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「詐欺や宗教勧誘で使われている」ウソをホントにするヤバい話し方

プレジデントオンライン / 2023年6月23日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

「ずる賢い詐欺師や宗教勧誘員ほど押し売りはしない」と詐欺・悪徳商法ジャーナリストの多田文明氏は警鐘を鳴らす。良い人ほど他人を信じて騙されるという巧妙な手口を解説。6月23日(金)発売の「プレジデント」(2023年7月14日号)の特集「頭がいい話し方、バカの話し方」より、記事の一部をお届けします――。

■緻密な情報収集能力と聞くさじ加減の絶妙さ

詐欺師や悪質商法業者らと数多く話をしてきてわかったのは、彼らの口のうまさです。相手の心にすっと入り込み、一瞬で心をつかみます。しかしその裏には、緻密な情報収集能力の高さがあります。詐欺グループが摘発されると、闇名簿が押収されます。そこには、名前、年齢などの個人情報以外に「人が良い」「断れない」など、性格がこと細かに書きこまれています。

みなさんもご存じのオレオレ詐欺では、息子や孫になりすました人物が「オレ、俺だけど」と電話をかけます。すると人の良い高齢者ほど「タケシかい」と、聞き覚えのある子どもや孫の名前を自分から発してしまいます。

そこで、詐欺犯は「そうだよ」と答えて話を進めます。「今、1人なの? このところ暑くなってきたね」と世間話をしながら、相手が1人暮らしかなどの情報を収集していきます。そして「電話番号が変わったから、メモしておいて」と言って電話を切ります。これは詐欺の前触れ電話(アポイント電話)と呼ばれるものですが、詐欺犯は最初の電話では情報収集に徹します。そのうえで詐欺電話をかけるので、多くの人たちが騙されてしまうわけです。

詐欺師というと、口がうまいことにとらわれがちですが、彼らは聞き上手でもあります。経験則から「聞く7割」「話す3割」で話を展開しています。この聞く比率が「8~9割」になれば、何か聞き出されていると相手に疑いの気持ちを抱かせてしまうので、さじ加減は絶妙といえます。

もし、電話や訪問で相手の事情をよくわからずに、一方的に話をする営業マンがいたとすれば、契約に失敗することでしょう。自分のことを話すのは3割程度にとどめて、残りの7割を相手に話をさせることで、商談が成立する確率はぐっと上がります。

そしていざ契約の本題に入るときには、一気にその比率を逆転させて、「話す7割」「聞く3割」で交渉を進めます。それにより契約の成功率は高まることになります。これは詐欺師らも使う初対面の相手と話をするコツです。

■「あなたに知っておいてほしいことが3つあります」

詐欺師らの説明のうまさにも舌を巻きます。競馬詐欺グループから電話を受けたとき、男は「絶対に当たる競馬情報があり、事前に着順は決まっている」と言います。そのとき私は競馬初心者の形で応じると、丁寧に説明をしてきました。

男は「あなたに知っておいてほしいことが3つあります」と切り出し「1つ目は、競走馬を育成しているAグループの存在です。このグループにより仕込み(やらせ)レースが存在します。2つ目は、競馬情報会社Bの存在です。ここにはAグループから多くの役員が入っており、当社はB社から情報を手に入れられます。3つ目は発走する際の枠順です。表向きはコンピュータによる抽選といっていますが、実際にはやらせ馬が勝てるように枠順が決められています」と、ポイントを3つに絞って、話をします。

これは「マジックナンバー3」ともいわれる話術で「大事なことは3つある」と頭のなかに3つの箱を用意させて、話を進めることで理解させやすくしています。もし頭のなかの箱が4つも5つもあれば、話が長くなり相手は物事を覚えきれなくなり、嘘の話を植え付けられなくなります。

かといって、1つ、2つだけでは説得力に欠けてしまいます。プレゼンなどで自分の意図することを相手に伝えたいときには「大事な点は3つあります」と要点を絞って話すことで相手の心をつかむことができます。

