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卒業しても中卒資格すら取れないのに…それでも「年800万円の全寮インター」がシン富裕層に人気なワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov

英国系インターナショナルスクールの日本進出が相次いでいる。全寮制で年間費用は600万~800万円。しかも日本の義務教育としては認められていないが、それでも日本人の生徒が増え続けている。いったい何が起きているのか。国際教育コンサルタントの村田学さんが解説する――。

■中国から日本へ「英国教育輸出」の転換

英国系インターナショナルスクールの日本進出が相次いでいます。

2022年8月に開校した「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」(岩手県八幡平市)に続き、今秋には「ラグビースクール・ジャパン」(千葉県柏市)と「マルバーン・カレッジ東京」(東京都小平市)が開校します。

2023年9月に開校予定のマルバーン・カレッジ東京の校舎。開校当初はデイスクールのみだが、将来的にはボーディングスクールも併設予定でキャンパス内に敷地を確保している。
写真提供=マルバーン・カレッジ東京
2023年9月に開校予定のマルバーン・カレッジ東京の校舎。開校当初はデイスクールのみだが、将来的にはボーディングスクールも併設予定。 - 写真提供=マルバーン・カレッジ東京

ハロウとラグビーと言えば、英国のエリート私立校(パブリックスクール)を代表する9校「ザ・ナイン」に名を連ねる名門校。マルバーンもノーベル賞受賞者などを輩出している伝統ある私立校です。いずれもオックスフォードやケンブリッジをはじめとする難関大学に多くの卒業生を送り込んでいます。そんな名門私立校が、なぜ遠い日本に系列のインターナショナルスクールを開校しているのでしょうか。

マルバーン体験会でラグビーを教わる参加者たち(2023年5月20日)。
写真提供=マルバーン・カレッジ東京
マルバーン体験会でラグビーを教わる参加者たち(2023年5月20日)。 - 写真提供=マルバーン・カレッジ東京

実は英国の名門私立校の海外展開は今に始まったことではありません。英国は教育を自国の言語と文化を他国に広げることができる「コンテンツ産業」と位置付け、EU離脱の議論が始まった頃から、国家戦略として教育輸出を進めてきました(※1)。幼少期から英国式の教育を受け、その文化に親しみを持つ人を増やすことは、将来の優秀な人材獲得や英国のプレゼンスの維持向上につながります。教育省のダミアン・ハインズ氏(当時)は、教育は2016年の一年間だけで200億ポンド(日本円で34兆8000億円)を英国にもたらしたと語っています(※2)

こうしたなかで英国がターゲットとしたのが、経済成長著しい中国でした。ハロウの系列校は北京、重慶、香港、海口、南寧、上海、深圳、珠海と実に8校も中国に開校しています。しかし近年は、その戦略に見直しが迫られています。

もともと英国はカリキュラムなどの教育のソフト面を提供し、学校用地の取得、施設の建設から学校の運営・経営については中国資本に任せるというやり方で開校してきました。しかし、習近平政権になってから教育に対する中国政府の統制は強まりました。中国人の子供を受け入れているインターナショナルスクールでは中国のカリキュラムで教育することが求められ、理事会の構成員は全て中国人とした上で共産党の担当者の参加まで義務付けられるようになりました。こうした状況に中国における英国式教育事業の先行きに不安を抱き、進出計画を断念する学校も出てきています(※3)

そこで名門私立校の関係者が目を付けたのが、隣にある法治国家で政治的にも社会的にも安定した民主主義国家の日本だったわけです。

※1 英国政府「国際教育戦略 世界的なニーズと成長」(2021年2月)
※2 英国政府 教育省ダミアン・ハインズ「数十億に及ぶ教育の英国経済への貢献」(2019年1月)
※3 ウェストミンスター校、中国進出を断念

■文科省の管轄外の学校

にわかに増えているインターナショナルスクールですが、日本における位置付けはどのようなものなのでしょうか。

日本にインターナショナルスクールを具体的に定義した法律は存在しません。もともと外国の方が日本に転勤している一時期だけ子供を通わせる「外国人学校」という位置付けであるため、文科省は日本の学校としての法整備は行ってきませんでした。ですから国内にあるインターナショナルスクールのほとんどは学校教育法第一条で定められた一般的な学校、いわゆる「一条校」ではなく、専門学校と同じ「専修学校」(学校教育法第124条)、あるいは「各種学校」(学校教育法第134条)か、無認可で株式会社が運営するいわゆる「学習塾」と同じ形で運営されています(※4)

