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2年で10回リピートするほどの人気…ボロボロだった築90年の小学校が「観光客が殺到するホテル」に生まれ変わるまで

プレジデントオンライン / 2023年6月25日 10時15分

「ザ・ホテル青龍 京都清水」の外観 - 撮影=永禮賢

京都市東山区に、90年前の小学校を改装した「ザ・ホテル青龍 京都清水」という特徴的なホテルがある。開業から2年で、10回リピートする人もいるほど人気だという。観光客を惹き付け、地元の人の誇りにもなっているというこの施設はどのように誕生したのか。日経トレンディ元編集長の能勢剛さんが関係者に取材した――。

※本稿は、能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)の一部を再編集したものです。

■世界中から観光客が訪れる空間になりつつある

――いま、京都で最も人気があるルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」。CMのロケ地としても人気が高く、テレビで見覚えがある人も多いだろう。このバーがあるのは、90年前の小学校を改装したホテル「ザ・ホテル青龍 京都清水」の屋上。ヘリテージホテルとして京都の持つ歴史の厚みを感じさせながら、極上の快適さを提供するラグジュアリーホテルでもある。古くて新しい京都の顔として、日本はもちろん、世界中から観光客が訪れる空間になりつつある。

こうした、新しい時代に向けて、人々に新しい価値を提供する空間は、いかにして企画され、どのようにつくられているのか。

その背景に迫った書籍が『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』。テーマパーク、ミュージアム、図書館、野球場、商業施設、オフィスなど、筆者は全国13カ所の施設を訪れ、最先端の空間づくりを取材した。実は、この本を著すきっかけになったのが、乃村工藝社が手がけた「ザ・ホテル青龍 京都清水」だった。その内容を一部抜粋してお届けする。

■観光客が行き交う清水坂の小学校

京都・東山。

青空の下、オープンエアのルーフトップバーに座ると、市街地から三方を取り囲む山々まで、京都盆地を一望する大パノラマが広がる。あちらこちらに寺院の伽藍(がらん)が遠望でき、すぐ目の前では、京都のシンボルのひとつである法観寺「八坂の塔」が存在感を放つ。

夕暮れともなれば、夜空に浮かび上がる八坂の塔と市街地の夜景とが競演。きらびやかだけど風情ある古都の顔が現れる。ひっそりとした上質なバーがたくさんある京都にあって、ここほど京都ならではの解放感にあふれた心地いい空間はちょっと見当たらない。

このルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」があるのは、「ザ・ホテル青龍 京都清水」の屋上。清水寺へと続く清水坂の途中にあるホテルだ。そしてこのホテルは、元京都市立清水小学校の校舎を改装したホテルとして、京都市民にはよく知られた存在だという。

京都市は、統廃合によって空いた学校跡地の再開発を進めてきた。2015年から事業者の募集が始まり、その第1号として公募されたのが清水小学校の跡地だった。

清水小学校は1869年(明治2年)に開校し、1933年(昭和8年)に現在の場所に移転。その際に伝統的な和風の木造校舎ではなく、スパニッシュ瓦にアーチ窓のモダンな鉄筋コンクリート校舎となり、90年近くもの間、地域のシンボルとして親しまれてきた。周辺住民には卒業生も多い。

■90年近くも経った校舎をホテルに大改装

公募には10社が手を挙げ、住民代表の委員も入った審査の結果、NTT都市開発の提案が採用となった。NTT都市開発・京都支店の河野勝己さんは、公募に参加したのは、ロケーションと建物の魅力が大きかったからだという。

NTT都市開発・京都支店 副支店長の河野勝己さん
撮影=藤澤信
NTT都市開発・京都支店 副支店長の河野勝己さん - 撮影=藤澤信

「清水寺が近いですし、京都市内が一望できる抜群のロケーションだということ。それから、校舎が昭和初期のもので、歴史ある建築だということ。京都市さんがつくられた建築ですけど、デザイン性がすごく優れている。これを活用してホテルにすればすごくいいだろなという判断で、そのまま校舎を使ったホテルを提案しました」

とはいえ、90年近くも経った校舎を、建物はそのままに改装することは容易ではない。建物がかなり傷んでいたことに加え、そもそも校舎のつくりなので、ホテルとしての運営に不可欠な導線や、空調・配管のスペースなどが皆無だったからだ。

