食を推奨するダイエットが流行した。肉、魚、卵、バターだけを食べて、楽に体重を減らし、強壮で動物的な健康を手に入れよう、という考えである。

キッチンの背景にタンパク質源の選択、コピースペース
写真=iStock.com/a_namenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/a_namenko

こういった手法はどれも確実に減量を促す。タンパク質を十分摂ることで飢えが満たされるうえ、超・低炭水化物のケトン食を摂る(1日当たりの炭水化物摂取量を20g――リンゴ1個分に相当――以内に抑える)と、体は細胞の主な燃料としてグルコース(ブドウ糖)の代わりに、脂肪の分解産物であるケトンを燃やすようになるからだ。またケトンはタンパク質の摂取量が少ないときにも、カロリー摂取を抑制する効果があると考えられている。

■「炭水化物」を減らすとどうなるのか

低タンパク質(9%)/超・高脂肪(90%)のケトン食は、小児てんかんの治療をはじめ、特定の状況で治療効果を発揮する。また超・低炭水化物・低エネルギー食は、2型糖尿病の症状改善に役立つ場合がある。

だがどちらの食事も、ほとんどの人の日常的な食事としては持続可能でないし、望ましくもない。それほど極端でない低炭水化物・高脂肪食でさえ、長続きしない。ほとんどの人が、やがて主要栄養素がバランスよく含まれた食事に戻ってしまう。

理由は単純だ。食事からほとんどの炭水化物を取り除けば、炭水化物欲にスイッチが入り、デンプン質の甘い食品がたまらなく食べたくなる。何日か炭水化物を減らして、どうなるか見てみよう。

おまけに食事のタンパク質比率まで低ければ、タンパク質と炭水化物の両方が無性に食べたくなるという二重苦に苛(さいな)まれ、そのうえ脂肪など見たくもなくなる(脂肪欲が脂肪の摂りすぎを止めさせようとして、そう感じさせる)。

■栄養の選択肢を狭めてはいけない

あなたの食欲は、あなたにバランスの取れた食事を摂らせるという、自然によって与えられた目的を果たそうとしているだけだ。低炭水化物食(やそのほかの極端な食事法)を阻止しようとするあらゆる衝動に逆らってまで、そういう食事を長く続けていると、そのうち体が順応する。

人間はこと食事に関しては、とてつもなく柔軟な生き物だ。伝統的なイヌイット(魚や哺乳類の肉と脂肪をベースにした食事)や、ケニアのマサイ族(動物の乳と血)、沖縄の人々(サツマイモを主食とする低タンパク質食)が粗食に適応してきたことは、ヒトという種の成功の証とされてきた。しかしマイナス面もある。

栄養素の選択を狭めれば狭めるほど、代謝の柔軟性が失われ、食生活のパターンを変えにくくなる。人間の体の仕組みは、四季折々の多様な食品を食べたり、ひもじい夜を過ごしたり、「饗宴と飢餓」の環境変化に適応したりできるよう進化してきたのだ。

人間は生理学的にいえば、どんな挑戦にも柔軟に対応できるように筋肉と腱を伸ばしておくアスリートに似ている。生理学的な仕組みを「伸ばしておく」ことができなければ、健康的で多様な食事を楽しむ能力を次第に失ってしまう。

■高タンパク質/低炭水化物食で寿命が縮む

とはいえ――もしあなたが健康的な体重をオーバーしていて、とくに糖尿病や心臓病の徴候がある場合――減量が健康と寿命によい影響をおよぼし得ることは疑いようがない。肥満関連の健康障害を一気に改善できるメリットはとても大きい。

だが長寿の分子機構について解明されていることを踏まえれば、高タンパク質/高脂肪食はそれ自体、潜在的なリスクをはらんでいることがわかる。

私たちの昆虫とマウスの実験は、世界中の科学者による研究の裏づけを得て、高タンパク質/高脂肪食が動物に普遍的な、成長と繁殖を促進する太古からの生化学的経路を作動させることを明らかにした。だがそれと同時に、健康と長寿を支える補修と維持の経路をスイッチオフしてしまうのだ。

そのようなリスクが、人間に実際に存在するという証拠はあるのだろうか? それを裏づける証拠は次第に増えてきているが、確実なことがいえるようになるまでには、研究が十分に長い間にわたって実施される必要がある。

それにもちろん、人間の栄養を調べるために、生涯にわたって厳しくコントロールされた実験を、昆虫やマウスを対象に行うのと同じ方法で実施できるはずがない。また人間の短期の食事試験や栄養調査の結果の解釈にも、多くの困難がつきまとう。それでも、人間が長寿経路と成長経路に関して、イースト細胞やミミズ、ハエ、マウス、サルと同じ分子生物学的機構を共有していることは否定できない。

