「もっとお金を使っておけば良かった」高齢医療の専門家が見たヨボヨボになってから多くなる"後悔の中身"
プレジデントオンライン / 2023年6月17日 12時15分
※本稿は、和田秀樹『幸齢者』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■年をとって幸せになるためのマインドリセット
年をとって幸せになるには、また、充実した毎日を手にするためには、なによりこれまでの「考え方」を切り替えていくことが重要です。私はこれを「マインドリセット」と呼んでいます。
年をとってからもなお、若いころ、現役時代と同じものの考え方をしていると、結果として、自分を苦しめることにしかならないからです。
私がいま、最もマインドリセットが必要だと感じているのは「お金」です。
■お金は使えるときに有意義に使おう
長年にわたり老人医療の現場で大勢の高齢者を診てきて、1つ気づいたことがあります。たとえば、ヨボヨボになる、歩けなくなる、寝たきりになる、認知症がひどくなる……といったことが起こります。そうなると、人間は想像以上にお金を使えなくなるのです。
自活が徐々に難しくなって、特別養護老人ホームや介護つきの有料老人ホームなどに入ることになったとしても、介護保険が利用できるので毎月の費用はおおよそ年金の範囲内に収まるものです。
そのとき、「無理して蓄えなんかしなくてよかった」「もっと人生を楽しめばよかった」「損した」という心情になる高齢者がたくさんいます。
だからこそ、マインドリセットをして、お金は有意義に使えるときに使ったほうがいい、心が満たされるような使い方をどんどんしたほうがいい、というのが、私からの提案です。
■高齢者がお金を使うことで世の中がよくなる
お金はそもそも、「持っている」ことより「使う」ことのほうに価値があるものです。
お金を持っている人が偉いかのように勘違いする人がいますが、資本主義社会においては「お客様は神様」なわけです。つまり、「上手にお金を使う人ほど偉い」というのが正解です。
このようにマインドリセットをすれば、世の中の高齢者みんながお金を使うようになるでしょう。そして、個人金融資産の大半を持っている高齢者たちがお金を自分のためにしっかり使うようになったら、消費が活性化していっぺんに景気もよくなるでしょう。
さらに、日本の高齢者がどんどんお金を使うようになることで、企業はお年寄り向けの車を開発したり、パソコンを開発したり、住宅設備を開発するようになります。消費者のニーズに応えようとする企業の営利活動として当然の働きが起こることで、高齢社会に適合したサービスや商品が一気に増えます。
■「やっておけばよかった」という後悔はもうしない
だからこそ、年をとったらお金は使っていい。
結局のところ、人間、死ぬ間際に残るのは「思い出」しかないのです。
「もっとおいしいものを食べておけばよかった」「世界一周旅行に行っておけばよかった」「退職金で、欲しかったポルシェを買っておけばよかった」……やりたいことがあるなら、全部やっておくべきです。
お金は使うもの、使ってこそ幸せになれるものだとマインドリセットしてください。
■いつまでも「子ども扱い」をする日本
次にマインドリセットを実行したほうがいいのは「子ども」です。
「日本って、おかしいな」と私が感じるのは、わが子がいくつになっても、いつまでも「子ども扱い」をするところです。
高齢の親と引きこもりの子どもからなる世帯のことを指して「8050問題」という言い方がありますが、親が80歳になっても、なお50歳の引きこもりの子どもの面倒を見ないといけないといった状況は、悲劇としか言いようがありません。
引きこもりでなかったとしても、一生独身の人がたくさんいます。たとえば50歳になった時点で一度も結婚したことがない人の割合を「生涯未婚率」といいますが、男性の生涯未婚率はなんと28.3%(2020年データ)。じつに3割が一生独身です。
それでも自活していればいいのですが、実家暮らしで、仕事もやめてしまうなどして、親がいつまでも面倒を見続ける状況になっている家庭も多いのです。
■親子関係が「密すぎる」不幸
そうなると親は、「自分が死んだあとも子どもが困らないようにしてあげたい」という心理を働かせてしまい、「子どもにお金を残したい」となる人が多いのです。
高齢になればなるほど、じつは「お金を使っている人」のほうが幸せになれる面があるのに、子どもにお金を残そうとして、自分のためにお金を使えなくなる高齢者が想像以上に多いのです。
それとは逆に、「いままでこれだけしてやったのだから、子どもに介護してもらいたい」と、すっかり子どもに頼り切ってしまう高齢者もいます。親子の関係が密であるために、子どもの側も親の介護を引き受けてしまいます。
