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なぜ「スキンラボ」ではダメなのか…ロート製薬の「肌ラボ」が商品名に漢字を使ったマーケティング的な理由

プレジデントオンライン / 2023年6月13日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

商品をもっと売るには、どうすればいいのか。マーケターの西口一希さんは「ブランディングとは、あくまで『継続性』を強化する手段である。顧客が商品の便益と独自性に高い価値を見いだしていない限り、いくらブランディングに投資をしても、売上や利益を上げることにはつながらない」という――。

※本稿は、西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■街の小さな和菓子屋さんで見かける「最中」

ある地方の老舗和菓子屋さんで、非常においしい最中をつくって売っていたとします。でも、その店の屋号も外観も、最中の見た目もパッケージも普通です。名前も単に「最中」だけ。街の小さな和菓子屋さんでも、よくこういった商品を見かけますよね。

ただ、この店の最中の味は抜群です。自然素材だけを使った餡(あん)にも、香ばしい皮にもこだわりがあります。地元では価値の再評価がされていて、「あそこの最中はすごくおいしいよね」といわれていますが、その街の人しか知りません。

これはブランディングに失敗している例といえます。「おいしい」という便益はあっても、名前がなくて覚えられないために広がっていないのです。

そのようななか、最中の製造法を学びに来た人がいました。最中はとてもおいしいのにほかの地域や業界以外では知られていないことを残念に思い、その人はブランディングによってもっと売りだそうとします。

■顧客の記憶に残るためのブランディング

では、どうするのか? 街の住民以外から覚えてもらうためには、やはり名前が必要です。そこで最中に「幻の行列最中」という名前を付けて、ロゴをつくります。商品パッケージも特徴的なものにします。「行列」というからには、大勢の人が最中を求めて駆け寄ってきているイラストなどを入れるといいかもしれません。

それを全国各地に届けるためにはどうしたらいいでしょうか? 最中は贈り物にも適していますが、やはり地方のお店の店頭販売だけでは不十分なため、インターネット通販でも売ることにします。このように、ブランド名、ロゴ、パッケージデザインなどを覚えやすいものにして独自性をつくり、販売チャネルを拡大する。こうした施策をいくつも実行して、ブランディングをするのです。

実際に食べてみると非常においしいので、「この行列最中、すごくおいしいよ」「行列のイラストのやつね」と全国的に話題になります。「幻の行列最中」という名前が忘れられない要素として多くの人に残るのです。また、インターネット通販という販売手法によって、その価値を大きく広げていくこともできます。ブランディングによって、無名だった商品が広がっていくのです。

■「極潤」は便益と独自性を漢字2文字で表現

実際のマーケットにおいてブランディングで成功した例といえば、ロート製薬の「肌ラボ」シリーズの「極潤」もその1つかもしれません。この商品の何が特徴的だったかというと、化粧水や化粧クリームの名前に漢字を使ったことです。漢字表記は今ではわりと見られるようになりましたが、当時は必ずといっていいほど化粧品には英語の名前を使い、きれいでシンプルなイメージのパッケージデザインにすることがほとんどでした。

そこに「極潤」や「肌ラボ」といった漢字で大きく書かれた商品が出たのですから、インパクトがあったわけです。ほかの商品と差別化する要素として秀逸だったといえます。しかも、「極潤」の化粧水や化粧クリームはベタベタするほど保湿力が高いのが特徴でした。つまり、保湿力を求める人にとっては強い便益と独自性があり、その便益と独自性を漢字2文字でしっかり表現していたわけです。

ロート製薬のスーパーヒアルロン酸配合の「肌研(ハダラボ)極潤シリーズ」。新たに乳液、美容液を発売。[ロート製薬提供]
写真=時事通信フォト
ロート製薬のスーパーヒアルロン酸配合の「肌研(ハダラボ)極潤シリーズ」。新たに乳液、美容液を発売。[ロート製薬提供] - 写真=時事通信フォト

あの商品を仮に「スキンラボ」などのような英語名にしていたら、ほかの商品との区別があいまいになったことでしょう。商品の便益も伝わりづらいため、店頭で買ってみようと手を伸ばす人が減るはずです。また、せっかく購入してもらったあとも「あの化粧水って何だったっけ?」と忘却されてしまう可能性が高くなります。パッケージも、英語のロゴが入ったような、いわゆる化粧品らしいデザインだったら店頭でどれだかわからなくなり、目についたほかの商品にスイッチされてしまう可能性もあります。

■思いきった独自の名前とパッケージ「男前豆腐」

これは、私の入社前に、ロート製薬の担当チームのみなさんがつくり上げられていた、素晴らしいものづくりとブランディングの事例です。脳のキャパシティには限界があるのに、新しい製品やサービスがどんどん出てくるため、独自性のない商品や特徴のない商品はすぐに忘却されてしまうのです。

ほかにも、差別化しにくい商品を独特なマーケティングで売りだしたので有名なのは、男前豆腐店の「男前豆腐」です。ブランドの名前だけでなく、パッケージもほかの豆腐とはまったく違ってイラストを全面に使ったものになっています。「男前豆腐」が出てきたときは大きな話題になりましたが、実際は豆腐の品質や製法にも強いこだわりがあり、食べてみると非常においしいため、その後もよく売れています。

一般的な豆腐らしくない見た目に独自性を感じて、買って食べてみたら、とてもおいしいという便益があったため、口コミで広がっていったのです。そもそも豆腐というのは、見た目だけではおいしさが伝わりにくい食品です。白くて四角い豆腐が店頭に並んでいるのを見て、「この豆腐はとてもおいしそうだ」と思ってもらえるように訴求するのは難しいですよね。

また一度購入して食べたあとも、名前を覚えていないと、次も同じ豆腐の購入につながりにくく、独自性を感じさせることが難しいのです。だからこそ、思いきった独自のネーミングとパッケージデザインによってブランディングされたのです。

■ブランディングは、あくまで継続性を強化する手段

ここで注意していただきたいのは、これらの商品はブランディングだけで成功したわけではありません。共通しているのは、そもそも便益が強いプロダクトであるという点です。「極潤」も「男前豆腐」も、それぞれに強い便益がありました。

どんなプロダクトも、独自性が立っているだけでは「ギミック(単なる仕かけ)」に終わってしまいかねません。「男前豆腐」も、独自性の強さから最初は購入に結びつかなかった人もいるかもしれませんが、おいしさという便益があったために「一風変わっているけど、実際に食べたらおいしい豆腐」という口コミで話題になりました。そもそも便益がなければ、どれほど独自性を尖らせてもブランディングは成立しないのです。

繰り返しになりますが、ブランディングとは、お客さまが価値を見いだした便益と独自性とプロダクトの関係を強い記憶としてお客さまに残し、忘れられないように、また思いだしやすいようにして継続購買を最大化する手段です。つまり、ブランディングとは、あくまで継続性を強化する手段なのです。

■便益と独自性がなければ、ブランディングは成功しない

顧客がプロダクトの便益と独自性に高い価値を見いだした結果、ブランディングはその継続性を強化する手段になりますが、プロダクトの価値そのものをつくりだすわけではありません。逆にいえば、お客さまがその便益と独自性に高い価値を見いだしていない限り、いくらブランディング的な投資をしても、売上や利益を上げることにはつながらないということです。

西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)
西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)

もちろんブランディングは重要です。重要ですが、あくまでブランディングの目的は、プロダクトの便益と独自性を思いだしてもらうために、ほかの商品と区別されることです。「ブランディング」の語源には諸説ありますが、そもそも牛などの家畜がほかの家のものと混ざって混同しないよう焼き印を押していたということからきているともいわれています。

つまり、ブランディングという言葉には「区別する」という意味以上のことはないということです。たとえば焼き印をつくってそれを押したら、それだけで特別な牛になるかといえば、そんなことはありませんよね。「ブランディングをしたら、モノが売れる」という発想は、それと似たようなものです。焼き印を押したからといって牛そのものに変化があるはずはないのに、一生懸命そればかりをやっているということです。

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西口 一希(にしぐち・かずき)
Strategy Partners代表取締役
1990年大阪大学経済学部卒業後、P&Gに入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターとして「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デ・オウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを担当。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。2016年にロクシタングループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティメンバーに選出、その後ロクシタン社外取締役戦略顧問。2017年にスマートニュースへ日本および米国のマーケティング担当執行役員として参画。2019年株式会社Strategy Partnersの代表取締役として事業戦略・マーケティング戦略のコンサルタント業務および投資活動に従事。戦略調査を軸とするM-Force株式会社を共同創業。著書に『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)、『マンガでわかる 新しいマーケティング』(池田書店)、『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』(日経BP)などがある。

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(Strategy Partners代表取締役 西口 一希)

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