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日本は「アメリカの属国」に過ぎない…プーチンのロシアが日本を心の底から見下している理由

プレジデントオンライン / 2023年6月24日 15時15分

2019年9月5日、極東ロシアの港ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムの傍らで行われた国際柔道トーナメント後、選手たちとポーズを取るロシアのウラジーミル・プーチン大統領(右)と日本の安倍晋三首相(左)。 - 写真=AFP/時事通信フォト

ロシアは日本をどのように見ているのか。元外交官の亀山陽司さんは「日本はアメリカを中心的パワーとした秩序に取り込まれている。それゆえに、ロシアから見れば日本は自らの秩序には属さない異質の国家であり、可能であればいずれロシアの衛星国にしたいと考えている」という——。

※本稿は、亀山陽司『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

■プーチンのロシアは世界をどのように見ているのか

権力的秩序は一元的ではない。つまり、アメリカだけが秩序を構成できるパワーを有しているわけではない。アメリカは巨大なパワーを有するが、それでもそのパワーは全世界に自らを中心とする一つのシステムを構築するには十分ではない。

プーチンのロシアは影響力を増しているし、中国もアメリカに対抗するほどの国力を蓄えつつある。ロシアや中国もそれぞれが秩序構成的パワーであると言ってよいだろう。欧州でもドイツやイギリスの力と影響力を無視できない。中東におけるアメリカの影響力は限定的である。

それゆえに、アメリカはEU諸国や日本と価値観を共有することで、共通の権力的秩序を構築しようとしている。スピノザが自然権を与えるものと考えた多数者の「共同の意志」という概念を用いれば、アメリカやEUが考えているのは、共通の価値観を「共同の意志」として一つの国際秩序を構築することである。これは欧米型の権力的秩序ということができる。

しかし、共通の価値観を「共同の意志」とするこの欧米型の権力的秩序は、実際にはアメリカの圧倒的パワーに依拠したものだ。

■日本は「自立した主権国家」なのか

そして、日本もアメリカのパワーの影響下に置かれている。

つまり、権力的秩序のイメージとは、中心的パワーの重力圏に捕らわれた衛星国から構成される「系」である。このアナロジーでいけば、アメリカはさながら、70以上の衛星を従える太陽系最大の惑星である“木星”と言えるだろう。しかし、世界には唯一の権力の根源となり得る至高の支配者としての“太陽”は存在しない。

このような権力的秩序において、衛星国は完全な主権国家とは呼べない。スピノザは言う。他人の力の下にある間は他人の権利の下にあり、反対に自己への加害を自己の考えに従って復讐し得る限りにおいて、また、自己の意向に従って生活し得る限りにおいて、自己の権利の下にある。

また国家についても同様で、国家は他の国家からの圧迫に対して自己を守り得る限りにおいて自己の権利の下にあり、他国の力を恐れ、他国の援助なしに自国を維持できないのであれば、それは他国の権利の下にある。

■アメリカの軍事力に守られる日本

アメリカの権力(そして軍事力)の下に置かれた日本は、スピノザに従えば、アメリカの権利(権限)の下にある。一方で、欧米諸国からの経済制裁を受けながら自己の考えに従って行動しているように見えるロシアは、自己の権利の下にある。

岸田総理は、迎賓館赤坂離宮でアメリカ合衆国のジョセフ・バイデン大統領と首脳会談等を行いました。両首脳は、会談を行い、続いて日米宇宙協力関連展示を視察しました。その後、共同記者会見を行い、続いて拉致被害者御家族と面会しました。次に、都内でIPEF(インド太平洋経済枠組み)関連行事に出席し、夜には、非公式夕食会を行いました。(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
岸田総理は、迎賓館赤坂離宮でアメリカ合衆国のジョセフ・バイデン大統領と首脳会談等を行いました。関連行事に出席し、夜には、非公式夕食会を行いました。(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

このように、自国の権利の下にあることを“自立した主権国家”だと言えるとすれば、他国の権利の下にあることは“衛星国家”だと言える。

「主権国家」とそれを取り巻くいくつかの「衛星国家」によって構成される権力的秩序は、一種の疑似的な社会契約によって成り立っている。社会契約とは、本来は個人と国家との関係を理解するための議論である。各人が有する自然権を唯一の主権者(国家)に委任することで、その代わりに主権者である国家は国民を保護する義務を負うというものである。

