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「酒を飲んでいるときだけは楽しい」のは危険信号…アルコール依存の人の脳内で起きている危険な反応とは

プレジデントオンライン / 2023年6月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

お酒を飲むと気持ちよくなるのはなぜか。東京アルコール医療総合センター・センター長で医師の垣渕洋一さんは「アルコールは少量でも効率よくドーパミンの分泌を促し、気分を良くする。それにつられて飲んでいるうちに、多量飲酒が習慣化してしまう」という――。

※本稿は、垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■酒を飲むとハイになるのは脳内物質の作用

人は、なぜお酒を飲むのでしょうか。

「飲むと、とにかく気分がいい」
「緊張がゆるんでリラックスできる」
「高揚して、楽しくコミュニケーションできる」

これらは、多くの人が最初に感じるお酒の魅力ではないでしょうか。

なんといっても、人類とアルコールは古代エジプト時代からの長いおつき合いですから、相応の魅力があることはたしかです。また長いおつき合いだからこそ、メリットとデメリットの両面が古くから知られ、治療と研究の歴史もとても長いのです。

まずお酒を飲むことのメリットについて。「気分がいい、楽しい」という言葉が示す通り、お酒は短期的には脳に対する「万能の向精神薬」のように働きます。飲むと“ハイ”になるのは、脳内で生み出されるドーパミンやセロトニンなどの「気持ちよくなる物質」の薬理作用です。

■「もっと飲みたい」から泥沼にはまっていく

適量のお酒を飲むと脳の機能が軽く低下し、その鎮静作用から多幸感に包まれたり、ふわっとしたいい気分になったりするなど、いわゆる酔った状態になるのです。すると、その快感に引っ張られてもっと飲みたくなります。

誰とでもスムーズにコミュニケーションできるようになったり、イヤなことを発散できたりすると、それがもっと飲みたくなる引き金になります。そして、酒席で「うれしい」「成功できた」「満足」などの快感を繰り返し味わうと、「お酒はとてもいいものだ」と思うようになり、どんどん好きになっていきます。

シャイな人でも飲むと抑制がとれてラクにしゃべれたり、普段しゃべりづらいことがスラスラ話せたりするので、その効用はビジネスにも利用されてきました。宴席を設けて相手から本音を引き出したり、根まわしをしたり……。

ただし、いつも飲んでいるとやがてアルコールへの耐性ができてお酒に強くなり、ないと物足りなく感じてしまい、多量飲酒が習慣化していきます。これこそ多くの飲酒者がたどるパターンで、飲めば飲むほど薬物としての副作用が表れ、心身にさまざまな問題が起こってきます。

これは健康障害に限ったことではありません。仕事のミスが増えたり、家庭内でもめ事が増えたりするなどのさまざまな飲酒問題が生じるようになり、やがて依存症という病が進行していきます。メリットにつられて飲んでいるうちに薬物としての副作用が強く表れ、自力ではコントロールしづらくなっていくのです。

■安価で手に入りやすいわりに得られる報酬が大きい

私たちはなぜ適量を簡単に踏み越えてお酒を飲んでしまうのでしょう。多くの人が、なぜアルコールという薬物に依存していくのでしょう。

それは、脳にとっての魅力、報酬が投資に対して大きいからです。

アルコールがもたらす「報酬」を脳の仕組みから見ていくと、カギを握っているのは「ドーパミン」です。

ドーパミンはやる気、元気、ハッピーな気分の素となる快楽物質です。

脳の精神活動は、数十種類ある神経伝達物質がそれぞれの神経系で活性化することで起こります。脳内報酬系でドーパミンの分泌が増えると、多幸感、心地よさ、意欲向上などを自覚し、薬物への精神依存が形成されます。

アルコールは、少量でも効率よく報酬系でドーパミンの分泌を促します。また、セロトニンとオピオイドという神経伝達物質の分泌も増やすので、不安や心配などの“負の感情”を吹き飛ばし、苦痛を忘れさせることもできます。

この相乗効果で、情緒的には実に魅力的な薬理効果があります。こういう便利なものが安価ですぐ手に入るので、ハマりやすく、適量を簡単に踏み越えて飲んでしまうのです。

この投資に対して得られる報酬が大きいということこそ、アルコールの魅力であり魔力だと言えます。

■努力して成功体験を得るより手っ取り早くドーパミンを出せる

ドーパミンは飲酒したときに限らず、日常のさまざまなシーンで分泌されます。楽しい趣味の時間、美味しいものを食べているとき、ゲームに熱中しているとき、恋愛でときめいたとき、また「成功体験」もドーパミンの重要な刺激剤です。

たとえば、一生懸命勉強して難関校に合格したり、仕事が評価されて「やった~」「うまくいった」と大喜びしたりしているときは、脳内にドーパミンがあふれ出ています。努力が報われた喜びや快感は次のステップにつながり、いい方向に作用するでしょう。

ただし、このような成功体験を手にするには相応の時間を投資しなければいけないし、投資しても確実にうまくいくとは限りません。それに比べて、アルコールはいつでもどこでも簡単に、確実に気持ちよくしてくれます。人は易きに流されやすく、仕事や勉強をコツコツやって得られるドーパミンの量をたった数分で得られるとなれば、ついそちらに引っ張られてしまうものです。

飲酒を続け、やがてドーパミンによる快感に慣れてくると、シラフで「さあ、今夜は居酒屋で一杯やるぞ」と思った瞬間、反射的にドーパミンがどっと出てきます。まだ就業中でもすぐ仕事を切り上げたくなるほど、アルコールの報酬は魅力的なのです。お酒を飲めばまたドーパミンが出てたくさんの報酬が得られるので、「もっと、もっと」と勢いづいて飲んでいると、やがて危険なゾーンに入ってきます。

ビールで乾杯をする3人のビジネスマン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■禁酒で起きる離脱症状は半年もすれば和らぐ

報酬系にとっては適切なドーパミン活性が維持されているのがいい状態ですが、それが過剰になると神経にとっては毒になります。多量飲酒が習慣になりドーパミンがいつも出ている状態が続くと、脳はその影響を減らすために「神経順応」という反応をします。

これは動物実験やアルコール依存症者の脳画像の研究からわかっていて、過剰なドーパミンの影響を受けにくくするために、ドーパミンの分泌量や受容体の密度が低下するのです。専門的には、この反応を「ダウンレギュレーション」と呼びます(※)。その状態で禁酒をするとドーパミン活性が不足し、離脱症状が起きる原因の一つになります。

※Neurobiology of alcohol dependence and implications on treatment.
Esel, E., & Dinc, K. (2017). Neurobiology of alcohol dependence and implications on treatment. Turk Psikiyatri Dergisi, 28(1), 1-10.

ここまでくるとなかなか元には戻れません。禁酒をすることで、今度はドーパミンの分泌量や受容体の密度が増えていくことを期待しますが、そうなるかはわかっていません。

臨床的には、うつ病などの病気が合併していない限り、禁酒開始後に起きる意欲低下や気分の落ち込みは一過性です。その他の離脱症状も半年もすれば和らいで、脳が回復してきたことを感じられるでしょう。

■アルコール依存症で入院する患者の4割は抑うつ状態

実は、アルコールとうつ病には深い関係があります。アルコール依存症の病歴があるとうつ病にかかるリスクが4倍高くなり、うつ病の病歴がある人の4割はアルコール依存症を合併するという研究報告があります。

私がセンター長をつとめている病院では、アルコール依存症で入院する患者10人のうちの4人、つまり4割に抑うつ状態が見られます。3カ月の入院治療をしてお酒をやめれば、そのうちの3人ほどは回復し、抗うつ剤もいらなくなります。

「うつが先か? アルコールが先か?」はすぐには判断しづらいですが、禁酒をして経過を観察し、うつ病の回復が見られれば飲酒が先行した「アルコール性のうつ」だとわかります。依存症の患者さんは、概してそのケースが目立ちます。

逆に「うつ病」を発症してからアルコール依存症が進行する場合は、「自己治療」の精神薬としてアルコールを使っているうちにハマってしまいます。

■抗うつ剤とアルコールを同時に摂取してはいけない理由

前述した通り、飲酒をするとドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の活性が上がって気分が晴れ、意欲的になれますが、「ハイになる」のは飲んでいるときだけ。酔いがさめれば気持ちはガクッと落ち込み、さらに重いうつの状態になります。

垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)
垣渕洋一『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)

うつ病の人が禁酒すると内面的に絶望感が増し、足りないぶんを補おうとしてまた飲むので、負のスパイラルに陥ってしまいがちです。多量に飲むほど飲酒時と酔いがさめたときの落差が大きいので、うつ病の人にとってお酒はとても危険です。

そのため、うつ病の治療で精神科にかかっている人は、アルコールを飲まないように指導されるはずです。また、精神科で出される抗うつ剤の処方箋には、アルコールと一緒に飲まないよう明記されています。

反対の作用をするアルコールと抗うつ剤を同時に服用しても、費用と時間が無駄になるだけ。薬物の代謝やアルコールの解毒にかかわる肝臓を痛めてしまうことにもなります。

ところが、アルコールと抗うつ剤をダブルで使用している人、またアルコールを飲んでいることを隠して精神科に通う患者は多くいて、結果的にうつと依存症の両方を進行させてしまいます。

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垣渕 洋一(かきぶち・よういち)
東京アルコール医療総合センター・センター長
成増厚生病院副院長。医学博士。筑波大学大学院修了後、2003年より成増厚生病院附属の東京アルコール医療総合センターにて精神科医として勤務。著書に『「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本』(青春出版社)がある。

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(東京アルコール医療総合センター・センター長 垣渕 洋一)

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