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「外資ファンドの創業家イジメ」という単純な構図ではない…フジテックのお家騒動に潜む中国リスク

プレジデントオンライン / 2023年6月14日 19時15分

記者会見するフジテックの内山高一前会長(左)=2023年4月25日午後、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

エレベーター機器大手フジテックが経営問題で揺れている。3月に取締役会で解任された創業家出身の内山高一前会長が、同社の大株主(17.26%)である香港の投資ファンドに対し「虚偽情報を流布した」などと損害賠償を求めて提訴。6月21日の株主総会では、取締役の選任を巡ってプロキシーファイトを繰り広げている。問題の本質はどこにあるのか――。

■15億超の損害賠償と謝罪広告を求めて提訴

5月9日、東京証券取引所内にある記者クラブ「兜倶楽部」で注目の記者会見が行われた。

会見したのは、エレベーターメーカー「フジテック」(本社:滋賀県彦根市)の前会長・内山高一氏とその代理人弁護士である河合弘之氏ら。同社の大株主である香港拠点の投資ファンド「オアシス・マネジメント」(以下オアシス)や同ファンドのセス・フィッシャー最高投資責任者らが、内山氏や家族にまつわる虚偽情報を流布し、プライバシーを著しく侵害するなど、38件の名誉毀損(きそん)行為があったとして、15億4000万円の損害賠償と謝罪広告掲載などを求めて東京地裁に提訴した、と発表したのだ。

いくつかの新聞・通信社などが提訴の事実だけを短く報道したが、実はその詳細は、日本の証券市場のありかた、また近年活発化している「アクティビスト・ファンド」と呼ばれる投資ファンドの実態、さらには狙われる日本企業に関わる経済安全保障の問題までも内包しており、極めて重要なケースである。

会見前後、内山氏と河合弁護士それぞれに個別で話を聞いた。

まず、事案の経緯をかいつまんで説明しよう。

■「8つの疑惑」で社長退任要求キャンペーンを展開

故・内山正太郎氏が1948年に創業したフジテックは、売上高約2000億円、営業利益約120億円(2023年3月期)規模、エレベーター・エスカレーターメーカーとして国内4位、専業メーカーとしては最大級の企業だ。内山氏は創業者の長男であり、2002年に3代目の社長に就任。以来、2022年に社長を退かざるを得なくなるまでの20年間で売上高を2倍、営業利益を4倍にまで成長させた立役者だ。

2022年5月、フジテック株の9.73%を保有するオアシスは、『フジテックを守るために』と題したウェブサイトを開設。社長であった内山氏がフジテックを私物化していると主張し、8つの「疑惑」とする項目を掲げて退任要求キャンペーンを展開した。

フジテック側にも申し入れを繰り返し、他の株主にも同調を求めるなどした結果、翌月の定時株主総会でフジテックは内山氏の取締役再任議案を直前で撤回せざるを得なくなり、内山氏は代表権のない会長に退くことになってしまう。

その後、オアシスはさらに保有比率17.26%まで株を買い増し、社外取締役の入れ替えを求めて臨時株主総会の開催を要求。そして2023年2月24日に開催された臨時株主総会で、フジテック側の社外取締役のうち3人が解任され、オアシス側が推挙した外国人2人を含む4人が選任。その後3月28日の取締役会で、要求通りに内山氏を会長職からも解任する決議をしたのだ。

■物言う株主に日本市場は狙われている

今回の名誉毀損による損害賠償訴訟は内山氏による逆襲で、同時に、会長職を解任された取締役会の決議は無効であることを確認する訴訟も大津地方裁判所に提訴している。

「今回の事案は、業績もよく内部留保が多い実直な日本のメーカーが海外のハゲタカファンドに食い物にされ、蹂躙(じゅうりん)され、ここまでの優良企業に育て上げた経営者が放逐されて崩壊の危機に瀕しているという、まさに事件です。これは一企業の問題ではなく、日本経済全体に関わる現在進行形の由々しき事案であると思い、短期的な利益だけを目的にしているハゲタカファンドからなんとか守ろうと代理人を引き受けたのです」

