1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

公園の奥にある雑木林に連れ込まれ…婚活アプリで出会った38歳の獣医が"獣のような蛮行"に及ぶまで

プレジデントオンライン / 2023年6月23日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masao

マッチング・アプリで婚活する場合、どんなことに気をつければいいか。フリージャーナリストの速水由紀子さんは「なかにはセックスのみが目的の“ヤリモク”の男性がいる。私が出会った30代後半の獣医は、ピクニックを楽しむと思わせて、公園の雑木林で突然抱きついてきた」という――。(第3回)

※本稿は、速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■「夢を叶えて獣医になった」と語る38歳の男性

小学生の頃からの夢を叶えて獣医になりました。ボランティアさんと一緒に捨て猫、捨て犬のケアもしてます。気がつくとクリニックを出るのはいつも深夜。そんな38歳の僕ですが、そろそろ一人暮らしが淋しくなってきたので真剣にお相手を探してます。

そのユウタさんの紹介文を見て話を聞きたくなった。アイコンは柴犬を抱いて笑っている写真だが、他の写真は海外旅行で、砂漠で外国人とハグしていたり、顔ぐらいのハンバーガーを頬張っている学生のように無邪気なものばかり。

「猫を飼っているので獣医さんには頭が上がらない」というメッセージを送ると、「獣医は楽しいけど忙しすぎて、女性と出会うチャンスがほとんどありません。ぜひ会いたい」という返信が。それからはすごい速度でメッセージが往復した。

大きなペットクリニックで働いていて家は近所の寮だから、毎日ほとんど家と職場の往復で終わってしまうこと。海外旅行が大好きでコロナ前は毎年タイやバリ島に行っていたこと。コロナの在宅勤務で猫飼い初心者が増え、溺愛のあまりちょっとした不調で動物病院に来るので、獣医の忙しさが半端ないこと……。

ユウタさんからのメッセージは誠実だがノリが良くて、ちょっとお茶目な年齢相応のものばかりで、不安を感じさせる要素は一つもない。これなら会っても大丈夫、と思った頃、デートを約束した。

■アプリに潜んでいる“ヤリモク”男性

ユウタさんが夕方で勤務が終わる土曜日、2人の住む街の中間地点にある大きな公園で待ち合わせを決めた。何か飲み物や食べ物を買ってピクニックしようと提案したのは、健康的なアウトドアのデートなら、相手がセックス目的だった場合など変な展開を心配しなくてもいいと考えたからだ。

アプリで知り合った相手と初デートする場合は、必ずヤリモク警報テストをチェックすることにしている。一応説明しておくと、ヤリモクというのは婚活アプリ用語で「ヤリ目的」の略。女性会員にとって特に悪質な、ワンナイトのセックスのみが目的の男性会員だ。

スマホを使用する人たちの手元
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

相手の男性が「会ってすぐにホテルに誘う」「最初から女性の家に行きたがる」「夜しか約束しない」なら、ほぼセックスのみが目的のヤリモクだ。こういう男性は1、2度セックスをしたらもう連絡が取れなくなり、運営に通報されないように退会してしまう。

ヤリモクはどのアプリにも一定数いるし、TwitterなどSNSでは「私はこいつに騙された! 危険なヤリモク男リスト」的なブラックリストも出回っているので、気になる人は調べてみてほしい。というわけで、私も一応、ユウタさんがブラックリストに載っていないかチェックしたが、見当たらなかったのでGOサインを出した。それに日中の公園ならさすがに危険なことはないだろう。

■「時間がもったいない」とカフェでのお茶を断られる

待ち合わせの駅で会ったユウタさんは、プロフィールの写真通りで、明るくてまだ学生っぽさが残る男性に見えた。イケメンではないけど爽やかな好青年タイプだ。公園までの道すがら、とりあえず「身上調査」として獣医の仕事の話を聞き出す。つまり獣医というプロフィールそのものがフェイクではないかのテストだ。