そのため、子どもをインターナショナルスクールに通わせるだけでは小中学校の義務教育を受けたと見なされず、日本の高校や大学への進学は困難です。また保護者は学校教育法に定められた「義務教育の就学義務」を果たさなかったとして、違反に問われる恐れもあります(※5)

ただし、2017年から施行された「教育機会確保法」(※6)がインターナショナルスクールの逃げ道になっています。教育機会確保法は不登校の児童生徒に一般的な学校以外の「普通教育に相当する教育の機会」を確保することを目指した法律です。つまり子供本人が「地元の公立校には行きたくない」という意志を示しさえすれば、その代替としてインターナショナルスクールに通っても就学義務違反には問えないことになっています。

※4 筆者が編集長を務める「インターナショナルスクールタイムズ」の調べでは、プリスクールが704園、小・中・高等学校が77校(2023年6月1日現在)
※5 文科省の見解「学齢児童生徒をいわゆるインターナショナルスクールに通わせた場合の就学義務について」
※6 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」

■90年代以降、芸能人によってブランドが確立

このように国から正式な学校として認められていないインターナショナルスクールですが、グローバル化が進むなかで人気が高まっているのが実情です。ここでその変遷をたどってみたいと思います。

バブル崩壊前の1980年代には外国企業の駐在員が増える一方で、日本企業も積極的に海外に事業を展開していました。そこで外国人の子供はもちろん、親の海外赴任に備えて、もしくは海外から帰国してインターナショナルスクールで学ぶ日本人の子供も増えていきました。

90年代になると、東京の都心部でいわゆるプリスクール(主に英語で幼児保育を行う施設)が増えてきます。これは、わが子を国際人として育てるため、一般的な幼稚園ではなくプリスクールに入れ、そのままインターナショナルスクールの初等部に進学させようと考える家庭が出てきたためです。インターナショナルスクールは、慶應幼稚舎や青山学院初等部といった名門私立小学校に代わる選択肢になりうるという捉え方が出てきました。

その後、宇多田ヒカルさん(デビューは1998年)のようなインターナショナルスクールの出身者が活躍したり、わが子をインターナショナルスクールに通わせていることを公言する芸能人が増えたりしたことで、世間のイメージも「外国人だけが行く学校」から「自分たちでも(条件さえそろえば)通える学校」に変わりました。

タブレット端末を手に、小学生のクラスで生徒たちを見守る教師
写真=iStock.com/monkeybusinessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

とりわけこの10年ほどは、子供をプリスクールやインターナショナルスクールに通わせていることを、SNSで発信するインフルエンサーも増え、注目度や人気は高まっています。

■コロナ禍で進んだ「教育亡命」

コロナ禍で、この傾向にさらに拍車がかかりました。

一般の学校(私立校も含む)に子供を通わせている人々から、インターナショナルスクールへの進路相談を請け負っている私の元に「インターナショナルスクールへの編入は可能か」とか「子供をハワイの学校に行かせたいのだが」といった相談がいくつも舞い込むようになりました。その多くは「シン・富裕層」と呼ばれるIT系の起業家で、子供の教育には金に糸目を付けない人々です。

彼らはコロナ禍に自宅でリモートワークをしている最中にかたわらで子供たちが受けているオンライン授業を見て、旧態依然の授業のやり方にあぜんとしたそうです。そして、これからの社会を生き抜くのに重要な課題発見力や問題解決力を育てられないという危機感をいだき、将来の留学も見すえて英語で授業を行うインターナショナルスクールに通わせたいと考えるようになったと言います。

インターナショナルスクールは高額な費用がかかります。新設校で年間150万円、老舗校で250万円、全寮制のボーディングスクールでは寮費とあわせて600万~800万円程度の費用がかかります。ただ、クレディ・スイスの予測では、100万ドル以上の資産をもつ日本人の成人の数は2021年の336万6000人から2026年には42%増の479.0万人になると予測されています(図表1)。つまり、インターナショナルスクールを選ぶ層は今後も増えていくと言えるでしょう。

