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このままでは習近平と金正恩の攻撃を防げない…日本がこれから必ず直面する「国防の3大リスク」とは

プレジデントオンライン / 2023年6月14日 9時15分

2019年6月20日、平壌で開かれた中朝首脳会談で、北朝鮮の金正恩総書記(右)と中国の習近平主席が握手 - 写真=KCNA VIA KNS/AFP/時事通信フォト

北朝鮮によるミサイル発射が相次いでいる。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「沖縄にはミサイル攻撃から防護できる建物が少なく、国防の甘さが露呈した。北朝鮮だけでなく、中国による台湾侵攻のリスクも直面しており、急いで備える必要がある」という――。

■対中国・北朝鮮で日本が直面する3つのリスク

北朝鮮や中国に関する報道を見聞きしない日はない。それでもおそらく国民の多くは「差し迫った問題ではない」「物価高騰とかマイナンバーカードをめぐるトラブルのほうが身近な問題」と感じているのではないだろうか。

しかし、2021年1月以降、金正恩朝鮮労働党総書記の号令の下、「国防5カ年計画」を着実に実行しミサイルの精度を格段に向上させている北朝鮮、そして近ごろは、沖縄県周辺の海域だけでなく、鹿児島県の奄美群島周辺まで偵察の対象にしている中国の動きにも目を向けていただきたい。

そして、それらに対処する政府の動きや、日本に影響を与える関係国の動向も、「今、そこにある危機」としてとらえていただけたら、と切に思う。なかでもこれから述べていく3つのリスクである。

■ミサイルの危険も「自宅にいるしかなかった」

(1)北朝鮮の衛星打ち上げで露呈した日本の備えのリスク

「解除されるまで自宅で待機していました。対ミサイルとなると避難する場所がないので、やはりシェルターのようなものが必要だと改めて感じました」

北朝鮮が、軍事偵察衛星を搭載した事実上の弾道ミサイル、「マンリギョン1号」を南方向に発射した5月31日、日本の最西端に位置する沖縄県与那国町(与那国島)の町議、嵩西茂則氏は、筆者の電話取材にこう答えた。

この日、午前6時28分ごろにミサイルが発射されたのを受けて、沖縄県の各自治体には、政府から、Jアラート(全国瞬時警報システム)やエムネット(緊急情報ネットワーク)が発出されたが、他の町民も「自宅にいるしかすべがなかった」と語る。

聞きなれない重低音のサイレンとともに、「近くの頑丈な建物や地下街などに避難してください」と呼びかけられても、人口1700人弱の小さな島にはそれに見合う建物などない。

「自宅や公民館への避難では意味がない」と考えた嵩西氏らは、今年2月9日、松野官房長官や浜田防衛相を訪ね、シェルターの早期設置を求める陳情書を手渡した。その際、両大臣から「関係省庁と調整し検討していく」という答えを引き出している。

しかし、政府が本腰を入れるかどうかは未知数だ。仮にシェルター建設にゴーサインが出たとしても、完成するまでには数年を要する。これでは危機に対処できない。

■強風が吹いていると迎撃ミサイルを発射できない

悪いことに、北朝鮮からミサイルが発射された日、与那国町ではもう1つ問題が浮上した。ミサイルの飛来に備え配備されている陸上自衛隊のPAC3(地対空誘導弾パトリオット)の発射機が、台風2号の接近とそれに伴う強風の影響で畳まれたままだったのだ。

同町の糸数健一町長は、まさかの失態に「びっくりしている。個人的には甚だ遺憾なこと」と答えたが、石垣市(石垣島)でも、迎撃ミサイルの発射機が強風で倒れるのを懸念し、PAC3をスタンバイすることができなかった。

避難する場所がなく、強風が吹けば迎撃もできないようでは、防衛費を増額したところで住民を守ることができない。

沖縄県は、航空会社や船舶会社と連携し、有事の際には、与那国町や石垣市など南西諸島の住民と観光客合わせて12万人を、1日2万人ずつ6日間で九州方面へと避難させる計画に着手しているが、これも強風が吹けば大幅な変更を余儀なくされる。

北朝鮮だけならまだしも、中国が本気で台湾統一や沖縄県の尖閣諸島併合へと動く場合、日本の避難事情や台風などお構いなしに攻めてくる。その火の粉が与那国島をはじめとする南西諸島にも降りかかれば、多くの犠牲者を出すことになる。

