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「大事なプレゼンの前は、お腹が痛くなる」産業医が疑う"職場でお腹の不調を繰り返す人"の本当の原因

プレジデントオンライン / 2023年6月16日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

仕事で重要なときに限って、お腹が痛くなるという人がいる。一体なぜなのか。産業医の池井佑丞さんは「腸と脳は密接に関連している。お腹の不調で相談に来た人が、実はメンタル不調を抱えていた事例は少なくない」という――。

■「腸」と「脳」は情報交換をしている

最近、腸が消化機能を超えた重要な役割をなしていることがわかってきました。腸と脳は頻繁に情報交換をしていて、身体と心の健康に大きな影響を与えているのです。今回は「腸」の働きについて詳しくお伝えします。

大事なプレゼンや試験の前に、お腹が痛くなる経験をしたことがある人は少なくないと思います。緊張や不安、不快といったストレスが要因となり、腹痛や下痢、便秘を繰り返す病態を「過敏性腸症候群」と言いますが、腸に何らかの問題があるわけではないため病院に行っても異常なしと診断され、市販薬で我慢されている方も多いです。

最近では、「過敏性腸症候群」は脳や自律神経などが相互に関与して引き起こされていると考えられるようになりました。これらの関係を「脳腸相関」と呼びます。

脳の表面には約150億の神経細胞があると言われています。一方、腸の神経細胞の数は約1億。この数は臓器の中で脳に次いで2番目の多さです。さらに、腸は脳と約2000本の神経線維で繋がっており、緊密に連携しています。このように脳と腸は密接に関連しており、身体と心の問題に互いに影響し合っていることから、腸は「第二の脳」と呼ばれるようになりました。

■お腹の不調の原因が「メンタル」なことがある

産業医としてご相談を受ける中で、メンタル不調が原因でお腹の不調を訴える方の事例をしばしば見受けます。

「過敏性腸症候群」で悩む方は比較的若い女性に多く、発症時に大きなストレスを抱えていることがみられます。ある方は、腹部症状が強く、いろいろな病院を受診するも原因がわからず、メンタル受診を勧めたところ、うつ病の診断で治療となりました。この方の場合、治療開始が遅れたため回復までに時間を要することになりました。

身体症状でメンタル受診をすることに抵抗がある方も多く、産業医の立場としては苦慮します。腸の症状を訴えて内科を受診される方の半数近くが「過敏性腸症候群」と診断されるとも言われており、そこから心療内科を紹介され、メンタル不調に原因があることに初めて気が付く方も多いようです。心と身体の繋がりを理解していただくにはまだ認知度が低いのが現状です。

■腸内細菌とメンタル面の関係性がわかってきた

うつ病の原因は未だ不明な部分も多いのが現状ですが、要因の一つとして慢性的な軽度の脳の炎症が関与しているという考え方があります。この理論では、腸内の悪玉菌が増加することにより、腸粘膜に炎症が起き、その炎症が血流に乗って脳にも到達し、炎症を誘発していると考えられています(Possible association of Bifidobacterium and Lactobacillus in the gut microbiota of patients with major depressive disorder. Emiko Aizawa et al,J Affect Disord.2016,202,254-7)。

また、腸内細菌がもたらすメンタル面への作用についてもわかってきました。うつ病患者と健常者の腸内細菌について、善玉菌であるビフィズス菌と乳酸桿菌(かんきん)の菌数を比較したところ、うつ病患者群は健常者群と比較して、ビフィズス菌の菌数が低いことが明らかになりました。1g当たりの便におけるビフィズス菌の数が109.53個以下の場合、うつ病を発症するリスクがおよそ3倍になることが示唆され、善玉菌が少ないとうつ病リスクが高まることが明らかになりました〔「腸内の善玉菌が少ないとうつ病リスクが高いことを明らかに」国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、ヤクルト本社 2016年6月9日〕。

腸内をチェックする人たちのイラスト
イラスト=iStock.com/BRO Vector
※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/BRO Vector

■腸内細菌にはストレス反応を抑える働きもある

腸内細菌が、脳の発達や行動にまで関係していることも明らかになりました。

海外の研究で、腸内細菌を持つマウスと持たないマウスの成長観察を行ったところ、腸内細菌を持たないマウスは成長後攻撃的になったそうです。腸内細菌の導入タイミングによる比較観察では、成長初期に腸内細菌を導入したマウスは一般的なマウスと変わらなかったのに対し、成熟後に腸内細菌を導入したマウスは、腸内細菌を持たないマウスと同様の攻撃的な性格になりました。このことから、腸内細菌は脳の初期発達に影響を与えると結論づけられました(藤田紘一郎「こころとからだの免疫学―腸内細菌の働きを中心に―」心身健康科学、8巻2号、2012年)。

