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アルコール依存症者の9割は自覚がない…精神科医が「一日も早く飲酒をやめて」と訴える危険な飲み方とは

プレジデントオンライン / 2023年6月27日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RapidEye

お酒と適切に付き合うにはどうしたらいいか。東京アルコール医療総合センター・センター長で医師の垣渕洋一さんは「日本には約900万人の“アルコール依存症予備軍”がいると考えられている。ごく普通に働いている人の中にも、無自覚なまま依存が進行している人は少なくない」という――。

※本稿は、垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■「アルコール依存症予備軍」は推計900万人

お酒の飲み方や考え方は十人十色です。イベントのときだけ飲む人、習慣的に飲んでいても問題ない人、依存症の予備軍、すでにグレーゾーンを超えて飲酒問題が続発している人、逆にあえてシラフを選ぶ人……。

ここで注目したいのが、読者のなかにも少なからず存在するはずの、「アルコール依存症予備軍」に位置づけられる人々です。

日本のアルコール依存症者の数はおよそ100万人ですが(厚生労働省調べ)、「アルコール依存症疑い」(約300万人)と「問題飲酒者」(約600万人)を合わせた「依存症予備軍」は推計900万人です。

また、これに「生活習慣病のリスクを高める飲酒者」(約1000万人)を含めた約1900万もの人が、「ハイリスク飲酒者」(グレーゾーン、プレアルコホリック)です。

本稿では「アルコール依存症疑い」から「生活習慣病のリスクを高める飲酒者」までを「ハイリスク飲酒者」と表記することにします。

【図表1】日本の依存症予備軍はおよそ900万人
『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)より

細かく見ていくと、同じグレーゾーンでもローリスクに近い人から、「もう一歩で依存症」という境界線ギリギリの予備軍まで幅広く、副作用の表れ方もさまざまです。

また、ごく普通に職場に行っているなかにも、ハイリスク者やすでに依存症まで進行している人がいます。

ところが、「自分はちゃんと仕事をしているから大丈夫」だと言って、本人も周囲も気づいていない、「ちょっと変だ」と思いながら何も対策していないことが少なくありません。

■働きながら依存症に陥る典型的なパターン

もしかして自分もグレーゾーン? 飲酒の習慣がある人なら、自分のリスクレベルがさっそく気になるところでしょう。

そこで、身近によくある事例として、グレーゾーンからもっと危険なレベルに足を踏み入れつつある、ビジネスパーソンA氏の週末の生活をご紹介しましょう。

A氏は会社の経理部に所属する30代の会社員ですが、ここ数年のうちにだんだんと酒量が増え、月曜から金曜は晩酌するのが習慣になっています。

「このごろ、飲みすぎだな」と自覚しているもののうまくコントロールできず、飲む量や時間が長くなってきています。ただし、毎日きちんと定刻に出勤し仕事をこなしています。

金曜日の午後になるとがぜん落ち着かなくなり、お酒のことが頭から離れません。そして、待ちに待ったアフターファイブ。一人暮らしのA氏は、帰宅途中にコンビニに寄ってお酒とつまみになる総菜を買い、帰宅するとさっそく飲みながらゲームをしたり、テレビを見たりするのがいつもの週末のすごし方です。

金曜の夜から日曜日の昼まで、飲んでは寝て、起きてはまた飲むの繰り返し。日曜の午後以降、翌日の出勤に備えて飲まなければ月曜からは問題なく働けます。飲みすぎを心配されても、「ちゃんと会社に行ってるから大丈夫」が常套句でした。

■日曜の午後から飲むようになり二日酔いで月曜日は欠勤

ところが……半年ほどたったころから、A氏の週末にちょっとした変化が。日曜の午後も我慢できず飲んでしまうようになり、翌朝が二日酔いで辛くなってきたのです。そしてあるとき、ついに初めての「ポカ休」。出勤当日になって、急に「ちょっと体調不良で」と上司に休むことを伝えました。

そこから、飲酒欲求はさらにエスカレートしていきます。平日の日中もお酒を飲みたくなるので、通勤途中にコンビニに寄ってストロング系飲料などを2缶以上買い、まずはその場で1缶飲みます。もう1缶は通勤用のバッグに忍ばせて、昼休みに隠れてこっそり……。こうなるともう止まりません。今度はそこから帰宅までが我慢できず、最寄り駅前のコンビニで立ち飲みし、帰宅してまた飲むという状態に。ここまでくると、周囲の人も「あれ……Aさんが変だ」と気づき始めます。

これこそ、働きながら依存症になっていく人の典型的なパターンです。

「自分の(あるいは身近な人の)今の状態と似ている」と思った方、要注意です。

■医者から注意されていても減らせない人は依存症予備軍

ハイリスク者に共通する“サイン”をいくつか挙げておきましょう。該当項目が多いほど、予備軍から依存症への移行が疑わしくなります。

●医者から飲酒について注意を受けても、なかなか減らせない

検診で肝機能の指標とされる「γ-GTP」の数値や血糖値が高い、あるいは糖尿病などの臓器障害があり、医者から「お酒を減らしたほうがいい」と言われても、同じくらいの量の飲酒が続いている。こうなると、臨床では依存症予備軍と位置づけます。

●お酒を飲むときだけ楽しくなれる(お茶とケーキでは楽しめない)

アルコール以外の飲食の場でも楽しくコミュニケーションできるかどうかも、リスクを読み解く重要なポイントです。アルコールの有無にかかわらず楽しめるなら問題ありませんが、ハイリスク者ほどアルコール抜きだと不足感があり、楽しめなくなります。

●飲みたくなる時間が変わる

以前は晩酌だけだったのが、飲酒欲求が表れる時間が変わってきたら要注意。とりわけ「朝から飲みだす」のはもっとも危険な兆候です。定年退職後に日中から飲み出したり、晩酌を待てずに夕食前に飲みだしたりするのも注意すべき変化です。

■家族の帰宅を待てずに料理しながら晩酌を始めてしまう

●休日はお酒を飲む以外にすることがない

休日のすごし方も、危険を見極めるポイントです。もし、休日はお酒を飲むことが主で、他の活動をほとんどしない、やる気が起きないなら要注意。心理的な視野狭窄(きょうさく)が起こり、すでにアルコールの害が進行した不健康な状態になっています。

●夕食の支度をしながらの「昼飲み」が習慣になっている

台所で料理をしながら頻繁にお酒を飲むのも、危険ゾーンに入ったサインです。アルコール依存症になった主婦の人を「キッチンドリンカー」と言いますが、そこまで進行していないとしても、昼間から飲酒欲求が強く表れて3時ごろから飲み始めたり、酔った状態で料理をつくるようになったりしたら依存症に近づいています。

実際、依存症になった女性に話を聞くと、最初の異変が「料理をしながらの飲酒だった」との証言が少なくありません。また、味つけが以前と変わったり、食卓を囲んだとき、お母さんだけがトロンとした目をしていたりして、家族が異変に気づくこともあります。夫の帰宅を待って、一緒にワインを1杯程度飲めば満足なのか、帰宅を待てずに飲んしまうのかが分かれ目です。

ワインを前に頭を抱えるアルコール依存症の女性
写真=iStock.com/CaroleGomez
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CaroleGomez

■「やめたくてもやめられない」その苦しみが酒量を増やす

●飲みすぎを注意されても「否認」に徹する

料理をつくりながらの飲酒もそうですが、家族や周囲の人から「ちょっと飲みすぎじゃない?」と指摘されて、「大丈夫、私は問題ないから」などと否認したら、これも危険を表すサイン。飲みすぎを認めないと健康管理をしないので、体調も家族関係も悪化の一途をたどりかねません。

もともとの性格が頑固で人の話を聞かない人ほど否認傾向が見られ、本物の依存症に移行しやすいのです。逆に、注意されたとき「たしかにちょっと飲みすぎだった」と認められる人は、依存症にはなりづらいタイプです。

●飲酒をやめたくてもやめられない自分に「罪悪感」を覚える

「もっと量を減らさなくちゃ……でも無理だ」「やめたくてもやめられない」という心境で飲んでいるなら、すでにアルコールの副作用で自分をコントロールできない状態です。

言っていること(思ったこと)とやっていることが異なる「言行不一致」の状態を続けることは精神的な苦痛を伴うため、それがお酒に逃げる原因になり、酒量が増えやすくなります。

●飲む理由を自分以外に向ける「責任転嫁グセ」がある

アルコールへの依存がある程度進むと、ほとんどの人は、飲む理由を自分以外に向けます。「仕事のつき合いで飲まないわけにはいかないんだ」「人間関係のストレスで、飲まずにいられない」などが一般的です。

このような「責任転嫁グセ」がついたら要注意。その場合、相手を恨んでしまい家族関係、人間関係も悪化しやすくなります。

■9割の人はアルコール問題を抱えている自覚がない

アルコール依存症は中年男性の病ととらえられがちですが、20代や30代の若い層にも多く、最近は若い女性が治療するケースも目立っています。その背景に、コスパのいいストロング系飲料の存在があります。

垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)
垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)

また、女性好みの甘くて口当たりのいいアルコール飲料も数多くあります。飲みやすさとは裏腹にアルコール度数が高いため、気軽に飲んでいるうちに多量飲酒に移行しやすいのです。

一見して「アルコール問題」を抱えていることがわかる依存症者はごく一部で、実は9割の人は病気の自覚がないまま職場に行ったり、家事をこなしたりするなど、社会的な役割を果たしています。ただし、裏を返せば9割の人に治療を受けないまま重症化させてしまうリスクがあるわけです。

進行すると職場でミスやクレームが増えたり、家庭でも飲酒によるトラブルが頻繁に起こったりします。当人が否認すると治療を進めづらく、かなり重症化するまで見すごされることもよくあります。

■治療のゴールは「シラフのほうが幸せ」と思えること

依存症が進行すると、「飲んでいれば幸せ」という思考に流れていきます。専門的にはこれを「酔いの思考」と言いますが、お酒をやめるだけだとその不健康な思考は変わりません。むしろ、抑うつ状態から自己憐憫のモードに入ってしまい危険です。

「これまで一生懸命働いてきたのに、好きなお酒も飲めないなんて自分はかわいそう」「アイツのせいでお酒の量が増えてしまった」などと、被害妄想に陥りやすいのです。

精神面の治療のゴールは、禁酒して「シラフのほうが幸せ」という思考や生き方に転換すること。そのためには、自分でアルコールの悪影響を理解して酔いの思考をあらためる努力をし、治療や支援を受けながら調整することが大切です。

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垣渕 洋一(かきぶち・よういち)
東京アルコール医療総合センター・センター長
成増厚生病院副院長。医学博士。筑波大学大学院修了後、2003年より成増厚生病院附属の東京アルコール医療総合センターにて精神科医として勤務。著書に『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)がある。

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(東京アルコール医療総合センター・センター長 垣渕 洋一)

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