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レシートの山から複数愛人の痕跡発掘し慰謝料請求…SEX依存夫の30年間の精神的DVに逆襲する50代女性の執念

プレジデントオンライン / 2023年6月10日 11時16分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/microgen

大学時代から30年も連れ添った夫はダメ男だった。常に複数の愛人がいて、妻には出張と称して、国内外で不貞を働いていた。現在50代の妻から問い詰められた夫は行方をくらました。不倫されるだけでなく精神的なDVを受け続けた妻は取りつかれたかのように夫の部屋からレシートの山を発掘し、探偵の力も借りながら念入りに証拠固めをしていった――。
【前編のあらすじ】21歳の時にアルバイト先で出会った2歳下の男性と同棲を開始した女性(現在50代)。男性は浮気性だったが、女性は大学卒業後、男性とともにアメリカに留学し、現地で結婚、2人の子を出産。だが女性が30歳の時、夫が不倫。日向さんは離婚することを決め、子供を連れて帰国した。最終的に女性とも離婚し、愛人にも捨てられた夫は「やっぱりあなたを愛している」と女性に復縁を迫り、女性はそれを受諾して再婚。ところがそれから十数年後、夫が1400万円の借金をしていることがわかり、別の女との不倫も発覚した。

前編はこちら

■パンドラの箱

「夫は出張とウソをついて不倫していたに違いない」

出張から戻った夫(当時48歳)を問い詰めると、夫は家を飛び出し、行方不明になってしまった。日向杏樹さん(仮名・当時50歳・バツ2)からの電話やメールはもちろん、子どもたちからの連絡も無視し、音信不通となった。

もともと外資系企業で働いていた夫は、2012年から小さな会社を経営しているが、常駐するスタッフは一人もおらず、事務所に電話をかけても誰も出ない。

日向さんは、これまでほとんど立ち入らなかった自宅の夫の作業部屋に入った。すると夫の会社の帳簿を発見。帳簿の他に、会社設立時からのすべての領収証やレシートが山のようにあった。

「探偵に依頼して調べたところ、夫の愛人は、2019年9月から夫の会社で働いていた愛人Aでした。夫は帳簿や過去の領収書を社内で働く愛人Aに見られたくなかったのでしょう。だから家に隠しておいた。でも不倫で頭がやられている夫は、これらを家に残したまま、愛人のところに逃げて行ったわけです」

夫は過去に何度も「出張から帰宅する」と言った日に帰宅しなかったことがあったため、日向さんはカレンダーアプリ“Time Tree”でスケジュールを共有し、記録を残すように提案。日向さんは山のようにある領収証の日付と、夫が書き込んでいた“Time Tree”のスケジュールを照らし合わせてみた。

夫が「博多出張」と書き込んでいる日、領収証は「東京」だった。「名古屋」と書き込んでいる日、領収証は「神戸」だった。夫の出張は9割がた嘘だった。

愛人Aと交際が始まったのはこの頃だったのだろう。2019年の夏から、愛人Aが住む地域の領収証が増える(Aが働き始める前から交際していた)。夫は電車移動のみなのに、パーキングに5〜6時間止めた領収書。日向さんの誕生日、日向さん自身は娘と旅行に出ていたのに、2人分のケーキの領収証。高級ホテルで昼からシャンパンランチ2人分。九州ではタクシーで海岸線ドライブ……。

11月22日のいい夫婦の日。花屋で1万円の領収書。日向さんに花が届くことはなかった。

海外旅行へもよく出かけていた。100万円近いカードの明細書が見つかった。その中に日本円で11万円の買い物があった。

店名はアルファベット3文字。娘がその3文字を検索すると、「田崎真珠」と判明。日向さんは田崎真珠のアクセサリーなど1つも持っていない。

「夫は女に狂っていたのだと思いました。大家さんへの1400万円もの借金を返さず、夫は女と豪遊していたのです。不倫発覚後、パンドラの箱を開けてみれば、夫の病気はすでに手のほどこしようのない末期だったのでした」

■娘の言葉

夫の不倫が発覚した頃、都内在住の大学生の長女はコロナでオンライン授業だったことや、夏休みに入る直前でもあったため、日向さんを心配して北関東にある自宅に戻って来てくれていた。夫が逃げ出す直前、不倫を認めず日向さんに逆ギレする夫に対して、娘は真っ向から対峙(たいじ)した。