そう語るのは、内山氏が会長職を解任されて以降、代理人を受任した河合弁護士だ。

河合弁護士は、近年、反原発運動の先頭に立つ弁護士としてメディアに取り上げられる機会が多い。一方、バブル景気を代表する「イトマン事件」など、大型経済事件で勝利を重ねてきた辣腕(らつわん)でも知られる。河合弁護士は「海外投資家の日本進出には問題も多い」と警鐘を鳴らす。

「近年、海外のアクティビスト・ファンド、いわゆる物言う株主と呼ばれる投資家が日本市場にどんどん乗り込んできています。上場企業を片っ端から調べ上げ、業績が伸びて内部留保も厚く、工場などの資産もある優良企業に狙いを定め、株を買い占める」

■社外取締役候補は「“リーチ・ファンド”と呼ぶべき」

「そして経営陣のあることないこと、プライベートまで徹底的に調査し、些細なことを針小棒大に言いつのってガバナンスに問題があると因縁をつけ、仲間のファンドも集めて経営権を奪い取る。

そうして内部留保を取り崩して配当をあげさせ、株価を吊り上げ、短期間で売却して巨額の利益を得る。こうした手法から、内山氏が今回の株主総会で提案している社外取締役候補で、元財務官僚の小手川大助氏は記者会見で『アクティビストというより、“リーチ・ファンド”と呼ぶべきではないか』と指摘しています。

リーチとは英語で蛭(ヒル)のこと。つまり、優良企業に食らいついて好きなだけ血を吸いとってサッと逃げる。フジテックを事実上乗っ取ったオアシスは、まさにそのリーチ・ファンドだとわれわれは見ているのです」

今回の提訴では、前述の通り38件の名誉毀損行為を指摘しているが、その訴状は171ページにもおよぶ。指摘の多くは、前述したオアシス側の『フジテックを守るために』と題したウェブサイトで記述された8項目にわたる内容について。それらはいずれも、内山氏がいかに会社を私物化し、違法かつ不正な行為で会社に損害を与え続けてきたか、と主張している内容だ。

■オアシスが主張する8つの疑惑は「すべて虚偽です」

例えば、都心の一等地である港区麻布に「ドムス元麻布」という超高級マンションがあり、内山氏は自身と家族のためにその1部屋を会社に購入させて居住し、賃料を支払っている実態がない。しかも、その物件は市場価格で7億2500万円は下らないのに、のちにフジテックから内山家の資産管理会社に著しく廉価で売却され、内山氏は私腹を肥やしてフジテックに巨額の損害を与えた――という内容だ。

これに対し、河合弁護士は「オアシスがそのウェブサイトで流布している内容は徹頭徹尾、すべて虚偽です」と主張する。

「このドムス元麻布というマンションは、もともと滋賀県が本社であるフジテックが首都圏の営業を強化していかなければ業績向上は望めないという経営計画を立て、社長自らが都心でトップ営業をかけるべく、重要な取引先を会食接待するための迎賓館施設として2012年に2億9000万円で購入したもの。トップ営業を徹底させるため、内山さんも家族で居住できるスペースも確保し、その分の家賃は相場価格で計算し、きちんと会社に毎月支払ってきた。

もちろん、購入額も使用用途についても家賃額もすべて取締役会で決議され、監査役会でも承認を得ているし、税務署からも指摘など受けたことがない。さらに実際、そうした営業活動で首都圏での営業実績が格段に急成長した。数%しかなかった首都圏でのシェアが、その後20%以上にまで拡大したのです。これは決算上でも明確に示されている」

ミーティング中のビジネスマン
写真=iStock.com/allensima
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/allensima

■「損害どころか売却益をもたらしている」

「そして、コロナ禍になって会食接待という営業活動ができなくなり、迎賓館としての用途が不要になったため、2020年に内山家の会社がフジテックから買い取ったわけですが、その額もきちんと不動産業者の相見積もりを取った公正な額であり、しかもフジテックが購入した額より約8000万円も高い約3億7000万円で購入しているのだから、フジテックには損害どころか売却益をもたらしているわけです。

もちろん、その買い取りについても取締役会の決議を経ているし、この際、内山さん自身は個人に関わる売買だから利害関係人として決議の場には参加せず、会社法上の公平性も担保されている」

