1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

日本版と全然違う…寓話「ウサギとカメ」アフリカ版に見る弱者が強者に勝つだけでなく死に追いやるヤバい智恵

プレジデントオンライン / 2023年6月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jgroup

能力が劣った者が能力の高い者に勝つにはどうしたらいいのか。古今東西の寓話を読み解いたキャリアカウンセラーの戸田智弘さんは「日本版でカメが勝った要因は諦めずに努力した点もあるが、たまたま幸運が舞い込んだとも言える。一方、アフリカ版は知恵を働かせて周到な準備を整え、仲間に協力してもらっている」という――。

※本稿は、戸田智弘『人生の道しるべになる 座右の寓話』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■ウサギとカメ①

ウサギとカメが足の速さのことで言い争い、勝負の日時と場所を決めて別れた。さて、勝負の日、かけっこが始まった。

ウサギは生まれつき足が速いので、真剣に走らず、道からそれて眠りこんだ。

カメは自分が足の遅いことを知っているので、たゆまず走り続けた。カメは、ウサギが横になっているところを通り過ぎて、勝利のゴールに到達した。

■油断大敵、才能より努力

この寓話(ぐうわ)からは二つの教訓を引き出すことができる。ウサギに焦点をあてれば「油断大敵」という教訓、つまり強者であってもそれに甘んじて油断していると、弱者と侮っていた相手に負けてしまうことだってあるという教訓が得られる。カメに焦点をあてれば、弱者であってもコツコツとまじめに頑張っていれば、ときに幸運が転がりこんで強者に勝てることもあるという教訓が得られる。

ところで、競走は本来、公正でなければいけないのに、この勝負は公正さに欠けているように思う。カメは、陸ではなくて水(池など)での勝負を提案してもよかった。当然、泳ぎが得意ではないウサギはそれを拒否するだろう。陸上で勝負するか、水上で勝負するかで意見が分かれるかもしれない。トライアスロンのように、スイム(水泳)とラン(長距離走)を組み合わせた勝負が公平な競走だと思う。

■ウサギとカメ②

ウサギとカメは競走することになり、日取りを決めた。ウサギのほうは、競走のことなど気にもかけないで、遊びほうけていた。一方のカメは、親類中の家を訪ね歩き、競走の日の朝早く、会場に集まってほしいと頼んだ。

さて、かけっこの当日、カメは会場に集まった親類のカメたちに、一定の間隔で道の脇に隠れているようにお願いした。

いよいよ競走が始まった。ウサギはのんびりと走った。カメがどんなに頑張ったところで、自分にかなうはずがないと考えたからだ。しばらく走って、もう十分に引き離しただろうと思い、立ち止まって後ろを向いて声をかけてみた。

「カメくん、まだついてきているかい?」

するとその近くに隠れていた親類のカメの一匹が「ええ、すぐ後ろにいますよ」と答えるではないか。

ウサギはびっくりした。ぼくの耳がどうかしてしまったのだろうか。カメがぼくについてこられるはずはないんだが……。

ウサギは気を取り直して、今度はもっと速く走り始めた。しばらくして一休みしたくなったウサギは立ち止まって、また呼びかけた。

「カメくん?」

ところがどうだろう。また、その近くに隠れていたカメが出てきて、「ぼくはここにいるよ、ウサギさん」と答えるではないか。

すっかり慌ててしまったウサギは、ものすごい速さで走り出した。足がほとんど地面につかないほどだった。こうしてウサギはゴールの半分のところまで来た。ウサギは、はあはあとあえぎながら声をかけた。

「カメくん?」

ところがどうだろう。また、その近くに隠れていたカメが出てきて「なんだい、ウサギさん」と答えた。

これはいったいどうなっているんだ! ウサギは何がどうなっているかがわからないまま、再び走り始めた。それからは途中で立ち止まったりせず、ひたすらゴールをめざして走り続けた。

やっとのことでウサギはゴールに飛びこんだ。だが、ゴールするやいなやパタリと倒れて死んでしまった。

カメとウサギのピクトグラム
写真=iStock.com/manus1550
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/manus1550

■準備、知恵、連帯で強者を打ち負かす

アフリカの寓話である。この話の教訓は、知恵をはたらかせ、準備を整え、仲間に協力してもらえれば弱者であっても強者に勝てるということだ。

池の中のたくさんのカメ
写真=iStock.com/oPora
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oPora

簡単におさらいをしてみよう。まず、カメは「普通に戦ったのでは勝てない」という冷静な状況判断をした。「どうすれば勝てるか」を考えて知恵を絞った。その末に、親類のカメたちを道筋に配置するという奇策を捻(ひね)りだした。さっそく準備に取りかかったカメは、親類中の家を訪ね、事情を話した上で作戦の全容について説明した。そして、競走の日の早朝に会場に集まってくれるように頼んだ。

当日、集まった親類のカメたちは、競走が始まる前に一定の間隔で道の脇にこっそりと隠れた。見事なチームワークのおかげでウサギを打ち負かすことができた。そういう話である。

「ウサギとカメ①」と「ウサギとカメ②」を比較してみよう。どちらも、身体能力に劣った者が身体能力の優れた者に勝つという話である。では、どこに違いがあるのか。「ウサギとカメ①」において弱者であるカメが勝てたのはあくまでも相手の油断があったからである。何か知恵をはたらかせたわけでもなく、ただ愚直にまじめに自分のできることをしたのみである。勝ちの要因はたまたまに過ぎず、幸運が舞い込んだということだ。

一方の「ウサギとカメ②」においてカメが勝てたのは、知恵をはたらかせ、準備を整え、仲間に協力してもらったからである。身体能力で勝てない相手には頭脳を駆使して立ち向かわなければいけない。それでも勝てそうにないなら、他者の力を上手に取り込み集団で挑んでいかなければならない。

戸田智弘『人生の道しるべになる 座右の寓話』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
戸田智弘『人生の道しるべになる 座右の寓話』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

「ウサギとカメ①」も「ウサギとカメ②」も弱者が強者を打ち負かす寓話である。しかし、逆の寓話――弱者は強者に勝てない寓話――も存在する。たとえば、イソップ寓話の「鷲と鳥と羊飼」(『イソップ寓話集』山本光雄訳、岩波書店)がこれに該当する。この話の最後は「このように優れた者と競争しようとすると、何の得るところもないばかりか、ひどい目にあったおまけに物笑いを買うものです」となっている。

寓話というのは、話によって相矛盾する正反対の教訓が説かれていることに注意したい。弱者でも強者に勝てることを教える寓話もあれば、弱者が身の程をわきまえず強者と競おうとすると恥をかくばかりかひどい目に遭うということを教える寓話もある。

これは、寓話が提供するのは、さまざまな具体的状況の中で自分がどう行動したらいいのかを示す処方箋だからである。いつどんな状況でも片方だけを信じて突き進むのは危険であり、両方の可能性を頭に入れながら適切なほうを選択することを暗示しているのである。

----------

戸田 智弘(とだ・ともひろ)
キャリアカウンセラー
1960年愛知県生まれ。北海道大学工学部、法政大学社会学部卒業。著書に『働く理由』『続・働く理由』『学び続ける理由』『ものの見方が変わる 座右の寓話』(以上、ディスカヴァー)など。

----------

(キャリアカウンセラー 戸田 智弘)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください