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「ご褒美ではなく上司命令です」血まみれ・骨折の状態で目覚めたハフポスト創業者がつくった休息の仕組み

プレジデントオンライン / 2023年6月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pepmiba

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのはジョン・フィッチ、マックス・フレンゼル著『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング)――。

■【イントロダクション】

過労死予防などのために「働き方改革」の必要性が叫ばれて久しい。だが、日本の平均労働時間は減少傾向にあるものの、労働生産性(1時間当たりの生産性)は、G7の中で「最下位」が50年以上続いている。

私たちは労働時間を減らして「休み」を増やすだけでなく、「どう休むか」を考えるべきなのかもしれない。

本書では、古今東西のさまざまな“賢人”たちの「休息(タイムオフ)」にまつわるエピソードや研究、思想を紹介しながら、睡眠、運動、旅、遊びなどの各面から考察。休息をより豊かな人生を送るためだけではなく、生産性やクリエイティビティに役立てるための方法を探っている。

現代の私たちは「忙しさ」を評価し、休息を「楽をすること」「サボること」と同一視しがちだ。だが、古代ギリシアの哲学者アリストテレスは「高尚な余暇」に価値を見出していた。本書に登場する賢人たちは「休息したのに成功した」のではなく「休息したからこそ成功した」人たちなのだ。

著者のジョン・フィッチ氏は、ビジネス・コーチ、エンジェル投資家、ライター。マックス・フレンゼル氏はAI研究者、ライター、デジタル・クリエイティブで、東京大学にてポスト・ドクター・リサーチ・フェローとして働いていた。

プロローグ タイムオフってなんだろう?-WHAT IS TIME OFF?
序.僕たちは、どこで間違えたのだろう?-WHAT WENT WRONG?
1.創造する-CREATIVITY
2.休息する-REST
3.睡眠をとる-SLEEP
4.運動する-EXERCISE
5.ひとりになる-SOLITUDE
6.内省する-REFLECTION
7.遊ぶ-PLAY
8.旅をする-TRAVEL
9.繋がりを断つ-TECHNOLOGY
10.これからの働き方-THE FUTURE OF WORK
エピローグ 僕たちの物語-OUR STORY

■血まみれで目覚めた「ハフポスト」創業者

現代では、多忙であることが、もてはやされている。単純作業からナレッジ・ワーク(知識労働)への移行が、僕たちの現状に大きく関係している。ナレッジワーカー(知識労働者)は、「8台の車を作ったぞ」といったように、労働の成果を目で見ることができない。アイデアは他の人には見えないし、触れることもできないからだ。

イノベーションとクリエイティビティにあふれる突破口を見出そうとする労働は、量で評価するのがとても難しい。だから僕たちは、忙しさを成果の指標にしてしまう。いかに忙しいかを測れば、生産性やクリエイティビティをちゃんと評価するよりも手っ取り早いからだ。忙しさは、時間そのものとして捉えられるため、厄介だ。

「ハフポスト」創業者であるアリアナ・ハフィントンは2007年、「ハフポスト」を運営し始めて2年間が過ぎたとき、1日18時間働いていた。しかしある日、現実を直視することになる。オフィスの机の下で、血まみれで、頬骨を骨折した状態で目覚めたのだ。働きすぎによる疲れだ。

この問題に苦しんでいる人が他にもいることに気がついたアリアナは、起業家のやり方で問題を解決しようとする。「スライブ・グローバル(Thrive Global)」(訳注:Thriveには繁栄する、栄えるという意味がある)という名で、消費者の幸せと生産性のためのプラットフォームと会社を作ったのだ。

■有休の日数にはカウントしない「スライブ・タイム」

タイムオフを仕事に取り入れるとき、多くの雇用主は企業の有休方針に入れ込むだけで済ませてしまう。アリアナの場合は、休暇だけでは十分ではないと考え、タイムオフの概念を「スライブ・タイム」と呼んだ。

「意図的に回復する時間と捉え、過去を振り返り将来を見据えるよう促したのです。締め切りに間に合わせようと必死になることでなにを失っていたのかを考え、改善策を具体的に練る仕組みですね。一つのプロジェクトの終わりは、新しいプロジェクトの始まりです。だから休憩する時間というより、大切な日々の業務として考えています」

ここで重要なのは、「スライブ・タイム」は有休や病欠などの日数には数えないことである。「従業員に、回復と労働は別物と考えてほしくないのです。仕事だと思ってきちんと休んでほしい。“スライブ・タイム”はご褒美ではありません。責任です。上司命令です」

カレンダー
写真=iStock.com/Tatomm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tatomm

■多くのことを同時に自由にやってみよう

(*タイムオフに)仕事とは関係ないことにいそしむのは、タイムオフを習慣化している人からすれば当たり前のことだ。英国人アーノルド・ベネットは、1908年の自著『自分の時間』(三笠書房 2016年)で、いろいろなことをすること自体がタイムオフになりえると主張する。「メンタルが求めているのは変化だ。休息ではない」

ひとつのことだけに集中するのでなく、多くのことを同時に自由にやってみよう。そして共通点を探そう。重なる面白いところに目を向けよう。そんなふうに生き、仕事をすれば、新しい繋がりが見つかり、可能性が広がるだけでなく、タイムオフを組み込んだ日々が始まるのだ。

