一大じゃがいも産地・北海道でなぜ「さつまいもフィーバー」なのか…道産のイモ焼酎、焼き芋ブーム到来の予感
プレジデントオンライン / 2023年6月13日 11時16分
前編(肉、魚編)から続く。
■東京圏「ねぎ、トマト」、京阪神「はくさい、なす」
肉や魚ほど明確ではないが、野菜の好みにも地域性が認められる。最後に、野菜の類別ごとに、まず葉菜類と果菜類、次に根菜類といも類について、それぞれ、図表1から図表4で野菜の好みの地域分布を見ていこう。
葉菜類として取り上げた4品目のうち、ねぎがもっとも古い奈良時代以前からの来歴を有しているのに対して、それ以外はキャベツを先頭にすべて明治、大正時代以降に普及した野菜である。はくさいは煮物、鍋物、漬物として米食に欠かすことのできない役割を果たしているので在来野菜に見えるが意外にも明治後期に中国から導入され大正時代に産地化した比較的新しい野菜である。
九条ネギに代表される「葉ねぎ」は主に西日本で栽培され、千住ねぎに代表される「根深ねぎ」は東日本で土寄せして栽培され、中京地区ではその中間の越津ネギが栽培されている。ねぎ好きの地域は関東から中京圏までつながって分布している(静岡はキャベツとねぎはともに支出額全国1位であり、表の順でキャベツに色分けされているがねぎ好き地域と言ってもよい)。この地域は日本の中で生産量も多い地域である。
一方、ねぎ好き地域の北側はほうれんそう好きの地域が多く、関西地方ははくさい好き、九州はキャベツ好きの地域となっている。関西地方のはくさい好きは、日本にはくさいが伝来する前から、「しろ菜」、「天満菜」と呼ばれるはくさいに似た野菜が関西で食べられていたからという説や関西人は鍋好きだからという説などがあるが、はくさい好きの地域は、パン好き、牛肉好きと重なっており、単純に関西人は舶来もの好きだからとも考えられる。
インド原産のなすは奈良時代以前に日本に渡来した野菜であり古くから全国に普及していた。このため、ねぎと同じように、地方品種が多く、長なす(九州、東北)、丸なす(北陸、東北南部)、卵型小型なす(関東)、中長なす(関西)と現在でも野菜の中では地方色が濃く残っている。
中国から平安時代以前に渡来したきゅうりも古い野菜であるが、盛んに用いられるようになったのは明治・大正以降であり、特に戦後食生活の洋風化にともなってサラダ野菜として不可欠のものとなった。南米アンデス原産で大航海時代以降に世界に広まったトマトも戦後にビタミンを多く含む重要な保健食品として大きく躍進した英語名の野菜である。
三大都市圏や北陸・西南暖地ではトマトが好まれており、東北・北関東・中央高地はきゅうり好み地域となっている。大都市圏の中でも歴史が最も古い京都、奈良は、なす好き地域である点に古代野菜なすの面目がうかがわれる。
■東京圏「じゃがいも」、京阪神「さつまいも」
いも類は根菜類に含められることが多いが、ここでは、独立させている。
根菜類のなかで、だいこんは最も古くから日本の風土に根づいており、守口大根、練馬大根、三浦大根、聖護院大根といった地方品種が分化成立している。にんじんは江戸初期に東洋系、江戸後期や明治に洋種系が渡来・普及し、たまねぎは明治・大正以降に導入された。
根菜類への好みについては「東日本はだいこん、西日本はたまねぎ、ただし沿海部を縁取るようににんじん」という地域傾向が認められる。これは、古来よりだいこんが全国に広がっているところに、江戸期以降に北前船ルートでにんじんが普及、さらに、西洋野菜だったたまねぎが明治新政府の導入策の下で、まず、北海道とともに泉南地域において産地化し、さらに淡路島がそれを見習って戦前に主産地となったという経緯を受け、主として西日本に消費が広がったためであろう。たまねぎは関西・西日本と並行して洋食化が進んだ関東にも波及したことが、神奈川、千葉でも消費額が多いことからうかがわれる。
さといもは東南アジア原産で、日本には稲作の伝わる以前に渡来し広がったため、年中行事にさといもを用いる慣習は全国各地に残っている。
さつまいもは、琉球、薩摩を経て救荒作物として江戸期に日本各地に導入された。関東地方では青木昆陽が昆陽神社(千葉)にまつられているが、石見(島根)ではイモ代官、薩摩(鹿児島)ではイモ翁、山城(京都)ではイモ宗匠、瀬戸内(愛媛など)ではイモ地蔵などと、庶民を飢えから救うためさつまいもの導入と普及に努めた人たちが尊崇を受けて語り継がれている。さつまいも好きエリアはこうした地域とかなり重なっている。
北海道がじゃがいもの一大産地であるにもかかわらずさつまいも好きエリアとなっている。北海道のいも類支出額順位はさつまいもが8位、じゃがいもが28位、さといもが46位となっているのである。北海道といえば「じゃがいも」産地としてのイメージがあるが、好みでは、むしろ、さつまいもが優位に立っている。
これは、北東北と並んで凶作に強い救荒作物(農作物が不作のときでも成育して、比較的よい収穫をあげられる作物)としての側面が評価されているからであろう。また、温暖化の影響で「紅はるか」などのサツマイモの北限が広がり、寒冷地用の品種も出てきたとの指摘もある。
■北海道でさつまいもフィーバーのワケ
営農情報誌「アグリポート」VOL40(2022.12)には、北海道立総合研究機構 上川農業試験場研究部 生産技術グループ主査の髙濱雅幹さんの話が掲載されている。
それによれば、
・一部地域を除き全道で生産されており、防除もほとんどいらず、手間がかからない。
・当初は皮の白い焼酎原料用のさつまいも「コガネセンガン」を作ったが、近年は道内あちこちで皮の赤い青果用のさつまいもづくりも。
・北海道外産と比べ、でん粉質が少なく、でん粉の粒も小さい。そのため熱を加えるとしっとりと甘くなる。近年は「ホクホク」より、「ねっとり」食感が好まれつつあり、北海道のさつまいもはこうしたニーズに合致。
・最近ブームのわらび餅も、さつまいもでん粉製が多い。道産の芋のでん粉は保水性が高く、わらび餅の滑らか感とマッチする。
ということは、北海道産のイモ焼酎や焼き芋のほか新作のスイーツが今後、全国的に知名度が上がり人気になる可能性もあるかもしれない。
なお、じゃがいももさつまいもと同様、江戸期にやはり救荒作物として日本に導入されたが、当初、有毒説により導入が遅れた地域もあって、好きな地域の分布にはばらつきが認められる。
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統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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