広末涼子の「不倫」は仕事を奪われるほどのことなのか…見えてくる「母だから」という呪縛
プレジデントオンライン / 2023年6月20日 9時15分
■なぜ広末涼子を無期限謹慎処分にする必要があったのか
女優の広末涼子さんが既婚者でありながら、同じく既婚者で料理人でフレンチレストランオーナーシェフである鳥羽周作氏と恋愛関係にあることが分かり、週刊誌を中心に「不倫」と騒がれています。
不倫がマスコミに知れて数日後、広末涼子さんは今後のドラマや映画などの出演を降板し、「無期限謹慎」の処分を受けました。一方で相手とされる鳥羽周作さんは今まで通り仕事を続けているようです。
「広末涼子が無期限謹慎処分になったのだから、婚外恋愛の相方である鳥羽周作氏もレストランを閉鎖しろ」と言いたいわけではありません。むしろ問いたいのは、なぜ広末涼子さんを無期限謹慎処分にする必要があったのか、という点です。
広末さんの恋愛が発覚してから、SNS上では彼女を擁護する声もあるものの、彼女の行為を非難する理由として「子供がかわいそう」というコメントをよく見かけます。なかには「外で男に抱かれた汚い体で子供と接するなんて、子供がかわいそう」とご丁寧にも理由を詳細に書いたものまでありました。根底にあるのは「母親になった女性は、母親としてふさわしい行動をするべき」「母親らしくない行動をするのは許されるものではない」という昔ながらの考え方です。
■「母親が不倫なんて子供がかわいそう」の大合唱に疑問
6月11日に広末さんの夫であるキャンドル・ジュンさんが震災の月命日にキャンドルをともすイベントCANDLE 11thのスピーチで、長男について「小さい子たちの面倒を見ていて大変なのに、福島の人たちに対して気遣いのできるカッコいい長男になってくれました」と語ったことで、世間ではさらに「母親である広末さんがなぜ幼い子供たちの面倒を見ていないのか」といった非難の声が聞かれます。しかし子供たちの親は母親の広末さんだけではなく、父親であるキャンドル・ジュンさんも「親」であるわけです。長男が下の子供たちの面倒を見るという状況を打破するために「父親がなんで子供たちの面倒を見ないのか」といった批判があってもいいはずですが、そういった声は大きなうねりとはなっていません。
つまり今回の騒動は行為そのものへの批判というよりも、「お母さんという立場であるにもかかわらず、それにふさわしくないことをした」という批判なのです。そして批判の際に「子供」が使われるため、「子供がかわいそう」の大合唱となるわけです。
■岸田総理の側近・木原氏は不倫しながら父親の役目を果たしている
何かと「子供がかわいそう」と大合唱をする社会ですので、子供がどれほど大事にされているのかと思いきや、そんなことはありません。
『週刊文春』(2023年6月22日号)に「岸田最側近木原副長官 シンママ愛人に与えた特権生活」という記事があります。官房副長官である木原誠二氏が既婚者でありながら、子供を持つ独身の女性と頻繁に交流をし、いわば「二つの家庭」を当たり前のように行き来している行為を批判的に見る内容の記事でした。
記事の中にシングルマザーの娘である「B子ちゃん」が登場します。この「B子ちゃん」が木原氏と血のつながりのある子供なのか、そうでないのかは記事を最後まで読んでもはっきりしません。記事には、木原氏がB子ちゃんの誕生日に一緒にディズニーランドに行ったり、B子ちゃんの学校行事に参加したり、B子ちゃんの通う学校でほかの保護者と会話をしている様子が書かれています。
公的な立場でありながら二つの家庭を行き来する木原さんに批判的ともいえる記事ですが、私は「公的な立場にありこんなにも多忙な人が、B子ちゃんのために時間を作り、父親としての役割を果たしているなんて、なんて素晴らしいのか」と一種の感動をおぼえました。しかし、日本で私のこの感覚に共感してくれる人はあまりいないようです。
■「不倫する人に子供と会う権利はない」と堂々と言えてしまう日本
日本では女性から「(元)旦那の浮気が原因で離婚したから、そんな汚い人に子供を会わせたくない」というような意見を聞くことがあります。つまり日本では、「大人同士の恋愛沙汰(ざた)」を「子供」と結び付けて考える人が結構な数いるのです。それが「浮気や不倫をした親には子供と会う権利はない」というような感覚につながるのだと思います。
離婚後も双方の親が子供と頻繁に会うことが理想だと考えられている現在のドイツでは、「元パートナーが浮気をして私(僕)を傷つけたから、子供とは会わせない」という論理は社会的に通用しません。
ドイツでは子供の誕生日やクリスマスなどといったイベントはもちろん、物理的に行き来できる距離であれば、「平日は母親の家、週末は父親の家で過ごす」(またはその逆)子供もたくさんいます。もともとは夫婦だった人たちが離婚後も子供のためを思って、時には事務的に、時には子育てをする同士のような感覚で連絡を取り合うのがスタンダードです。もちろん暴力などの問題があれば、そういった交流は不可能ですが、「女癖が悪い」「男癖が悪い」という理由で元パートナーに「ダメな親の烙印(らくいん)を押す」ことは今やタブーだとされています。
■ドイツでは1977年に「不倫をしたから有責」がなくなった
というのもドイツでは1977年に離婚法が変わり、不倫をした配偶者を罪に問うことはできなくなりました。それまでは、浮気や不倫をした側が離婚の際に元配偶者に対して収入に見合わないほどの大きな金額の慰謝料を払わされたり、浮気や不倫をしたという理由から親権が得られないことがありました。
