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「賃料37億円の土地の無償提供を受けた千代田区」再開発に突き進む"公民連携"という不可解すぎる蠢き

プレジデントオンライン / 2023年6月23日 11時15分

写真=「広報千代田」6月20日号より

首都機能が集中する千代田区で「公民連携」の大型の再開発事業案件が進行中だが、一部では「住民不在」の形で進んでいると批判の声が上がっている。取材したジャーナリストの浅井秀樹さんは「区は、賃料が年間で億を超える土地を所有する企業から無償提供されている。さらに再開発に関わる職員が天下りや出世など、厚遇される傾向もある」という――。

■銀行が賃料37億円の土地を区に無償提供した理由

千代田区の都心再開発への突進ぶりは目に余るものがある。

樋口高顕(たかあき)区長は今年2月の議会招集で、歩きやすく居心地の良いまちづくり推進や、「公民連携」の都市再生整備計画を策定すると強調した。

そうした中、区内で新たな公民連携となりそうな大型案件がある。九段下交差点から区役所までの九段南一丁目で、北、中、南の3街区。このうち中街区は3786平方メートルで、三井住友銀行が所有する。

区は中街区を今年3月末まで5年間、銀行から借り、「九段下まちかど広場」と「くだんしたこどもひろば」として整備した。しかし、子どもはほとんどおらず、いつ見ても閑散とした状態。唯一、後ろ側のバスケットコートだけは「それなりに利用されていた」(区関係者)という。

区議会では、区がこの広場(ひろば)の整備に2億円あまりをかけていた、とその必要性をめぐる議論が起きた。その中では区側の試算で年間賃料約7億4000万円する土地は何と銀行の無償提供だったという不可解な事実も判明した。

総賃料約37億円の土地を、なぜ銀行は区に無償提供したのか。

この中街区は斜めに通る区道で2つに分断される。ひとまとめの開発が好都合で、区と交渉する際に「貢献」があったほうがぐっと開発の話を進めやすい……そう考えるのが自然だろう。

建物の制限高の緩和期待もあるのでは、とみる住民もいるが、無償提供について筆者が三井住友銀行の広報担当者に聞くと、「区の広場づくりに協力した」とコメントした。

■日テレ旧本社跡地の再開発問題も浮上

再開発事業者が区に土地を無償で貸し、高さ制限が緩和される案件が同じ千代田区の二番町にある。日本テレビ放送網の旧本社跡地の再開発だ。日テレは制限高を元の60メートルから1.5倍に緩和した90メートルで商業ビルを計画し、手続き上、区がその案を引き取る形で区案として推進。この高さ制限緩和に住民の反対運動が起きている形だ。

この再開発で、高さ制限緩和を導き出したのが「再開発等促進区」という仕組みだ。これは本来、工場や港湾施設跡地など大規模な低・未利用地に対し、建物と公共施設を総合計画し活用を促すもので、その際、容積率のかさ上げで、高さ制限緩和が可能になるという利点がある。

この仕組みが、もともとの目的を外れ、都心部などの再開発にも使われるようになった。

日テレ二番町の旧本社跡地。奥の要塞のような白い建物は、日テレ番長スタジオ
撮影=浅井秀樹
日テレ二番町の旧本社跡地。奥の要塞のような白い建物は、日テレ番町スタジオ - 撮影=浅井秀樹

日テレ旧本社跡地の商業ビル計画を知る関係者によれば、次のような経緯があったと証言する。

当初、大手不動産会社が日テレに家つき大工のような立場で「再開発等促進区の制度を使えなくもないが、お勧めできない」と助言していた。ところが、ある建設関連会社が安いアドバイス料で関わるようになって状況が変わり、日テレは“禁じ手”に手を染めた……。

視聴者離れや広告収入をネットなどに奪われ、斜陽となりつつあるテレビ業界で、都心に広大な土地を保有しながら、有効に活用しきれていなかった日テレは焦っていたのだろうと、この関係者はみている。

一方、日テレは旧本社跡地の商業ビル計画とは別に、隣接する四番町に広大な土地を所有しているが、そのうちの約1400平方メートルが現在、区の児童館と幼稚園になっている。日テレが区に無償で土地を貸し続けているのだ。

区側の試算で年間賃料1億数千万円程度。これが前述した二番町の旧本社跡地商業ビルの制限高緩和に影響したとみられている。区は「優遇せざるを得なくなる」(事情通)。これぞ、あうんの公民連携ということだろうか。

