「絶対王者グーグル」に未来はあるか…ChatGPTの台頭に押され、対話型AI「バード」を慌てて公開したワケ
プレジデントオンライン / 2023年6月13日 10時15分
※本稿は、田中道昭『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)の第2章「グーグルの検索ナンバーワンの時代は終焉か?」の一部を再編集したものです。
■世界のスマホ利用者7割以上がアンドロイド
インターネットを利用するとき、多くの人が利用しているのが検索サービスや無料の電子メールサービスでしょう。この毎日利用している検索サービスや電子メールでは、多くのユーザーがグーグルが提供しているサービスを利用しているのではないでしょうか。
あるいはスマホ。スマホには、アップルから発売されているアイフォーン(iPhone)のほか、アンドロイド(Android)というOSを搭載したスマホと、その他のOSを搭載するものとがありますが、このアンドロイドというOSもまた、グーグルが開発したモバイル用のオペレーティングシステムであり、アンドロイドOSのスマホを利用するためには、グーグルが提供しているGメール(Gmail)がほぼ必須となっています。
自分はアイフォーンを利用しているから、アンドロイドやグーグルはあまり使わない、と思っている人もいるでしょうが、世界で利用されているスマホのシェアを比較すると、アイフォーンが27.1%であるのに対し、アンドロイドが72.27%となっています(図表1)。その他のOSのものはごくわずかで、全体の7割以上がグーグルが提供するアンドロイドスマホとなっているのです。
![世界と日本、アメリカのスマホのOS別シェア(%)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/f/1200wm/img_5f234767391b369bf4e9b8ebd3422382243113.jpg)
■アンドロイドもユーチューブもグーグルが買収した
もっとも、アメリカと日本だけは例外で、アメリカではアンドロイドが42.61%、アップルが57.06%とほぼ二分。日本はもっと極端で、アンドロイドが31.39%、アップルが68.5%と、世界とは真逆の結果になっています。
世界のスマホで最も利用されているアンドロイド、言い換えれば世界で最も利用されているスマホ用OSこそ、グーグルが開発・配布しているアンドロイドなのです。
ただし、もともとアンドロイドはアンドロイド社が開発したもので、これを2005年にグーグルが買収し、07年にグーグルが中心となって米クアルコムと、キャリア大手のT-モバイルなどと規格団体を設立して、スマホ用OSとして発表したものです。そのため、アンドロイドそのものはオープンソースソフトウェア(著作権の一部が放棄されたソフトウェア)として以後、開発・配布されています。
グーグルは、ときどきこのような企業買収を行うことで成長してきました。たとえばユーチューブ(YouTube)。今でこそ動画投稿サイトといえば、真っ先に思い浮かぶのがユーチューブですが、このユーチューブは05年にスタートアップ企業として設立された小さな会社でした。これを06年にグーグルが買収し、以後、グーグル傘下の動画投稿プラットフォームとして、現在約25億人を超すユーザーを集めています。
■売上の78%が広告事業で成り立っている
検索サービスから電子メール、あるいはスマホのOSやスマホそのもの、ユーチューブ、オンラインストレージ、さらに電子書籍やビデオなどのコンテンツ販売など、グーグルが運営している業務や提供しているサービスは、実に多岐にわたっています。しかし、グーグルの屋台骨、つまりメインとなる売上は広告事業です。このことは、毎年発表される同社のポートフォリオからも確認できます。
![グーグルの10~12月期の売上高の内訳(百万ドル)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/4/1200wm/img_c4db7ca0f6f1aa0f70d7745c6e953f8b181880.jpg)
図表2を見るとわかるように、グーグルの売上で最も大きな割合を占めているのは、検索サービスで表示される広告です。ユーチューブで表示される広告や他のネットワークサービスで表示される広告なども含めると、2022年10~12月期で見ると全体の78%が広告売上で占められています。
表では22年末の数値に加えて21年の数値も記載していますが、広告売上が全体の売上高に占める割合は、わずかに下降しています。これはコロナ禍による景気の減速で、企業のインターネット広告の予算が減ってきたためと考えられます。まったく同じように、検索だけでなくユーチューブの広告収入も、やはり減っています。
売上全体の中で、8割近くを広告収入に依存しているグーグルは、景気が減速すればその影響をもろに受けるリスクがあるのです。実際、2022年のアルファベットの売上高の前年比伸び率は、近年の高い伸びとは対照的に9.8%にとどまっています。
■検索結果とともに表示される“広告”こそが収入源
グーグルといえば検索サービスを提供している企業のことだと思っているユーザーも少なくありません。
