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創業時のスタバは「カフェ」ですらなかった…スタバが世界有数のカフェとして成功した本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年6月22日 9時15分

スターバックスコーヒーのロゴ - 写真=picturedesk.com/時事通信フォト

「ブランド力が高い」と言われている企業は何が違うのか。マーケターの西口一希さんは「有名企業のプロダクトでも必ずしも売れるわけではない。そもそもプロダクトに具体的な便益と独自性が想起できなければ、顧客にとっての価値はない」という――。

※本稿は、西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■「ブランド力が高い」とはどういうことか

「多くの人がそのプロダクトを知っている」だけでは、ブランディングがうまくいったとはいえません。どういう便益とどういう独自性があるかということが伝わってはじめて、それに価値を感じる人たちが出てきて「それなら、お金を払って手に入れたい」と思ってもらえるわけです。ですから、ブランド力が高い状態というのは、そのブランドによって、最初からある一定の価値を感じてもらえるということです。

たとえば、「トヨタのレクサスから出た新シリーズ」といわれたら、レクサスという名前が、ある程度の価値を持った車を期待させてくれます。これはとくに高級ブランドに限った話ではなく、一般的なブランドでも同様です。「マクドナルドから新しくホットドッグを発売します」といわれたら、いつものハンバーガーとは違うけれど、ある程度の価値を期待する人が多いのではないでしょうか。なぜならマクドナルドに対しては、すでに一定の価値ができあがっているからです。それが、ブランド力が高いという状態です。

ただし、有名企業のプロダクトだからといって必ず売れるわけではありません。知名度や認知度のある会社は、新しい提案をしたらお客さまに注目してもらえる可能性は高くなりますが、そもそもプロダクトに具体的な便益と独自性が想起できなければ、お客さまにとっての価値はありません。

■Appleが洗剤を出しても購買には結び付かない

たとえば、Appleが自動車をつくって売りだしたとします。Apple社製の車って、ちょっとよさそうですよね。これは売れるかもしれません。では、Appleが衣料用洗剤を出したら、どうでしょうか。それはどんな洗剤なのか、なぜAppleが洗剤を出すのか、まったくわかりませんよね。

車であればiPhoneの延長線上で考えて、なんとなく便益や独自性があるかもしれないですが、洗剤とApple社の既存製品はまったくつながらないため、便益や独自性が想像できません。結局、「よくわからない」という話になってしまいます。知名度や認知度があることで新しい提案をしたときに注目してくれる人は多くても、そこに便益と独自性が想起できなければ、やはり購買には結び付かないのです。

このような点では、一般消費者からあまり知られていない中小企業は、最初からお客さまに何かしらのイメージを持っていただくことができません。「あの○○社が出す商品」が通用しないということです。そうであるなら、中小企業はブランディングではなくプロダクトそのものの便益と独自性を際立たせることが何よりも大事だということになります。

逆にいうと、ブランド力があるといわれている企業が出すプロダクトは、便益と独自性がそれほどはっきりしていなくても、それなりに売れてしまうことも多いです。しかし、ブランド名が際立っていない中小企業は、最初からお客さまに期待してもらえませんし、むしろマイナスから入るときもあります。そうした企業が勝ち残っていくためには、プロダクトの便益と独自性を磨き上げる必要があるということです。

■スタバは、もともと豆を焙煎して販売するビジネス

このように、「ブランディング」とは、どんな便益とどんな独自性があるかがお客さまに伝わってはじめてできるものであり、ある意味では「結果」の産物といえます。たとえば、スターバックスコーヒーの「くつろげる場所」というイメージも創業当初からあったわけではなく、スターバックスがお客さまの反応を見ながら少しずつつくっていったものです。巷には、スターバックスのようにソファーを置いて店内を落ち着いた空間にしたり、スタッフにフレンドリーな接客をさせたりすればサードプレイスができる、それがブランディングだと語っている専門家もいますが、そんな単純なものではありません。

スターバックスの成り立ちを考えてみると、そのことがよくわかります。スターバックスは、もともとコーヒー豆を焙煎して販売するビジネスでした。その後、ハワード・シュルツさんという人が、豆の販売だけではなく、カフェもはじめることを提案します。

焙煎コーヒー豆
写真=iStock.com/D-Keine
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D-Keine

