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東京ディズニーの「高級路線」「ファストパス終了」に怒る人をメディアがスルーしないから日本人は貧乏になった

プレジデントオンライン / 2023年6月17日 10時15分

報道公開された東京ディズニーランド開園40周年のパレード「ディズニー・ハーモニー・イン・カラー」=2023年4月10日、千葉県浦安市 - 写真=時事通信フォト

■ファストパス終了、チケット値上げの噂も

東京ディズニーリゾートの「高級化」が止まらない。

ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは6月7日、一部アトラクションに無料で優先的に入場できた「ファストパス」のサービスを終了すると発表した。

今夏には無料の「40周年記念プライオリティパス」が導入されるというがこれは期間限定。並ばずにアトラクションを楽しもうとなると、昨年5月に導入した有料サービス「ディズニー・プレミアアクセス」を利用しなくてはいけないのだ。

そこに加えて、入園チケットの「値上げ」もささやかれている。東京ディズニーリゾートでは、「ディズニーシー」の大規模拡張を機に、チケットの変動価格の「幅」を拡大していくとしている。

現在は時期に応じて18歳以上の大人は7900~9400円、中高生は6600~7800円、4歳から小学生は4700~5600円だが、これがさらに最繁忙期の場合はついに1万円オーバーという「高価格帯」まで広がっていくのではないかというのだ。

■マックはダメでもディズニーは許す人たち

ファンたちがそう懸念するのは、上海ディズニーランドだ。中国メディア「36Kr japan」によれば、同園の最繁忙期チケットは659元と日本円で約1万3000円だったのが、今年5月には719元と約1万4000円に値上がりしていたという。

ディズニーファンにはもはや常識だが、東京ディズニーリゾートは「安いニッポン」の庶民の懐具合に考慮して、世界のディズニーの中でも最も安い価格設定になっている。それがここにきて、ついに方向転換して「庶民切り捨て」の動きが見えるのだ。

そう聞くと、「貧乏人には来るなということか!」「金持ち優遇のディズニーはもう行きません!」とボイコットを始める庶民もいらっしゃるだろうが、一方で「入園料で1万か……まあ痛いけれどしょうがないか」とあきらめてしまう人も多いのではないか。

牛丼やマックが値上げすると聞くと、「企業が努力足りない!」「殺す気か!」と情緒不安定になってしまう日本人も多いが、なぜかディズニーの「値上げ」は渋々受け入れてしまう傾向があるのだ。

■シャネルやグッチが庶民向けになったら…

なぜディズニーは特別扱いなのかというと、答えは簡単で「ブランド」が確立されているからだ。

当たり前の話だが、ディズニーランドの「体験」はあそこでしかできない。もっと安い5000円くらいのテーマパークに行けば、似たような体験ができるわけでもない。そして、ディズニーランドに行けば、なんやかんや言っても、他のテーマパークで味わえない満足感が得られるという社会的評価も確立している。

こういう「ブランド」は庶民に迎合する必要がない。むしろ、迎合したら破滅する。

例えば、シャネルやグッチが、庶民から「みんなが楽しめるようにしろ」「貧しい女の子がシャネルのバッグを買えなかったらかわいそうだと思わないのか」という批判に応えて、お求め安い価格のバッグの安売りを始めたらどうなるか。

短期的には「社会貢献だ」「弱者に優しい」とチヤホヤされて、客も増えるだろう。だが、「ブランド」の価値が地に落ちるので、コアなファンにそっぽを向かれて、あっという間に会社は傾いて最悪、ブランドも消滅してしまうだろう。

■USJはお先に「1万円オーバー」を敢行

ディズニーも基本的に「ブランドビジネス」だ。だから、庶民を切り捨てていくことは恐れないし、むしろそれが躊躇なくできるから開園以来、日本のテーマパークで不動のトップでいられるのだ。

そこに加えて、われわれがディズニーの「高級化路線」を受け入れてしまうのは、そもそも好調なテーマパークやアミューズメント施設がこの近年、総じて「値上げ」にシフトしていることも大きい。

例えば、ディズニーのライバル、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは8月11日から、1日券の最高価格を9800円から1万400円に引き上げる。USJは昨年10月にも400円値上げしているので、かなりハイペースで高級化に突き進んでいる。

たくさんの一万円札
写真=iStock.com/Sergio Yoneda
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sergio Yoneda

