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ユニクロは絶好調なのに無印良品は大苦戦…中国市場で日本ブランドの明暗がくっきりと分かれたワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月15日 18時15分

ユニクロの中国事業(香港、台湾を含む)は、2020年のコロナ禍を除いて、順調に推移をしている。ファーストリテイリング「アニュアルレポート」より筆者作成

ユニクロと無印良品はほぼ同時期に中国に進出したが、ユニクロは絶好調であるのに対し、無印良品は伸び悩んでいる。ITジャーナリストの牧野武文さんは「ユニクロには目立つ競合がないが、無印良品にはメイソウというライバル企業が出現した。中国らしいパクリ企業として当初はバカにされていたが、いまでは店舗数も売上高も無印良品を追い抜いている」という――。

■なぜユニクロと無印良品は中国で人気なのか

中国の若い世代に人気のある日本ブランドと言えば、ユニクロと無印良品だ。

中国人の多くは日本ブランドに対し、簡素、自由、快適、健康といったイメージを持っている。このような要素は「日系元素」と呼ばれ、特に若い世代を語る上で欠かせないワードとなっている。

中国の経済に大きな影響を与える若い都市生活者ほど「日系元素」を好む傾向にある。彼らは、環境保全や社会問題に対する関心が強く、大量消費を嫌い、シンプルな生活を望んでいる。そうした上質なライフスタイルと両ブランドが持つイメージがシンクロしているのだ。

例えば、中国のフリマサービスでは、無印良品の紙製のショッピングバッグがよく取引されている。知人に贈り物をするときに、無印良品のバッグに入れて渡すと、センスのいい人と見てもらえるからだ。

日系元素の象徴といえる両ブランドは、中国の都市部を中心に店舗を拡大しており、根強い人気があるのは確かだ。だが、近年の売り上げは対照的といえる。いったい何があったのか。それぞれ見ていきたい。

■日本の営業収入に迫るほど絶好調のユニクロ

ユニクロは中国市場で最も成功した日本企業と言っても過言ではない。中国に897店舗(2022年末)を展開し、5385億円の売上収益(含む香港、台湾)がある。日本の売上収益8102億円に迫ろうとしている。

中国に進出したのは2002年。当初は、中国市場専用の低価格製品が不振で苦戦を強いられた。だが、日本と共通の商品を投入したことや、2010年に上海市で最も人通りの多い南京西路に旗艦店を出店したことが起爆剤となり、売り上げは2020年のコロナ禍の影響を除いて、順調に成長をしている。

ユニクロの製品は、日本よりも価格が高く設定されており、中国人の所得から見ると安くはない。しかし、品質が優れていることから、中国人にとって上質のカジュアルとして認識されている。

人気の理由は、商品が日系元素を体現していることだ。例えば、ヒートテックやUVカットなどの機能性衣料は「快適」を、着る人を選ばないデザインは「自由」を。これまでの海外ブランドにはなかった魅力になっている。

【図表2】ユニクロの中国店舗数の推移
ユニクロの中国店舗数の推移。2008年以降は順調に店舗数を伸ばしている。柳井正社長は目標として3000店舗という数を語っている。ファーストリテイリング「アニュアルレポート」より筆者作成

■商品以外に受け入れられている理由

受け入れられているのは商品だけではない。

中国人が感動したのは接客スタイルだ。ユニクロの店舗に行けば、店内を歩き回って、自由に商品を見て回ることができる。これは私たち日本人にとってはごく当たり前のことだが、ユニクロが進出した2000年代には中国では斬新な接客スタイルだった。

当時の中国の接客は、追跡接客が基本だった。スタッフが来店客の後ろをついて歩き、いつ声をかけられてもすぐに応えられるようにする。現在でも高級店や個人経営店など、スタッフと顧客の距離が近い店舗では多用されている。ユニクロはそうした圧迫感からお客を解放した。

また、レジが混雑をしてきた時にはスタッフが出てきて、空いているレジへの誘導を行う。こうしたところにも「簡素、自由、快適」といった日系元素を感じている。

ユニクロ独特のO2O(Online to Offline)対応も好評だ。中国では2017年にスマートフォン決済が一気に広がり、モバイルオーダーやデリバリーが浸透をした。小売業ではECやD2C(直販EC)に対応をしない店舗は生き残っていけない状況となった。

ユニクロはO2Oへの対応も早かったが、店舗体験に軸足を置くO2Oを設計した。スマホで購入したユニクロ商品は、宅配も可能だが、店舗での受け取りも可能にした。店舗受け取りにすれば、その場で試着をしてサイズ交換をしたり、無料の裾上げサービスを利用することができる。店舗にきてもらえれば、新しい商品にであうチャンスも増える。

ユニクロの店舗
写真=iStock.com/Yongyuan Dai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yongyuan Dai

■あえてビッグセールに乗らない

中国のユニクロも日本と同じようにシーズンがすぎた商品は値下げをする。さらに再値下げも行われる。期間限定の割引ではなく値下げであるということが大きなポイントだ。

中国では有名な11月11日の独身の日セールをはじめとして、6月18日、12月12日など年に数回のビッグセールがある。ECが主導するこのようなセールではさまざまな電子クーポン券が大量に配布され、それが消費につながっていた。

しかし、賢く買い物をするためには異なるクーポンをうまく組み合わせる必要があり、ちょっとした方程式を解くような難しさがあるのだ。これをゲーム感覚で楽しんでいる人もいるが、都市の若者を中心にクーポン疲れの感覚が広がっている。