■きっかけはイタリアで見たエスプレッソのスタンディングバー

シュルツさんは仕事でイタリアに行ったときにエスプレッソのスタンディングバーで楽しそうにおしゃべりをしながらコーヒーを飲む人たちを見て、スターバックスでもこうした事業を展開しようとしたのです。そのため、スターバックスも最初はスタンディングで、ソファーもないし、落ち着ける店でもなかったわけです。そして、それまで薄いコーヒーが主流だったアメリカでは、スターバックスの深煎りした濃いコーヒーがおいしいと評判になります。

しかし会社としては、やはり豆の販売を主体にしたかったため、シュルツさんはスターバックスを辞めてエスプレッソ系のコーヒーを提供する別の店をはじめます。そこでもまだスタンディングで、テイクアウトが主体でした。これが若い人々に受け入れられ、シュルツさんは次々と店舗をオープンしていきます。さらにスターバックスの商標登録を買い取り、スターバックスのブランドで店舗を拡大していったのです。

■待ち時間を快適にすごしてもらえる方法を考えた

スターバックスのコーヒーの特徴は、顧客のオーダーを聞いてから豆を挽き、エスプレッソ方式で抽出して提供するというところです。ただし、そのほうが味はよくなりますが、お客さまを待たせることになります。そして、その時間をただ待たせているだけでは、お客さまは退屈してしまいます。そこでスターバックスは、その待ち時間を快適にすごしてもらえる方法を考えました。

店内を広くして、ソファーなどを置いて落ち着いた空間にするとか、テラス席を設ける、テイクアウト用のカップにお客さまの名前を書いて親しみを表現する、サードプレイスという概念をスタッフに持たせるなど、この空間にいること自体が快適だと感じてもらえるような店づくりを目指したわけです。

何かをただ待つ時間は苦痛になることもありますが、コーヒー豆を挽ひくよい香りも、そうしたストレスをやわらげてくれます。こうしたさまざまな施策の結果として、スターバックスの店舗はお客さまにとって落ち着ける場所になっていきました。コーヒーのおいしさと居心地のよさを楽しむ一連の体験は最初からあったわけではなく、お客さまの価値を求め、時間をかけて磨き上げていったのです。

■都合よく切り取っても、ブランディングは成功しない

また、スターバックスはオフィス街を中心に店舗を構え、ビジネスパーソンにホッと落ち着ける場所を提供しています。さらにアメリカではバーンズ&ノーブル、日本では蔦屋書店と提携して書店の中に店舗を出し、多くの店舗では無料Wi-Fiを導入してパソコンやスマホがインターネットにつながりやすいようにしています。

西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)
西口一希『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』(日本実業出版社)

このようにスターバックスはいろいろな施策を行っていくなかで、お客さまにとっての価値が高まる方法を考え抜いた結果、今に行き着いたわけです。つまり、スターバックスが成功した理由は、お客さまの反応を見ながら「何がお客さまにとって価値になり得るか」を考え続けてきたことです。さまざまな変化をしながら、お客さまに対して自分たちがどのような価値を提供することでお金をいただけるかを常に試行錯誤し、継続的な収益を生みだすために、価値を高め続ける努力をしているということでしょう。

スターバックスは今後も進化し続けると思いますが、このような価値づくりの変遷を理解せずに結果として成立しているブランディング部分だけを切り取って、その真似をしても、同じようにうまくはいかないはずです。

それぞれの企業が、自分たちはどんな便益や独自性を提供できるのか、それを価値と感じてくれるお客さまにどう伝えるのかということを考えなければ、ブランディングは成功しないということです。

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西口 一希(にしぐち・かずき)
Strategy Partners代表取締役
1990年大阪大学経済学部卒業後、P&Gに入社。ブランドマネージャー、マーケティングディレクターとして「パンパース」「パンテーン」「プリングルズ」「ヴィダルサスーン」などのブランド担当。2006年ロート製薬に入社。執行役員マーケティング本部長として「肌ラボ」「Obagi」「デ・オウ」「ロート目薬」などの60以上のブランドを担当。2015年ロクシタンジャポン代表取締役。2016年にロクシタングループ過去最高利益達成に貢献し、アジア人初のグローバルエグゼクティブコミッティメンバーに選出、その後ロクシタン社外取締役戦略顧問。2017年にスマートニュースへ日本および米国のマーケティング担当執行役員として参画。2019年株式会社Strategy Partnersの代表取締役として事業戦略・マーケティング戦略のコンサルタント業務および投資活動に従事。戦略調査を軸とするM-Force株式会社を共同創業。著書に『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)、『マンガでわかる 新しいマーケティング』(池田書店)、『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』(日経BP)などがある。

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(Strategy Partners代表取締役 西口 一希)

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