■米共和党ではトランプ氏が最有力候補に

(2)トランプ氏が勝つかもしれないというリスク

2つ目のリスクは、来年11月に行われるアメリカ大統領選挙の行方である。

このところ、ホワイトハウス奪還を目指す共和党では、ニッキー・ヘイリー元国連大使(51)、フロリダ州のデサンティス知事(44)をはじめ、前ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏(60)、マイク・ペンス前副大統領(64)らが、相次いで候補者指名レースに名乗りを上げている。

ただ、共和党予備選挙を想定した世論調査では、最初に名乗りを上げた前大統領、ドナルド・トランプ氏(77)が50%以上の支持率を保ち、25%前後にとどまるデサンティス氏以下、ほかの候補者を大きく引き離している。副大統領経験者のペンス氏でさえ現状では泡沫候補に近い。

■80歳のバイデン大統領は失態が続いている

トランプ氏に関しては、不倫口止め問題、機密文書持ち出し問題、そしてアメリカ議会襲撃事件問題など、裁判の展開次第では支持率を押し下げる要素もあるが、「反トランプ」を掲げる候補者が乱立したことは追い風になる。

高い知名度、そして何より、5億ドル=約700億円程度は必要とされる選挙費用を賄えるという点において、現状ではトランプ氏が共和党の候補者になる可能性が高い。

2016年ならびに2020年の選挙結果から分析すれば、共和党支持者は3派に分類することできる。内訳を数字で示すなら、トランプ氏を推す岩盤支持層が3割から4割、反トランプ派が約1割、中間層が5割余りといったところだろうか。

トランプ氏を引きずり降ろしたいデサンティス氏らからすれば、この割合は、反トランプ派の票を取り込むだけでは勝てず、中間層やトランプ氏の岩盤支持層からも票を引きはがす必要があることを意味している。これは至難の業だ。

そうなると、2024年の大統領選挙は、再び、「バイデンVSトランプ」という構図になるが、現在80歳のバイデン大統領は、G7広島サミット直前の日米首脳会談で、岸田首相を「岸田大統領!」と呼び間違えた。また、アメリカ・コロラド州での空軍士官学校卒業式でも、スピーチ後に転倒するという失態を演じている。

■「トランプ大統領再来」の4つの危険

高齢に起因する健康不安説が広がれば、第2次トランプ政権が本当に実現するかもしれない。トランプ氏が勝ちそうになれば、私たちは以下の4つのリスクにも備えなければならない。

ドナルド・トランプ米大統領(当時)は、2019年6月29日、大阪で開催されたG20日本サミットで、二国間会談の開始時に中国の習近平国家主席と合流(写真=ホワイトハウス公式写真/Wikimedia Commons)
ドナルド・トランプ米大統領(当時)は、2019年6月29日、大阪で開催されたG20日本サミットで、二国間会談の開始時に中国の習近平国家主席と合流(写真=ホワイトハウス公式写真/Wikimedia Commons)
①中国に対し、バイデン政権よりも強硬な手段に出る危険性

バイデン政権の対中政策は、同盟国や友好国と歩調をそろえてのデリスキング(抑止によるリスク回避)。中国との貿易戦争をエスカレートさせてきたトランプ氏の場合は、デカップリング(関係切り離し)に舵を切る可能性がある。その場合、中国との紛争リスクが高まる。

■「アメリカ支援派」が減ると日本にも打撃

②他のG7諸国との協調体制にひびが入る危険性

大統領就任後、パリ協定から脱退したように地球温暖化対策には批判的。「America First」の名の下に保護主義に走り、安全保障や経済安全保障でも協調体制に亀裂が入る可能性がある。

③ウクライナ支援を継続しない危険性

バイデン政権のウクライナ支援を批判し、「自分なら1日で戦争を止められる」と豪語してきたトランプ氏。就任早々、ロシアのプーチン大統領と水面下で手を握る「自分勝手外交」に走りかねない懸念がある。

④何をやるか予見不可能という危険性

トランプ政権誕生の最大のリスクは、トランプ氏自身が何をやるか予見しにくい点。思いつきでの言動は、G7各国やグローバルサウスと呼ばれる国々との関係を壊しかねない。

欧州のシンクタンク、ECFR(欧州外交問題評議会)が4月に実施した世論調査では、アメリカと中国が台湾をめぐって衝突した場合、「アメリカを支援する」と答えた人の割合は、ドイツで23%、フランスでも24%にすぎなかった。

