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3000万円の借金で豪邸を建てたが…アプリで女性100人を自宅に招いたバツイチ男性が結婚できない納得の理由

プレジデントオンライン / 2023年6月21日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

マッチング・アプリでの婚活が失敗する人にはどんな特徴があるのか。フリージャーナリストの速水由紀子さんは「私が出会った50代の男性は、借金をして建てた豪邸に100人以上の女性を招いていたが、結婚できずにいる。出会った人の内面に興味を持てない人は苦戦しやすい」という――。(第1回)

※本稿は、速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■再婚するために借金をして千葉に家を建てた55歳の男性

石造りの白亜の豪邸に、ガーデンテーブルが置かれた広々としたウッドデッキ。暖炉がある吹き抜けのロフトルームにはブランド物の家具が置かれ、可愛い2匹のポメラニアンが走り回る。そしてドラマに出てくるような光が降り注ぐおしゃれなアイランド・キッチンには、カフェのような白木のカウンターテーブルが備え付けられている。

そんな住宅雑誌のグラビアのような写真が、プロフィール写真にこれでもかと続く。

大手アプリでマッチングした55歳のyasさんの持ち家だ。何度かメッセージをやりとりするとすぐLINEに誘われて、会って話してみることになった。ルックスは白髪交じり、中肉中背でゴルフ・ポロシャツ姿の、いかにも中間管理職の会社員風だ。とにかく不動産屋の営業のようにトークが手慣れていて、ガンガン押してくるのに驚いた。

もう最初のアプリに入会してから3年目。マッチングした人数もかなりのものらしい。

yasさんは6年前に離婚し、住んでいたローン完済のマンションを妻子に渡して新しいこの家を建てた。

「この歳で離婚したらもう再婚も難しいんじゃないかと焦って。それなら新しい妻に住んでもらいたい家を買おうと、銀行に借金をして千葉に家を買ったんですよ。特にキッチンとかリビングとかかなり凝りました。見てください、このアイランド・キッチンいいでしょう? スウェーデンからの輸入物なんです」

結婚したら住むのは君だから最初に見て決めてほしい、というのが口説き文句。とにかく話題といえば家がどんなにおしゃれで便利で住みやすいか、愛犬のポメラニアンがどんなに可愛いかということばかりで、yasさんがどんな人間かは謎に包まれたままだ。

■100人近い女性が料理やワインを楽しんでいったが…

思い切ってずっと引っかかっていた疑問をぶつけてみた。

「今までアプリで知り合った女性はどれぐらい? お宅を見に来たのは何人ですか?」
「もう100人に近いですね。みんな見学してデリバリーしたイタリア料理やワインを楽しみながらおしゃべりして帰られますよ」

ワインで乾杯する男女の手元
写真=iStock.com/Inside Creative House
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Inside Creative House

100人の豪華戸建て専業主婦希望者が、この家で夜な夜な晩餐を繰り広げていた……。なんだか単なる「豪邸見学会」には終わらない、危険な雰囲気が漂っているのだが。yasさんは青髭なのか? 地下室のドアを開けたら、その女性たちが幽閉されているのか? ダイレクトに見学者たちとの関係を尋ねると……。

「いや、大体は楽しく盛り上がっておしゃべりして……という友達ノリです。もちろん親しくなってちゃんと付き合った人も何人かいましたけど、最終的には結婚まで行かなかったんです」

だっていくらドラマのロケができそうなおしゃれな家でも、家と結婚するわけじゃない。肝心のyasさん自身の結婚適性はどうなのか? 突っ込んで聞いてみると……意外なことに、白亜の豪邸は彼の辛い過去からのリベンジだったのだ。

■離婚後に新築戸建てを建てるのはかなり異色

最近、人気が上がっている千葉のベッドタウンの駅前からバスで十分。駅前には衣料品チェーンストア、大型量販店、居酒屋や大型スーパーなどが揃っているが、少し離れると静かな住宅地が続く。

yasさんの邸宅は川沿いの新興住宅地に建っていた。柵に囲まれた庭はきれいにガーデニングされていて、広々としたウッドデッキにはBBQセットが置かれている。駐車スペースには小型のワゴン車が置かれ、とても一人暮らしとは思えない。明らかにファミリーを意識した作りだ。