とくに親を引き取り、在宅介護をすることにした子ども世代の中には、そのために仕事をやめてしまう人が大勢います。現役世代は生活費や自分自身の老後のための蓄えが必要なはずなのに、親の介護を優先せざるをえなくなった結果、子ども世代が退職に追い込まれてしまうのです。
![彼女の高齢の母親とビーチに沿って散歩に行く若い女性のリアビューショット](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/a/1200wm/img_0ac6273f210ad2338ad92285fff0bee4577654.jpg)
■「子離れ」をしよう
たしかに子どもは可愛いのです。可愛いのですが、「一生面倒を見なければいけない」「財産を残さなければいけない」、あるいは逆に、「老後は子どもに面倒を見てもらうべきだ」「そのために、子どもには嫌われないようにしないと……」といった思考をマインドリセットできないままでいると、自分の人生を子どもに隷属させることとなってしまいます。
その結果として、親も子も不幸な結末になってしまうことが起こりうるのです。
後悔のない人生を送るためにも、よい意味で「子離れ」をして、親は自分自身の幸せを考えて行動することが大事になってくると思います。
子どもに関してはもう少しドライに、「子どもは子ども、自分は自分」と割り切ること。これが、これからの時代においていっそう大切になってきます。そして、自分のお金は自分の幸せのために使ってください。
たとえ、子どもが定職につけないとか、うつ病になってしまうことがあったとしても、本来であれば、社会福祉によって面倒を見てもらうことが原則です。長年、納税者として税金を納め、社会の側もセーフティネットを整えているわけですから、あまりに何でもかんでも親が背負おうとしなくていい。そのことは知っておいていいと思います。
それが結果的に、子どもを自立に導くことになりますし、将来的に、子どもに老老介護をさせて“親子共倒れ”になるリスクを減らすことにもつながるのです。
■夫婦のあり方も変わっていく
「夫婦」に関するマインドリセットも重要です。
熟年離婚という言葉を耳にします。熟年といっても、最近は「高齢離婚」といったほうが実情に合っているように私には思えます。40~50代より、たとえば夫が定年退職になってとか、年金をもらい始めてから離婚する方が多いように感じるからです。
理由としてはいくつかありますが、まず、法律が変わって、離婚後に夫婦で年金が分割されるようになったことがあります。いまは厚生年金+基礎年金の半分の金額をもらえるようになり、離婚した妻でもある程度生活を維持できるようになりました。
財産分与もわりと認められることが多いようで、持ち家を売って財産を2分割にするようなことも可能になりました。
さらに昔と比べ、60代を越えた女性でも働くことができる場も増えています。
こうした社会の変化によって、女性が離婚したあとでも食べていけるようになり、「嫌なものをいつまでもがまんする必要はないよね……」という考え方に世の中が変わってきています。
■「つかず離れず婚」のすすめ
夫の定年後、子どもは独立し、夫婦2人の生活が始まります。それまでは互いに仕事や友人関係、趣味などで、一部を共有するだけだったのが、急に一日中、常時顔を合わせる状態になるなどして、多くの場合、女性のほうが先に音を上げます。
その結果、熟年離婚に至るケースがたくさんあります。それぞれに言い分はあるとして、結局は「一日中一緒にいる」という状態があまりよくないのです。
私もいくつかの著書に書いているのですが、これにはまず、「つかず離れず婚」をおすすめしたい。
一日中一緒にいれば、どんな相手でも欠点や粗(あら)が見えてきますし、嫌になってしまいがち。ですから、つかず離れず、意図的に一緒にいる時間を減らすことで、夫婦関係をよくするという考え方です。
わりと、それでうまくいっている家庭は多いですし、場合によっては、その先に、離婚をせずに「別居する」という選択肢を採る夫婦もあるようです。
後半生に差し掛かったら、夫婦というものをもう一度考え直してみる。こうしたマインドリセットも大事だと思います。
■年をとったら「with」を生きる
老年医療に長年携わってきた医師として、私がみなさんにぜひマインドリセットしてほしいと考えているのは、「病気」についてです。
日本人はまじめすぎるのか、健康診断の検査データでちょっとした異常値があると、その全部を「正常値にしないといけない」と思い込んでしまうところがあります。あるいは、何かしらの病気が見つかったら、「直ちに治さないといけない」と考えてしまいます。
「ちょっと高血圧」「ちょっと血糖値が高い」「ちょっとコレステロール値が高い」など、人間というものは年齢を重ねるほど、いくつもの軽い検査異常、あるいは軽い病気を抱えてしまうのが普通です。それが「当たり前」であって、上手に体の変化とつき合っていくほかありません。
