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解散するのかしないのか…82歳の自民大御所2人に振り回され煮え切らない岸田首相は「大義」を辞書で引け

プレジデントオンライン / 2023年6月14日 11時15分

自由民主党の公式サイトより

今国会の会期末は6月21日。岸田文雄首相は、月内とも今秋とも噂される「解散」に踏み切るのか否か。自民党の元参議院議員で大正大学社会共生学部准教授の大沼みずほさんは「岸田総理や政治家、マスコミは一度、今回の騒ぎのキーワードとなっている『大義』という言葉を辞書で引くといいのではないか」という――。

■解散の「大義」を巡る大御所2人の発言

解散があるのか、ないのか。会期末まであと少しとなり、毎日のように紙面がざわついている。

解散について、その「大義」を巡って、2人の大御所が対照的な発言をしている。

ひとりは、自民党副総裁である麻生太郎氏(82)。6月8日に記者の取材にこう答え、早期解散に慎重な姿勢を打ち出した。

「『解散はいつですか』って、そこの後ろに立っているマスコミってのはそれしか今聞かないんですけれども……。(逆に)“解散の大義”を教えていただければというような感じがしている」

一方、古賀誠元幹事長(82)は、毎年、宏池会の若手議員と行っている故大平正芳元総理(在任期間1910~1980)命日墓参の際(6月12日)、次のように述べた。

「解散総選挙は、中長期的に戦略や戦術を持ってするものではない。一瞬の判断だ。大義は、いつでもついてくる。大義を考えて解散している人は今まで誰もいない。解散の後に大義がついてくる」

岸田文雄総理(65)へのエールとも取れる発言をした古賀誠元幹事長。宏池会のかつてのトップであり、2012年に政界を引退した後も、宏池会名誉会長として、宏池会を牽引してきた。岸田総理を宏池会会長として後継指名したのも、古賀氏である。そうした意味で、岸田総理の恩人といえるだろう。

一方、麻生氏は、河野洋平〔86・河野太郎(60)の父〕氏らと1998年に宏池会から脱会し、同じ福岡が地元である古賀氏とは、長らくライバル関係にありながらも、岸田総理を総理にするため、後ろ盾となっている。岸田総理にとって、麻生氏も恩人のひとりといえる。

古賀氏と縁を切ることが麻生氏からの支援を受け取る条件だったとの噂は広く知られており、古賀氏が岸田総理を総理にするため、身を引いたと言われる。現在、古賀氏が宏池会の名誉会長から退いていることからも、岸田総理と麻生氏の方が関係は密であると見られている。実際、岸田総理誕生後、表立って、総理と古賀氏が食事をしたり、古賀氏が官邸を訪れたりした形跡はない。

この「大義」を巡る2人の大御所の発言を岸田総理はどうとらえているだろうか。

古賀氏の発言が麻生氏の発言の後だったということは、それは麻生氏が解散に反対の立場であっても、「解散を打つなら、俺は応援するぞ」ということを意識したメッセージであり、2人の対照的な発言のどちらが岸田総理の心に刺さったかで、最終的な判断にも少なからず影響を与えよう。

■憲法上、解散の大義とは何か

「解散権は総理の専権事項」である。憲法7条において、解散は、内閣の助言と承認により天皇が行う国事行為のひとつと位置づけられている。つまり、総理が「解散!」と言えば、解散できるということであり、戦後20回以上行われてきた解散は、この憲法7条に基づくものである。

憲法69条にも解散の規定があり、「衆院で内閣不信任決議案が可決されるか信任決議案が否決された場合に、10日以内に衆院が解散されない限り内閣総辞職をしなければならないと定める」とされている。

憲法69条によるものは、第1回「馴れ合い解散」(1948年)、第3回「バカヤロー解散」(53年)、第12回「ハプニング解散」(80年)、第16回「政治改革解散」(93年)の4回しかないとされている。

そもそも、与党が多数である衆議院において、内閣不信任決議案が可決されるということは、与党からの造反者が出なければできないことであり、特に小選挙区制度が導入されて以降は、与党所属議員にとって、不信任決議案に賛成票を投じるのは至難の業である。

なぜなら、選挙の際の党公認権は党総裁である総理にあり、その総理率いる内閣に対する不信任決議に賛成するということは、党の公認なしに解散後の選挙を戦うことになるかもしれない覚悟が必要だからだ。

戦後のほとんどの選挙が「総理の専権事項」で行われてきたのであり、大義うんぬんは、果たしてどの程度あったのか。という疑問が浮かぶ。憲法上は、憲法7条が解散の根拠であり、この根拠こそが大義となり、それ以上でもそれ以下でもないではないか。