それをどうやって、ラグジュアリーホテルに仕立てるのか。プロジェクトに加わっていたコンサルタントは、長年の付き合いがある乃村工藝社A.N.D.のエグゼクティブクリエイティブディレクター、小坂竜さんに声を掛ける。小坂さんは、ホテル、レストラン、商業施設などで数々の受賞歴があり、空間デザインの世界で知られたデザイナーだ。

プロジェクトに参加し、初めて現地を訪れた小坂さんは、思わずうなったという。

乃村工藝社A.N.D. エグゼクティブクリエイティブディレクター 小坂竜さん
撮影=永禮賢
乃村工藝社A.N.D. エグゼクティブクリエイティブディレクター 小坂竜さん - 撮影=永禮賢

■「洗濯物は見えるし、墓地もある」場所をどう生かすか

「いやあ、もう建物がボロボロで、大丈夫かなあと。それに周りが住宅地なんですね。物干しの洗濯物は見えるし、墓地もある。なので、ここでどうつくっていくのか、正直なところ最初は悩みましたね。

でも、立地そのものは、すごくいいなと思いました。建築的にチャーミングですし、八坂の塔があって借景も魅力的。借景のいいところを利用して、そうじゃないところは、例えば曇りガラスで明かりだけを取るようにして、ホテルのゲストたちの視界を制御すれば、ホテルらしい空間に仕立てていくことはできるなと思いました。

それで、建物の中をくまなく歩きまわって、見せるところ、見せないところを決めていきました。見せるところは、どうすれば、よりよく見せられるのか、ひとつずつプランを練りましたね」

例えば外観ひとつとっても、清水坂からホテルに入るアプローチでは、正面にホテルの建物と八坂の塔だけが見えるようにし、コの字形校舎のテラスからは、別棟レストランの屋根瓦越しに京都の山並みと沈む夕日だけが見えるようにした。建物が密集するエリアにありながら、視界に“雑音”が入らず、リゾートホテルのような伸びやかさを感じさせるのはこのためだ。

目の前に八坂の塔を望む増築部の客室。人気が高い
撮影=永禮賢
目の前に八坂の塔を望む増築部の客室。人気が高い - 撮影=永禮賢

■使える部材は再生し、すべて活用

工事は、まず校舎の躯体修復から始まった。乃村工藝社のディレクターで、資材の調達や建設会社との調整にあたった萠拔徹さんは、作業は主に「再生」と「複製」だったという。

乃村工藝社・ビジネスプロデュース本部 第二統括部 都市複合プロジェクト開発部 第1課 ディレクター 萠拔徹さん
撮影=永禮賢
乃村工藝社・ビジネスプロデュース本部 第二統括部 都市複合プロジェクト開発部 第1課 ディレクター 萠拔徹さん - 撮影=永禮賢

「90年近く経った建物なので、かなり崩落している場所もありました。外してみて、まだ使えそうな部材なら再生して使う。使えなそうなら、同じものを複製します。エイジング処理をして、古い部材と見分けがつかないようにしてね。タイルはほとんど複製になりましたが、軒下の飾り腕木は9割くらいが再生でいけました。屋根瓦も、50%程度再利用できました」

ちなみに、外壁は大半が再生。巻きついているツタや長年たまった汚れを取り除き、洗い出しをしてから傷んだ部分を補修したという。

外壁
撮影=永禮賢

躯体修復作業と並行して、増築部分の設計が進められた。校舎の床面積のみでは、ホテルとして必要な広さが確保できないからだ。再開発にあたっての条件や景観規制上の難しさがあり、小坂さんは建築家と悩みながら進めたという。

■「増築する部分は主張してはいけない」という課題

「増築部分は、すでに大まかな平面図はありました。それを設計する段階で、僕がディレクションさせてもらって、知り合いの建築家をアサインして、一緒に詰めていきました。

この再開発は、建物を残すという条件で認められたのですが、この条件や景観規制がかなり厳しい。増築部分の窓の高さなんかも自由にはならないんです。特に難しかったのは、“増築する部分は主張してはいけない”ということ。つまり目立たないものにしてくださいというわけです。元の建物が、オリジナルの形でちゃんと保存されているように見えなければならない。だから、元の校舎と同じ色や素材は使えないんです。

