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岸田首相は「公明は時々、乱暴なことをやる」とあきれた…「理念より選挙」という自公連立が意外に盤石なワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月22日 10時15分

2023年度予算が成立後、公明党の山口那津男代表(左)と握手する岸田文雄首相(中央)=2023年3月28日、国会内 - 写真=時事通信フォト

選挙協力をめぐり、自民党と公明党の関係が悪化している。政治ジャーナリストの小田尚さんは「選挙で公明党の組織票が欲しい自民党、政権に参加することで影響力を得たい公明党。その双方に実利をもたらす連立政権は、今後も小競り合いが多少あっても、何事もなかったかのように続いていくのではないか」という――。

■「自公の信頼関係は地に落ちた」

公明党の石井啓一幹事長は5月25日、自民党の茂木敏充幹事長と国会内で会談し、衆院選挙区定数「10増10減」に伴って新設された東京28区(練馬区東部)での候補擁立を断念するとともに、東京都内の全選挙区で自民党候補を推薦しないとの方針を伝えた。会談には自民・森山裕、公明・西田実仁両党選挙対策委員長も同席した。

「東京における自公の信頼関係は地に落ちた」

石井氏は会談後、記者団に対し、茂木氏にこう告げたことを明らかにした。

多くのメディアは、この厳しい言い回しに反応し、「自公連立解消の可能性もある」「岸田文雄首相の衆院解散戦略にも影響か」などと報じた。その実態や経緯はどうなっていたのか。

■公明は「10増」選挙区に目を付けた

公明党・創価学会は、次期衆院選では、東京で選挙区が25から30に増えることから、1月25日、新設される東京29区(荒川区、足立区西部)に岡本三成・元財務副大臣(旧12区=北区と足立区、板橋区、豊島区の一部=選出)を転出させると、先手を打って発表し、その後、東京28区でも擁立したい、と自民党に譲歩を求めていた。

公明党が「10増」の新選挙区に目をつけ、積極的に擁立を図るのは、近年、党勢の衰えが目立つからだ。衆参両院比例選での得票数が減少し続け、昨年の参院選では、過去に獲得した800万票を目標に掲げながら、618万票にとどまり、比例選議席も7から6に減った。公明党は次期衆院選の新選挙区に党幹部を擁立することで、全体の票を掘り起こそうとする狙いがある。

こうした方針を主導したのが、創価学会の原田稔会長の最側近の一人で、選挙対応の実務を仕切っている佐藤浩副会長である。

■「これは原田会長の強い意志だ」

この話には前段がある。月刊誌『正論』5月号(4月1日発売)が詳らかにしたところによると、佐藤氏は2月27日、国会近くのホテルで、茂木、森山両氏と会い、10増となる選挙区の候補者調整に乗り出した。佐藤氏はこの場で、埼玉14区(草加、八潮、三郷市)に石井啓一幹事長(比例北関東ブロック選出)を、愛知16区(犬山市、江南市、小牧市、北名古屋市など)に伊藤渉政調会長代理(比例東海ブロック選出)を擁立する方針を明言した。

さらに、東京28区で擁立作業を進めているなどと伝え、「これは原田会長の強い意志です」と告げたという。『正論』は、佐藤氏の言葉は、公明党に最終的な決定権がないことを示している、と解説している。

■「東京28区は都連で候補を決めている」

茂木氏は、石井、伊藤両氏の出馬については容認したが、3月の公明党の擁立発表に自民党埼玉、愛知両県連など地方組織は反発し、事前の根回しを怠った茂木氏への不信感が高まった。同時に、党内をまとめられないとして、公明党・創価学会からの目が厳しくなったことをも意味する。

茂木氏は、5月23日の石井氏との会談で、「東京28区は既に都連で候補者を決めている」として公明党の要求を拒否し、代替案として東京12区(北区、板橋区の一部)または東京15区(江東区)を挙げた。

この回答は、5月17日に首相官邸で開かれた岸田首相、茂木氏、萩生田光一政調会長(都連会長)、森山氏の協議で確認した決定に基づくものだった。

公明党本部
公明党本部(写真=あばさー/PD-self/Wikimedia Commons)

西田氏は、茂木、森山両氏が2月の段階で公明党の東京28区擁立の意向に対して「最大限努力する」と応じていたと問題を蒸し返したが、公明党の情報収集不足は否めない。

代替案については、12区が29区に移った岡本氏が返上した選挙区、15区は自民党現職の柿沢未途氏が出馬の意向を持っていることから、公明党に再検討の余地はなかった。

■「連立に影響を及ぼすつもりはない」

公明党・創価学会は、猛然と反発した。佐藤氏らは、24日の党東京都本部の会合で以下の5項目の方針を決定させ、党都本部代表の高木陽介政調会長に対応を一任した。

□ 東京28区に公明党は候補を擁立しない
□ 東京29区で自民党の推薦を求めない
□ その他の都内の衆院小選挙区で自民党候補を推薦しない
□ 再来年の都議選などの都内の選挙でも協力しない
□ 都議会での協力関係も解消する

翌25日の自公幹事長会談では、石井氏がこれら5項目を提示し、「東京に限定している話で、連立関係に影響を及ぼすつもりはない」と付言した。茂木氏が「持ち帰って検討したい」と応じたが、石井氏は「これが党の最終的な方針だ」と突き放したという。

自公政権は、政策や理念の合意によるのではなく、相互の選挙協力を前提とする特異な連立政権だ。1999年の連立スタート以来、東京限定とはいえ、選挙協力をめぐって、ここまで拗れた例はない。

岸田首相は、冷静に受け止め、周辺には「公明党は時々、こういう乱暴なことをやるんだよ」とあきれて見せた。

念頭にあるのは、今回の対応だけでなく、菅義偉政権当時の2021年に、自民党の河井克行・元法相の公職選挙法違反事件で空白となった衆院広島3区を、公明党の比例中国ブロック選出だった斉藤鉄夫氏(現国土交通相)に奪われたことだ。公明党・創価学会は「広島3区でこちらに協力しなければ、全国の岸田派議員を支援しない」と、岸田氏に圧力を掛けてきていた。

■公明も東京で「自損行為」の恐れ

今回、当事者の自民党都連には、動揺が走った。衆院の1選挙区当たり2万票余とされる公明・創価学会票を得られなければ、当選が危うくなる議員が少なくないからだ。前回2021年の衆院選で、都内25選挙区では、自民党は23人を擁立し、21人が公明党の推薦を受けた。選挙区で当選した14人中、次点と2万票以内の差だったのは、小倉将信少子化相(東京23区)ら6人を数える。

公明党にとっても、東京29区で自民党の推薦を求めないなら、衆院の議席減という「自損行為」につながる。これまで東京では選挙区1人、比例ブロックで2人の計3人が議席を得ていたが、東京29区で岡本氏は2万~3万票しか望めず、比例選に重複立候補するにしても、東京ブロックで2人しか当選できない計算だからだ。

全国を見ても、公明党は、21年の衆院選で選挙区で9人が自民党の推薦を受けて当選し、比例選でも自民党票がかなり流入してきた。自民党との選挙協力による議席の積み上げは十数議席ともいわれる。選挙協力は公明党の一方的な持ち出しというわけではない。

公明党関係者からは「佐藤氏は、目の前の選挙への対応を優先し、全体の政局や自公連立への影響などを考えようとしない」という困惑の声もささやかれる。

■菅前首相と佐藤氏の太いパイプ

佐藤氏の政治力の源泉は、菅前首相との太いパイプにあるとされる。2015年暮れ、消費税率がその後の19年10月に8%から10%に引き上げられる際の食料品などに適用される軽減税率の導入に、佐藤氏が当時の菅官房長官に働きかけて実現したことから、その存在が永田町に知れ渡った。公明党関係者は、自民党税調会長が軽減税率に慎重だった野田毅氏(元自治相)から、同じ財務省出身の宮沢洋一氏(元経済産業相)に代わったのも、佐藤氏の安倍政権への影響だった、と見ている。

昨年の参院選では、兵庫選挙区などで公明党候補への自民党推薦が遅れ、自公両党が党本部間の相互推薦を見送って対立した際、菅氏が間に入って茂木氏と佐藤氏の会談をセットし、地方組織同士が調整できるように持っていったことがある。

菅義偉首相(当時)は令和3年9月3日、自由民主党総裁選挙に立候補しない意向を表明
菅義偉首相(当時)は令和3年9月3日、自由民主党総裁選挙に立候補しない意向を表明(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

佐藤氏は、日本維新の会との関係でも、菅氏が頼りだった。公明党は、2012年衆院選で、維新が提唱した「大阪都構想」への協力と引き換えに、大阪・兵庫の6選挙区で維新から推薦を受け、6議席を獲得した。その後、公明党が都構想批判に転じると、橋下徹大阪市長が激怒し、2014年の衆院選を前に対立候補擁立に動いたことがある。この時は佐藤氏が官房長官だった菅氏に橋下氏を懐柔するよう密かに依頼し、最終的に維新が6選挙区で候補擁立を見送った。

維新は、今年4月の統一地方選後、公明党との選挙協力を「一度リセットする」(馬場伸幸代表)と表明しており、公明党・創価学会に危機感が強まっている。

■「自民党が頭を下げるのはおかしい」

今回の自公対立でも仲介の切り札と目された菅氏だが、5月末に佐藤氏と接触したところ、高飛車に出られて事態の改善にはつながらず、冷却期間を置くことになった。

公明党・創価学会に人脈がある自民党の二階俊博・元幹事長は6月6日、自公対立の現状について、記者団に「自民党がいつも頭を下げるのはおかしい。お互いに持ちつ持たれつの関係を持続して頑張ることが自民党と公明党の責任だ」と述べ、公明党を牽制するとともに、両党の関係改善を促した。

結果的に、岸田首相は15日、通常国会中の衆院解散見送りを表明したが、公明党との選挙協力をめぐるギクシャクが衆院解散戦略に若干の影響が出たといってもいいだろう。公明党は、統一地方選から半年は間を空けてほしいなどと、一貫して早期解散に反対だった。山口那津男代表は、14日のラジオ日本の番組で、「自民党には公明党との選挙協力で得られている議席が相当数ある」と強調し、首相を牽制していたほどだ。

■公明は基本的に自民候補を推薦

自公の選挙協力に関する動きは、6月21日の国会会期末が近づき、衆院早期解散が取りざたされ始めると、ようやく表に出てきた。自民党から呼びかけ、26日に自公幹事長会談を開き、選挙協力の基本合意文書を交わす方向になったのである。

TBSテレビの16日の報道によると、合意文書案は、次期衆院選で「東京以外の選挙区についての選挙協力を推進し、与党全体として最大限の議席獲得を目指す」としている。さらに、自民党は、東京29区以外の10の選挙区で公明党の候補者を推薦する一方、公明党は、候補者を擁立しない選挙区で基本的に自民党の候補者を推薦する、と記されている。

内容は、5月25日に石井氏が茂木氏に提示した5項目の公明党の方針をそっくり踏襲したシロモノで、自公の亀裂を東京以外に波及させないことを確認する意味しかない。

次期衆院選では、自公両党は東京で多少議席が減っても、与党としての勝算がある。東京の29区以外の選挙区でも、公明党票は直ちに自民党から離れにくいと高をくくったこともあって、このまま衆院選に突っ込もうという政治判断なのだろう。

選挙で公明党の組織票が欲しい自民党、政権に参加することで影響力を得たい公明党。その双方に実利をもたらす連立政権は、今後も小競り合いが多少あっても、何事もなかったかのように続いていくのではないか。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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