自民党「決断と実行。」第26回 参議院議員通常選挙特設サイトより
自民党「決断と実行。」第26回 参議院議員通常選挙特設サイトより

小泉純一郎元総理(81・在任期間2001年~2006年)の2005年の「郵政解散」は、「郵政民営化に賛成か、否か」という一点について、世論に問うという「大義」があったとされるものだが、衆議院では可決された法案が参議院で否決されたことを受けてのものであった。衆議院では法律が可決されたのだから、そこに民意は表されており、参議院は6年に1度民意を問う選挙が実施されるという制度上、参議院で否決されたからといってそこで衆議院を解散する「大義」はあったかどうかという点については疑問が残る。あの「郵政選挙」でさえである。

また、安倍晋三元総理の実施した2014年の「消費税延期」選挙も、2017年の「国難突破」選挙も、その際の解散の大義とは何だったかをしっかり語れる人はどれだけいるのだろうか。

■解散の「大義」は必要か

そもそも大義とは何か。改めて、しっかりとこの言葉の意味を振り返る必要があるだろう。三省堂「国語辞典」によると『大義』とは……。

① 人として踏み外してはならない、最も大事な道。

② 国家・君主に対する忠誠。「――親を滅す(=『大義』と親・兄弟の身の保全と二者択一すべき時には後者を捨てる)」。

③ 「大義名分」の略。「――のない戦争」『――名分』

④ 人の臣子である限り守らねばならぬ実践道徳の究極の一線

⑤ 他に対してうしろめたさを感じないで、何かをやってのけるだけの恥ずかしくない理由。「――が立つ。――を欠く」

とある。上記記述の中で、解散の大義を考えるならば、⑤他に対してうしろめたさを感じないで、何かをやってのけるだけの恥ずかしくない理由が、解散に存在するかどうか、であろう。であるならば、何が恥ずかしくて、何が恥ずかしくないのかは、総理の「羞恥心」の度合いにかかっているともいえる。つまり、「この解散は大義がなくて恥ずかしい」と誰が思うかということである。

岸田政権が誕生して、1年8カ月経ち、この間、防衛強化に対する増税、原子力発電を主軸とするエネルギー政策への転換、次元の異なる少子化対策などさまざまな政策が打ち出された。

自民党「令和4年政策パンフレット」より
自民党「令和4年政策パンフレット」より

こうした政策を推進させていくべきか否かを問うことは「大義」となりえるが、それはうしろめたさを感じる「大義」だろうか。また、岸田政権はこうした大枠の政策だけでなく、スタートアップ支援やリスキリング支援、賃上げ税制といった政策を打ち出している。こうしたことも評価の対象となるだろう。

「自民党を支持しているから」「総理の人柄がよいから」という政策評価だけでない部分で投票する人もいるだろうが、選挙となれば、多くの人にとって、「自分の関心テーマ」に沿った評価表が作られる。防衛増税に反対する人や脱原発政策を支持する人は、岸田政権にはNOを突き付けるかもしれない。

つまり、選挙というものに「大義」が必要かと言えば、大義不要であり、そもそもが「成績表」なのだと筆者は考える。安倍元総理の2014年の「消費税延期」選挙は、大義は消費税延期だったかもしれないが、政権を奪還した後のアベノミクスへの評価が選挙の争点であった。2017年の「国難突破」選挙は、消費税の使い方を変更し、幼児教育の無償化が大義だったかもしれないが、安倍政権を続けさせるかどうかを国民が審判する2014年以降の安倍政権への「成績表」だったのである。

そもそも、岸田総理は、2021年10月4日に岸田政権を発足し、たった10日後の14日に衆議院を解散している。10日で岸田政権に成績表を付けるなど土台無理な時に、である。解散の大義が紙面を踊る昨今であるが、「大義など後からついてくる」。そういってのけた古賀氏の考えに筆者も賛同する。選挙はやってみなければわからない。吉と出るか凶と出るかは天のみぞ知ることだ。岸田総理は、粛々とこの1年8カ月の「成績表」を国民に委ねればいい。大義は後からついてくるのだから。

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大沼 瑞穂(おおぬま・みずほ)
大正大学社会共生学部公共政策学科准教授
NHK報道記者、外務省専門調査員、内閣府上席政策調査員などを経て、参議院議員。元厚生労働大臣政務官、元自民党副幹事長。現在、大正大学地域構想研究所准教授

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(大正大学社会共生学部公共政策学科准教授 大沼 瑞穂)

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