■「時間をかけず、すぐやっちゃえ」

千代田区の身勝手ともいえる行政は他にもある。

今年4月11日早朝、奇妙な事件があった。神田警察通りの道路整備で、区側が警備員など引き連れ作業に入ろうとした。イチョウ並木伐採に反対の住民グループの妨害行為で区職員や警備員がけがをし、神田警察署に被害届を出し受理されたと、区が一方的に発表した。

しかし、住民側の証言はまったく異なる。住民側の関係者によると、住民側にもけが人が2人いるのに、区側の発表では触れていない。また、住民が体当たりしたとの区側主張の事実はないとし、逆に住民が工事フェンスで押されて倒れるなど、打撲や擦過傷を負った人がいるという。

この道路整備は現在、第2期。歩道拡幅のためイチョウを伐採し、桜に植え替える計画だ。第1期は石川雅己・前区長時代で、住民の伐採反対などもあり、イチョウを残した。区担当者は、第1期区間の特殊性で、需要が低い駐車帯の設置を見送ることで並木を残せたと説明する。

神田警察通りの第2期の工事区間
撮影=浅井秀樹
神田警察通りの第2期の工事区間 - 撮影=浅井秀樹

事情通は「石川さんは文句が出ると立ち止まった」と話すとともに、いまの区政は「知恵がない。時間をかけず、すぐやっちゃえとなっている」と指摘する。そして、かつて神田駅を重層化して東北新幹線を通したときのことを、この第2期の道路整備と正反対な事例として挙げる。

東北新幹線は1982年に大宮―盛岡で開業し、85年に上野―大宮も開通した。上野から東京駅までつなげようとしたが、神田地区などの住民が猛反発。新幹線通過時の騒音対策や、高架下や沿線住民・店舗への立ち退き対策が不明確などと、神田地区の地上通過に反対した。

事情通によると、東京で「ドン」と呼ばれた政治家が「東北新幹線は通しません」と説得し、補償もしたことで、住民が立ち退きに応じた。最終的に神田駅や周辺の改修が実現した。一方で、この政治家は「長い目で見ろ」とも親しい人に話していたという。

つまり、何年も後に反対派がほとんどいなくなり、改修工事でスペースも確保されていたのを見計らうかのように、神田駅に東北新幹線を通したと解説する。

■区民目線を無視するような職員が天下りや出世

千代田区では公民連携の再開発を「まちづくり部」が担う。都心で再開発の対象には事欠かず、事業者もビジネスチャンスをうかがっている。

区のエリアマネジメント推進方針では、住宅地で「建築協定等を活用した良好な街並み景観の形成・維持」(①)のほかに、業務・商業地で「市街地開発と連動した街並みづくりや地域美化活動、イベントの開催」(②)を掲げる。

このうち住宅地(①)の事例には、前出・二番町の日テレ本社跡地が当てはまる。再開発等特別区の制度を用いて高さ制限を大幅に緩和したビルを建て、市民も使える広場などを確保する。だが、これが区がうたう「街並み景観の形成・維持」になるのかをめぐり、住民の反対運動が起きている。

一方、業務・商業地(②)には、日比谷公園の再開発が該当する。三井不動産などが開発してきた東京ミッドタウン日比谷と、イベント広場としても活用できる隣接の日比谷公園を一体化させて人を集める構想になっている。しかし、この計画では公園の商業利用を進め、樹木を伐採することになっており、同じように住民の反対運動が起きている。

住民目線で区政を見てきた大城聡弁護士は「(どの案件も)まちづくりなのに住民が不在です。しかも役所内においても、開発を推進し、企業を優遇してきた人が評価されている」と話す。

たとえば、樋口区長が抜擢した坂田融朗(みちあき)副区長は、まちづくり担当部長などを歴任している。

小枝すみ子区議は2月の区議会で、元まちづくり部長が退職後すぐ、区が進める外神田一丁目再開発のコンサルタントとして、準備組合設立の仕事を受託したと指摘。そのうえで、「区民目線を無視するような職員や幹部のほうが天下りや出世など、ひときわ厚遇される傾向がある」と話した。

樋口区長は取材要請に応じていない。区には皇居や国会議事堂、官庁、主要企業本社などが集中し、海外の要人が来日する玄関にもなる。

そのまちづくりに、住民の意見が反映されにくいどころか無視される状態で、自治体関係者や開発業者のやりたい放題となると、自治体のみならず、日本という国のあり方が問われることとなる。

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浅井 秀樹(あさい・ひでき)
フリーライター
金融・経済系の国内出版社や海外通信社などの報道現場で数十年にわたり取材・執筆。数年所属した『週刊朝日』が2023年5月末で休刊し、フリーとなる。金融・経済のほか、政治や社会・福祉などの分野でニュースや社会的課題、新潮流などを紹介する記事を手がける。

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(フリーライター 浅井 秀樹)

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