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「GAFAMは冬の時代に突入した」は本当か…米テック企業で「万人規模」の大規模リストラが相次ぐ本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年6月12日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/400tmax

「GAFAM」に代表される米テック企業で大規模なリストラが行われている。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「『GAFAMはまさに冬の時代に突入しようとしている』という声もあるが、それは単純すぎる。大規模リストラによって、むしろ競争力をより高めるのではないか」という――。

※本稿は、田中道昭『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)の第1章「GAFAMを襲うコロナブーメラン効果」の一部を再編集したものです。

■テック企業にとってコロナは「特需」だった

2023年1月に、米ラスベガスでCES 2023が開催されました。新型コロナウイルスの影響で、前年はオンラインでの参加でしたが、今回はリアルで参加しました。このCESのいたるところで耳にしたのが、「コロナブーメラン効果」という言葉でした。

CESは、世界最大級のテクノロジーショーです。このCESも、2020年初頭に始まった新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックで、20年にはリアルで開催されたものの、翌21年は完全オンラインで、22年にはリアルとオンラインが半々で開催という状況でした。23年になって、ようやく私も3年ぶりにリアルでの参加となったのです。

このコロナ禍で影響を受けたのは、もちろんCESだけではありません。CESに出展している世界中のテック企業も、大きく影響を受けてきました。ただし、多くのテック企業にとってコロナは「コロナ特需」とも呼べるもので、巣ごもりやリモートワークの影響でハードやソフト、サービスなどの売上増に結びついたものでした。

■「10万人の解雇」GAFAM凋落への端緒なのか

そのコロナ特需は、人々がウイズコロナに移行することによって、その反動とも呼べる「コロナブーメラン」となって返ってきたのです。

そのことを端的に表しているのが、2022年半ばから2023年初頭にかけてのリストラです。グーグル(Google)で1万2千人、マイクロソフト(Microsoft)社で1万1千人、アマゾン(Amazon)にいたっては1万8千人の人員削減が行われたのです。

もちろん、コロナブーメラン効果だけではなく、景気後退懸念による広告費削減の影響や、過大投資による余剰キャパシティー、顧客離れなどの問題もあります。しかし、22年のアメリカのテック企業では、合計で約10万人の人材が削減されているのです。これは前年比7.5倍にもなる数字です。

こんなところから「コロナブーメラン効果」という言葉が出てきたのでしょうが、米テック企業の代表であるGAFAMが軒並みレイオフを実施し、減益となっているのです。GAFAMの5社がそろって減益というのは、1年前までなら考えられなかったような光景です。

景気減速やサプライチェーン問題などの影響もありますが、これは世界のビッグ・テックGAFAMの凋落への端緒でしょうか――。

■AI、メタバース分野でも存在感を示している

そんなことはありません。たとえばマイクロソフト社は、23年1月に人工知能チャットボットのチャットGPT(ChatGPT)を、同社の検索サービスBing(以下、ビングと表記)に融合させた「新しいビング」のサービスを開始しました。検索サービスでグーグルの後塵(こうじん)を拝していたビングですが、いち早くAIを取り込むことで、“打倒グーグル”を目指して激しく追い上げようとしています。

21年10月に、社名を「メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms, Inc.)」に変更したSNSの老舗フェイスブック(Facebook)は、社名通りメタバースに大きく舵(かじ)を切ろうとしています。メタバースとはコンピュータ内に構築された仮想空間やそのサービスのことで、ある調査によればその市場規模は2025年には50兆円に、2030年にはなんと1千兆円もの規模になると予測されています。

これらのAIやメタバースの分野でも、ビッグ・テックのGAFAMが大きな存在感を示しているのです。コロナブーメラン効果による大規模リストラや減益という局面でも、GAFAMの現状やその目指すところを分析・考察・予測するのは、今後の世界経済を読み解く上で、これまで以上の重要さを持ってきているのです。

■「冬の時代」たしかに成長率は落ちているが…

GAFAMがいかに巨大な企業かはいうまでもありませんが、しかし前述したように2023年にはコロナブーメラン効果によって、その業績にも陰りが見え隠れしてきました。23年初頭には、GAFAM各社の22年10~12月期の業績が発表されました(図表1)。

【図表1】GAFAM各社の2022年10~12月期の売上高と純利益
出典=『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』

さらに過去4年間の売上高(図表2)を見ると、コロナ禍にもかかわらず各社ともに順調に売上を伸ばしているように見えます。

【図表2】GAFAM各社の売上高の推移
出典=『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』

これがビッグ・テックの“コロナ特需”といわれるゆえんです。2010年代頃からテック企業に金が集まり始め、中でもGAFAMは群を抜いて業績を伸ばしてきました。

実際、売上高だけで見れば、GAFAM5社の合計はこの4年間で8千億~1兆5千億ドルへと推移しています。ところが、実際の各社の利益を見ると、22年から減収にはなっていないものの、その伸び、つまり成長率が落ちてきているのです。

そのため、この減益を「コロナブーメラン効果」と呼び、さらに「冬の時代」などという声も出始めています。「冬の時代」とは、すなわちGAFAMのブームが去り、各社の業績が低調になり、衰退に向かうのではないかという意味です。