ジャーナリストのデイビッド・エプスタインは『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』(日経BP 2020年)で、クラシック音楽のミュージシャンは幼年期から専門的にスキルを身に付けるために多くの時間を費やし、規則に則ったレッスンを繰り返し受けると指摘する。一方で、トップレベルのジャズミュージシャンは、幼年期から形式ばった訓練を受けた例が少ないという。さまざまな楽器を試し、自分なりに実験を重ね、自分に合ったものを見つける。

クラシック音楽の重要な細かい技能を蔑んでいるわけではないが、厳しい訓練を長年受けると「即興演奏」がとても難しくなる。

■AIを恐れるなら「ジャズの即興」を目指そう

AI音楽の実験では、クラシックやテクノなどのジャンルの作曲家やパフォーマーの真似をさせる。厳しいルールやきちんとしたパターンがあるため、機械にとって学びやすいからだ。一方で、ジャズ音楽の即興演奏は、機械にとっては手が届かないところにある。最新のアルゴリズムは、狭い領域(ドメイン)での性能は上がっているが、ドメインを越えて散らばるアイデアをつなげるのは苦手だからだ。そしてこの傾向はすぐには変わらないだろう。

ところで、あなたの仕事内容は、ルールブックや指南書で説明可能だろうか。答えがイエスなら、あなたの仕事は機械か、安価な労働力によって取って代わられるだろう。その仕事が容易にできると言っているわけではなく、付加価値が下がると言っているのだ。

価値ある存在でいたいのであれば、AIには取得できないスキルを磨くことだ。AIの現時点での最高形態はディープラーニングだ。とても強力だが、その正体は大量のデータを統計学的に分析できる能力に優れているというだけだ。AIには多くのことができるが、決まったパターンの外側から情報を見つけてくることは人間にしかできないのだ。

AIと共に栄えるには、ルールに従うことよりも、明確な制限を取っ払ったらなにができるかを考え、自分なりのルールを持ち、参加しているゲームから知恵を借りたり、遠くにある点を繋いだりすることが必要だ。どんな分野であろうと、クラシック音楽のような演奏を目指さず、ジャズの即興を目指してみよう。

ジャズ
写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn

■創造性を高める「スローモーション・マルチタスキング」

2019年のTEDトーク「あなたのクリエイティビティを解き放つパワフルな方法」で、経済学者のティム・ハーフォードは「スローモーション・マルチタスキング」というやり方を提案した。

ハーフォードは、1度に多数のことに取り組むことには利点があると述べた。「大切なことであれば2つのこと、欲を言えば3、4つのことを同時に行うのが理想である」。しかし、「1度に」と言っても文字通り「1度」でやり切るべきだと言っているわけではない。時間枠が重なるようにするべきだと言っているのだ。

分刻み、時間刻み、もしくは日を単位にして集中しなければならないのは変わらないが、週や月、年の単位で見たときに活動は多様であった方がいい。たとえば、興味のあるプロジェクトや事柄を書き出し、週ごとに違う項目に取り組む。1週間、ひとつのことに集中したら、その次の週は違うことに挑戦する。それぞれのプロジェクトに、時間とエネルギーをかけるべきだ。

■マルチタスクは「ゆっくりやる」と効果がある

ジョン・フィッチ、マックス・フレンゼル『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング)
ジョン・フィッチ、マックス・フレンゼル『TIME OFF 働き方に“生産性”と“創造性”を取り戻す戦略的休息術』(クロスメディア・パブリッシング)

「スローモーションでマルチタスクを行うというのは、非生産的に聞こえるでしょう」とハーフォードは認める。「私が言いたいのは、いくつかのプロジェクトを同時進行させるべきだということです。気分次第でトピックを行ったり来たりできるようにね。なぜこれが非生産的に聞こえるかというと、私たちがマルチタスクに頼るのは決まって追い詰められたときだからです。急いでいて、すべていっぺんに済ませたい。でもマルチタスクをゆっくり行うと、すごい効果があるんですよ」

「クリエイティブな人たちは、同時進行でいくつものプロジェクトに接しています。しかもかなりマニアックな趣味がある場合も多い。創造性が高まるのは、アイデアを別の場所に移したときの場合が多いのです」

スローモーション・マルチタスキングは、短い時間の単位(分、時、日)でひとつのことに集中しながら、長い時間の単位(週や月、年)で見ると、いろいろな活動が含まれているというのがいいのだ。だから、速度を落とそう。自由にプロジェクトの間を行き来してみよう。慌てず、騒がず。

※「*」がついた注および補足はダイジェスト作成者によるもの

■コメントby SERENDIP

イントロダクションで触れた、アリストテレスの「高尚な余暇」とは、本書によると、「ただ、したいからする」ものなのだという。それに対し、彼にとっての「労働」は、明確な目的や実用的な目標のある行為だ。つまり、現代のわれわれが「高尚な余暇」を獲得するには、外から与えられた「目的」や「目標」ではなく、自己の内面から湧き上がる純粋な「好奇心」が重要なのだろう。好奇心は、学校教育の現場でも、育てるべき「非認知能力」の一つとして注目されている。将来の人材が今より「高尚な余暇」を活用できる可能性は高いのかもしれない。

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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)

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