「お父さん、私の目を見て! 不倫してるんでしょう?」

夫は頑として否定し続けた。

激しい口論中の男女
写真=iStock.com/junce
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/junce

「当時長女は21歳でしたが、懸命に夫の不倫問題を家族問題として受け止め、何とか自分が解決しようとしているようでした。娘がこれほど一生懸命になるのには、理由があったのです」

次女を含めた日向さんの4人の家族は、夫婦が離婚と再婚を経てからは、ほぼ毎日全員がテーブルを囲み、毎晩1〜2時間かけて夕食を共にする仲良し家族だったという。

中でも夫は娘に、「人生で1番大切なのは家族だよ」と教えてきたため、長女は彼氏ができてもクリスマスやお正月は家族と過ごすことを選んだ。

「今思うと、夫の洗脳だったのかもしれません。そんな父親が、『自分たち家族を裏切っている』と知り、娘は深い怒りと悲しみの中にいたのだと思います。娘は失われようとしている『人生で一番大切なもの』を、どうにか取り戻せないかと戦っているようにも見えました」

夫の不倫が発覚した後、日向さんは長女に、「お母さんは、お父さんからDVを受けているんだよ」と言われた。

はじめ日向さんは、何を言われているのかわからなかった。

「振り返ってみると、夫が暴力を振ったのは、過去に私が浮気を疑って、夫に殴りかかった時でした。でもその時、私の心の中には夫への怒りとは別に、夫は不倫をするような男ではないと認めたくない気持ちがあることに気付きました。自分が不倫しておいて、怒った妻が殴りかかってきたら、自分の非を認めず謝りもせず、容赦なく殴り返す夫っておかしいですよね? でも当時の私は、それも“正当防衛だから仕方ない”と思い込もうとしていたのです」

日向さんは、“幸せな家族”や“仲良し夫婦”を失いたくなかった。

さらに長女は言った。

「お母さんはいつも『幸せ幸せ』って言っていたけど、私はお母さんが幸せそうには見えなかった。大学の女性学の授業で習ったけど、精神的DVっていうのもあるんだよ。お母さんが不倫疑惑で問い詰めると、お父さんはいつも逆ギレして威嚇してお母さんを黙らせた。でも、お母さんが泣いたら今度はものすごく優しくするよね? それでお母さんは機嫌が直るんだけど、それって完全に精神的DVの手口だよ」

日向さんは目からウロコが飛び出る思いだった。

「当時51歳の私は、ようやく自分をDV被害者と認定しました」

最初に夫からDVを受けて、すでに30年が経っていた。

■通帳は語る

夫が家を飛び出してから、日向さんは取り憑かれたかのように、夫の不倫の証拠探しに没頭していた。

「私はそれまで、夫の持ち物を探ったことはありませんでした。それは無意識に、“やったら終わってしまう”と知っていたからのような気がします。今思えば、私たち夫婦の関係はそんな脆いものでした」

ある日、夫の通帳が何冊も出てきた。法人のものと個人のものがあったが、日向さんは個人のものを開いた。

通帳を確認する女性の手元
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

2016年4月に女性Bから25万円の入金。同年9月に夫から女性Bに28万5000円振込。

女性Cから65万円の入金。その翌日84万円のクレジットカードの引き落とし。これはどう考えても、その引き落としのために女性Cに入金させたようにみえる。女性Dからの入金も見つかり、通帳を見る限り愛人と思しき女性は最低でも4人いた。夫は常に複数の愛人、それもお金にゆとりのある女性と同時進行で不貞をはたらいていることがわかった。

日向さんは真夏の暑い中、クーラーのない部屋で汗をかきながら夫の不倫の証拠集めに夢中になった。ほとんど食事も取らず、みるみるやせ細っていったが、気にも留めなかった。

「不倫の証拠探しは、自分を傷つける行為でした。その傷は簡単に癒えるものではなく、今もフラッシュバックに苦しめられていますが、その時はどんなにつらくても目をそらすことなく、夫の女狂いの末期症状と私たち夫婦が終わろうとしていることを、私自身が認めなければいけない時期にきていることは分かっていました」