これを国家間の関係に応用するとどうなるだろうか。主権国家と衛星国の間の社会契約は、本来は衛星国も有しているとみなされる主権(特に敵を特定する権利)を、秩序構成的パワーである真の主権国家(通常は地域大国)に委ねる(通常は秩序構成的パワーである大国と同盟関係を結ぶ)という形をとる。

つまり国家間の社会契約とは、主として軍事的な同盟条約なのである。

■プーチンが重視する「大国政治」という視点

本質的にアナーキーな国際政治の世界では、法的秩序よりも権力的秩序の方が根源的である。先に、全般的な相互不信に基づく同盟体制と相互の信頼に基づく信頼体制という二つの国際秩序のタイプについて考察したが、三つ目のタイプとして、いくつかの大国が国際政治を主導するというタイプの国際秩序がある。このタイプの国際秩序は「大国政治」といわれる。

法的秩序が通用する世界は、唯一の世界秩序が存在しない以上は相互の信頼に基づく国際体制だが、信頼体制は権力的秩序の内側でしか通用しないことが多い。

例えば、パクス・ロマーナ、すなわち「ローマの平和」と言われるように、ローマの圧倒的パワーを中心に構成された秩序は、ローマとその属州からなる帝国的な秩序であり、まさに権力的秩序である。そしてこの秩序の中では、一つの帝国として法に基づいて統治されていた。

しかしローマの衰亡に伴い、その秩序は崩壊していく。これは法的秩序が権力的秩序によって維持されていたことの、一つの証しである。ローマ帝国のような「帝国」とは、国家の形態としては、権力的秩序に基づく複数の国家の集団としての超国家である。つまり帝国とは、秩序構成的パワーとその属国により構成された小世界と言える。

■参加資格があるのは真の主権国家だけ

国家としての帝国でなくとも、現実の国際政治の場における国際秩序は権力的秩序が基礎にあり、多くの場合、大国とその衛星国からなる国家の集団(複数)から構成される。これが大国政治という国際秩序の形態である。この秩序の下では、大国と呼ばれる国家だけが真の主権国家であり、これら大国同士が国際政治を行う。

2022年6月30日、ロシア対外情報庁の記念碑の前であいさつするロシアのプーチン大統領(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)
2022年6月30日、ロシア対外情報庁の記念碑の前であいさつするロシアのプーチン大統領(写真=kremlin.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

その他の小国は、名目的な主権国家ではあるかもしれないが、実質的にはいずれかの大国の庇護のもとにある衛星国であり、国際政治の場での発言力は持たないか、持っていても大国と比べて非常に小さい。こうした世界では、いくつかの緩やかな「帝国」による秩序が競合している状態と言ってよいだろう。

自由民主主義の眼鏡を通して見た世界は、国連総会に代表されるような一国一票の民主的世界かもしれない。しかし、その眼鏡を外してみれば、世界は大国とその衛星国、及びその他の小国からなる大国政治の世界なのだ。

実際には、その国連にしてからが、安全保障理事会常任理事国である五大国に特権的立場を与えた大国政治の支配する場である。アメリカの国際政治学者ハンス・モーゲンソーは、「国連は大国の国際統治である」と断じている。

■敗戦国の日本を「対等な相手」と見なしていない

アメリカを中心的パワーとした秩序、ロシアを中心的パワーとした秩序、そして中国を中心的パワーとした秩序(現時点ではあまり範囲が明確でないが)があり、イギリスとフランスが十分大きなパワーとしてアメリカとともに欧米的秩序を構成している。

国連はこれらの秩序に支えられた国際組織であり、その他多くの中小国をどの秩序に取り込むかを争う政治の場なのである。

日本はもちろん、アメリカを中心的パワーとした秩序に取り込まれている。それゆえに、ロシアから見れば日本は自らの秩序には属さない異質の国家であり、可能であればいずれロシアの衛星国にしたいと考えている。

