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3カ月間、週6日会社に泊まった…手取り16万円の広告デザイナーが「社畜すぎる働き方」に慣れたワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月16日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

ブラック企業で働く人はどんな生活を送っているのか。デザイナー兼YouTuberの玄田小鉄さんは「デザインの仕事は時間で測ることが難しく、費用対効果を度外視して働きつづける。上司の命令は絶対で、3カ月間ほど週6回の泊まり込み勤務をしたこともある」という――。

※本稿は、玄田小鉄『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■手取り16万円、ボーナスは1度ももらっていない

僕が入社したデザイン事務所は、相当なブラック企業です。

入社1日目から終電まで残って仕事をして、雑務も大量にありました。実は面接時に事務所の社長から相当念押しされていました。

「毎日残業だらけだけど大丈夫か? 徹夜もあるし、泊まり込みでの仕事もあるぞ」と、散々言われました。

ただ、さすがに労働基準法を無視した働き方になるとは予想していませんでした。本当に毎日終電間際まで残業で、事務所に泊まり込み勤務も平気ですることになっていて、入社当初の自分はかなり驚きました。

これが社会か……。思い知らされたと同時に、自分は落ちるとこまで落ちたんだなと思いました。

さらに給料は20万円(手取り16万円)、ボーナスは年2回支給という話だったのに1度ももらっていないです。ボーナスに関しては業績不振なので仕方ないですが、社長から何の説明もないので、事務所の先輩たちもみんな納得できていない感じでした。

ただこんな地獄のような事務所でも、行くあてのない僕を拾ってくれたので、感謝はしています。

最初の数年は感謝の気持ちがあったのでどれだけ過酷な業務にも真摯(しんし)な気持ちで打ち込んでいました。しかし薄給激務がつづくと段々と耐えきれなくなってきたので、息抜きも兼ねてYouTubeで広告業界のブラック企業の実態を配信することにしました。

いつか事務所の人たちにバレないかとビクビクしていますが、意外と大丈夫そうなのでこれからも活動はつづけることができそうです。

■祖母が危篤で「実家に帰りたい」と言った結果

仕事は基本的にとても好きですが、デザイン事務所で働いていて一番辛かったことがあります。辞めようと思うほどつらい出来事でした。

その日もいつも通り働いていました。冬の大きなキャンペーンに向けてデザインを粛々と進めていました。とても忙しい状況だったので、何週間も泊まり込み勤務中でした。

仕事に追われている時に、母から携帯に着信がありました。祖母が危篤状態との連絡です。電話を終えた僕は、仕事を終わらせてすぐに実家に帰らなければいけないと思いました。ですが、その日も仕事が山積みです。頭の中は焦りで埋め尽くされてしまい、結局夜まで働きました。

そして、夜9時に上司と先輩と僕の3人で打ち合わせがありました。そこで意を決して上司に状況を伝えることにしました。「祖母が危篤状態なので、明日実家に帰りたいのですが大丈夫でしょうか?」と相談しました。

上司はかなり渋っていて、今は大変な時期だからひとりでも欠けるときついというようなことを濁しながら言っていました。

その時、隣にいた先輩はまともな人だったので、「帰ったほうがいいよ」と言ってくれました。

なんとか上司からも休むことを許可してもらい、翌日は帰省することができました。

■家族を犠牲にしてまで働く価値があるのか

しかし、その時に捨て台詞のように吐かれた上司の言葉が今でも心に引っかかっています。

「帰ってもいいけど、私なら帰らないけどね」
「帰るのはいいけど自分の将来のことも気にしなさいね」

人の生き死にの時にこんなことを言ってくる人間がいることが衝撃的でした。

こんな血も涙もない人間と一緒に仕事をしなきゃいけないのか。家族を犠牲にしてまでつづける価値のある仕事なんだろうか。

この出来事が起きるまではデザインが好きで、仕事のためならいろんなことを犠牲にしても仕方ないと思っていました。その価値観がこの一件で大きく変わりました。

仕事はしながらも大切な人との時間は大事にできるような人間を目指していきたいです。

ちなみに上司は10年以上帰省もしていないようです。

■心的ストレスで夏から秋までの記憶がない

デザインの仕事は時間で測ることが難しく、徹夜をして仕上げることもよくあります。突き詰めることは重要ですが、費用対効果のない領域にまでひたすら時間を使います。

以前ある案件を進行していました。某キャラクターのイラストを使用した広告で、規模も大きいため気を抜くことは許されません。

僕は事務所に泊まり込んで延々とイラストの制作を進めました。神は細部に宿るといいますが、この某案件を通してその心意気を習得することができました。そのくらいこの仕事は心に刻まれています。

その反面、心的ストレスが大きすぎたのか、ある期間の夏から秋まで記憶がほとんど残っていません。過剰なストレスを感じると防衛反応が働き、記憶を失うのだそうです。そのため、後から制作物を見返して、その時の思い出を振り返るようにしています。

暗い部屋に座っている男性
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■上司からOKが出ず、「脳死状態」で作業