でも、目立たないという概念はとても難しい。さんざん議論した結果、増築部分は、すべて黒い平らな箱にしました。夜になってライトアップすると、増築部分はブラックアウトして、元の校舎だけが浮かび上がって見えるようになっています」

講堂を改装したレストラン。天井は当時のままで使用
撮影=永禮賢
講堂を改装したレストラン。天井は当時のままで使用 - 撮影=永禮賢

■同じ部屋がなく、家具類も同じものが使えない

建物の内装では、オリジナルのデザインを保存・活用しながら、いかにホテルとしての機能を満たし、世界観をつくり上げていくのか、外観以上に難題だった。

ホテルとして必要な設備や使いやすさをつくり込むために、現在、ザ・ホテル青龍 京都清水の総支配人を務める広瀬康則さんは、開業の2年前からプロジェクトに参加していた。

「ザ・ホテル青龍 京都清水」総支配人の広瀬康則さん
撮影=永禮賢
「ザ・ホテル青龍 京都清水」総支配人の広瀬康則さん - 撮影=永禮賢

「最初に見た時は、ほんとにこれがホテルになるのかなって思いました。教室を改装しているので、同じ部屋がひとつもないんです。45平方メートルだったり45.6だったり47だったり。梁(はり)の場所が違ったり。教室2つで3部屋くらいをつくっていますから。

部屋の形が違うとオペレーションがやりにくいですし、部屋の家具類も同じものが使えません。それに元々が校舎なのでバックスペースがない。例えば職員室もみんなから見える構造です。やはりそこをクリアするのが大変でしたね」

元の校舎を活かす以上、部屋の形から生じる課題などは個別に解決していくことにして、小坂さんは、部屋の内装デザインのコンセプトを2種類設定した。

■映り込みで、美しさへ視線を誘う

「京都で手掛けるプロジェクトは、やはり和風の建物が多いんですが、今回は洋館、まして小学校なので、あまり既存で参考になるものがないんですね。それで、京都に来た日本人も外国人も、京都の和ではなく、京都の歴史を感じるプレステージの高い部屋にするには何が必要なのか、とにかく想像していきました。

教室を改装した客室。クラシカルな洋と和の要素を融合させた
撮影=永禮賢
教室を改装した客室。クラシカルな洋と和の要素を融合させた - 撮影=永禮賢

客室には、元教室だったものと、増築棟のものと、2タイプがあるのですが、両者でデザインのコンセプトを変えました。元教室の部屋は、建物の西洋的なディテールをなるべく残して、そこにちゃんと視線がいくようにしました。その上で家具やアートで、ヨーロッパ的な匂いを出したり、京都風というか和風のものを使ったり、そういったものを交ぜていきました。

増築棟の部屋は、モダンなデザインにして、例えば扉を開けると草木染のスクリーンがあったりと、モダンなところに日本的なディテールを入れていきました」

校舎の美しいディテールを残し、そこに視線が向くようにする。そのために、今回、小坂さんが用いた手法のひとつが、映り込みを利用することだった。

当時の雰囲気を伝える廊下。床の意匠を天井に映り込ませ、配管を隠した
撮影=永禮賢
当時の雰囲気を伝える廊下。床の意匠を天井に映り込ませ、配管を隠した - 撮影=永禮賢

■洋と和とをうまくミックスし、京都を感じさせる内装に

「校舎の元の意匠が美しいので、それを活かしてなるべく引き算でつくりました。例えば、廊下の天井には、おびただしい量のダクトや電線を設置しなければなりません。そうすると天井が下がってきて、すごくきれいな元の廊下を台無しにしてしまう。それで、天井に黒いツヤのある板を張って、床の意匠を映り込ませました。下がってくる天井そのものの存在を消したんです。

同じように、客室を仕切る壁は半光沢の白いものにしました。元からの美しい窓や天井の意匠が映り込んで、壁として主張しなくなる。ツヤのある壁って、建築的にはあまり使わないものなんですけどね」

洋と和とをうまくミックスし、京都の歴史や伝統を感じさせる。元からある美しさを活かし、それ以外のものは存在感を消していく。こうした手法は、客室や廊下に限らず、館内のあらゆる場所で用いられた。

天井が高い大空間の2階レストランは、小学校の講堂だった場所。天井は元のものを再生し、桟が入った大きな窓もそのままの形で再生した。席に着くと、テーブルの天板には、天井の意匠や窓からの光が映り込む。