バイデン政権下ですらそうなのだ。トランプ氏に代われば、欧州で疑米派や嫌米派が増えるのは必至で、アメリカと同盟関係を最優先する日本も、安全保障や経済安全保障、あるいは気候変動などの分野で欧州各国の理解と支援が得にくくなる可能性がある。

■台湾総統選に3つの政党から有力者が出馬

(3)三つどもえの台湾総統選。だれが勝っても残る台湾有事のリスク

3つ目のリスクは、対中政策が最大の焦点となる台湾総統選挙だ。台湾では、来年1月13日、総統選挙が実施される。任期4年の総統は憲法上3選を認められておらず、現在2期目の民進党・蔡英文総統は出馬できない。

総統選挙には、与党・民進党から、中国が「台湾独立派」として強く警戒する副総統の頼清徳氏(63)、対中融和路線を取る最大野党・国民党からは、新北市長の侯友宜氏(66)の出馬が決まった。さらに第三政治勢力の台湾民衆党から、前台北市長の柯文哲氏(63)が出馬を決め、まさに三つどもえの構図となっている。

まだ3候補の公約が出そろっていないため断定は難しいが、筆者はだれが総統になっても台湾有事の可能性は十分残ると考えている。簡単に整理しておく。

■蔡英文の後継者vs反蔡英文vs中道派

頼清徳氏(民進党)

蔡英文総統の後継者。日米欧との協調路線が維持されるほか、台南市長時代、「日本祭り」を開催したり、「将来、台湾と日本は防衛対話の仕組みを作り、互いの防衛力の協力を一層進められるようにすべき」と発言したりするなど日本への働きかけが強まると予想される。

ただ、2018年、民進党が統一地方選挙で大敗したあと蔡英文総統を見限った過去があり、国民の支持が得られるか疑問。中国が台湾の世論分断に利用する可能性もある。

侯友宜氏(国民党)

中国イデオロギーが強い「深藍」と呼ばれる国民党のコアな支持者とは一線を画し、その姿勢が民進党で「反蔡英文」を唱える人々の受け皿になっている。鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏らの支援も受ける。新北市議会では「中国が主張する1国2制度は認めない」と明言している。その政治信条は「好好做事」(物事を丸く収める)だが、この手法が、中国に通用するかどうかは微妙だ。

柯文哲氏(台湾民衆党)

「民進党は中国と対話できておらず国民党は従順すぎる」という考え方。6月5日、早稲田大学で行った講演では、「政治的な交流は難しいとしても、経済・文化面での中国との交流は推進するべき」と述べた。対中政策では中道派だが、台湾民衆党の基礎票は、民進党や国民党と比べて少なく、勝利する可能性は極めて低い。

五星紅旗の中国と、星条旗の米国に挟まれた台湾
写真=iStock.com/HUNG CHIN LIU
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HUNG CHIN LIU

■国民党が勝っても台湾有事のリスクは消えない

一般的には、民進党の頼清徳氏が勝てば日米にプラス、国民党の侯友宜氏が勝てば中国にプラスという構図だが、侯友宜氏は、馬英九前総統のような「親中派」色は強くない。それだけに、今後、選挙戦が佳境を迎える中で、中台関係で踏み込んだ発言をすれば、それが有事のトリガー(引き金)になるリスクもある。

台湾有事が起きれば、中国はほぼ間違いなく「台湾省」の一部と見なす尖閣諸島の併合にも乗り出す。沖縄本島のアメリカ軍基地や南西諸島に点在する自衛隊駐屯地も標的になる。

これまでに挙げたリスクの中には、ミサイル防衛の強化や避難計画の策定など日本政府や関係自治体の努力で比較的すぐ解消できるものもあるが、シェルター建設に向けた住民の合意形成や用地確保など一朝一夕にはいかないものもある。ましてや、アメリカや台湾の政治のリーダーを選ぶ選挙は結果を見守るほかない。

ただ、いずれのリスクにも気持ちの備えはできる。国内外で予想されるリスクの全てが私たちの生活に響いてくる問題ととらえていただけたら幸いに思う。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局入社後、政治・外信記者。米国留学を経てニュースキャスター、報道ワイド番組プロデューサーを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)『台湾有事』、『安倍政権の罠』(いずれも平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『中学受験』(朝日新書)、ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師 清水 克彦)

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