関東で満足度の高いテーマパークのひとつであるサンリオピューロランドも、昨年から変動価格制を導入して、大人料金で最大1000円値上げした。期間によって3600~4900円の間になる。

■「庶民切り捨て路線」はどこも同じ

21年5月にリニュアールした「西武園ゆうえんち」も休園前は大人2800円を、中学生以上4400円とガツンと値上げをしている。

つまり、施設やアトラクションを充実させる代わりに入場料を大幅値上げするという、「庶民切り捨て路線」はこの数年、テーマパークやアミューズメント施設ではみんなやっていることなのだ。だから、ディズニーやUSJが1万円オーバーになっても、庶民は「ま、そんなもんでしょ」と容認している。

そこに加えて、そもそもテーマパークやアミューズメント施設という「体験」を売り物にしているビジネスは「安売り」と相性が良くないということがある。

例えば、ディズニーが「子育て応援宣言」とか言い出して、今よりガクンと入場料を下げるとどうなるか。

庶民は当初、「ディズニー、神対応!」とお祭り騒ぎで大喜びをするだろうが、すぐにこの路線が自分たちにとってデメリットしかないことを思い知る。

■「体験」施設を安売りすると地獄絵図になる

まず、「安さ」目当ての人たちが大挙として押し寄せるので、園内は阿鼻(あび)叫喚の地獄絵図になる。アトラクションは8時間待ちとかになるので入場制限もかかる。クチコミは「最悪」「もう二度と行かない」など荒れに荒れるだろう。そもそも、チケット入手が困難になる。

しかも、この常軌を逸した「安売り」を実現するためには、どこかでコストカットをしなくてはいけない。これはテーマパークやアミューズメント施設の場合、死亡事故など深刻な問題を引き起こすことがわかっている。

青空に映えるジェットコースター
写真=iStock.com/Skyhobo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Skyhobo

過去のことなど具体的な施設名を出さないが、保守点検にかかるコストや、アトラクションの係員の人件費をケチったことで、死亡事故などのトラブルを引き起こしたテーマパークやアミューズメント施設はひとつやふたつではない。

園内はイオンモールのような大混雑で、コストカットされた現場。「安くて質の高いサービス」を求めて高圧的なモンスター客。重大な事故がいつ起きてもおかしくない条件は、すべて揃っている。つまり、安全に「体験」を提供する、テーマパークで「安売り」をするというのは、破滅への一本道なのだ。

■デパート屋上の小さな遊園地が消えた理由

40年、日本のテーマパークを牽引してきたオリエンタルランドはそれがよくわかっている。一見すると、価格を下げることは消費者に優しいようだが、実は「テーマパーク」の価値を下げて、安全性もないがしろにする。だから、どんなに「庶民切り捨て」と批判されても、高価格を維持する。

もちろん、ただ「高価格」をキープするだけでは「ボッタクリ」なんて言われてしまうので、時代の変化に合わせて付加価値を上げていく。外食や小売の場合、「創業当時から変わらぬ味で30年」とか「伝統を守る」みたいなことが言えるが、テーマパークはそれができない。

「西武園ゆうえんち」が昭和レトロな街並みやゴジラ・ザ・ライドをつくったり、ディズニーがパークを拡張したりしているように、まるで巨大な「生き物」のように常に進化を続けていくしかない。だから、進化ができないものは滅んでいく。かつてデパートの屋上にあった小さな遊園地や、入園料が数百円とかで遊べた“庶民と寄り添うテーマパーク”が消えてしまったのは、時代がどうしたとかいう話ではなく、「進化できなかった」からなのだ。

「価値」を下げる進化などあり得ない。だから、テーマパークが「安売り」を始めた時というのは、そのテーマパークがゆるかに「死」に向かっているということなのだ。

■安い遊園地は「安いニッポン」の象徴

こんなことを言ったら、ディズニーファンからボロカスだろうが、個人的にはディズニーはもっと高級化路線を突き進んでもらいたいと思っている。

テーマパーク業界のトップが「価値」を引き上げることで、観光レジャー業界全体の価値向上につながり、「サービス業」全体の価値を上げることになるからだ。

なぜサービス業の価値を上げなくてはいけないのかというと、これが今の「安いニッポン」の根本的な問題だからだ。

なぜ日本経済がずっと低迷しているのかというと、日本のGDPの7割を占めて、就業者数の7割が働いているサービス産業(第3次産業)がパッとしないからだ。

生産性が低いので、不眠不休で働いても生み出す「付加価値」が低い。そうなると当然、賃金も低い。就労者の7割が低賃金ということなので、いつまで景気がよくならない。

だから、サービス業の「価値」を上げていくことが急務だ。「安売り」と相性の悪いテーマパーク業界はそのエンジンの役割が期待できる。が、残念ながらまだ「安さ=正義」の同調圧力に屈している部分がある。