大手マッチング・アプリで知り合ったバツ持ち男性に今、どんなところに住んでいるかを聞くと、大抵、離婚後、単身用のマンションに引っ越したと答える。財産分与を要求され家を妻に渡したり、家を売った半分の金額を渡したりすることが多いため、家賃を節約しなければならないからだ。最近は早期退職後や定年退職後の妻からの離婚が増えたため、持ち家にそのまま住むことはますます難しい。

だから離婚後に新築戸建てを建てて住んでいるyasさんは、かなり異色だ。2匹の白いポメラニアンと一緒にロックTシャツにデニム姿で迎えてくれたyasさんは、テンション高く陽気にしゃべりながら家中を案内してくれた。

ご自慢のアイランド・キッチンは収納棚に調理器具も調味料も極端に少なくてほとんど使った痕跡がなく、吹き抜けのダイニングテーブルには買い置きのカップ麺が置かれているし、寝室のツインのベッドは一つしか使われていない(多分)。要するに、この家のファミリー機能は、まだ残念なことにまったく活かされていないのだ。

■娘の育て方で噛み合わなくなり追い出されてしまった

リビングでコーヒーを出してくれたyasさんは、得意そうに建築雑誌に掲載されたこの家の写真を見せてくれた。

「建築家の方にがんばってもらってね。普通の建売りとは間取りも全然違う。再婚したら毎日、パーティができる楽しい家にしたいと思って」

私がなぜ前の奥さんと離婚したか聞いていいか、と尋ねると、yasさんは驚いたようにこっちを見つめる。

「そんなこと聞かれたの初めてです。みんな、そこには触れないんですよね」

逆に私が驚いた。離婚原因はとても重要な情報だ。もしかしたらDVとかパワハラとか浮気とか虐待とか、結婚生活に支障をきたす問題があるかもしれない。もちろんそれを正直に打ち明ける人がどれぐらいいるかはわからないが、まったく触れずに新しい交際を始めるのは無理がある。

でもアプリで知り合った人たちは腫れ物に触るように、お互いそこには触れないという。もしかしたらこれまでのマッチング相手は、yasさんと真剣に交際しようと考えていなかったのか。

「元妻はずっと専業主婦で、外に出るのはあまり好きじゃなかった。人材派遣業の僕は忙しくて地方を飛び回る生活が長引いて、だんだんに会話がなくなって。娘2人の育て方も噛み合わなくなって何度か僕が長女の派手な化粧や服装を怒ったら、それから口をきかなくなった。で、それがこじれて娘と妻の両方から出ていってほしいと」

だから妻や娘を理解できず、仕事漬けで家族とのコミュニケーションから逃げていた自分への、強烈な負い目があった。

公園のベンチに座って頭を抱える男性
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■崖っぷちから挽回するためにアプリで婚活を開始

妻は娘たちの家出宣言をきっかけに、長年溜まっていた不満を晴らすかのように離婚、財産分与を要求してきた。娘たちはパートで自分が育てるから財産、退職金の半分と養育費を払ってと言われ、仕方なく支払った。娘たちを路頭に放り出すわけにもいかず、yasさんが家を出た。妻子の月々の生活費も払いながらの部屋探しは辛かったと言う。

「浮気をしたわけでもないしこっちに落ち度がなくても、言われるがままに財産分与しなければならないのが辛い。次女がまだ未成年だから仕方ないけど、正直納得がいかなかった。必死に働いたのも家族のためなのに」

仕事も早期退職を迫られ崖っぷちに追い詰められたyasさんには、再婚が望みの綱に思えた。新しい家族ができればきっと救われる、相手の女性が住みたい家さえあればなんとかなる。仕事に追われて家族の気持ちがわからず、追い出された失敗を挽回したい。