通帳には店番号もしくは取扱店という番号が記載されている。検索してみると、夫は日本全国を飛び回っていた。

「夫は嘘つきの王様でした。通帳の中には、私の知らない狂気に満ちた人間がいました。夫は、家族よりも自分の仕事よりも将来よりも、自分の欲望のおもくままにその日その時の快楽だけを求めて女たちとの逢瀬に命を懸けていました。何より私がショックだったのは、夫の借金を夫婦で力を合わせて返していこうと思っていたのに、夫が外で女と豪遊していたことでした」

夫は「海外出張だ」と言って、夏休みや春休みに2週間もいなくなっていた。領収書のホテルの部屋はいつもダブルかツイン。レストランも常に2名分。毎年自分の誕生日はいろいろな国の高級ホテルに女性と滞在。夫は借金を返さず、王様のように遊んでいた。

「数々の証拠から、夫が好きなのは、お金が自由になる自立した女性。裕福に育っていて自分のことを許してくれて、簡単に騙せる女たちだと気付きました。本当に1人の女性を愛していたなら、他に女性は必要ないはず。何人もの女性たちを渡り歩くようなことなどしないはずです。不倫だけなら話し合いの余地はあったのかもしれませんが、数々の証拠は夫のセックスとお金への依存症が末期的だということ、私のできることはもはやないということを物語っていました」

■共依存

2020年8月初旬。日向さんは一人暮らしをするための物件探しを始めた。弱り切っていた日向さんの代わりに、娘が積極的に動いてくれて、8月末には一人暮らしをスタート。ところが、無理がたたったのだろうか。9月に体調を崩してしまった日向さんは、傷病休暇に入った。

心療内科に通院しはじめた日向さんは、医師に対して、夫の不倫は今回が初めてではないこと。夫は一切不倫を認めず、謝罪もないこと。出て行ってから自分だけでなく、子どもたちからの電話もLINEも無視していること。夫は自分の周りの人たちに、「妻がモラ妻で自分が被害者だ」と主張していること。夫の愛人は、過去も含め、日向さんが名前を把握しているだけで6人いること……などを話した。

カウンセリングを受けている女性
写真=iStock.com/PrathanChorruangsak
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PrathanChorruangsak

すると主治医は、「あなたは悪くありません。お話をお聞きする限り、夫さんは人格障害の可能性があります」と言った。重度のセックス依存性、恋愛依存症、お金依存症かもしれないと。

続けて主治医は、「あなたはそのような男性に依存する“共依存”の状態かもしれない。共依存であるあなたは、アダルトチルドレンなのですよ」と言い、日向さんの生い立ちをたずねる。

日向さんの父親は、子煩悩だったが定職に就かず、不貞行為を繰り返し、母親を何度も泣かせていた。飲食店を数軒持つ経営者だった母親は、それでも父親と離婚することはなかった。つまり構図としては、母親と自分、父親と夫がそっくりで、両親と同じような家庭を築いていたのだ。

主治医は、「あなたとお母さんが共依存の関係で、それが現在のあなたと夫さんとの関係をつくっているとも考えられますね」と言った。日向さんは、まずは夫ではなく、自分と向き合わなければならないことを悟った。そして主治医から勧められた、共存の自助グループに足を運んだ。

■共依存の自助グループ

共依存の自助グループに行くと、日向さんは「言いっぱなし聞きっぱなしがルール」と説明を受けた。その後3〜5人ほどが集まった部屋で、それぞれが自分の体験を語っていく。日向さんはひとりの女性の話に耳を奪われた。女性が語る話の中には、日向さんの夫と全く同じように行動する夫がいた。そしてその女性は、その夫に対して日向さんと全く同じ行動をしていたのだ。

「驚きでした。心療内科の医師の言葉が理解できました。その後も、セックス依存と借金依存の夫、それを助けてしまう共依存の女性の話が続き、これまた私の夫と瓜二つの話でびっくりしました」

日向さんは毎回自助グループに足を運ぶようになった。夫に不倫と借金をされて、もう5年も10年も自助グループに通っているという2人の女性と親しくなり、日向さんは彼女たちにも救われる思いがした。