【図表】2021年と2026年のミリオネアの数、地域・対象国別
出所=クレディ・スイス「グローバル・ウェルス・レポート 2022」

■義務教育の形骸化が加速する

日本で法整備のないインターナショナルスクールに通わせたいという人が増えている現状に、筆者は懸念を抱いています。

とくに問題だと感じるのは、株式会社が運営する無認可のインターナショナルスクールです。カリキュラムの自由度が高いため、国際バカロレア(IB)のような国際的な認証を受けている学校は別として、教育の内容やレベルは学校次第。一条校なら守らなければならない施設や教職員の配置に関する基準も適用されません。現状、文科省はどんな教育が行われても口出しができません。

つい先日も港区のインターナショナルスクールが家賃滞納により閉鎖となり、年間500万円にも及ぶ授業料の返還を求める保護者とトラブルになっているとの報道がありました。ここは、近年急速に増えている0~6歳を対象としたプリスクールの一つです。プリスクールの多くが株式会社立で認可外保育施設として運営されており、今後も同様の問題が出てくるのではないかと危惧しています。

さらに先に述べたように義務教育期間に子供をインターナショナルスクールに通わせると日本の義務教育を受けたと見なされないため、子供を地元の公立校に形だけ在籍させて、卒業資格を得ようとする親もいます。港区や渋谷区、世田谷区など、インターナショナルスクールに通う子が多い自治体では、掛け持ちを認めていませんが、先に紹介した「教育機会確保法」に照らすと、今後は認めざるを得ないでしょう。そうなれば義務教育の形骸化が加速する恐れがあります。

■実態にあった法整備が必要

こうした問題を解決するために国際バカロレア日本大使で東京インターナショナルスクールグループの代表を務める坪谷ニュウエル郁子さんが提唱しているのが、「外国人学校法人」を作るということです。

5月13日に昭和女子大学で開催された国際教育博に登壇した坪谷ニュウエル郁子さん
写真=筆者提供
5月13日に昭和女子大学で開催された国際教育博に登壇した坪谷ニュウエル郁子さん - 写真=筆者提供

学校法人となれば、補助金も交付されます。「外国人学校」に税金を投入することには反発もあるでしょう。ただ、筆者としては、無認可スクールの乱立に歯止めをかけるためにも、なんらかの法的な規制が必要だと考えています。そのためには学校法人化という選択肢も検討するべきではないでしょうか。

ほとんどの国がインターナショナルスクールに対して、法律をつくり規制を設けています。人口に占める外国人比率が高く、インターナショナルスクールが多いことで知られるシンガポールでも他国との二重国籍者に限るなどの学校ごとに規制があり、事前に教育省の承認が必要であるなど、誰でも入れるわけではありません(※7)

かつてインターナショナルスクールには、文科省に遠慮して日本人は全生徒の3割に抑えるという暗黙のルールがありました。しかし、近年、これが崩れてきています。自然災害があると外国人の生徒は帰国してしまうため、経営を安定させるために日本人比率を高める学校が増えてきているのです。

現在、日本で最も規模が大きいインターナショナルスクールであるグローバル・インディアン・インターナショナルスクール(GIIS、東京都江戸川区)に至っては、日本人の占める割合は6割に達しています。ここを3割に戻し、歴史など、国の根幹にかかわる教育については日本政府の意向にも配慮してもらう法制度は必要だと思っています。

日本で最も規模が大きいグローバル・インディアン・インターナショナルスクールの教室
写真=筆者提供
日本で最も規模が大きいグローバル・インディアン・インターナショナルスクールの教室 - 写真=筆者提供

国際教育コンサルタントとしてインターナショナルスクールの日本校開校のお手伝いもしている筆者が言うことではないのかもしれませんが、なんの法整備がないままに「教育亡命」が進んでいく状況を考えなおす時期に来ているのではないでしょうか。

※7 一般社団法人自治体国際化協会「シンガポールのインターナショナルスクール誘致制度について」

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村田 学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家
アメリカ生まれ、日本育ちの国際教育評論家。3歳でアメリカの幼稚園を2日半で退学になった「爆速退学」経験から教育を考え続ける。国際バカロレアの教員研修を修了し、インターナショナルスクール経営などを経てie NEXT & The International School Timesの編集長を務める。

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(国際教育評論家 村田 学 構成=村井裕美)

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