■グーグル、アマゾンの株価は20%以上も下がった

実際にGAFAM各社の年間売上高を見ると、22年度の売上高はグーグルが前年比112%、アップルが同じく前年比108%、マイクロソフトが118%、メタに至っては前年比99%とマイナスになっているのです。

この成長率の鈍化は、もちろん株価にも影響が出てきます。22年にはグーグルやアマゾンの株価は20%以上も下がったといわれています。株価の下落と成長率の低下、そして業績の低迷によって、GAFAMはまさに冬の時代に突入しようとしている、と推測されているのです。

もちろん、ドル高の影響やコロナ禍による広告費の減少といった要因も無視できません。実際の数値以上に業績の悪化が懸念され、さらにそれが株価の下落にも結びついていきます。

GAFAMは、グーグルの検索プラットフォームや、アップルのハードウェア向けのアプリやコンテンツのプラットフォーム、アマゾンのネットショップのプラットフォームなど、いずれも独自のプラットフォームを展開することで、大きな利益を上げてきました。

ところが20年代になってメタバースやAIといった新たな技術やサービスが出現し、これらのプラットフォームを作り出すようなテック企業も出現してきました。これらの新しいプラットフォームの台頭、さらにスマホアプリの配布や販売に対する公正取引委員会による規制強化、そして人材不足や企業文化の変化といった複数の要因により、巨大になり過ぎた恐竜がやがて絶滅したように、GAFAMもまた冬の時代に突入し、やがて解体・衰退していくのではないか、それがコロナブーメラン効果後の懸念として出てきているのです。

■「ある日突然、社員証が無効に」

GAFAMが衰退し始めているのではないかという懸念は、従業員の大幅解雇という動きにも見られます。

グーグルは23年1月、全世界で1万2千人を解雇すると発表して大きな話題となりました。「2週間以内に退職を決めた場合、退職金を増額する」などと書かれたメールが一部の社員に届き、ある日突然、社員証が無効になって会社にすら入れなくなった、などという話がまことしやかに流れていました。日本ではとうてい考えられない状況ですが、日本のグーグルの合同会社でもメール1通で解雇といった、似たような状況が訪れる可能性も高いようです。

アマゾンでは1万8千人の従業員を解雇する計画が発表され、23年1月には影響を受ける従業員に通知するとアンディ・ジャシーCEOが発表しています。さらに3月には、人事、広告などを中心にさらに9千人のレイオフを発表しています。

もともとアマゾンでは、19年末に79万8千人の従業員がいましたが、コロナ禍でオンラインサービスの需要が急増し、これに対応するために人員を増やした結果、21年末には160万人とほぼ倍増していました。22年から23年にかけての大規模なレイオフは、こうして膨れ上がった人員を整理し、アマゾンをスリム化するために必要な措置なのでしょう。

メタでは22年11月に、従業員の13%に相当する1万1千人の削減を実施し、さらに年が明けた1月にも新たに1万人を削減すると発表。この2回の削減で、なんと2万人以上もの解雇となる見通しです(図表3)。

【図表3】米大手テックの主なレイオフ
出典=『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』

■「私の失敗」CEOらが語る解雇の理由

従業員の解雇は、もちろん業績が低下してきたからという理由だけではありません。コロナ特需によって、多くのテック企業が過剰な設備投資を行い、従業員を増やしてきましたが、コロナブーメラン効果とアメリカでの人件費の高騰、さらにドル高や広告費の減少などで、増やし過ぎた従業員を削減する必要が出てきたのです。

グーグルの親会社であるアルファベットのCEOサンダー・ピチャイは、解雇につながる不手際について、「過去2年間、我々は劇的な成長を遂げ、その成長に合わせて人材を採用してきたが、この決断(大幅な人員削減)はすべて私が全責任を負っている」とその不手際を公式に説明しています。

メタもまた、マーク・ザッカーバーグCEOが「マクロ経済の悪化や競争の激化などにより、収益が予想していたよりもはるかに少なくなる。これは私の失敗で、その責任を取る」と従業員宛てのメモで人員削減の理由を述べています。

ザッカーバーグはまた、「成長を楽観視して拡大し過ぎた」とも述べており、コロナ禍での安易な拡大が過剰で、そのためにコロナブーメラン効果によって人員整理を余儀なくされているのです。これはメタに限らず、多くのテック企業が直面している問題です。

■「解雇人数13倍」は一概に“悪いこと”とは言えない

ビッグ・テックを中心に、22年にはテック企業の解雇人数は、前年に比べ13倍にも膨れ上がっています。

田中道昭『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)
田中道昭『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)

ただし、それが悪いことだとは一概にはいえません。というのも、解雇された技術者の実に80%以上が3カ月以内に再就職しており、給与水準も解雇前とほとんど変わらない、という調査結果(米人材サービス会社ジップリクルーター調べ)も出ているからです。

これらの技術者が、新たなスタートアップ企業や異業種に再就職、あるいは起業することで、ビッグ・テックとはまた異なる新しいテクノロジー分野が開拓されていきます。実際、従来のビッグ・テックとは異なる分野、たとえばAIやメタバース(仮想空間)といった新しい分野が台頭しつつあり、新たなプラットフォーム作りも進行しています。

テック業界で人材が循環すれば、次世代の新しいイノベーションが開拓され、広がっていく可能性も高いのです。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。

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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭)

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