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中国企業に市場を独占させるわけにはいかない…商用車市場でトヨタが独ダイムラーとの提携を選んだ背景

プレジデントオンライン / 2023年6月12日 9時15分

経営統合に関する記者会見後、笑顔で写真に納まる(左から)日野自動車の小木曽聡社長、トヨタ自動車の佐藤恒治社長、ダイムラートラックのマーティン・ダウム最高経営責任者(CEO)、三菱ふそうトラック・バスのカール・デッペン社長=2023年5月30日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■“業界再編”を加速させるインパクトがある

5月30日、トヨタ自動車、ダイムラートラック、三菱ふそうトラック・バス、日野自動車の4社は、商用車事業の強化に向けた協業を発表した。主な取り組みとして、三菱ふそうと日野は、対等な立場で統合する。また、トヨタとダイムラーは、“CASE”など先端技術の実用化を急ぐ。今回の提携で目指すものは、主に商用車分野での“規模の拡大”だ。

現在、世界の自動車産業は、EVへの展開など“100年に1度”と呼ばれる変革期を迎えている。自動車以外の異業種からの参入や、業界内での競争の激化は避けて通れない。競争に対応しつつ電動化技術などを引き上げるために、経営体力の拡充は必要不可欠だ。

トヨタとダイムラーの協業を一つのきっかけに、今後、世界的に自動車業界の再編は加速することが予想される。エンジン車と電動車、乗用車と商用車などビジネスを分離する企業は世界的に増加するかもしれない。電動化や自動運転技術などの開発加速、実用化を狙い、国境をまたいだ連携なども増加すると予想される。

■連携を選んだトヨタとダイムラーの思惑

トヨタとダイムラーが協業する、最大の目的は規模の拡大による事業の拡充だろう。両社は、脱炭素、デジタル化などに対応するために、電動化など先端技術の開発を加速しなければならない。その実用化のスピードを引き上げることによって、両社はトラックなど商用車ビジネスの成長加速を狙っている。

そのために、互いに競争するよりも、連携、協働したほうが事業運営の効率性は高まるだろう。協業によって、リスクテイクや設備投資の規模拡大も進めやすくなる。そうした考えは、トヨタ、ダイムラー両社の最高経営責任者(CEO)の発言から確認できる。

まず、トヨタの佐藤恒治CEOは、ネット接続、自動運転、シェアリング、電動化(CASE)は、広く世界に普及することによって、社会に付加価値を提供するとの考えを示した。そのために、トヨタは技術開発力を強化しなければならない。

ただ、わが国の商用車市場は海外に比べると小さい。佐藤氏も「CASE時代を生き抜くには日本の商用車事業は世界と比べて規模が小さく、各社が単独で戦うことは難しい状況だ」と発言した。現在、世界トップの自動車メーカーの地位にあるトヨタといえど、自力で商用車分野の国際競争に対応することは容易ではない。

■不正認証問題に揺れる日野を正す狙いも

また、ダイムラーのマーティン・ダウムCEOは「スケールこそが鍵」と明言した。バッテリー、燃料電池や水素エンジン。先端のパワーユニットの開発を強化し、経済合理性を持たせる。そのために必要な資金などを複数の企業で負担し、リスクを分散する。オープン・イノベーションを目指す体制も強化される。

その実現に向け、ダウムCEOは、三菱ふそうと日野の「統合は決定打」になりうると述べた。今後、トヨタとダイムラーは、対等な出資割合で持ち株会社を設立する。その上で、トヨタ連結子会社の日野、ダイムラーが株式の89.29%を保有する三菱ふそうは統合される。統合後、日野はトヨタの連結子会社から外れる。

なお、佐藤CEOは、不正認証が発覚した日野をトヨタが支えることに限界はある、との認識も示した。一連の不正認証は、トヨタの想定を上回ったことが示唆された。商用車事業の効率性向上と同時に、日野の経営風土を抜本的に正す。そのために、トヨタは日野を連結子会社から外すことを決定したと考えられる。

■強みの“すり合わせ技術”では勝てなくなっている

トヨタとダイムラーの協業の背景には、世界の自動車業界を取り巻く急激な環境変化がある。足許、世界の自動車産業は“100年に1度”と呼ばれる変革期を迎えている。特に、異常気象の深刻化などを食い止めるために、脱炭素への対応は自動車産業にとって喫緊の課題だ。