「数年前、多目的トイレでの不貞行為が発覚したお笑い芸人は、『病院に行ったけど、病気ではなかった』と記者会見で語ったようですが、アメリカのプロゴルファーは、自らセックス依存症であることを認め、告白しました。私は夫に病院に行くように言ったこともありましたが、夫は自分が病気だとは認めず、病院へ行ってくれることはありませんでした」

体調が回復してきた日向さんは、通院や自助グループへの参加と並行し、探偵の手助けを得ながら愛人たちへの慰謝料請求にかじを取った。

ひび割れたコンクリートに描かれた、男女の別れのイメージを連想させるピクトグラム
写真=iStock.com/hachiware
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hachiware

■日向家のタブー

筆者は、家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。

日向さんと夫は、出会って3カ月で同棲が始まり、嘘つきで浮気症な男性だと気付いていながら、一緒に海外留学を決行し、妊娠したことで結婚。そして結婚後、5年と経たずに不倫が発覚して離婚するが、酷い裏切りを何度も経験しながらも、同じ相手と再婚。その約30年後、さらに酷い裏切りを知り、日向さんは傷ついたわけだ。

だが、ここまでの深手を負った主因は、もちろん夫にあるが、それだけではなく日向さん自身に短絡的思考があったためではなかっただろうか。同棲していた頃や最初の不倫の時など、“夫の欠陥”を知る機会は何度もあった。もっと早くに思いとどまっていれば、避けられた傷だった。

また、日向さん自身、“仲良し夫婦”だと思い込もうとしていたようだが、その実、夫に関して知らないことが多すぎる。ただ、夫は息をするように平気で嘘をつく人なので、知らないのは仕方がないことかもしれない。夫の周囲には、夫婦にも家族にも誰にも崩し得ない“壁”があったのではないかと想像する。この“壁”が、家族の中での夫の断絶や孤立を生んだ。

そしてそうした“夫の欠陥”は、日向さんにとって目を背けてしまいたいほど恥ずかしいものだったに違いない。日向家のタブーは、これら3つの要因と、夫と日向さんそれぞれの『依存』によって生まれたものだった。

■自分と未来は変えられる

現在も日向さんは、夫と連絡をとることはできずにいるが、おそらく愛人Aと一緒にいるようだ。慰謝料請求に関しては、愛人Cからは取ることができたが、愛人Bはずっと夫は独身だと騙されていた被害者だと主張。愛人Aからは慰謝料を取れておらず、現在も裁判で戦い続けている。

日向さんは今、「相手と過去は変えられないが、自分と未来は変えることができる」と思い、「自分と向き合おう」と前を見据える。

「ただ、『私が好きなことって?』と自分に問いかけても、長い間、家族や夫ファーストの生活を送ってきた私は、なかなか思い出せませんでした。それでも、人生後半戦、私の人生から夫が消えた今、私はどんな人生を送りたいかを自問した時、『ワインをちゃんと勉強してみたい』と思いました」

すぐに調べてみると、実務経験がなくても取得できる「ワインエキスパート」という資格があることが分かる。そこで2021年2月からワインスクールに通い、勉強を始めた。

ワインテイスティングイベント中のグラスに注がれたワイン各種
写真=iStock.com/Giovanni Magdalinos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Giovanni Magdalinos

「それまでは夫の夢にうなされる日々だったのですが、夫のことを忘れる時間ができ、30年以上もワインを飲み続けてきたのに知らないことばかりで、新しい知識を得る喜びの日々が始まり、楽しくて仕方がありませんでした」

10月。53歳の日向さんは、1次試験も2次試験も無事合格し、ぶどうの合格バッジを手にすることができた。さらに2022年には、難関の社会保険労務士の資格も取得。近い将来、起業することを目標に少しずつ前進している。

「配偶者の不倫を経験し、離婚することは、膨大なエネルギーを要することだと思い知りました。でも、心の傷が回復する期間も、納得のいく結果の内容も、達するまでの期間も人それぞれなので、もうこれからは焦らず急がず、自分の人生、自分を一番に考えて、自分の思う通りに進んでいこうと思います。そう思えたら、なんだかとっても楽になりました」

過ぎてしまった時間は戻らないが、これからの時間をどう過ごすかは自分次第だ。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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