ここで注意してもらいたいのは、ロシアは日本と対等な友好関係を結びたいと考えているのではないということだ。日本は、真の主権国家ではない以上、ロシアと対等ではあり得ない。これがロシアの見る現在の(戦後の)日本の姿である。

プーチン大統領は、2020年に発表した論文「第二次世界大戦75周年の本当の教訓」により、世界に対して自らの構想する世界秩序についての考えを示している。

それによれば、国連安保理常任理事国である五大国が互いの立場を調整するメカニズムが国連であり、こうした国連を中心とする国際秩序を維持することこそが戦勝国の責務だというのである。

日本はもちろん国連安保理常任理事国ではない。ロシアからすれば、日本には五大国による国際統治に対等な主権国家として参画する資格はないのだ。

■ロシアは「ソ連帝国の復活」を目指しているのか

では、ロシアは自らが中心的パワーとなる「帝国」となることを志向しているのか。

プーチン大統領は、ソ連の崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼んだことがあり、それをもって、ロシアはソ連帝国の復活を目指しているのだと言われることがある。ウクライナ侵攻も帝国の復活を求めるロシアの野望の現れだ、と言われた。

しかし、権力的秩序がすべて帝国的秩序となるとは限らない。権力的秩序はすでに述べたように、主権国家としての大国とその衛星国との間の社会契約的な関係からなる秩序である。

つまり、大国と衛星国の間にはれっきとした国境線が引かれており、その秩序は軍事・外交面での依存関係を基礎としている。つまり、国内法への干渉は不可欠の要素ではない。

ただし、政治思想が一致していなければ権力的秩序自体が機能しないため、実際には国内の政治体制も類似することが求められることがある。

冷戦時代における東側陣営は基本的に社会主義体制であることが、時に強制的に求められた。現代世界における欧米の権力的秩序においては、自由民主主義が共通の政治思想、基本的な価値として求められる。

アフガニスタンやイラクのような国でも戦後は自由民主主義の政治体制が立てられた。ただし自由・民主主義体制は、アフガニスタンでは失敗し、2021年にはタリバンが復活し、イラクでも成功しているとは言いがたい状況である。

■プーチンが作ろうとしている「ロシア」の姿

帝国とは、権力的秩序に参加している国々を一つの国家として包摂したものである。したがって、帝国は必然的に多民族国家となり、民族の違いを超越した普遍的な価値観や思想が不可欠である。ソ連はまさに民族的対立は解消されたという建前の下で打ち立てられた国家である。

モスクワ広場のレーニン
写真=iStock.com/agustavop
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/agustavop

しかし、現代ロシアはむしろロシア性を中心に置いた国家観を打ち出している。ロシア語やロシア文化を重視し、他国に居住するロシア語話者を「我々の人々」と呼んで保護する義務を引き受けているのだ。ドンバスのロシア語話者を中心とした分離派勢力を支援したことは、そうした思想の顕著な現れである。

亀山陽司『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)
亀山陽司『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)

つまり、ロシアは多民族国家であるが、ロシアの中心的民族はロシア民族、中心的文化はロシア文化であると考えている。そして、ロシア性をこそ国家の統合原理としている。

それは普遍を追求したソ連的な国家原理が失敗したことを反面教師に、プーチン政権が自覚的に作り上げた新たな国家原理に他ならない。それは、ロシア民族を中心的民族とした国民国家(national state, nation-state)としてのロシアの建国である。プーチンのロシアは、普遍性の上に建てられた帝国よりも、伝統的アイデンティティの上に建てられた国民国家の方が望ましいと考えている。

そしてこれまでのところ、その政策は成功しているように思われる。プーチンのロシアは、20年あまりの間に安定と繁栄を確立し、軍事的にも復活したからである。

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亀山 陽司(かめやま・ようじ)
元外交官
1980年生まれ。2004年、東京大学教養学部基礎科学科科学史・科学哲学コース卒業。2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館、在ロシア日本大使館、欧州局ロシア課など、約10年間ロシア外交に携わる。2020年に退職し、現在は林業のかたわら執筆活動に従事する。日本哲学会、日本現象学会会員。北海道在住。著書に『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書)がある。

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(元外交官 亀山 陽司)

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