日本人の「仕事で得られる幸福感」は世界最悪…若手社員の幸福度を下げる文化に管理職は満足という絶望
プレジデントオンライン / 2023年6月29日 11時15分
■「はたらく幸せ実感」1位はインド、日本はワースト1位
筆者らは、就業者が働くことを通じてどれほど幸せ/不幸せを感じているかといった職業生活における主観的幸福感に関する調査を18の国と地域で実施しています。最新の調査結果(2022年度)では、「はたらく幸せ実感」が最も高かった国はインドでした。次いで、インドネシアなど東南アジアの国々が続きます。残念ながら、日本は18カ国・地域中で最も低い結果(ワースト1)です(図表1)。
では、もう一方の「はたらく不幸せ実感」はどうでしょうか。日本は、3番目に不幸せ実感が低く、他の国・地域と比較してもかなり良好なスコアであることがわかります。ただし、年代別に見ると日本は20代・30代の若年層の幸せ実感が低く、不幸せ実感が高い傾向が見られました。他方で、はたらくシニア層の状態は比較的良好でした。
ちなみに、幸せ実感が最も高かったインドは、不幸せ実感も最も高く、その振れ幅が大きいことが見て取れます。また、国際的に幸福度が高いと言われている北欧のスウェーデンは、「はたらく幸せ実感」では中位にあり、「不幸せ実感」は2番目に高い傾向を示しているのは興味深い結果です。
このように、日本人は主観的な幸福感を尺度でたずねると控えめに評価し、では不幸なのかと問えばそうでもなさそうです。国際文化比較の研究では、日本人は「人並み感」を好み、「ほどほど」がちょうどいいと考える傾向が指摘されています。また、日本人のアンケートへの回答傾向として、極端な評価はつけず「どちらでもない」といった中庸を選択しやすいことも報告されています。本調査についてもこれらの文化的傾向が表出していると考えることもできそうです。
■日本人は不幸せ実感が高まると活力が一気に減退する
Well-beingと職務成果(アウトカム)との関係については、両者の間に正の相関があると報告する研究が心理学や経済学、経営学(財務領域)などで多数報告されています。筆者らの調査では、はたらく幸せ実感/不幸せ実感のスコアを高・中・低群の3つの集団に分け、アウトカムとして「個人のパフォーマンス」「創造性(クリエイティビティ)」「仕事への活力(ワーク・エンゲイジメント)」に与える影響を確認しました(図表2)。
この結果、幸せ実感とアウトカムの関係は他国と同傾向で正の相関が確認されました。しかし、注目すべきは不幸せ実感です。日本では、不幸せ実感が高まる(悪化する)とパフォーマンスも創造性も仕事への活力もすべてが大きく減退する傾向が確認されたのです。これは他の国や地域では見られない傾向です。つまり、幸せ実感が低い日本は、不幸せ実感も低いことで現状が維持されているためか、不幸せ実感が高まってしまうと堰を切ったようにパフォーマンスが崩れてしまうのです。日本の就業者は、仕事を通じて幸せが実感できることと共に、不幸せを感じすぎないように注意する必要がありそうです。
■「権威主義・責任回避」的な日本の組織文化
ここからは日本の実態を考察するため、特徴的だった外部要因を紹介します。まずは、「組織文化」の特徴とその影響です。組織文化はさまざまに類型化できますが、筆者らの分析で用いた尺度によると、日本は「権威主義・責任回避」的な特徴(上層部の決定にはとりあえず従う。社内では波風を立てないなど)が他国と比較して強く表れていました(図表3)。このような組織文化は、はたらく幸せ実感とは負の相関関係にあります。権威主義的な組織文化が色濃い組織で働く一般社員層は、はたらく幸せ実感が低い傾向にあります(図表4)。しかし、管理職層については逆で、1.25倍高い(相対的に良好な)傾向が見られました。
一方不幸せ実感は、一般層で2倍高く、管理職層は逆に1.5倍低い(相対的に良好な)差が生じていました。
つまり日本に多い「権威主義・責任回避」的な組織文化は、管理職にとっては居心地がいいけれども、一般社員層にとっては真逆なのです。組織文化の改革を先導するのが主に管理職層であることを考えれば、なかなか変革へのインセンティブが働きにくいことは想像に難くありません。
■日本人は他者への寛容性が低い
次に、個人に目を向けて特筆すべきは、異質な他者への「寛容性」の低さです。調査では「自分とは考え方や好み、やり方が違う人とも積極的に関わるか」と聞いたところ、日本は肯定回答が調査国中最も少ない結果でした。この「寛容性」とは、これまでの仕事のやり方や組織の規律などを揺るがしかねない異質な他者(若手や外国人など)を受け入れる姿勢のこと。例えば若年層へは下積みを望み、管理職登用や権限委譲が進まない要因の一つになっていると考えられます。
また、「寛容性」は、はたらく幸せ実感と相関が強く、日本の就業者の幸福感が低い要因の一つと考えられます(図表5)。
■過度に悲観する必要はない
ここまで、筆者らの国際調査の一部を紹介してきました。日本は世界的に見て、「働くことを通じて幸せを実感している」と明言する人が少ない一方で不幸だと思っている人も少ないため、過度に悲観することはないと考えます。ただし、これからの時代を担う20~30代の若年層が伸びやかに活躍できるよう、はたらく幸せ実感を抑制する要因(組織文化や他者への寛容性など)については、組織的に介入する必要があるでしょう。
例えば、今、人工知能(AI)の目覚ましい進化が注目されており、早晩、仕事の進め方も大きく変化することになりそうです。若手に課している議事録作成などの雑務(教育の一環という慣習であったとしても)が不幸せ実感を高めているとしたら、そのような雑務は早々にAIに代替し、空いた時間や労力で、若手の感性を生かしたプロジェクトを企画してもらう方が、よほど彼・彼女らの幸せ実感を高めることにつながるでしょう。ここで述べたいのは、多様な個性を認め、イキイキと活躍できるよう組織文化をアップデートすることの重要性です。それができない組織に優秀な人材が集うとは考え難いのではないでしょうか。これからの時代、従業員のウェルビーイングは重要な経営課題なのです。
(パーソル総合研究所 上席主任研究員 井上 亮太郎)
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