病院の名前、場所を聞き、獣医の仕事について具体的に突っ込んで尋ねてみた。どれも真っ当な答えが返ってきたし、辻褄が合わないところもない。以前、病気で入院した愛犬が深夜の看病を受けられず、そのまま死んでしまった恨みをぶつけると、「深夜の治療ありの病院を選ばなかった君が悪い」と、逆に教育的指導を受けた。職業に嘘はなさそうだし、仕事は真面目にやっているらしい。

獣医としてはまだ下っ端でかなりこき使われていることもわかった。たとえ女性と出会えても付き合える時間は極めて少なそうだ。しかし、カフェに入ってお茶を飲みたいと誘うと、「時間がもったいない」という謎の理由で拒否られた。後から振り返ってみると、ここで変だと思うべきだったのだ。

■公園の薄暗い雑木林に連れ込まれ…

カフェでお茶を飲む時間がもったいないなんて、ヤリモクのフラッグが立ちまくりなのに、なぜかユウタさんの仕事の話を聞いているとそんなふうにはまったく思えなくなっていた。私はまだまだ見極めが甘いようだ。

仕方なく途中で有名ペストリーショップのスウィーツやサンドイッチ、コーヒーを買い込む。公園に着いた時はかなり浮かれたピクニック気分になっていた。しかし、ユウタさんに連れていかれたのは公園の一番奥の薄暗い雑木林の中。人気はなく、夜になったらかなり恐ろしい場所だ。

夜の公園
写真=iStock.com/Raul Ruiz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Raul Ruiz

そこにシートを広げてピクニックをするというのは妙だと思ったが、獣医バイアスが邪魔をして何も下心なんてあるわけないと勝手に思い込んでしまった。私のプランでは買ってきたサンドイッチとカヌレを食べて、のんびりコーヒーを飲みながら仕事や海外旅行についておしゃべりし、それで気が合えば次のデートを約束して暗くなる前に「またね」の予定だった。

スウィーツを皿に並べていると、いきなりユウタさんがすごい勢いで抱きついてきてキスをしようとしたので驚愕(きょうがく)した。えっ……? まだピクニックを始めてさえいない。しかも鼻息が荒く速攻でエロモードになっている。まずい。このままでは人気がないのをいいことに、夜の新宿御苑系デートに突入されてしまう。

「ちょっと待って」と体を離そうともがくと、「えっ、なんでダメなの?」と驚かれ、さらにがしっと抱きすくめてきた。まるでさかりのついたチンパンジーだ。この公園の薄暗い場所を選んだのはもしかして、無料でラブホ代わりに使おうという魂胆だったのか?

■誠実だと思っていた男性は「獣のような医師」だった

押し倒されまいと揉み合ったあげく、私はユウタさんの右手をねじり上げる作戦に出た。本気で捻ったのでかなり痛かったらしく、むっとした顔で睨みつけてくる。一瞬、逆ギレされて殴る蹴るの暴行をふるわれたらどうしようと、背中に冷たい恐怖が走った。

不意に頭の片隅に「フリーのジャーナリストがマッチング・アプリの取材中に公園で男と揉み合って怪我、病院へ搬送」的なニュースの見出しがチラつく。確かにマッチングしてからたった3、4日で、いきなりリアルに会うなんて危険すぎた。それも「獣医」という二文字につられたせいだ。もしこれが普通の会社員とかITエンジニアだったら、もっと慎重になっていただろう。いかに職業バイアスがあてにならないかを痛感した。

いや、獣を治す医師ではなくて「獣のような医師」とオチをつけるべきか。やっとの思いでユウタさんを突き放すと、彼は自分の両腕を見せて「内出血してる。こんな力で掴まなくても」と恨みがましく文句を言った。なんならこっちが過剰防衛で訴えられそうな勢いだ。とにかくやっと体が自由になった。一刻も早く逃げようとバッグを拾い、「仕事があるから」と手を振ると、ユウタさんも忌々しげにその場を去っていった。

■警戒すべきなのはヤリモクだけではない

駅に戻るまでは冷静だったが、気がついてみると心臓が爆速で打っている。全身が緊張で硬直していたことに気がつく。ユウタさんはマッチングするたびに会って即やってさよならの、鬼畜なヤリモクだったのか。それなら他にも被害者がいるはずだ。

早速調べてみたが運営から強制退会させられた痕跡もない。被害届が出ていないということは、みんな獣医の肩書につられて会ってショッキングな結末だったけど沈黙しているということなのか?

