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「リニアを通したいなら"静岡空港新駅"を認めろ」川勝知事が妨害解消と引き換えに求める「地域振興」の中身

プレジデントオンライン / 2023年6月16日 7時15分

期成同盟会総会で、「静岡空港新駅」を取り上げた山梨県の長崎知事(東京都内) - 筆者撮影

JR東海が進めるリニア中央新幹線について、静岡県の着工拒否が開業予定に大きな影響を与えている。ジャーナリストの小林一哉さんは「東海道新幹線の真上に位置する静岡空港に新駅を設置する議論を糸口にするしかない。静岡県への『地域振興』も尊重しなければリニア問題は解決に向かわない」という――。

■川勝知事は東海道新幹線「静岡空港新駅」を求めている

6月9日公開のプレジデントオンライン「『地域振興の目玉』リニアを妨害されているのに…川勝知事に誰も『遅延行為をやめろ!』と怒れないワケ」では、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会(以下、期成同盟会)に10番目のリニア沿線県として加入した静岡県の川勝平太知事のもくろみは「地域振興策」をJR東海に求めることだと明らかにした。

地元が求める地域振興策とは何か?

川勝知事をはじめ大井川流域の市町長らがJR東海に求める地域振興策とは、東海道新幹線の「静岡空港新駅」設置であることは間違いない。

期成同盟会総会に出席する山梨県の長崎知事と川勝知事(東京都内)
筆者撮影
期成同盟会総会に出席する山梨県の長崎知事と川勝知事(東京都内) - 筆者撮影

5月31日、東京都内で開かれた期成同盟会総会で、山梨県の長崎幸太郎知事が、「国際空港である静岡空港だからこれまでにない画期的な新駅となる。広域にメリットが波及する」などと静岡空港新駅整備構想に言及し、川勝知事への“援護射撃”とも取れる発言をした。期成同盟会の研究会でその可能性を検討していくという。

■JR東海は「条件が整わない」と拒否

新幹線新駅の設置で、日本経済発展の未来を担うインバウンド(訪日外国人)需要を取り込むのに最もふさわしい空港になるという発想である。

ところが、一日も早い南アルプスのリニアトンネル工事静岡工区の着工を目指すJR東海は、静岡空港新駅設置に対しては、「条件が整っていない。難しい」とするこれまでの姿勢を変えることなく、首を縦に振る可能性はいまのところ全くない。

こうなると、膠着(こうちゃく)するリニア問題はこれからも平行線をたどる可能性が高い。本稿では、解決の糸口となる静岡空港新駅にJR東海が強い拒否感を示す理由とともに、「反リニア」を貫いてきた川勝知事が、静岡空港新駅設置をなぜ求めているのかについてわかりやすく伝える。

■激しい反対運動の末開港した静岡空港

島田市と牧之原市にまたがる静岡空港は、静岡県のほぼ中央、広大な茶畑が続く牧之原台地の東端に所在し、2009年6月4日に暫定開港した。

静岡空港全景。新幹線線路が空港の下を通る。地上に空港ターミナルがある
写真=静岡県提供
静岡空港全景。新幹線線路が空港の下を通る。地上に空港ターミナルがある - 写真=静岡県提供

その翌日の5日、当時静岡文化芸術大学学長だった川勝知事が静岡県知事選への出馬表明をしている。

静岡空港の建設予定地が1987年12月に牧之原台地に決定して以来、東京、大阪を結ぶドル箱路線を持たない空港の大赤字は必至であり、「むだな公共事業の典型」「無用の長物」などの厳しい批判にさらされた。それだけでなく、現在のリニア問題同様に、自然環境破壊を訴える激しい反対運動が起きた。

開港延期を繰り返した後、石川嘉延知事(当時)は2009年3月の空港開港を公約とした。空港建設反対の地権者には土地の強制収用手続きを行い、すべて問題は解決できたと思い込んでいた。ところが、思わぬ落とし穴があった。

静岡県のずさんな測量で、空港周辺3カ所の立ち木約150本が航空機の就航に支障があることが判明したのだ。これにより航空法違反を解消できず、石川知事は3月開港を断念せざるを得なかった。