さらにマンションの評価額についても、河合弁護士は「あまりにデタラメ」と強調する。

「このマンションの現在の価値は7億2500万円は下らないのだから、内山氏は超高級マンションを会社に買わせてそれを格安で手に入れた、と指摘していますが、算定根拠をまったく明示していない。本来、不動産物件の評価はきちんと部屋の内部も調査した上で行うのが常識ですが、オアシスはそれをしていない。

われわれはまったく利害関係のない専門の不動産業者2社に内部も含め調査してもらって評価額を相見積もりしてもらったところ、その平均額は3億7000万円であり、まさに実際に内山家の会社がフジテックから購入した額とほぼ同一。つまり、このマンションについてのオアシス側の指摘はすべてが虚偽です」

■「従業員に自宅の庭掃除をさせた」疑惑については…

「事実無根の情報を流布したことで、詳細を知らない一般の株主に内山さんが会社を完全に私物化しているとんでもない経営者であるという印象を植えつけたという悪意のある名誉毀損行為なのです」

他にも、オアシスのウェブサイトが公開されるやネット上でも話題になった内山氏の“公私混同行為”のひとつに、フジテックの従業員に内山氏が個人的に自宅の庭掃除をさせている、という内容がある。

どうやらオアシスは調査会社に自宅を張り込みさせたらしく、フジテックの社名入り制服を着た男性が確かに庭掃除をしているところを隠し撮りした写真を掲載し、併せて、その男性が軽トラックに乗って(ナンバーが読み取れる写真も掲載)フジテックの営業所に入っていくところまで撮影、掲載している。

この点についても、河合弁護士は反論する。

「これも悪質な情報操作です。その男性は、すでにフジテックを定年退職している人で従業員ではない。たまたま、在職中から着ていた会社の作業服が便利だからと退職後も払い下げられて着ていただけで、その人物は退職後に庭師として仕事をしており、内山さんは在職中から社員のことをよく知っていたので、それならばと個人的に時給1200円の報酬を支払って庭師として雇っていただけ。もちろん、その支払明細も証拠として裁判所に提出しています」

■張り込みをされた内山氏の胸中は

「ナンバープレートまで掲載している軽トラックだってその男性の個人所有だし、張り込みまでしているのだから、ナンバー照会すればそれぐらい調べられたはず。おそらくオアシスは知っていたのでしょう。会社の営業所に出入りしたのも、たまたま何かの所用があってのこと。

オアシスのやり口は、そういうふうにいかにも内山さんが会社の金と従業員を好き勝手に使っていると思わせるような印象操作なんです。これも明確かつ悪質な名誉毀損ですよ」

オアシス側のウェブサイトにいまも掲げられている「私物化の疑惑」と称する内容は他にも6項目あるが、今回の名誉毀損提訴ではそれらにことごとく証拠資料を提示して反証している。

原告本人である内山氏も怒りを込めてこう言う。

「オアシスの代表であるセス・フィッシャー氏はウェブサイトだけではなく、メディアのインタビューやたくさんの証券市場関係者らが集まる講演会などで、私が長年にわたって会社を私物化してきたのだと言い続けています。彼自身の英語では、私が会社の財産を『盗んだ』と明確に断言してもいる。何の証拠も示さずにです。これについても今回の名誉毀損で訴えました」

■「写真や住所まで公開され、何者かに連日尾行も…」

「またマンションの件では、写真から住所まで公開され、何者かに連日連夜尾行もされ、私自身も常に誰かに見張られている感じで精神的にも非常に苦痛を感じたし、何より家族も本当に怖がっていた。誰かが自宅のインターホンを押しただけで本当に恐怖を感じるほどで、外出だって怖くてできないと泣いているくらいでした。

オアシス側からは会社に対して執拗(しつよう)な細かい質問が出されましたが、一つひとつに明確に回答していたにもかかわらず、『会社は質問のたびに回答を変え、常に何かを隠している。なぜそうまでして内山家を庇いだてして守ろうとするのか』などと、本当に根拠のない言いがかりだけを外部に公表する。

そうやって、株主やステークホルダーの多くに誤った印象を植えつけてきた。実際には疑惑も何もないのに、そうやって印象操作を続けてきた結果、彼らの虚偽情報を信じ込んでしまう株主も出てしまったのです」

大きなミラーが設置されたモダンなエレベーター内
写真=iStock.com/brizmaker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/brizmaker