その案件はかなり過酷でした。ロケ撮影も過酷ですが、事務所にこもりっきりで作業するのもなかなかにメンタルにきます。

精神をすり減らしながら、細かなディティールの検証を繰り返します。自分の中でぎりぎりまで突き詰めたものができた段階で、自信をもって上司に確認してもらいます。

しかし、上司からOKが出ません。上司は別の案件で忙しいため、この案件は僕に任せてくれていました。

何度も何度も修正を重ねていきます。しかし一向にOKが出ることはなく、その日は眠ることなく朝を迎えました。

眠気は限界に達していました。何度もトイレの洗面所で顔を洗い、眠気を誤魔化しながら修正作業を繰り返します。

眠くて意識が飛びそうになりますが、耐えつづけます。一睡もせずに作業をしていると、思考力も低下し、まともな判断ができなくなります。そして、何が正しいのかわからず延々と無駄な作業を繰り返します。おそらく上司も寝ずに僕のデザインを確認していたので、お互い「脳死状態」でデザインと確認をしていたのでしょう。それでは終わるはずもありません。

■対価0円では神も細部に宿らない

普通の会社であれば残業代が発生するため、その作業を残業してまでやる価値があるかどうかの判断が必要です。しかし、弊社のようなブラック企業では、どれだけ働こうが残業代はなく給料は定額です。そのため、意味がない作業でも平気で命じます。

徹夜しながら細部にこだわった広告が世に出たところで生活者にとってはどうでもいいことです。気づく人さえいません。そんなこだわりの価値は0円です。

いままでは神は細部に宿ると信じて作業していましたが、そんなのは前時代的なのかもしれないと思うようになりました。いまや広告をじっくりと見る人もいないのに、毎日徹夜して命を削って作る価値はあるのか? と疑問に思います。

疑問が増えると、今の自分がやっていることに自信が持てなくなり、デザインにも迷いが生じます。

もし残業代が出て、適正なお給料が支払われていれば、今の自分の仕事は価値あることをやっているんだと思えますが、この労働環境と給料ではそんなポジティブな気持ちになれません。

低賃金を表すイメージ
写真=iStock.com/igor_kell
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/igor_kell

■上司のひとこと「終電で帰られたら困る」

今になって思うと、上司は単に僕をいじめているだけかもしれません。僕の前に勤めていた人も、こんなふうに理不尽なことを強いられていたんだろうなと思います。

一度だけ上司と飲んだ時に身の上話をされたことがあるのですが、上司自身も若い頃はプライベートを投げ捨て、事務所の床で眠り、毎日泊まり込んでいたようです。

その時の経験が基準になっているため、僕たちに尋常じゃないパワハラをしても悪意はなさそうです。

上司も雇われの身で苦しいことも多いんだろうなと思うこともあります。売上の数字に追われているので、周囲にパワハラをしないといけないという状況も多々あります。

パワハラ上司は、僕たち同様にこの奴隷制度の犠牲者なのかもしれません。そう思うことで、パワハラや理不尽な修正をほんの少し受け入れることができます。

僕が入社したばかりの頃、上司からあることを宣告されました。その日も深夜まで残業をしていて、終電が近かったので上司に退勤許可を願おうと話しかけました。

「そろそろ終電なので帰ってもいいでしょうか?」そう僕が問いかけると、上司は「終電で帰られたら困るんだけど」と言い放ったのです。

■約3カ月間、週6日会社に泊まり込んだ

この時は上司が何を言ってるのか理解できず、僕の頭には「?」が浮かんでいました。それを察して上司はさらに説明をつづけました。

「深夜でも代理店から電話が来るから帰らないでほしい」と。繁忙期ともなると事務所に電話の音がひっきりなしに響き渡ります。

僕は拒否することもできず、上司の命令を聞くしかありませんでした。その要求を飲まないことはクビを意味します。

玄田小鉄『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本』(ワニブックス)
玄田小鉄『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本』(ワニブックス)

その日から週6回の泊まり込み勤務となりました。月曜にお泊まりセットを持って出社して、日曜夜に自宅に帰る。そしてまた月曜に泊まり込みに行くという生活を3カ月ほど繰り返していました。

毎日昼ごはんはチョコスティックパンで夜は牛丼。たまに贅沢をしてネギ玉牛丼を食べることでメンタルを保っていました。

過酷に思えるかもしれませんが、この生活も慣れれば快適でした。家に月4回しか帰らないので、光熱費も交通費も浮きます。浮いた分を食費に充てるようにしていました。

家に帰れないので、体や頭は洗面所で洗うようにしていました。それでも臭いらしく、上司から「あんた臭いよ」と結構な頻度で指摘を受けていました。

最近は出社しても夜は帰れる日が増えたので、たまには泊まり込みをしたくなります。

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玄田 小鉄(げんだ・こてつ)
デザイナー兼YouTuber
大学卒業後、憧れであった広告業界に就職。デザイナーとして勤務する傍ら、過酷な労働環境をYouTube「ブラック企業で生き抜く社畜を見守るチャンネル」で配信(登録者数5万人)。激務の中でも豊かに生きる方法を模索し、日夜働き続けている。著書に『ブラック企業で生き抜く社畜を見守る本』(ワニブックス)がある。

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(デザイナー兼YouTuber 玄田 小鉄)

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