立ち木所有者は「静岡県は空港建設で嘘とごまかしを重ねてきた。知事はこれまでも他の問題で現場に泥をかぶせてきた。組織のトップとして政治責任を取れ」と強硬な姿勢を崩さなかった。

■静岡県内には既に6つの新幹線駅がある

2009年夏の県知事選で5期目を目指していた石川知事は5月18日、立ち木所有者と面会後、県議会に辞表を提出した。所有者は知事との約束を守り、立ち木を伐採。これで何とか6月4日の暫定開港にこぎ着けた。

静岡空港は、年間160万~170万人の利用者数を目標に据えており、その目標のために当初から日本初の「新幹線地下駅」を掲げた。新幹線新駅を静岡空港ターミナル直下に建設して新幹線と結び付けることで、どこにもない利便性の高さを訴えた。

ところが、静岡県内の新幹線駅はすでに6駅(熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松)もある。JR東海は「これ以上新駅をつくれば新幹線のスピードが出せなくなる」などと新駅設置の構想を真っ向から否定した。

■リニア協力の条件として「静岡空港駅」設置を求めた

石川知事の後任として2009年7月に就任した川勝知事は、2010年7月の第5回中央新幹線小委員会にリニア沿線自治体の知事として出席した。

当時、リニアのルートは、静岡県を通過する現在の「南アルプス」の直線ルートに決定していたわけではない。あくまで候補に挙がっていた3つのルートのうちの1つだった。

にもかかわらず、国交省は静岡県をリニア沿線自治体とみなした。当日、出席した他の沿線自治体の知事はリニア新駅の設置を生かした地域振興への要望などを説明した。

一方、南アルプスの約10キロ区間をトンネルで貫通する静岡県がリニア沿線となったとしても、リニアを地域振興につなげるのは不可能である。

そんな中で、川勝知事は「静岡県としては、沿線地域として南アルプス地域での地質調査など積極的に協力する」などと現在では考えられない驚くべき発言を小委員会で行った。

ただ、川勝知事はその前段として、静岡空港新駅設置の有望性を説明した上で、「中央新幹線の整備計画とともに東海道新幹線の新駅設置を明確化していただきたい」と迫った。最後に「東海道新幹線の新しい運用形態を生かした陸・海・空の結節によるモデル。静岡空港新駅設置がその重要な突破口となる」と締めくくった。

■静岡―掛川間はわずか14分と短すぎる

川勝知事が求めた新駅は、建設費を地元負担とする請願駅だった。川勝知事は「待避線を前提にした場合(建設費は)450億円ぐらい、待避線のない形でほぼ250億円と試算している。受益者負担であることを想定して、新駅の必要性を訴えている」などと述べていた。

だが、これにJR東海は難色を示した。いくら地元負担の請願駅だとしても、静岡―掛川間の所要時間は14分で駅間の距離が短く、もしその中間に新駅を造るとなれば、新幹線の減速は避けられず、新幹線の意味が失われるからだ。

期成同盟会総会に出席したJR東海の丹羽俊介社長(左)と上原淳・国交省鉄道局長(東京都内)
筆者撮影
期成同盟会総会に出席したJR東海の丹羽俊介社長(左)と上原淳・国交省鉄道局長(東京都内) - 筆者撮影

一方のリニアは、2011年5月の整備計画決定で、南アルプスを貫通する直線ルートに決まり、静岡県も正式にリニア通過県となった。ただこれで中間駅が開業しないのは静岡県のみとなった。

JR東海は同年、これまで地元負担としていた中間駅の建設費用をすべて負担することを公表した。各駅約800億円にも上るリニア中間駅という地域振興策をJR東海が負担する代わりに、各県はリニア建設の円滑な推進のために全面的に支援することとなった。形の上では、静岡県のみが蚊帳の外に置かれる格好となった。

川勝知事は、懇意にしていたJR東海の葛西敬之名誉会長(2022年5月死去)らさまざまなチャンネルを通じて、静岡空港新駅構想を話題にしたが、歴代社長は新駅の設置構想をすげなくしりぞけた。