レストランは図書室をイメージ。上段に草木染のブックカバーが並ぶ
撮影=永禮賢
レストランは図書室をイメージ。上段に草木染のブックカバーが並ぶ - 撮影=永禮賢

ライブラリーをイメージして、仕切りのように配置した本棚には、上段は草木染の大きなブックカバーの列。その下には、京都の歴史や伝統の関連書籍が並ぶ。ノスタルジックな照明や家具も配置され、あたかも歴史あるクラシックホテルであるかのような空間になっている。

講堂の一角を改装したプライベートバス。天井が高く、気持ちがいい
撮影=永禮賢
講堂の一角を改装したプライベートバス。天井が高く、気持ちがいい - 撮影=永禮賢

■テーブルや椅子、ベッド周りの家具もオリジナル

さらに、館内の世界観をつくるのに大きな役割を果たしたのは、オリジナルの家具類だ。担当したのは乃村工藝社A.N.D.のデザイナー、佐野香織さんだった。

佐野さんは、他のデザイナーの協力を得ながら、場所ごとのデザインテイストやサイズに合わせて、次々と家具をデザインしていった。その数は、館内すべての家具の7割にも及んだ。

乃村工藝社A.N.D.のデザイナーの佐野香織さん
撮影=永禮賢
乃村工藝社A.N.D.のデザイナーの佐野香織さん - 撮影=永禮賢

「一般的にホテルでは、耐久性やコストの面から、オリジナル家具を制作することはよく行われます。ただ、今回は、同じ家具をたくさんつくるのではなく、部屋のデザインと形、そしてサイズに合わせて、テーブルや椅子、ナイトテーブル、ベッド周りの家具など、きめ細かくデザインしていきました。

デザインで意識したのは、全体的にちょっとノスタルジックな家具というところなのですが、絶妙な曲線をつくるのが難しかったですね。ゲストラウンジにも椅子がいくつか入っていますけど、その椅子も脚の曲線に苦心しました。椅子は、けっこう寸法感が厳しいので、全体的に難しかったです。出来上がったものの、座り心地が納得できなくて脚を切ったり、そもそも予定した場所に収まらなくて、つくり直したこともありました」

■図面と実際の寸法が違うトラブルも続出

家具が予定した場所に納まらないのは、寸法を間違えたからではない。古い建物だけに、実際に施工してみたら、図面とは寸法が違うということがいくらでもあったと、乃村工藝社チームの萠拔さんはいう。

「建築図をもらって、それを基に図面を描くんですが、現場に行ったら壁の位置が全然違うとか、いっぱいありましたね。古い壁なので、経年変化で厚くなったりしていたんです。すると納まるはずの家具が入らない。壁が先にあるわけですから、家具をつくり直すしかありません。CADで図面を描くんですけど、実測値ではないので、実際の寸法は違っていることも多いんです。今さらどうする、みたいなタイミングで発覚することが結構ありました」

もうひとつ、別の苦労があったのは、このホテルのシンボルでもあるルーフトップバーの設置だった。

京都市東山区にある「ザ・ホテル青龍 京都清水」のルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」
提供=仲佐猛(ナカサアンドパートナーズ)
京都市東山区にある「ザ・ホテル青龍 京都清水」のルーフトップバー「K36 The Bar & Rooftop」 - 提供=仲佐猛(ナカサアンドパートナーズ)

「最初に来た時、屋上に上がったら、めちゃくちゃ汚かったけど、めちゃくちゃ景色がいい。やはり八坂の塔がすごく近いので、ここをホテルの価値にしない手はないと思いました。僕らが参加した時にはすでにルーフトップバーというアイデアはあって、それを僕らが図面化して具体化していきました」(小坂さん)

■みんなが集まるようなシンボルをつくりたかった

しかし、実現には建築法規上、食品衛生法上、近隣対策上のハードルがいくつもあった。NTT都市開発の河野さんが語る。

「天候で営業が左右されないよう、最初は屋根を付ける計画でした。しかし、屋根をつくると建築基準法上の高さ制限を超えてしまう。でも、屋根と壁がないと、食品衛生法上、調理はできない。結局、屋上に、ごく小さな箱型の調理場をつくりました。

