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60歳男女の「ギラギラした恋愛」から目が離せない…ネトフリ「あいの里」が示す最新ヒットの意外な潮流

プレジデントオンライン / 2023年6月14日 15時15分

35歳から60歳の男女8人が「人生最後の恋」を求めて共同生活に挑戦する - 写真=Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中

ネットフリックスで配信中の恋愛リアリティ番組『あいの里』が注目を集めている。35歳から60歳の男女8人が「人生最後の恋」を求めて共同生活に挑戦する。そんなコンテンツがなぜ受けているのか。テレビ業界ジャーナリストの長谷川朋子さんは「あるようでなかった中年による中年のためのコンテンツは実は海外でも注目され始めている」という――。

■支持を受ける「ありのまま」の中年コンテンツ

恋愛リアリティ番組と言えば、キラキラ感が当たり前のはずだったが、Netflixシリーズ『あいの里』はそんなイメージを覆す。参加者全員が35歳以上。60歳の男女も主役になって、ギラギラした中年たちの恋愛を映し出す斬新さがある。

いわゆる中年コンテンツなのだ。広く括れば、中年がフォーカスされることは決して珍しいわけではない。「中年の星」と表現されるスポーツ選手がいれば、「名バイプレイヤー」と称してベテラン俳優ブームが過去に起こったりもした。

だが、ここにきて、中年コンテンツに変化がみられる。達人級の中年ばかりでなく、身近さ溢れたおじさんやおばさん感をさらけ出す中年たちがもてはやされている。『M-1グランプリ2021』で優勝したお笑いコンビの錦鯉はまさにそう。新しく始まった結成16年以上のコンビが競うお笑い賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~』の初代王者のギャロップもしかりだ。

ありのままの中年コンテンツは、お笑いに限らない。ラジオパーソナリティでコラムニストのジェーン・スーと元TBSアナウンサー堀井美香によるポッドキャスト番組『OVER THE SUN』にも当てはまる。赤裸々に中年あるある話を繰り広げ、「互助会」と呼ぶリスナーから熱い支持を得ている。

■メンバーには正真正銘の中年たちが揃う

この地で行く中年コンテンツの流れに乗っているのが『あいの里』なのである。最大限のインパクトを狙ってか、男女8人の初期メンバーに至っては酸いも甘いも知るような正真正銘の中年たちが揃う。これまでの恋愛リアリティ番組とのギャップを感じて、彼ら彼女らの初登場シーンに軽く衝撃を受けるほどだ。

5月2日から全世界配信が開始され、最終話のエピソード18が更新された5月30日以降も、Netflix公式の日本の「今日の総合TOP10」入りを続けて、数字上の実績は上々だ。注目すべきは、ランキングの順位は最終話に向かうにつれて上がっていき、単日で最高1位、ウィークリー平均で最高2位まで上昇したことにある。中身の面白さがあったからこそ、評判が評判を呼んだと言えそうだ。

■単なる「あいのり」リブートではない

そうなのだ。『あいの里』は決して、過去の栄光にすがっただけで人気を得たわけではない。平成11年から21年までフジテレビで放送された『あいのり』を当時企画した西山仁紫プロデューサー自ら携わってリブート版として今回の『あいの里』が作られ、発信されるメディアは移り変わってNetflixで独占配信されているわけだが、中年コンテンツに合わせて絶妙なアレンジが施されている。

番組を象徴するピンクのワゴンはピンクの鐘に変わり、また真実の愛を探し旅に出る代わりに、「ラブ・ヴィレッジ」と称する共同生活場所で古民家をDIYしながら地に足をつけた田舎暮らしを繰り広げていくのだ。告白に成功すると誕生したカップルがキスをするルールや、スタジオトークでタレントのベッキーが再び起用されるなど、かつての『あいのり』ファンを意識した要素も残っているが、中年による中年のための恋愛コンテンツとして確立させ、番組ブランドに頼りすぎていない印象が強い。

参加者は「ラブ・ヴィレッジ」にある古民家で自給自足の生活を送る
写真=Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中
参加者は「ラブ・ヴィレッジ」にある古民家で自給自足の生活を送る - 写真=Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中

■過去を活かすべきポイントは裏側の制作ノウハウ

過去に成功した番組がリブートされることはよくあるが、単なるリブートに終わらせず、過去を活かすべきポイントは裏側の制作ノウハウだったりする。リアリティ番組の場合、最も重要なのは参加者の人選力にあり、『あいの里』の参加メンバーの顔ぶれはさすがと言えるもの。ほどよく身近さを感じさせる人選だ。