■ジブリパークの「安売り」を褒めてはいけない

日本のテーマパークは、その内容の充実具合に比べると、かなり「安売り」をしているのだ。例えば、としまえん跡地に6月13日オープンした「ワーナーブラザーススタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」の入園料は6300円だが、本国イギリスにあるものは51.5ポンド。日本円で約9000円だ。

日本が世界に誇るコンテンツであるジブリ作品のテーマパーク「ジブリパーク」は一番高いセット券でも3500円である。アメリカが「ディズニー」というコンテンツを安売りせずに、ブランド化できたことと対照的に、ジブリはスタートから、サンリオピューロランド以下の「安売り」をしてしまっている。

一見すると、これは「さすがジブリ! 子どもや庶民の味方だ」となるが、実はまったく逆だ。日本のアニメのトップが、「自分たちの価値はそんな程度ですよ」と安売りを始めてしまったら、それ以下に続く日本のアニメ業界全体の価値が下がってしまう。

実際、日本のアニメーターは低賃金重労働という劣悪な労働環境が問題になっており、中国企業に優秀な人材が引き抜かれる。海外でアニメ制作者は高額を稼げるクリエイターだが、日本ではテレビ局や映画配給会社の「下請け」扱いで地位が低いのだ。

■業界トップのディズニーはもっと高級化すべき

こういう問題を解決するには、実力のあるトップが「値上げ」をしていくしかない。かつてプロ野球の落合博満選手が年俸を上げていったように、松本人志さんが「入場料1万円」のライブを開催して注目を集めたように、トッププレイヤーは「安売り」を否定して、業界の価値を上げていかなければいけない。

そういう意味では、ディズニーももっと「高級化」して、テーマパークのみならずアミューズメント産業、観光レジャー産業の「価値」を上げていかなければいけない、と個人的に思う。

カリフォルニア州アナハイムにあるディズニーランドにて、メアリー・ポピンズがシンデレラの城の前で歌とダンスを踊る子供たちの列をリードしている
写真=iStock.com/smckenzie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smckenzie

ちょっと前、ネットでハウステンボスのアフター5パスポート(午後5時以降の入場料とアトラクション)が4000円というのが高くて「ボッタクリ」だと叩いている人がいた。

「公園に毛が生えたようなもので、大して手もかかってない」から暴利だというのだ。こういう人は、無料で入れる自然の公園だって、清掃や樹木の伐採や管理、道路や施設の補修で莫大なカネがかかることをおそらくご存じないのだろう。

そして、ハウステンボスのクラスの巨大テーマパークの景観を維持して、広大なイルミネーションやアトラクションの保守点検をして、客が心地よく過ごせるために、どれだけの人々が働いているのか、ということを考える想像力もないのだろう。

■「値上げは悪」をアップデートしたほうがいい

無料の公園に毛が生えたくらいだから、1000円、2000円の入場料で十分でしょ、と自分の尺度で考えてしまう。つまり、こういう人はテーマパークで働いている無数の人たちへの「リスペクト」がないので、安易に「高い」「ボッタクリ」なんて言葉が出てしまうのだ。

「テーマパークが1万円なんてとんでもない!」「庶民切り捨てだ! 今の国内経済を考えれば3000円くらいが妥当だろ」と批判することは、苦しい庶民の立場にたった正義の主張のような錯覚をしてしまう。

だが、実はそれはそこで働く人たちに対して、「お前らのやっている仕事はそんな価値のあることじゃないだろ」と言っているのに等しいのだ。

サービス業に対して「庶民を切り捨てるな、もっと安くしろ」と迫ることは、そこで働いている日本の労働者の7割に対して、「そんな高い賃金をもらえるわけないだろ、身の程を知れ」と恫喝しているようなものだ。

「庶民切り捨ての値上げ」がまわりまわって、庶民を救うことになる。日本もいい加減そろそろ「値上げは悪」という古い価値観をアップデートすべき時にさしかかっているのではないか。

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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。

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(ノンフィクションライター 窪田 順生)

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