過去に億単位の甚大な被害を出した手口に、老人ホームの入居権詐欺があります。なぜ、多くの人が騙されたかといえば「自分で思いつかせて選択させる」という手口を使ったからです。まず詐欺グループは高齢者宅に完成予定の老人ホームのパンフレットと入居権利申込書を届けておき、こう電話をかけます。

「この地域に老人ホームができるようですが、パンフレットが届いていないでしょうか?」

このとき、パンフレットを送った業者ではないところから電話をかけて、第三者を装います。封書が届いた直後ですので、高齢者が「きてますよ」と答えると「実はこの封書が届いた地域の方しか申し込めないのです。当社には、老人ホームに入居したい人がいるのですが、それができません。パンフレットを譲っていただけないでしょうか?」と詐欺師は畳みかけます。そして、「入居権利を持っている人しか申し込みができないので、あなたのお名前で申し込みしてもよいでしょうか」とお願いをします。

人の良い方ほど“困っている人の助けになれば”という思いから、名前を貸してあげます。しかしこれは罠で、後に弁護士などを騙(かた)り、電話をかけて「あなたの行為は、名義貸しという犯罪行為だ。警察の捜査をうけることになる」と脅してお金を騙し取るのです。

ここでは、高齢者に「人助けになる」と自ら思いつかせて、申し込ませるように仕向けています。人は「これをしなさい」と一方的に押し付けられた意見には従いたくないものですが「こうしたらいいかもしれない」と自分で思いついた意見は大切にします。そうなるように、詐欺グループは誘導しているのです。

高齢者 電話
写真=iStock.com/EoNaYa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EoNaYa

商品やサービスを売るために必死になって相手を説き伏せようとすれば、逆に相手の心は離れていくばかりです。大事なことは「あなたにしかできない」という重要感のアンカーを打ち付けて、話を進めることです。それにより、相手は「こうしたらいいかもしれない」と自ら思いつくようになり、交渉ごとはスムーズに進むでしょう。

■「あなただけ感」を自発的に考えてもらう

2022年に問題になった旧統一教会の信者らによる霊感商法でもこの手法が使われています。組織的な指示で信者らは、教団名(正体)を隠してターゲットに近づきます。そして、先祖霊や悪霊の恐怖心を植え付けたところで、家系図を取りながら、次のような話をします。

「あなたの先祖はお金に関する数々の罪を犯して、霊界で苦しんでいます。それで今のあなたが不幸に見舞われているのです」

「どうすればよいのか」と相手が思っているところに、壺や印鑑を見せながら「これには悪霊を払い、先祖の霊を清める力があります」と言います。さらに「あなたは先祖を救う使命がありますね。これは気づいたあなたにしかできないことです」と畳みかけます。「先祖を救えるのはあなただけ」という重要感を植え付けながら誘導することで「そうか。この壺や印鑑を買うことで、自分が先祖を救える。そして自分の今の不幸を取り払える」と思い、「いくらでしょうか?」と値段を聞かせるように仕向けます。

こうして「買わせられた」ではなく「自分から進んで値段を聞いて買った」と思わせることに成功するのです。

人は「よい評価を受けたい」「重要な人物であると思われたい」という気持ちを持っています。ゆえに「あなたにしかできないこと」と思わせることが大事なのです。「〇〇を購入するのは今」と、一方的な話で契約させたとしても、相手は「させられた」という思いから、後からキャンセルするかもしれません。契約後に解約の申し出が多い営業マンは「あなただからできること」という重要感を植え付けていない、押し付けた話になっていないかを振り返る必要があるでしょう。

要注意! 詐欺師が相手を信じさせる5つのテクニック
1. 事前の情報収集に徹する
2.「聞く7割」「話す3割」。本題に入ったら比率を逆転させる
3.「大事な点は3つあります」の言葉で要点を絞る
4. 一方的に押し付けられた意見ではなく、自分で思いついた意見であると錯覚させる
5.「あなただからできること」という重要感を植え付ける

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。

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(ルポライター 多田 文明)

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