私自身もユウタさんが獣医だから会ったわけだし、心のどこかで悪い人だと思いたくないという抵抗もある。が、現実にはアプリの運営に訴えれば強制退会になるレベルの反則だ(既婚者、性的強制や性暴力、詐欺、誹謗(ひぼう)中傷や罵倒、いずれも通報すれば強制退会になる)。

マッチング・アプリのプロフィールや自己紹介は、ぱっと見のカテゴライズには便利だが、実は「見せたい自分」として真逆にミスリーディングするケースもあると痛感した。

知っておくべき警戒ポイント初心者に寄ってくる危険な害虫はヤリモクだけではない。ここで注意事項として付記しておく。入会したてでまだシステムがよくわからない時、多くの人が遭遇するのが、投資目的の勧誘や、ロマンス詐欺を仕掛けてくる外国人美女・イケメン写真の詐欺師だ。

■男性なら高収入・高学歴、女性は中国系美女に要注意

投資勧誘は大抵日本語が変で、「あなたのことをもっと知りたいです。自分は5年前から日本に移った。日本語はまだ下手です。でも気にしないで」などとフォローが入っていることが多い。そして男性なら職種は経営者や一流企業、年収は「1500万から3000万」。学歴はハーバードとかベルリン自由大学とか取りあえずエリートを騙っとけ、という嘘くささが渦巻いている。

女性は中国系の美女が多い。ロマンス詐欺の場合は、最初はラブラブな恋愛モードだが、途中から「結婚するために日本に行きたいが飛行機代に困っているので200万円振り込んで」というような金の要求にシフトチェンジする。さらに最近は美人局とグルになったぼったくりバーへの誘導や宗教への勧誘など、リスクも増加しているので、くれぐれも騙されないようにしてほしい。

入会してからのいろんな人との突風のような出会いと別れに疲労感を覚えていた頃、「菩薩」というニックネームと紹介文に惹かれて「いいね!」をした。プロフィールにはこんな疲れた心をくすぐる言葉が書き連ねられていた。

「癒し上手です。見た目も中身も菩薩です。迷いや悩みを全部私の心に置いていってください」「あなたの話をカウンセラーのように聞いて癒してあげましょう」「穏やかで決して怒らず、みんなにご利益があるとお賽銭を投げられます」「あなたをすっぽり包み込む包容力、ヒーリング力には自信があります」

菩薩さんのややぽっちゃりな体型も丸顔で温厚そうなルックスも、癒されたい気分がピークだった私には理想的に思えた。

ベッドに横たわりスマホを使用する女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

■元妻への恨みつらみトークが会話のほとんど

「俺が世界の中心」な人々に疲れていたので、菩薩さんの懐に飛び込んで話を聞いてみたくなった。

こんな人ならきっと破局を何もかも別れた元妻のせいにしたり、家事も子育ても向いてないから丸投げしたいなんて言わない……はずだ。ところがいざマッチングしてLINEでビデオトークしてみると。「別れた妻の悪口は言いたくはないが」と言いながら出るわ出るわ……。菩薩さんが妻と別れた理由は10年前、年に何回も長期出張が続き、会話がほとんどなくなって関係が冷えてしまったことだという。

「妻は結婚当初、専業主婦になりたいと仕事を辞めたのに、子供が中学になると今度は家事だけの人生は嫌だと言い出して」

そのうち家庭内別居状態となり、早期退職と同時に離婚届を突きつけられたというシリアスな熟年離婚だ。しかも離婚後半年も経たずに妻は年下と再婚。今では娘とも年一度しか会わせてもらえない。菩薩さんは「家裁の調停で財産の半分は元妻の手に渡り、持ち家も持っていかれたので、狭いマンションに引っ越さなければならなかった。新しい会社に再就職するまで、本当に大変だった」と恨めしそう。