小さな会社に転職すると、銀行に家を新築するための3000万円の融資を打診して新居の設計にエネルギーを注いだ。そして新居の完成を待って3つのアプリに入会し、積極的な婚活を開始した。それが豪邸見学会の裏事情だったのだ。

■再婚相手ではなく「無料の引っ越し先」だと思われている

yasさんの不動産屋トークを聞いたマッチング相手たちは皆、どんな気持ちだったのだろう。彼が見せたのはあくまで新築した家で、彼自身じゃない。再婚したらこれからこの家でどんな生活をするのか、パートナーとどんな関係になりたいかわからないし、それを話し合う姿勢もない。ハードは万全だがソフトはまったく準備されていないので、システム障害を起こすのが当たり前の家なのだ。

日本の定年離婚、熟年離婚にはこのパターンが多い。夫は稼いでハード(容器)を手に入れることで満足している。でも妻や子供はソフトの機能不良の容器の中で窒息寸前で、出ていくことしか考えられない。

yasさんに「この家で楽しく家事をしてくれる専業主婦の奥さんが欲しいんですか?」と言うと、そうだ、と言う。

「家を見に来た女性はほとんどが家で落ち着きたい、家にいるのが好き、という専業主婦志願者たちだった。僕もそういう女性のために家を建てたんだし、ちょうど釣り合いが取れるでしょう?」

それで再婚したらきっとまた失敗を繰り返す。見学に来た女性たちはyasさんを結婚相手として認識したのではなく、この家なら家賃無料の引っ越し先になりそうと思っているだけだ。窮屈になったらまた出て行くか追い出される。でも無邪気に邸宅自慢をするyasさんにはそんな不安は見えない。

■淋しさゆえに複数のアプリを併用している

yasさんの価値観は日本がまだ経済成長期で家や物が豊かさの象徴だった時代で止まっていて、家族にはソフトが必要だという観点が抜け落ちている。素敵な家、便利な家電、ガーデンテーブルセットがあるバルコニー。ハードは完璧だが、それを楽しむために必要な家族の関係性は機能不全だ。

「ここに見学に来てくれて気が合った人には、最後に聞くんですよ。ここに住まない? なんなら今日からでもいいよって。それで1週間とか1カ月ぐらい一緒に住んだこともあるんだけど、みんな老親を介護してたり、関係が続かなくて」

この大きな家に1人は淋しすぎる。だからyasさんはすぐに誰かと知り合えるように、アプリはいつもチェックしているという。マッチングしてもすぐ次の人を探すのがもう習慣化しているのだ。

マッチングアプリを使う人
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

「アプリに登録した頃から誰かと付き合ってても、朝起きると習慣でアプリをチェックして、1日に何回も見ちゃうんだよね。なんていうか精神安定剤? 僕のようなオヤジだと『いいね!』をくれるのは業者やサクラが多いし、登録して半年も経つとマッチングはどんどん減っていくから、退会して再入会してを繰り返してまた同じ人とマッチングしたり」

だから複数のアプリを併用する。

■「他人に興味を持つ」ということが根本的に分かっていない

会員数2000万人、最大手で20歳から45歳ぐらいがメインのペアーズ。「今日暇」「週末空いてます」というゲーム感覚の「おでかけ機能」で出会えるタップル。心理テストで相性のいい相手を紹介してもらえる、趣味の好みカードがあるなどマッチングしやすいウィズ、バツイチの再婚希望者や50代、60代もマッチングできるマリッシュ。

それぞれ特徴やメリットが異なるので、複数登録することでマッチング率は確実に上がるのだ。

yasさんは3年間に5つのアプリに登録していたが、もうマッチングから「メッセージ→LINE→ビデオトーク→お家見学」の段取りが決まってしまって、完全にマニュアル化しているという。

「それでどう? このままここに住んでみない? 絶対、楽しいよ」

テイクアウトのピザとビール(私はコーヒー)でランチしながらおしゃべりしていたら、お約束の誘い文句が飛んできた。ノリが軽すぎて、相手によってはワンナイト的なナンパとも受け取られかねない。

