本部職員は辞めたが、脱会するつもりはない…現役の創価学会員が「宗教2世問題」で世間に訴えたいこと
プレジデントオンライン / 2023年6月29日 14時15分
■端的に言って、やめるメリットがなにもない
僕は書籍だけではなく、雑誌やウェブメディアなどでも宗教2世について論じているのですが、読者のなかには「あれ? この著者、創価学会を脱会しているのかと思っていたけど、もしかして脱会しているわけではない?」と思われた人もいるかもしれません。そのとおりです。ぼくは、いまも現役の創価学会員です。
退会届は出していませんし、現状、退会するつもりもありません。一方で、学会活動からは完全に離れています。地元組織の学会員がぼくに接触してくることも一切ありません。ぼくは、信仰実践の基本となる勤行(ごんぎょう)や唱題(しょうだい)もしていません。
なぜ退会をしないのか? それには理由があります。端的に申し上げると、「やめるメリットがなにもない」からです。「え? それだけ?」と思われましたでしょうか。それだけ、というか、これはけっこう大きなポイントです。
もしもここでぼくが創価学会をやめれば、おそらく大きな波風が立つでしょう。ぼくの家族や親族は、見わたすかぎり学会員です。学会員だらけの家系で、学会関係の知人・友人のネットワークも、ぼくのなかで、いまだそれなりの比重を占めています。あまりにも学会のど真ん中で生まれ育ってきたため、現在もその人間関係には足場があるのです。
それなのに退会をしてしまえば、ぼくへの見かたが一部でさらに悪く変わってしまうかもしれない。あるいは、家族や親族が後ろ指をさされることになるかもしれない。学会的ないいかたをすれば、いまのぼくは「退転状態」にあります。「退転」とは、創価学会のなかで活動をやめてしまうといった意味を持つ教団内の専門用語です。この退転状態と、学会を「退会」することの間には、相当な違いがあります。
■退会することで生きづらくなるリスクも
もちろん、退転状態のぼくは、一部からは村八分(むらはちぶ)のような扱いを受け、学会内では腫れ物にさわるような接しかたをされたりもしました。ぼくのことを「創価学会の危険因子だ」と見る人もいるくらいです。この状況にあって、ぼくが「退会」まですると、その度合いが格段に高まります。
ぼくが退転の状態でとどまっているなら、それなりに多くの学会員が、ぼくの危険性について、「確証はない」と判断するかもしれません。ですが、退会すると、「ああ、正木はほんとうに退転したんだ」と認識する学会員が出て、そういった人から攻撃を受けたり、「あそこの家は、とうとう脱会者を出した」といったレッテル貼りにあったりするなど、不利益を被る人が、ぼくだけでなく、ぼくの家族や親族、友人から出てこないともかぎりません。
だから、ぼくはやめないのです。創価学会に所属したままであっても、自由にべつのなにかを信仰をすることはできます。信仰をしないということもできます。そういった宗教2世の生きかたもあるのです。
ぼくは、じつは「やめる/やめない」にはあまり関心がありません。そこで葛藤はしていないんです。むしろ、べつのところで葛藤を抱えています。
■「宗教2世=被害者」という報道が多いが…
宗教2世にはさまざまな人がいます。置かれている境遇は、教団によっても、また家庭や個人によっても異なります。たとえば創価学会2世だけを見まわしても、信仰に熱心な人もいれば、教団に所属しているだけの人もいる。信仰活動に消極的な人や、教義には関心があるけれど実践はしない人、組織は嫌いでも“池田先生”は好きだという人もいます。
現在のぼくは「教団に所属しているだけの人」にあたるでしょう。もちろん、なかには脱会した人もいる。2022年からつづいている宗教2世の報道では、宗教2世の「被害」ばかりがクローズアップされる傾向にありますが、宗教2世のなかには、なんら被害を受けることなく、平穏に過ごしている人もたくさんいます。一方で、やはり深刻な被害を受けている宗教2世もいる。
宗教2世というと、ともすると「カルト宗教の子だからかわいそう」とか、もの珍しげに見られる対象になっているとか、そういう扱いかたをされたりしますが、現実の宗教2世は、かくも多彩なのです。それにもかかわらず、宗教2世の被害者に偏った報道ばかりがなされていくと、どうなるでしょうか。
個々それぞれで異なるはずの信仰者や教団が、「宗教」という言葉によってひとくくりにされ、ネガティブなイメージをまとってしまいます。
■さらなる偏見を生み出してしまう危険性がある
新宗教といっても、その実態はさまざまです。それなのに、新宗教が十把一からげに「被害を生み出す存在」として社会に再認識されてしまうこともあります(念のために断りを入れておきますが、これは「創価学会がなんら問題のない団体である」ということを主張するものではありません)。それは、看過(かんか)してはならない事態だとぼくは考えています。
しかも、その影響は思わぬところに出ます。たとえば、それまで被害など意識したこともなかった宗教2世が、世間の偏見にさらされ、新たに被害を受けたり、生きづらさを抱えるようになったというケースが、少ないながらも発生しています。そこに、ぼくは葛藤を抱くのです。ぼく自身の「宗教2世にかんする語り」もまた、その流れを助長してしまう可能性をはらんでいるからです。
宗教2世の被害は看過したくはない。だから、そこにクローズアップして声をあげたい。でも、そうすると、新たに生きづらさを抱く宗教2世が出てきてしまう。ぼくも、そこに加担してしまうかもしれない――こうした葛藤があるのです。
■自死する友人もいれば、報道がきっかけで苦しむ友人も
宗教2世のなかには、被害に苦しみ、人生を台なしにされたと感じ、苦衷(くちゅう)のなかで孤独を味わっている人も多くいます。ひもじい思いをした人もいる。虐待を受けた人もいる。トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えた人もいます。
ぼくの友人は、宗教2世としての経験を苦に、自死しました。ぼく自身も死にかけたし、長らくうつ病も経験しました。これが、現実です。この状況も、絶対に看過してはなりません。
一方で、創価学会ではない別の教団に所属する友人は、2022年来の宗教2世問題の影響で、まわりから「あいつ、○○(教団名)の信者らしいよ」と後ろ指をさされるようになって、悩んでいると語っていました。以前まで、そんなことはなかったのに……。おなじきっかけから、宗教をネタに学校でイジメにあいはじめた子もいます。これらは極端な例かもしれません。ですが、少なくとも新宗教のイメージはダウンしています。そこにイヤな思いを抱いている宗教2世もいます。
こういう側面をまったく無視して、宗教2世の被害を手放しで強調しつづけることは、ぼくの本意ではありません。このことを勘案(かんあん)しながら、ぼくは悩んでいます。が、やはりぼくとしては、結論的に「声をあげざるを得ない」と判断しました。そう判断したし、いうからには声を大にしていおうとも思いました。
■遠慮なく被害を訴えていくべき
ぼくの葛藤の内容は、「被害を訴えることをやめろ」とか「訴えかたに配慮をしろ」といったことを主張するものではありません。被害者は、遠慮なく被害を訴えていい。『宗教2世』(太田出版)の編者・荻上チキ氏のつぎの指摘は、ぼくの問題意識とかさなるものです。ウェブ記事からの引用で少し長くなりますが、お読みいただけたら幸いです。
一つは、被害体験そのものを認めることや、言語化することは、それぞれの回復や健康のために、そして権利回復のためにも重要だということです。もう一つは「気づきを与えるための正当性」です。
例えば、ハラスメントをした人に対して「あなたがやっていることはハラスメントです」と言うと、加害者側も「傷つき」はします。しかし、それは相手の痛みへの気づきを得るために不可欠です。また、被害を受けた宗教2世の発言を封じ込めてしまえば、教団は自らの改善の機会を失ってしまう。教団という非常に大きな権威に対して個人が告発している、親に対して子どもが抵抗している(中略)問題はその告発などの妥当性であり、「傷つくかどうか」だけで止まっていい問題ではありません。
■葛藤があるからこそ、語っていきたい
これを踏まえたうえで、ぼくは葛藤を抱えつつ、いえ、葛藤を抱えているからこそ、宗教2世にかんする「語り」をもっと豊かにしていければと考えています。
被害の当事者が被害をより的確に、縦横に表現できるようなきっかけとなる言葉を編んでいきたい。つむぎだす言葉の解像度を高めていきたい。また実際の事情はもっと複雑なのに、「教団や親が加害者で、被害を受けた信者・元信者が被害者である」と見なされて議論されがちな状況を打破したい。
宗教2世の「被害」に偏りがちな今般の「宗教2世語り」によって、新たに生きづらさを抱く人が出てくる可能性も減らしたい。ぼくは、そこに自身が寄与していければと願っています。
宗教2世が自分らしさを押し殺すことなく本音で生きることは、ときに難しい。そう感じた経験が、ぼくには無数にあります。その一端をこの本にしるしてきましたし、そういった経験が処世術に結実しています。
■大切なのは、宗教2世の心が少しでも救われること
しかし、宗教2世といっても十人十色です。なかには、「このノウハウはすぐには実践できないな……」と感じる人もいるでしょう。
たとえば、ぼくは本書で、自分から遠い人(教団外の人や教団の価値観にいい意味で染まっていない人)に話を聞いてもらうことや、思考停止にならないように、さまざまな本を読むことを推奨してきました。ですが、宗教2世のなかには「教団外の人はサタンだ」と教わったり、教団の思想とはべつの価値観を伝える書籍に対するマイナスイメージをたたきこまれてきたために、そういった行為に抵抗感を抱く人もいます。
教団の文化や教祖・宗祖の教えなどに沿ったものとは違う行動を選択することが容易にできない人もいるのです。そんな人たちは、決して焦らず、長いスパンで自身のこれからを見すえて、徐々に、ゆるやかに、しなやかに変化を期してほしい。そう願っています。
まず大切にしていただきたいのは、あなた自身です。一歩一歩、丁寧に歩みを進めてください。その結果として、教団を退会することを選ぶのも、教団に残ることを選ぶのも自由です。本書は、どちらの選択がいいかをのべるものではありません。もちろん、創価学会との関係についてもおなじで、学会から離れることを「是である」と主張したいという意思は、ぼくにはありません。
ただぼくは、それまでの自身の生き方に違和感を抱いたり、苦しんでいる宗教2世の心が少しでも救われることを願っている。それだけなのです。
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文筆家、フリーランス広報
1981年生まれ、東京都出身。数多くのメディアで連載を執筆しながら、大手・中小企業などの事業支援を行う。創価高校、創価大学工学部卒。2004年に創価学会本部職員となり、同会機関紙・聖教新聞の記者として社会人生活を出発。その後、2017年に転職、IT企業2社や人材ビジネス最大手などでマーケティングや広報を担当。2021年に独立し、現職。著書に『宗教2世サバイバルガイド』(ダイヤモンド社)がある。
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(文筆家、フリーランス広報 正木 伸城)
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