実際、インターネットで何かを検索することを「ググる」と表現することもあります。最新版の英語辞典『ウェブスター辞典』にも、「Google」という見出しがあり、「グーグルの検索エンジンを使って、インターネットから情報を入手することを意味する他動詞」と定義されているほどです。
この検索エンジンで検索を行うと、検索結果とともに広告が表示されます。この広告こそが、グーグルの大きな収入源のひとつなのです。
インターネット内の検索には、グーグルの他に、マイクロソフトのビング、ダックダックゴー(DuckDuckGo)、最近ではツイッター(Twitter)やインスタグラム(Instagram)、ティックトック(TikTok)などのSNSをグーグルの代わりに検索で利用するユーザーも増えています。
■検索を「対話型AIで済ませる」という人が出現
ところが、チャットGPTの出現によってこの分野が現在激変しようとしています。
チャットGPTというのは、人工知能型チャットボット、つまりユーザーの質問にAIを駆使して自動的に答えを返してくれる自動応答機能・サービスのことです。あるいは、「対話型AI」などとも呼ばれています。
チャットGPTそのものは、22年11月にオープンAI(OpenAI)がサービスを開始したものです。以後、わずか1週間でアクティブユーザー数が100万人を突破し、その後2カ月で月間アクティブユーザー数が1億人を突破するという、驚異的なブームを巻き起こしています。
実は、マイクロソフトが提供している検索サービスのビングは、23年2月になってこのチャットGPTをビングに盛り込み、「新しいビング」としてサービスを開始したのです。新しいビングは、マイクロソフトのウェブブラウザ・エッジ(Edge)でのみ利用でき、検索を行うと、通常の検索結果とともにチャットGPTを利用した自動応答が表示されるようになっています。
チャットGPTを利用しなくても、ビングだけで検索もAIを利用した対話も、両方が利用できるのです。
対話型AIを搭載した新しいビングの登場で、検索はもうすべてビングで済ませてしまう、といったユーザーさえ出てきています。チャットGPTについては、第6章で詳しく解説しますが、ビングがこの対話型AIを搭載したことで、グーグルに大きな変化が出てきています。
■ビングがグーグルのシェアを奪うと予想できる
ネット検索の分野では、これまでグーグルが圧倒的なシェアを握っていました。インターネット上のさまざまなウェブトラフィックの解析を行っているスタットカウンター(StatCounter)によれば、23年3月現在、検索エンジンのシェアはグーグルが全体の93.3%と圧倒的で、続いてビングの2.81%、バイドゥ(Baidu)の0.45%となっています(図表3)。
![検索エンジンのシェア(%)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/1200wm/img_5447a41df9477149c13e8bd01d0bf55493326.jpg)
ところが新しいビングの登場で、グーグルの独壇場が侵されようとしているのです。新しいビングはまだ出たばかりで、その伸びはまだ数字に表れてきてはいませんが、ゆくゆくはグーグルの後塵を拝していたビングが、グーグルのシェアを奪い始めることも予想できるのです。
もちろん、グーグルも手をこまねいているわけではありません。23年3月末、グーグルは会話型AIサービス「バード(Bard、吟遊詩人という意味)」をアメリカ、イギリスで一般公開しました。かねてより噂されていたサービスで、グーグル検索と連動する機能や複数の回答候補を表示してくれます(図表4)。
![グーグルの「バード」の画面](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/9/1200wm/img_495299f5c24c9912634fb38609b24d64175907.jpg)
さらに5月の「グーグルI/O」で、日本語を含む40超の言語で提供すると発表。直後から日本語でもバードが利用できるようになりました。
■広告がクリックされなくなってしまう
実はグーグルがかねてより噂されていたバードをなかなか公開しなかったのには、大きな理由が考えられます。
チャットGPTや新しいビングを利用したことがある人ならわかると思いますが、検索窓に質問や要望などを入力すると、チャットGPTならデータベースを検索して、それに適する回答を表示してくれます。あるいは新しいビングでは、チャットGPTのデータベースとともにネット上の情報を検索し、やはりユーザーの質問に最適な回答を表示してくれます。
対話型AIだけに、回答の上にさらに質問の候補も表示され、この質問を次々とクリックしていくだけで、かなり的確な回答が得られてしまいます。
グーグル検索上に、同じような対話型AIを搭載したらどうでしょう。これまでは検索を行い、ヒットしたサイトや広告をクリックすることで、ユーザーは適するサイトを訪れることができました。
ところが対話型AIでは、ユーザーは広告をクリックしなくても回答が得られてしまうのです。広告収入に依存しているグーグルは、これでは屋台骨の広告収入に大きな影響が出てきます。だからこそ、検索に対話型AIを導入することをためらったのではないでしょうか。