「私のこと何も知らないのに。仕事とか今までの生活とか結婚観とか何も聞かないじゃないですか。興味がないのに一緒に住もうって言われても……」

私がそう返すと、yasさんは驚いて「興味があるから家に呼んだのに」と言った。彼は女性の気持ちが本質的にわかっていない。他人に関心を持ったら、どんな人か、何を考えているのか、プライオリティは何なのか知りたくなるはず。なのにyasさんの会話はまるで飲み会でのセフレナンパのように表面的で内面に無関心だ。この家に住みさえすれば、リビングのソファに座ってさえいれば満足なのだろうか。

窓の外を眺める男性の後ろ姿
写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

■なぜ自分が「圏外」扱いされるのか理解していない

人は自分に関心を持たれていないと、相手にも興味がなくなる。「どうでもいい人」「圏外の人」になる。

圏外だからもはや電話も繫がらないし、意思の疎通ルートも途絶えてしまう。最終的にはそこにいてもいない人になる。それが妻や娘とのシステム障害を起こした理由だったのだろう。yasさんの家族がyasさんを「圏外」とみなしたのは、彼にとって家族が「圏外」の理解不能な人々だったからだ。

そして今、yasさんはマッチング・アプリで出会った女性たちに、同じ失敗を繰り返している。たとえセックスをしても一緒の家に住んでも、何も通じ合えない相手はいずれ「財布」か「耐久消費家具」か「不用品」になってしまう。アプリで話を聞いたバツイチ男性組は、半数がこのケースだった。

だから夫の退職や定年を待ち構えていた妻に、財産分与で別れよう、と言われる。そしてさらに哀しいことに彼らは自分がなぜ妻から「圏外」認定されたのか、どうすればそれを圏内にできるかもわかっていない。だから何年アプリをさすらっていても理想の再婚相手に巡り合えないのだ。yasさんの無限ループがこれからもずっと続くかもと考えると虚しい気持ちになった。

■離婚したからといって人は急には変われない

昭和生まれ50代から60代の経済成長期世代にとって、嫁は常に「内助の功」「良き妻、良き母」が理想とされ、それを大っぴらに語っても問題なかった。妻子は経済的にも政治的にも企業戦士の従属物のように扱われ、ジェンダーギャップは世界116位の今よりずっと底辺で、#MeTooなどありえなかったのだ。

速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)
速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)

そんな時代に育ってきたyasさんのような男性たちが、離婚したからといって急には変われない。「いつも家で待っていてくれて、アイランド・ダイニングで美味しいご飯を作ってくれる嫁」を探すのをやめて、興味を持った誰かと生き方を擦り合わせていくしかないのに。それができたら離婚もしていないだろう。

時代が変わってしまったことにまだ追いつけない彼らは、心地いい涙を誘う昭和の思い出にノスタルジーを抱くしかないのか。そんな話をしている側から、彼はスマホでアプリを盗み見ている。次の豪邸見学者が見つかったようだ。結局、私はyasさんの期待に沿えないまま、豪邸を後にすることにした。

駅まで車で送ってくれたyasさんは「よかったらまた遊びに来て」と手を振ったけれど、きっともうここに来ることはないだろう。

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速水 由紀子(はやみ・ゆきこ)
フリージャーナリスト
大学卒業後、新聞社記者を経てフリージャーナリストとなる。『AERA』他紙誌での取材・執筆活動等で活躍。女性や若者の意識、家族、セクシャリティ、少年少女犯罪などをテーマとする。映像世界にも造詣が深い。著書に『あなたはもう幻想の女しか抱けない』(筑摩書房)、『家族卒業』(朝日文庫)、『働く私に究極の花道はあるか?』(小学館)、『「つながり」という危ない快楽 格差のドアが閉じていく』(筑摩書房)、共著に『サイファ覚醒せよ! 世界の新解読バイブル』(ちくま文庫)などがある。

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(フリージャーナリスト 速水 由紀子)

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