■「リニア通過県なのだから新駅設置を認めろ」

このような中、川勝知事は2017年10月の会見で、突如リニアトンネル工事の水環境問題をやり玉に挙げて、JR東海の対応を厳しく批判した。

2018年夏には、リニアトンネル工事による水環境保全を目的に、流域10市町長らをメンバーとする「大井川利水関係協議会」を設立した。

川勝知事の腹の中に「静岡県もリニア通過県なのだから、静岡空港新駅設置をJR東海が認めるのが当然だ」という思いがあったのは想像に難くない。

大井川利水関係協議会のメンバーを見れば、川勝知事の思いに流域も賛成していることがわかる。

静岡県が設置した「静岡空港駅設置期成同盟会」の会長は川勝知事、副会長は島田、牧之原、吉田の3市町長が務め、焼津、藤枝、御前崎、菊川の4市長と川根本町の町長も参加している。大井川流域の首長らが結束して静岡空港新駅設置を待望しているのだ。

しかし、JR東海は川勝知事らの思いを無視し続けた。

2018年夏から始まった静岡県専門部会は、5年たったいま、とうとう「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」という根拠のない言い掛かりまでつけるようになってしまった。

■山梨県が「静岡空港新駅」を支持するワケ

今回、5月31日の期成同盟会で、長崎知事はまるで2010年5月の川勝発言を再現するかのように、リニア、東海道新幹線を中心とする高速交通の将来像に静岡空港新駅設置を盛り込む、静岡県の思いに沿った発言をした。

川勝知事は素直に「研究会での検討が進むことを期待する」と述べた。

長崎知事は6月13日の会見でも、「静岡空港新駅構想を頭ごなしにダメだということは、ある意味抗議というか、しっかりと議論を積み重ねて、(JR東海は)真摯(しんし)に向き合っていただきたい」などと述べた。

リニア開業の最大の課題となる静岡工区未着工を解決へ導くために、静岡県の望む「地域振興」について、JR東海は話し合いの席につくべきだという姿勢を示したと見られる。

■JR東海も「聞く耳」くらいは持つべき

筆者も、ここまでこじれたリニア問題を一刻も早く前進させるためには、川勝知事が再三求めてきた静岡空港新駅の設置について、JR東海が真っ向から否定するのではなく、「聞く耳」を持つしかないと考える。

では、どうすれば静岡空港新駅の設置への道が開けるのか?

静岡県はこだま号の停車を想定しているが、筆者はのぞみ号のみの停車駅としてしまえば、先述した駅間の距離の問題が解消できると考える。

新横浜駅以西の停車駅を、静岡空港―名古屋―京都―大阪としてしまえばいいのだ。

富士山の見える景色を走る新幹線
写真=iStock.com/DoctorEgg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DoctorEgg

こうなれば、コロナ禍以前に直行便のあった中国、台湾、韓国などからのインバウンドにとって非常に便利となる。国際便などの離発着に合わせたのぞみ号停車ダイヤをつくればいい。富士山観光などを終えた帰国便にもピッタリとあてはまる。

リニア工事の水環境問題でクローズアップされた大井川流域10市町約72万人にとっても、のぞみ号のほうが非常に便利となる。のぞみ号は他の静岡県内の駅はノンストップだから、東京、名古屋、京都、大阪など各方面へ出掛けるのに使い勝手もよい。インバウンドだけでなく県内外の利用客なども大幅に増えて、大井川流域の経済的発展につながり、川勝知事の求める地域振興策にもつながる。

将来的には、現在2500メートルの滑走路を3000メートルへ拡大して、米国、ヨーロッパ便を誘致することも可能かもしれない。長崎知事が「画期的な新駅」と高く評価した通りになるはずだ。

■退路を断ってJR東海に頭を下げられるか

ただ、ここまでリニア問題がこじれた中で、静岡空港新駅設置が可能なのか?

川勝知事は石川前知事に倣い、単身でJR東海本社に出向き、頭を下げるしかない。リニア問題解決と引き換えに静岡空港新駅設置を約束させることだ。

JR東海が拒否できないように、石川前知事と同様に出処進退を明らかにして事に臨むしかない。そんな川勝知事の思い切った決断を、リニア問題解決を川勝知事に一任した大井川流域の首長たちは強く望んでいるはずだ。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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