女性陣は45歳のシングルマザーに、39歳のコンビニ店員、子育てを終えた60歳の方など。モテる女感が漂う36歳のヨガインストラクターも登場する。一方、男性陣は30代も40代も仕事に没頭し過ぎてか独身貴族が多めで、50代と60代は昭和ノリが濃い。そして、男女共にバツがあったり、なかにはパートナーに先立たれた過去を持ちながら、人生最後の相手を探すため必死の姿をみせてくれる。

編集力でひとりひとりの個性までわかりやすく、新たに投入される参加者によって、新たな化学反応を期待させる作りも憎い(カップルが成立したり、告白に失敗したりすると、参加者はラブ・ヴィレッジを去るルールがあるため、そのたびに新たな参加者が加わる)。『あいのり』で10年もリアリティ番組を続けることができた制作力があるからこそ為せる業だ。

■参加者の選考基準は「素の真剣さ」

選考経緯について西山プロデューサーが「一般の方、俳優やエキストラなど演技経験のある人がいましたが、職業問わず、素顔で真剣に恋をしようとしている人にぜひ参加してもらいたいと思いました」と語っているように、全員が全員カメラの前に立つのが初めてではないが、そもそも番組の目的は素人らしさを映し出すものではない。素の真剣さに尽きる。だからこそ白けさせないのだろう。

気づけば、イントロでかかるバックストリート・ボーイズの懐かしいヒット曲『Everybody』が頭から離れなくなるほどハマらせもする。『あいの里』は参加者が相手を見極めていくプロセスにも面白さがあるからだ。そこには中年コンテンツらしい深さがある。

■真骨頂は中年ならではの深みのある会話

『あいの里』では、参加者たちがこれまで味わった、しくじりの恋愛経験も暴かれる。下世話かもしれないが、年を重ねていれば、そんなこともあるよねという気持ちにさせる。決して否定せず、フラットに扱われているからだ。リアリティ番組でよくある扇動しがちなスタジオトークも、ベッキーと田村淳の2人の寄り添う意識が程よく、中年コンテンツとしての余裕を保ってくれる。

恋のライバルを蹴落とそうとするいざこざや、若者向け恋愛リアリティ番組で見られるゲーム感覚で攻めるような言動もない。喧嘩といえば、睡眠薬を飲んだのは1錠だったのか、2錠だったのかで51歳と60歳の男性が揉めたぐらいだ。眠れない悩みを持つ中年あるあるネタとしてむしろ笑いに変えられる。

次こそ失敗したくないという心理が働いてか、特に女性たちが現実的な問題を相手に突き付けていったのが面白い。「もし(子供を望んで)できなかったら、どうするか」「相手の介護ができると思えるのか」など、中年コンテンツの真骨頂と言えるような深みのある会話も繰り広げられる。

告白を決意した参加者は「あいの鐘」を鳴らす
写真=Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中
告白を決意した参加者は「あいの鐘」を鳴らす - 写真=Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中

■世界で注目を集める中年向け恋愛リアリティ

あるようでなかった中年による中年のためのコンテンツは実は海外でも注目され始めている。世界で最もヒットする恋愛リアリティ番組『ラブ・アイランド』を制作するイギリス最大手の民放局ITVが立ち上げる『ロマンス・リトリート』もその1つにある。成長した子どもたちから推薦を受けたシングルマザーとシングルファザーが、豪華な別荘で新たな愛を探していくデート番組だ。

日本でもよく知られる「バチェラー」シリーズからも本家アメリカで中年版『ゴールデン・バチェラー』が計画されている。これまでも世界各地で中年のための恋愛リアリティ番組がなかったわけではないが、特にこの2つの番組の影響力の高さが期待される。

■多様化する価値観に合わせたコンテンツが求められる

なぜ今、ここにきて中年コンテンツなのかに対する答えは明確だ。マスマーケティングだけを考えてコンテンツが作られる時代は既に過ぎている。多様化する価値観に合わせたコンテンツが求められているからこそ、恋愛の全盛期は若者だけではないことを示す中年向け恋愛リアリティ番組が生まれているのだ。

中年だって恋愛する。『あいの里』を見ていると、シンプルにそれが伝わってくる。疑いたくなるほど出来過ぎているところもあるが、「中さん」と呼ばれる60歳の男性が、ピンクの鐘を鳴らす姿は中年の覚悟の象徴だ。中年コンテンツの面白さに気づいてしまった人は多いのではないだろうか。

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長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト
コラムニスト、放送ジャーナル社取締役、Tokyo Docs理事。1975年生まれ。ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、国内外の映像コンテンツビジネスの仕組みなどの分野で記事を執筆。東洋経済オンラインやForbesなどで連載をもつ。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、番組審査員や業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)などがある。

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(テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子)

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