しかし1977年に離婚法が有責主義から破綻主義に変わったことで、不倫や浮気などの恋愛沙汰は罪や責任の問題ではなくなりました。いわば「単なる大人の恋愛沙汰」と見なされるようになったわけです。
よって現在のドイツでは片方の不倫のよって夫婦げんかが絶えなくなったら、それは誰が悪いという話ではなく、夫婦関係が破綻しているのだから、一定の別居期間を設け裁判所を介した上で離婚をするというシステムになっています。その夫婦に子供がいる場合、離婚後も父親と母親がなるべくたくさんの時間を子供と過ごすのが良いというのが社会の共通認識です。
■子供3人の父親が全員違うドイツの人気女優の例
たとえばドイツで人気のテレビドラマに数多くの出演歴のある女優ムリエル・バウマイスター(Muriel Baumeister)さんには3人の子供がいて、全員父親が違いますが、同氏は「子供たちの父親は3人とも育児を積極的にしている。手伝うだけではなく本当の意味で子育ての役に立っている。3人と良い関係が築けていることを幸せに思う」と語っています。
彼女は子供たちの父親と同居していませんが、子供たちがいつでも父親に会えるように全員が近場に住むようにしているといいます。子供たちの父親は全員ドイツの芸能関係者ですが、ドイツのメディアはそのことを特に批判的に取り上げてはいません。世間から「子供がかわいそう」という声も聞こえてきません。
メディアや世間が芸能人に何を求めるのかという姿勢が問われています。芸を求めるのなら演技力や作品に注目すべきですが、日本では特に女性の芸能人に対して「私生活が品行方正であること」を求めるからおかしな方向に行きがちなのではないかと感じています。
■少子化の今、むしろ保守層からの応援があってもいいはず
日本では特に保守層が「ニッポンの少子化」をよく日本の課題として挙げています。「少子化というニッポンが直面する問題」という観点から見ると、広末さんは子供を3人産んでいるので、保守層にもっと褒められてもよいのではないかと思います。
政府はここ数年少子化対策に取り組むとしていますが、どんなに政策に取り組んだところで、「母親となった女性に自由な動きは許されない」という社会では進んでその道を歩もうとする人はますます少なくなっていくのではないでしょうか。
■求められる母親像が窮屈すぎるから日本女性は生きづらい
本気で少子化対策をするのなら、フランスのPACS(連帯市民協約)のように結婚していない関係でも子供を産みやすい制度を整えたり、同性婚を認め養子縁組をしやすくしたり、夫婦別姓を認めるなどして、「女性が生きやすい社会」にしないと少子化は止まらないと思います。広末さんの今回のケースでいえば、極論を言うと、仮に鳥羽さんとの間に4人目の子供が生まれたら、それを歓迎するぐらいの雰囲気がないとダメだと思います。
既婚で子を持つ女性が恋愛をすると「不倫」だと非難される一方で、結婚をしなかったり、子供を持たない女性が恋愛をしていると「子供も産まないで遊び歩いている」と言われてしまったりします。保守層を中心とする人々が一体どんな女性像を求めているのかといえば「結婚をして、子供を産み育て、恋愛はもとより外で遊ぶことをせず、仕事を持ち適度に家計にも貢献し、かといって女らしさを忘れずに男性を立てて……」と続くわけですが、聞いただけで楽しくなさそうです。
■「女性から簡単に仕事を取り上げる」という深刻な問題
最後になりましたが、広末さんが世でいう不倫をしたからといって、兵糧攻めにして、彼女のなりわいであり収入源である演技の仕事(テレビや映画など)を取り上げるというのは深刻な問題です。
一般の会社でも男性と女性が不倫をしてバレた場合、女性に対する風当たりのほうが厳しく、女性が解雇をされることがあります。なんだかんだと理由を付けて女性から仕事を取り上げるのは「ジェンダーの平等」が謳(うた)われるご時勢に合わないと考えます。
■広末の相手のように男性は当然のように仕事を続ける
鳥羽さんを責めるわけではありませんが、鳥羽さんは6月18日のTBSの番組「サンデージャポン」に「(騒動を受けて)自分が、世の中に出来ることは何かと考えましたが、やはり料理しかありませんでした。少しずつでも失った信用を取り戻せるよう、改めてゼロから料理に向き合い、努力を重ねて参ります」というコメントを寄せており、彼自身も、また世間も「同氏が仕事を自粛すべき」とは考えていないようです。
もちろん芸能人とシェフという業種の違いも関係しているのでしょう。それにしてもこれから離婚に進むと思われる広末さんは、それが実現すればシングルマザーとなるわけです。食べ盛りの子供が3人いる女性から仕事を取り上げて関係者は良心の呵責(かしゃく)を感じないのでしょうか。
「不倫」という言い方自体、私は好きではありません。一体いつの時代の価値観なのかと思います。それがどのような恋愛であるか、純愛であるか否かは当人同士が決めること。広末さんの手紙を見ていると純愛のような気もしてきました。
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著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。7月18日に新刊『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)が発売予定。 ホームページ「ハーフを考えよう!」
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)
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