さらには、断捨離感覚も広がり、セールに背を向けるミニマリストの若者も登場している。そのような感覚とユニクロのシンプルな「値下げ」がうまくマッチをした。店舗に行くたびに、新しい商品と新しい価格が発見できることから人気を博しているのだ。

■無印良品の製品は好きだけど…

一方、無印良品の生活雑貨も都市の若者を中心に強い人気がある。ところが、業績は厳しい。無印良品は中国に2005年に進出し、現在は349店舗を展開しているが、既存店売り上げは伸び悩んでいる。

無印良品の店舗
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

理由は大きくふたつある。

ひとつめは値段だ。無印良品も日本とほぼ同じ商品を販売しているが、日本より割高の価格設定になっている。

ユニクロの商品は季節性が強いためにシーズンが過ぎると値下げをするが、生活雑貨中心の無印良品の商品はセール時期に割引がされることになる。このため、ビッグセールの直前になると、SNSでは「MUJI割引攻略」という記事が大量に登場する。

つまり、「無印良品の製品は好きだけど、セールの時に買うもの」になってしまっているのだ。無印良品の運営企業である良品計画も、年報で中国市場について「近年は業績拡大のペースが鈍化していると認識しています。これは、日常的に商品を購入するには価格がやや高いとの認知」と述べている。

【図表3】MUJI中国の既存店売り上げ 前年同期比の推移
MUJI中国の既存店売り上げの前年同期比の推移。色部分はコロナ禍。コロナ禍以前にMUJIの業績は前年割れを起こす状態になっていた。(期は自然年)。良品計画「DATABOOK」より筆者作成

■中国の「パクリ企業」に追い越される

この「セールの時に買う」という状況を解消できない間に、強力なライバルが成長してしまった。無印良品不振の理由ふたつ目がメイソウ(名創優品)の登場だ。

商品はダイソー風の生活雑貨を並べ、店舗は無印良品風、店舗ロゴはユニクロ風と、中国のパクリ企業の典型として日本のメディアで面白おかしく取りあげられていた雑貨チェーンだ。

しかし、2022年末には中国に3378店舗を展開し、無印良品の10倍近い規模になっている。米国証券取引委員会(SEC)に提出している報告書によれば、中国市場での営業収入は2022年で74.42億元(約1440億円)と、無印良品の中国市場での営業収入866.4億円を大きく超える。もはや無印良品が追いかける立場になっている。

イスラエルに出来たメイソウ
写真=AFP/時事通信フォト
イスラエルに出来たメイソウ。現在は無印良品よりも大きな売り上げとなっている。2020年10月にはニューヨークに、2022年7月には香港に上場。アジアだけでなく世界中に進出している - 写真=AFP/時事通信フォト

製品は無印良品と比べるのが失礼なほど品質に差がある。しかし、この5年ほどで急速に品質を上げてきていて、使って支障が生じるほどひどい品質の商品というのはなくなっている。また、知的財産権の問題を起こしながらも、高級ブランドの要素を取り入れた商品を販売している。日系元素の要素が入った無印良品風の生活雑貨も人気だ。

最近では、多くの人が無印良品に行く前にメイソウに寄るようになっている。品質が無印良品に劣ることはわかっても価格が3分の1、4分の1の同類の商品が並んでいる。価格が安いためにお試しで買ってみると、使って問題が起きることはない。「だったら、メイソウでもいいのでは?」と考える人が増えているのだ。

また、近年は地方都市でも大都市の若者のライフスタイルが広がり始めている。そういう人たちにとって、無印良品の店舗は近くにないが、メイソウの店舗は近くにある。無印良品は、都市部の既存客だけでなく、地方の将来の顧客もメイソウに奪われてしまっている。

■ユニクロの地位は安泰

ユニクロには無印良品に対するメイソウのような強力なライバルはいるのだろうか。中国でのユニクロのライバルはGAPだったが、大量閉店をし、中国市場からの撤退も視野に入っているという。

GAPはユニクロとポジションが似たアパレルチェーンだったが、品質面やコストパフォーマンス面での評価でユニクロを上回ることができなかった。

また、女性向けにはH&MやZARAなどのファストファッションがユニクロのライバルになるが、流行を追いかけ、次々と新しい商品を買うというファストファッションそのものが消費者から避けられるようになっている。

■日本企業だからではなく日系元素が好まれている

中国企業の日系元素学習スピードは速い。メイソウは以前、創業者に日本人デザイナーの名前を使い、ロゴには日本のカタカナを使い、日本企業だと錯覚させるような要素を散りばめていた。しかし、このような要素を2023年3月末までにすべて排除した。

これは、パクリ批判に対する反省からではなく、すでに「メイソウ=日系元素」が浸透をしたため、わざわざ日本の記号を用いる必要がなくなったためだ。ユニクロと無印良品が人気なのも、日本企業だからではなく、日系元素商品の本家本元であるからだ。

メイソウは東南アジアを中心とする海外進出にも積極的で、中国以外の地域にすでに2115店舗(2022年末時点)を展開している。東南アジアでは、人口構成が若いこともあり、中国の若年層と同様に日系元素商品がウケている。日系元素は、中国企業により東南アジアに広がろうとしているのだ。

「簡素、自由、快適、健康」といった日本デザインは、間違いなく日本の優れた発明のひとつだが、私たちはその国際的な価値を低く見積もりすぎているのかもしれない。

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牧野 武文(まきの・たけふみ)
フリーライター/ITジャーナリスト
IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。著書に『横井軍平ゲーム館 「世界の任天堂」を築いた発想力』(ちくま文庫)、『任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代』(角川新書)、『Googleの哲学』(だいわ文庫)など多数。

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(フリーライター/ITジャーナリスト 牧野 武文)

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