しかし、チャットGPTや新しいビングの動きからか、あるいはAI時代の到来を見据えたのか、グーグルも早々に対話型AIバードの導入に踏み切ったのでしょう。
わずかな遅れが、先行者利益を逃すことは、グーグルも百も承知のはずです。グーグルならこの問題を何とか解決し、対話型AIをうまく駆使した新しい検索サービスを提供してくれるのではないでしょうか。
■「反トラスト法」で米司法省に提訴された
「出る杭は打たれる」というのは世の常ですが、創業時から圧倒的な速度を誇った検索エンジンや、グーグル・アップスのような本格的なクラウドサービス、そしてアドワーズという広告サービスなど、よくも悪くもグーグルは誕生時からテック業界の中でも“出る杭”でした。
その出る杭が打たれたのが、23年1月のアメリカ司法省による提訴でしょう。米司法省は、グーグルがデジタル広告で支配力を乱用し、反トラスト法に抵触していると提訴したのです。さらに、同社の広告管理プラットフォームの一部を売却するよう命じています。
反トラスト法というのは、日本でいえば独占禁止法にあたるもので、グーグルがデジタル広告分野で独占的な営業をしている可能性があるため、ネット広告の一部を切り離せ、というのです。
グーグルの利益の根幹は、広告事業でした。この提訴による裁判の行方によっては、同社のビジネスモデルの根幹をも揺るがす事態になりかねません。
■EUでも「欧州一般データ保護規則」違反で訴えられた
あまりに杭が出過ぎたから狙い撃ちされた、といったら言い過ぎかもしれませんが、実はグーグルに限らずGAFAMは、その利益やユーザー数、蓄積されているデータ量などによって、世界中でさまざまな問題を引き起こしています。
グーグルが訴えられたのはこれが初めてではなく、20年にも独占禁止法違反の疑いがあるとして司法省から提訴されています。
このとき問題になったのは、アップルの標準ブラウザであるサファリ(Safari)のデフォルト検索エンジンに、グーグルを設定するよう多額の資金を支払ったというものです。
グーグルが訴えられたのは、米国内だけではありません。19年には欧州連合(EU)から5千万ユーロの罰金を科せられています。これは、EUの一般データ保護規制(GDPR)に違反したためです。
EUのGDPR(GeneralDataProtectionRegulation)というのは、「欧州一般データ保護規則」という規制で、EU加盟28カ国とノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの3カ国を含む欧州経済領域で18年に施行された規制です(図表5)。EU内のすべての個人情報のデータ保護を強化し、EU外への個人情報の輸出を規制しています。
![GDPRの基礎的概念](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/1200wm/img_9821b9a8d13366e4b76f537404cfdfc5484589.jpg)
21年7月には、アマゾンもこのGDPRに違反したとして、当時の日本円に換算すると約970億円もの罰金を科せられています。
■裁判の行方によっては活動が制限される可能性も…
GDPRの規制は、施行当初からGAFAMのような巨大IT企業を狙い撃ちしたものだと、まことしやかにささやかれていました。考えるまでもなくビッグ・テック、あるいはGAFAMは、いずれもアメリカでスタートした企業であり、米国内にとどまることなくグローバル化しました。その結果、世界中からユーザーを獲得し、全世界をマーケットとして利益を上げています。
![田中道昭『GAFAM+テスラ 帝国の存亡』(翔泳社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/f/1200wm/img_bf2415baafac98c67e1e64c12956449487485.jpg)
GAFAMの中に、あるいはビッグ・テックの中に、EU発祥の企業が1社でも入っていれば、GDPRももう少し穏やかなものになっていたかもしれません。本来自分たちが得られるはずのユーザー情報や利益が、アメリカ発祥の企業に根こそぎ持っていかれているという現状に、大きな危機感を持ったのでしょう。
ちなみに、22年11月には大手システムインテグレーション企業のNTTデータのスペイン子会社が、取引先の顧客情報漏えいに対する過失があったとして、GDPR違反で約6万4000ユーロ(約940万円)の制裁金が科されています。
今回の米司法省によるグーグルの提訴は、その訴状を見るとバージニア州、カルフォルニア洲、コロラド州など8つの州も加わっています。裁判によっては、今後のグーグル活動にも影響が出てくるかもしれません。
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立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。
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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭)
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