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人事部証言「含み損社員になる人の共通点」【2】

プレジデントオンライン / 2012年9月7日 12時0分

会社人生を大きく左右するのが、人事部の「閻魔帳」である。普段、顔を突き合わせることもまずない人事部の面々は、社員の“地獄行き”“極楽行き”をどうやって決めているのか?

■仕組みに馴染めず、志半ばで退職

一方で、日本的なよさを維持しつつも、業績評価にこだわる企業もある。

「成長意欲の乏しい人はこの会社に合わない。間違って入ると、辞めていくことにもなる。決められた時間、机に向かっていれば給与がもらえるという甘い考えではついていけない。社長の柳井(正、会長兼務)は、『働く以上、成長しなきゃ意味ない』とよく言う」――ユニクロで有名なファーストリテイリングの広報チームリーダー、青野光展氏はそう語る。国内はもちろん、中国など海外進出にも貪欲な同社だけに、優秀な人材ほど活躍できるための厳しいセレクトが待ち構えている。仕組みに馴染めず、志半ばで退職していく人も少なくないようだ。

新卒で入社するとまず、全員店舗に配属される。早い人は24~25歳で店長になり、30~40人のスタッフを指揮する。無論、本部が期待する一定の売り上げと利益が求められる。

本部は、きめ細かな研修を行うなど様々な面で若き店長を支援していく。息切れする者が出る半面、優秀な者は「スター店長」に、さらには「スーパースター店長」に昇格していく。

「まずは、うまく店舗を運営するという意味でチームワークをつくらないといけない。それと並行し、店長は自らのマネジメント力などを上げていくことが求められる」(青野氏)

ここに、ユニクロらしさがある。高い実績を残すためにはチームワークが大切ではあるが、それだけでなく、個人として優秀であるかどうかを求めていく。1人ひとりの社員の実績や仕事への姿勢の評価をけっしてあいまいにはしない。

それを判断する1つの場が、人事評価を行う「自己申告」である。これは厳しい「人材育成」の場にもなっている。

大企業では、「自己申告」は得てして部下の人事評価や処遇を決定するための材料を集める場になりがちだ。そこには、人材育成の視点が欠けている。

同社は違う。社員(正社員)には半年ごとに評価が下される。ランクは5段階で評価の高い順からS、A、B、C、D。期間の初めには、上司(考課者)にシートを通じて目標を自己申告する。シートには「今期の目標」という項目があり、そこに3つほど、それぞれ150~200字程度書き込む。これらは人事部でデータ化・保存され、全社員がパソコンを通じて閲覧できる。「目標を宣言することで、それをやり抜いてもらうことが狙い」(青野氏)なのだ。

目標は、数字を盛り込むなどして具体的であること、それが会社や上司の期待や考えに沿える水準であることが求められる。安易に達成できる目標を申告していては、意欲そのものを疑われてしまう。

目標を確実に達成するために、3カ月ごとに上司との面談が1時間ほど設けられ、そこですり合わせがなされる。上司がその時点での“実績”を確認したうえで部下を誘導する。この面談の場は、20年近く勤務する青野氏ですら疲労を覚えるという。お互いに相当踏み込んで話し合うためである。青野氏が言う。

「成果を出してこそプロだが、成果以外でどう評価するかは難しい。ただ、頭角を現すのは商売に飽くなき執念を持っている人。逆に、仕事を自分で見つけ、対応していくことができない人や、会社に頼り切る人はいづらいはずだ」

■年功序列制度に戻したのではない

年功・能力主義的な要素を残しつつ、競争原理の導入を図る企業もある。

「早期選抜よりも全員の活性化に重きを置いた。ただし、同期社員の間で賞与の額はかなり差がつくようになっている」

住友商事人事部長の遠藤貴也氏は、一部のメディアで“年功序列”と報じられた30代前半までの人事制度について切り出した。

同社は新卒として入社した後、10年間は育成期間として位置づけ、同期社員を昇格の面で差をつけないことにした。初めの4年間は「基幹職C級」、その後6年間を「基幹職B級」とし、主任の扱いとする。この期間を終える頃に、“高い成果を生み出すことができる自責型人材”に育っていることを目指す。

「激変する時代でも高い成果を生み出すことができる、揺るぎない力を身につけさせたかった。そのためにみっちりと基本を体得する期間を設けた」(遠藤氏)

この制度により、配置転換もスムーズに行えるようになったという。同社は7つの事業部で成り立っているが、以前は入社して10年以内でも優秀な社員は、その部でいわば囲い込みになることがあったようだ。これは、事業部制の大企業で頻繁に耳にする話である。

だが、この制度を始めると、10年間は昇格に差がつかないために、この問題は解消されつつあるという。こう考えると、この制度のねらいは、潜在能力の高い若手社員の離職防止や、モラールを高める意味もおそらくあるのだろう。

ここまでのいきさつを聞くと、かつての年功序列型の制度に戻したかのように思えなくもない。だが、実はそうではない。例えば、年に2回支給される賞与においては、上司の人事評価をもとに厳格な査定を行い、しっかり差を設けている。それを踏まえると、すべての社員の底上げをしながらもインセンティブを与え、競争心を刺激していくという意味で、厳しい「年功的能力主義」といえる。

図を拡大
SC VALUESアセスメント

図は、この10年の間、社員を査定する人事考課シートの一部である。同社では、本人と上司が話し合い、キャリア形成を考えるという観点から「人材アセスメントシート」と呼ぶ。直属上司が1次考課者となり、それに2次考課者として本部長などの上席者が加わる。

シート1(現状レビュー)の主な評価項目は9つあり、それらが会社として重きを置く順番で並んでいる。まず1として「信用・確実」、2に「総合力」(円滑なコミュニケーションとチームワーク)、3に「ビジョン」と続く。意外なことに、「人材開発」(能力開発を意味する)や「プロフェッショナル」(高度な専門性とスキルを身につける)が8、9と後のほうの順位に並ぶ。

このあたりが、同社の人材育成の1つの特徴といえる。あくまで「住友パーソン」を養成しようとしているのだ。

つまり、海外にまたがる様々な業種の仕事や大規模なプロジェクトに確実に対応していく力の原動力となる、質の高いコミュニケーションやチームワークなどを早いうちに体得させることを重視している。そのうえでの専門性の習得という位置づけととらえることができる。

じつは、この動きを多くの有識者は理解できていない。1990年代後半以降、彼らは「プロフェッショナル」という言葉を特定の職業の“プロ”になるかのような意味合いで使い、「プロが増えて、雇用流動化の時代になる」とまで言う。

しかし、それはありえない。大企業の求める「プロフェッショナル」とは、社内外において高い業績・成果を挙げることができる人材、つまり、そのためには担当する職種をも進んで変えるくらいのフレキシビリティーを求めているのである。

同社は、それをよく踏まえている。そうであるがゆえに「住商ビジネスカレッジ」といった人材育成のカリキュラムを設けている。人材開発チーム長の藤浩蔵氏によると、ここでは、のべ250を超える研修プログラムを設け、入社後10年で貿易実務や会計・税務など30に及ぶ講座を学習することになるという。

この10年を終えると、11年目以降は「基幹職A級」という扱いになり、完全実力主義の中で一段と熾烈な競争の中に身を置くことになる。遠藤氏は、セレクトで勝ち残る社員の共通項としてこう締めくくった。

「現状に満足しない向上心があり、自分の考えや思いを実現するために懐が深いこと。特にリーダーシップが必要で、まずは自分をリードできることが大切なのだと思う」

※すべて雑誌掲載当時

(人事ジャーナリスト 吉田 典史 宇佐見利明=撮影)

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