さらに、腸内細菌がストレス反応を抑える働きがあることもわかってきました。

九州大学の須藤信行教授らは、腸内細菌を持つマウスと持たないマウスに分けてストレスを与え、ストレス後の副腎皮質刺激ホルモン(身体がストレスを受けた時に増加するホルモン)の分泌量の比較実験を行いました。その結果、無菌マウスは腸内細菌を持つマウスに比べ、副腎皮質刺激ホルモンの分泌量が増加していることがわかりました(須藤信行「腸内細菌と脳腸相関」 福岡醫學雑誌、P298~304、2009年)。

■腸内細菌はセロトニンの分泌にもかかわっている

大腸には100兆個以上、総重量で1~1.5kgもの細菌が共存しています。便の容積の半分以上は腸内細菌の死骸であり、善玉腸内細菌の餌となる食品(未精製全粒穀物、食物繊維、根菜、緑黄色野菜、豆類、ナッツ類など)の摂取が恒常的に少ない人は便の量が減少し、慢性便秘症のリスクが高まります。

玄米などの未精製全粒穀物を摂取すると、腸内の善玉腸内細菌がこれを発酵させ、短鎖脂肪酸やアミノ酸などの代謝産物が生産され、抗炎症や抗発がん、肥満防止、気管支喘息の緩和など、さまざまな健康増進効果が期待できます。

腸内で作られるホルモンもまた、脳に影響している可能性があります。

快感ホルモンのドーパミンやストレスホルモンのノルアドレナリン、幸せホルモンのセロトニンは、感情を支配する神経伝達物質と呼ばれ、その多くが腸で作られます。特に体内のセロトニンの90%が腸に存在しており、脳内には2%しか存在しません。うつ病の人は脳内のセロトニンが少ないと言われており、セロトニンの分泌と深くかかわっているのが腸内細菌です。「腸」を整えることで「心」も整えることができると考えられます。余談ですが、英語で第6感や直感のことを「gut feeling」〔直訳すると腸(内臓)の感覚〕と言います。腸と脳とになんらかの関連があることに、人は昔から本能的に気づいていたのかもしれません。

■「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」の両方を摂る

このように、腸内環境が「心身の健康」「ストレスの軽減」「免疫力の向上」など、人体に大きく影響することがわかってきました。

続いて、腸を整えるためにはどのようなことが効果的かをご紹介します。

今注目されているのが「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」という2つの手法です。

「プロバイオティクス」とは、生きたビフィズス菌を直接摂取する方法です。しかし、生きた菌を摂取してもその多くは胃酸で死に、腸に定着せず便となり排泄されます。腸内で菌が増えるわけではないので、一定量を継続して摂取することにより効果が期待できます。

ビフィズス菌を多く含む食品:納豆、ヨーグルト、麹、キムチ、味噌等
スプーンですくったヨーグルト
写真=iStock.com/kaorinne
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kaorinne

一方「プレバイオティクス」とは、腸内にいる善玉菌の餌となる成分を摂取する、という方法です。この餌というのが食物繊維やオリゴ糖を指し、これらは小腸で吸収されず大腸まで届きます。そして善玉菌の餌となり、分解され、短鎖脂肪酸になります。短鎖脂肪酸は腸内を弱酸性に保つ働きをし、善玉菌を活発にさせます。

食物繊維やオリゴ糖を多く含む食品:海藻、果物、芋類、きのこ類、豆類等

「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」の両方を継続的に摂取することにより、善玉菌を効率的に増やすことができます。

■十分な睡眠や適度な運動も大切

食品からの摂取以外では、自律神経を整えるために十分な睡眠を摂ることが大切です。また、腸のマッサージや適度な運動で腸のぜんどう運動を促すことで、お通じの改善が期待できます。水分が不足すると腸内に便が滞るので、水分をしっかり摂ることも大切です。

自律神経を整えることにより、「過敏性腸症候群」等のさまざまな体調不良の予防につながります。ぜひ積極的に取り組んでみていただきたいです。

腸の働きについての話はいかがでしたでしょうか。腸はただの消化器官ではなく、人体にとってとても重要な器官です。ぜひ腸内環境の改善を意識し、心身ともに健康な体を維持してください。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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