だから、「withを生きる」という発想が大事になってきます。体の状態と上手につき合って、ひどい状態にはしない。体調の良し悪しで考える。そういう姿勢をもっと大切にしてほしいと思います。
■医者とのつき合い方もマインドリセット
病気とのつき合い方以上にマインドリセットが重要なのは、「医者」とのつき合い方です。
私は、お年寄りの患者さんをたくさん診ていますが、日本では「医者と仲良くしないといけない」とか、「医者に嫌われたらまずい」というふうに思っている人がすごく多い気がします。
たとえば、薬を飲んで自分の体に合わなくても、「変えてほしい」とはなかなか言えません。
![停止ジェスチャー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/f/1200wm/img_dfbbef3baa7b3e6e39e1e5e9a3504123289836.jpg)
中には、角が立つのが嫌だからと、飲まないで黙って棄ててしまう患者さんも多いのです。あるいは、医者の治療方針に疑問があり、「手術は受けたくない」と思っていたとしても、「受けないと嫌われるよね……」と考えて、そのまま医者の言うことを聞いてしまいます。
■「嫌な医者」に舐められてはいけない
そうではなくて、訴えても絶対に薬を変えてくれない医者がいたときに、「その薬は、ちゃんとエビデンスがあるんですか?」「日本で大規模調査をやって、こちらの薬のほうが効いたという報告がありますか?」「この薬は、こうした副作用もあるようですが、それについては考えないんですか?」などと指摘して、スマホか何かでちゃんと録音しておく。
そのとき、「そりゃ、エビデンスはないけれど、この薬はいい薬なんだ」「副作用はあまりよくわかってないけど、これで大丈夫だから」といったことを医者が言うのなら、注意義務違反に該当する可能性が高いといえます。しっかり言質をとっておきましょう。
医者に嫌われる可能性を考えて、患者の側がビビっている限り、医者からは舐(な)められるだけです。この患者は注意しないとやばいな、訴えられるかも……と医者に思わせたほうが、よほどうまくいく。
相手が信頼できる医者ならば、しっかりあなたの話を聞いたうえで、薬を変えたり、治療法を工夫したり、いろいろ教えてくれたりするはずです。だから、究極には「いい医者」と思える相手とだけつき合えばいいのです。
とにかく、「医者に嫌われてはいけない」という発想はマインドリセットしましょう。
■年を重ねたら「人生観」もマインドリセット
「人生観」であるとか、座右(ざゆう)の銘(めい)といった言葉があります。そうした自分にとって「軸」となる考え方も、年齢とともにマインドリセットすべきです。そういうものを、若いころのままから変えないとけっこう不自由だよ、ということを申し上げたいと思います。
![和田秀樹『幸齢者』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/1200wm/img_ec78572e57e3aa8428f5477429d7fc83203085.jpg)
たとえば、「働かざる者食うべからず」という考え方を、自分の人生観において大事なものと位置づけていた人がいるとします。ところが、年をとれば誰しもだんだん働けなくなっていくわけです。
すると、「働かずに年金で安穏に生活していていいのか」とか、「年金をちゃんと納めていなかったのだから、暮らしが苦しくても生活保護を受けるなんてもってのほかだ」などと思ってしまいがち。
そうは言っても、いざ高齢者になると、働き口は限られてくるわけです。脳も体も弱っていくわけです。徐々に周囲に助けを求めながら生きていくようになるのが「当たり前」なのです。
マインドリセットできずに、若いときの考えのままで、「そういうことは格好悪い」とか、「ダメな人間のやることだ」などと思ってしまうと、自分自身が苦しむことになるだけです。
■「かくあるべし思考」を手放そう
精神医学の世界では、そうした考え方を「かくあるべし思考」と呼んでいます。男たるものこうでなければいけない、人に頼ってはいけない、与えられた仕事は残業してでもちゃんとやらないといけない……。
しかし年をとると、「かくあるべし」のとおりには、とてもとても生きられません。
素直に人に頼っていい、これまでたくさん税金を払ってきたのだから社会から返してもらって当たり前――そんなふうにマインドリセットできるか否かは、残りの人生をよい意味で気楽に生きていけるようになるためのポイントです。
人生観のマインドリセットは、心も体も幸齢者へ近づく大事なものとして、ぜひ意識していただきたいと思います。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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