それでも、人間が長寿経路と成長経路に関して、イースト細胞やミミズ、ハエ、マウス、サルと同じ分子生物学的機構を共有していることは否定できない。

すると残る疑問は1つ――「高タンパク質/低炭水化物食を長期的に摂り続けると寿命が縮む」という一般法則に、人間が当てはまらない確率はどれくらいだろう? かなり低いはずだ。ほとんどないといっていいだろう。

世界の最も長寿で最も健康的な人々が、低タンパク質/高炭水化物のホールフード中心の食事をしていることを考えればなおさらだ。

■世界の長寿地域で食べられている野菜

「ブルーゾーン」と呼ばれる世界の超長寿地域に暮らすすべての人が、まさにそうした食事(「低タンパク質/高炭水化物食」)を摂っている。

ブルーゾーンとは、ダン・ビュイトナーが2008年の著書『ブルーゾーン世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ健康と長寿のルール』で流行らせた用語だ。

ブルーゾーンの人々には、栄養以外にも、良好な社会的交流や身体的に活発なライフスタイルといった共通の特徴がある。だが興味深いことに、私たちの実験結果だけをもとに、彼らの食事の主要栄養素のバランスが健康寿命を延ばすことを予測することもできる。

ブルーゾーンの住民の中でおそらく最も有名なのは、日本の沖縄の人々だろう。沖縄は100歳以上の人口割合がほかの先進国平均の5倍である。サツマイモと葉物野菜を主体に、少量の魚と赤身肉を組み合わせた伝統的な沖縄食は、タンパク質比率がわずか9%(食糧難の地域を除けば世界最低水準)、炭水化物が85%、そして脂肪がわずか6%だ。

焼きサツマイモ
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

これは実験の最長寿命のマウスが摂取していた比率にほぼ相当する。伝統的な沖縄の食事を摂っている人は、肥満とほぼ無縁だった。その理由の1つは、食事の食物繊維含有率が高いからである。これは重要なことだ。食事に十分な食物繊維が含まれると、カロリーの過剰摂取を駆り立てるタンパク質レバレッジの効果が弱められる。

■共通点は豊富な食物繊維

食物繊維は胃で膨潤し、消化速度を遅らせ、腸内微生物の餌になる――これらすべてが組み合わさって、空腹感を抑える効果がある。

デイヴィッド・ローベンハイマー、 スティーヴン・J・シンプソン『食欲人』(サンマーク出版)
デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソン『食欲人』(サンマーク出版)

この食物繊維の多くが、沖縄の人の主な炭水化物源であるサツマイモや、そのほかの野菜や果物に含まれているのだ。

残念ながら現代の沖縄の人々の食事内容は、伝統食から欧米型に近づきつつあり、それとともに肥満や糖尿病が増えている。

もう1つ、最近明らかになった、現代の基準からすれば考えられないほど健康的な人々が、心疾患の発症率が世界で最も低い、ボリビアのチマネ族だ。

チマネ族は伝統的な狩猟採集と焼畑農業を組み合わせた生活を送っており、食事の栄養構成はタンパク質14%、炭水化物72%、脂肪がわずか14%だ。主な炭水化物源は玄米、オオバコ、キャッサバ、トウモロコシ。これらは沖縄の人のサツマイモと同様、嵩(かさ)高な食物繊維が豊富な植物性食品だ。

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デイヴィッド・ローベンハイマー シドニー大学生命環境科学部栄養生態学教授およびチャールズ・パーキンス・センター栄養研究リーダー
オックスフォード大学で研究員および専任講師を10年間務めた。世界中の大学や会議で講演を行っている。スティーヴン・J・シンプソンとの共著に『The Nature of Nutrition: A Unifying Framework from Animal Adaptation to Human Obesity』(未邦訳)がある。シドニー在住。

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スティーヴン・J・シンプソン シドニー大学生命環境科学部教授およびチャールズ・パーキンス・センター学術リーダー
主な受賞歴に王立昆虫学会ウィグルスワースメダル、オーストラリア博物館ユーリカ賞、ロンドン王立協会賞、オーストラリア勲章第二位など。イギリスやオーストラリアのメディアやテレビにたびたび取り上げられている。

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(シドニー大学生命環境科学部栄養生態学教授およびチャールズ・パーキンス・センター栄養研究リーダー デイヴィッド・ローベンハイマー、シドニー大学生命環境科学部教授およびチャールズ・パーキンス・センター学術リーダー スティーヴン・J・シンプソン)

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