脱炭素に対応するために、EVシフトは世界全体で加速している。それに伴い、自動車の生産はデジタル家電のような“ユニット組み立て方式”に移行しはじめている。日独の自動車産業が磨いた内燃機関などの、“すり合わせ技術”の比較優位性は低下するだろう。

また、乗用車とトラックなどの商用車で、必要とされる電動化などの技術も異なる。トラックの車体重量は乗用車より重い。トラックの電動化には、より大容量、かつ安全性の高いバッテリーや燃料電池が必要とされるだろう。

一方、乗用車には、ユーザーの嗜好(しこう)、価値観などが影響する。ミニバン、SUVなど車種も多様だ。低中価格帯のモデルで満足するユーザーもいれば、高価格帯の車両により大きな満足感を見いだす人も多い。個々のブランド競争力を高めるために、電動化、車内エンターテインメント、自動運転などの技術向上に加え、走行性能などの引き上げや差別化も欠かせない。

■選択と集中が進む中、トヨタはどう変化するか

そうした変化に対応するために、主要先進国の自動車メーカーの選択と集中が鮮明化した。2019年、スウェーデンのボルボは、いすゞにUDトラックスを売却すると発表した。2021年、ダイムラー(当時)は、トラック事業の分社化と上場を実行した。乗用車ビジネスは“メルセデス・ベンツグループ”に社名が変わった。

合従連衡も増えた。米、伊のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は、仏のグループPSAと経営統合し“ステランティス”が発足した。わが国では、トヨタがダイハツ、スズキ、マツダ、スバルとの関係を強化した。ホンダは米GM、韓国LGエナジーソリューションなどとの協業体制を強化している。仏ルノーは、日産の協力を得つつ、電動車事業などの分社化を目指す。

なお、現在、トヨタはエンジン車、HV、PHV、EV、FCVと、乗用車分野で全方位(フルラインナップ)の事業戦略を進めている。ダイムラーとの商用車事業の協業を境に、EVシフトへの対応など、トヨタの成長戦略がどう変化するかは見ものだ。

自動車製造工場
写真=iStock.com/3alexd
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3alexd

■EV分野の「中国依存」を避けなければならない

トヨタとダイムラーの協業開始をきっかけに、世界の自動車産業の再編は加速する可能性が高い。まず、EVシフトの加速を背景に、新規参入や、新興企業の台頭は鮮明化している。

EV開発、販売競争の熾烈(しれつ)化に対応するために、世界の自動車メーカーにとって経営体力の向上は欠かせない。研究開発や設備投資のリスク負担、景気変動への耐性などを高めるために、異業種を巻き込んだ提携は増えそうだ。

また、EVに関連した分野では、中国企業の存在感が高まっている。共産党政権は国有・国営、および主要な民間企業に、土地の利用許可、産業補助金などを提供した。それは、中国企業の固定比率(売り上げに対する固定費の割合)の低下を支え、世界的に高いシェアを獲得する原動力になった。典型例は、車載用バッテリー世界最大のCATLだ。

一方、主要先進国にとって、経済安全保障の観点から、中国企業に重要資材、部品などの調達を依存することは避けなければならない。雇用の維持も含め、自動車などの分野で直接投資を呼びかけ、自国企業との関係強化につなげようとする国は増えるだろう。それも、世界の自動車産業の再編を加速させる要因と考えられる。

■日本企業×海外企業の連携が増えるか

戦略物資として重要性が高まる半導体の調達に関しても、自動車メーカーの連携は強化されそうだ。足許、地政学リスクの高まりなどを背景に、台湾から日米欧などに半導体の生産拠点が移転しはじめた。電動化とともに搭載点数の増える車載用半導体を、他企業と連携し、より安定的に調達しようとする企業は増えるだろう。

事業環境の変化への対応力向上を目指し、世界的に、乗用車と商用車事業を分離する企業は増えそうだ。他企業との業務・資本提携、買収などの戦略が強化される可能性も高まる。それによって自動車メーカーは優位性を発揮できる分野に集中し、事業規模やシェアの拡大に取り組むだろう。

トヨタとダイムラーの協業発表は、世界の自動車産業の再編を加速させる一つの要素になりうる。今後は、除名された日野の動向も含め、トヨタがいすゞ、スズキ、ダイハツと進める商用車連合「CJPT」に海外企業がどう関与するかにも注目が集まると予想される。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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