それから、近隣の方から、屋上から見下ろされるのではという心配の声が出てきました。それで、ルーフトップバーの周りを全部植栽にして、この高さの植栽があるので見下ろすことはできませんと、近隣にご説明しました」

こうした諸問題をクリアした上で、小坂さんが印象的な楕円(だえん)カウンターをデザインした。

「シンボルをつくりたかったんですね。みんなが集まるような。八坂の塔が夜空に浮かぶのがすごくきれいだし、そんな場所に人が集まってもらえるよう意識して造形しました」

ルーフトップバーに続く4Fのバー。元は天窓のある教室
撮影=永禮賢
ルーフトップバーに続く4Fのバー。元は天窓のある教室 - 撮影=永禮賢

■開業2年で10回以上訪れるリピーターも

結局、乃村工藝社チームは、家具や照明、ディスプレイまで含めた広い意味での内装はもちろん、ホテルスタッフのユニフォームやネームプレート、アメニティ類に至るまでをデザイン。館内をオリジナルデザインで埋め尽くしていった。

そして2019年9月。3年半をかけたザ・ホテル青龍 京都清水は完成し、運営会社である西武・プリンスホテルズワールドワイドに引き渡された。建設中からプロジェクトに参加していた総支配人の広瀬さんは、感慨もひとしおだった。

「初めて開業をやらせていただいて、建物の引き渡しを受けた時には、正直、かっこいい素敵なホテルだなと思いました。関係者のみなさんの前で、素晴らしいものをつくっていただいたので、あとはわれわれで魂を入れますって宣言したんです。で、少しずつ魂を入れられたかなと。

うれしいことに、まだ開業して2年ちょっとなのに、もう10回以上も訪れてくれるリピーターの方がいらっしゃいます。ハードの魅力があるんですね。48室という小さなホテルですので、それだけお客さまに深く接することができます。ザ・ホテル青龍 京都清水だからこそできることが、たくさんあると思っています」

ホテルの開業に先立って、地元関係者への内覧が行われた。小坂さんが、もっとも嬉しかったのは、地元の方々が褒めてくれたことだという。

階段はタイルを復原。手すりの傷に生徒たちの痕跡が
撮影=永禮賢
階段はタイルを復原。手すりの傷に生徒たちの痕跡が - 撮影=永禮賢

■「記憶を刻み、未来へつなぐ。」

「この学校の卒業生のおじいちゃん、おばあちゃんがいらして、“私、ここの階段で”とか“私が小学校の時は”とか、僕に思い出を話してくれるんです。それで、私たちの学校をこんな風に残してくれてと感謝される。観光客のためだけではなくて、地元の人たちと共存共有し、誇りに思ってもらえる施設をつくるという、僕らの一番の目標が達成できたような気がします」

能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)
能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)

実際、観光客のほかに、地元の利用者は多いと広瀬さんはいう。

「2階のレストランは、地元の方のクラス会で貸し切りが多いです。たいてい館内をひと通り見学していただいてから食事会という流れですね。来ていただいた方たちに昔話を聞いて、それを新しい人たちに伝えていく。歴史の伝承じゃないですけど、それがすごく楽しいです」

NTT都市開発が京都市に提案した開発コンセプトは、「記憶を刻み、未来へつなぐ。」だった。その想いは、このヘリテージホテルの空間で、確かに息づいている。

(2022年8月取材。記事の肩書は取材時のものです)

能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)
スタジオジブリの作品世界を精緻につくり込むことで幅広いファンを惹き付けてやまないジブリパーク、海外からの観光客も熱狂する動く実物大ガンダムのヒミツ、リモートワークではなく社員が会社に行きたくなるようなリアルのオフィス空間など。本書では人々の「しあわせ」を呼び起こす13の空間にせまった。

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能勢 剛(のせ・たけし)
日経トレンディ元編集長
日本経済新聞社のシンクタンク、日本消費経済研究所(当時)のマーケティング理論誌『消費と流通』編集部を経て、日経BPで『日経トレンディ』編集長、『日経おとなのOFF』編集長などを務める。その後、日経BPコンサルティング取締役編集担当として数多くの企業メディアを制作。独立後はメディア制作のコンセプトブルーを主宰。媒体のコンセプト提案、企画づくり、取材・執筆などで活動。

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(日経トレンディ元編集長 能勢 剛)

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