結果、今年2月の臨時株主総会で社外取締役が、オアシス側が選任した面々で占められたのは先述の通りだ。

■目的は「短期売買での利ザヤ狙い」と主張

河合弁護士はこう指摘する。

「オアシスはフジテック以前にも日本企業株の買い増し、配当を増やして株価を吊り上げ、その後短期で売却して巨額の利益を得ることを繰り返しています。

つまり、彼らは大株主としてその企業価値を高めるような施策を提案するわけではなく、あくまでも短期売買での利ザヤ狙い。オアシス側がフジテックに要求してきたなかには経営方針にまつわることよりも、内山氏や経営陣を追放すべきだということばかりでした」

内山氏側の調査によれば、2023年5月時点の大量保有報告書で確認できる日本企業のうち、オアシスが過去も含め株を保有している企業は24社。このうち6社が上場廃止に追い込まれ、オアシスはTOBや株式交換で保有株を売却し、2社は自主的に売却していずれも大幅な売却益を得ている。上場廃止の6社を除いた18社の平均保有期間は2.3年だ。

■過去には違法行為で金融当局から制裁も

そして、これも注意しておくべき点だとして、こう指摘する。

「さらに、今回の訴状でも指摘しておきましたが、オアシスおよび代表のセス・フィッシャー氏はこれまで日本や香港当局から、株価操縦などの違法行為で制裁金を課されたことも判明しているのです」

例えば2011年9月、日本航空株の公募増資の際、相場操縦によって株価を吊り上げたとして、最終的に香港の証券監視委員会からオアシスとセス・フィッシャー氏個人に戒告処分と750万香港ドルの制裁金を課されている。訴状ではこのほか、米国などでも他の取引で戒告処分や制裁金を課されたことがあるとも記載されている。

米国市場では近年、カラ売りをめぐって不透明な取引が相次いでいる。米司法省と証券取引等監視委員会が2021年末以降、複数の投資会社を捜査している、との報道もある。一連の疑惑についてオアシスに問い合わせたが、「訴状が届いていないためお答えできない」と回答があった。

■最大の懸念は中国企業に売却されること

「内山さんやわれわれがいま最も懸念しているのは、オアシスがこのあと、経営合理化などと言いつつフジテックの工場など資産を売却してリースバックにするべきだとし、その売却益を株主配当にまわさせて儲ける。

そして最終的には吊り上げた株価で巨額の利益を得るため、中国企業に売却することをもくろんでいるのではないかという点です。実際、セス・フィッシャー氏はすでにメディアの取材に『売却提案があればオープンにして検討すべきだ』などと発言している」(河合弁護士)

そして内山氏が続けて、こんな気になることを証言する。

「実は過去何度か、中国企業から買収提案を含む接触がありました」

ほとんど知られていないが、実はフジテックのエレベーターは、内山氏による首都圏攻略のトップ営業によって中央官庁への設置が極めて多い。防衛省から財務省、法務省、国土交通省、あるいは最高裁や東京高裁・地裁、さらには自衛隊、議員宿舎、あるいは原子力発電所など、これらだけで700台近く。そして、全国の空港には300台近く設置されている。

■官公庁のインフラシステムが掌握されるリスクも

ご存じのとおり、最近のエレベーターは防犯上、安全上の観点から遠隔操作システムが必須であり、しかも、内部には音声も記録できる監視カメラがあり、顔認証システム導入も少なくない。

仮にフジテックが中国企業に買収されてしまった場合、国の安全保障に直結するインフラシステム、重要情報がまるごと支配され、コントロールされてしまうことになりかねないのだ。

今後、注目されるのは6月21日に迫った定時株主総会の行方だ。フジテックはすでに、現社長の岡田隆夫氏や専務ら社内取締役3人全員が退任すると発表。事実上経営権を握っているオアシス側に近い新取締役候補選任をもくろんでいる。

対する内山氏は、すでに大株主として、ビックカメラ前社長の木村一義氏や元財務官僚の小手川大助氏、野村証券元専務の津田晃氏ら、8人の取締役候補を提案している。この中に自身は含まれていない。総会当日までにどちらがより多くの株主から信任を得られるか激しいプロキシーファイトが繰り広げられることになり、ますます目が離せない。

(プレジデントオンライン編集部)

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