しかも元妻が離婚前から不倫をしていて、早期退職金の分与を計画していたと恨みつらみが止まらない。結局、2時間のトークの3分の2がその話でぐったり疲れてしまった。癒されるどころじゃない。これでは菩薩サマどころか恨みがたまった怨霊だ。

床に座り込んで頭を抱えてスマホを見ている女性
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■プロフィールにあったら注意すべき「8つの表現」

なのになぜ、菩薩なんていう誤解を与えるニックネームにしたのか?

「再就職した会社で人材育成トレーニングを担当していて、そこで相手の話をすべて受け止めるのがどんなに大切かという訓練をしているんですよ。このメソッドを教えている時は、本当に菩薩様になれるんですよね」

あまりのギャップにのけぞりそうになった。それはあくまで職能であって、本当の資質ではない。つまり中身は離婚前の彼と少しも変わっていないのだ。企業のトレーナーとしてどんなに人徳があっても、家ではどろどろの怨念から抜けられない怨霊なんて絶対、ごめん被りたい。マッチングアプリのプロフィールは、好印象を与えるために弱点を都合よく粉飾されがちだ。

例えばこんなプロフィールは、裏のマイナスポイントを隠しているかもしれないので要注意。

「周りに裏表がないと言われる」→KYで気を使えない
「決断力がある」→俺サマで協調性がない。相手の意見が聞けない
「経営者」→月商10万に充たないネット通販ショップなどの経営
「年より10歳は若いと言われる」→リップサービスを真に受けている
「すぐに仲良くなる」→付き合っていなくてもすぐやろうと誘う
「家事はできれば一緒にしたい」→と言ってもあくまで口だけ
「デート代は自分が多めに払う」→最初だけは
「実家暮らし」→生まれてから実家を出たことがない。母親が上げ膳据え膳

ざっとこんな感じだ。嘘とまでは言えないが、現実とはかなりの落差がある。

■とにかく電話やビデオトークをするべき

もちろん女性もメイクや写真加工など自己申告と内実のギャップはいろいろあるだろうが、特に人間的な本質に関わることをすぐバレる嘘で美化するのは逆効果でしかない。だからアプリでマッチングをしたら、まずプロフィールのどこが嘘でどこが本当か見定めなくてはならない。

速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)
速水由紀子『マッチング・アプリ症候群』(朝日新書)

アプリ内メッセージのやりとりではほぼわからないので、一通り自己紹介をしたらLINEに移り、電話やビデオトークしてみることを強くお勧めする。百回メッセージ交換してもわからない生理的、感覚的な相性、そして相手の嘘やごまかしが一瞬にしてわかるからだ。

特に直感力の優れた女性なら、相手のキレやすさ、俺サマな傲慢(ごうまん)さ、自己中などネガティヴな部分は察しがつく。声や映像の情報量は、テキストの比ではない。会ったことのない相手とのメッセージ交換、LINEトークは7割が想像とまったく違う現実を隠していると思ったほうがいい。みんな自分を少しでもよく見せることに必死なのだ。

あなたが今、アプリのプロフィールに書いている「ちょっとした嘘」のように。

----------

速水 由紀子(はやみ・ゆきこ)
フリージャーナリスト
大学卒業後、新聞社記者を経てフリージャーナリストとなる。『AERA』他紙誌での取材・執筆活動等で活躍。女性や若者の意識、家族、セクシャリティ、少年少女犯罪などをテーマとする。映像世界にも造詣が深い。著書に『あなたはもう幻想の女しか抱けない』(筑摩書房)、『家族卒業』(朝日文庫)、『働く私に究極の花道はあるか?』(小学館)、『「つながり」という危ない快楽 格差のドアが閉じていく』(筑摩書房)、共著に『サイファ覚醒せよ! 世界の新解読バイブル』(ちくま文庫)などがある。

----------

(フリージャーナリスト 速水 由紀子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください