ついにリニア妨害は論理破綻…県庁職員も頭を抱える川勝知事の「デタラメ会見」の中身
プレジデントオンライン / 2023年6月27日 7時15分
■「田代ダム案」をついに川勝知事が了承した
静岡県境付近のリニアトンネル工事中の全量戻し解決策としてJR東海が示していた「田代ダム案」について、これを拒否し続けていた川勝平太知事が協議開始をようやく認めた。
今後、田代ダム案の中身がまとまれば、リニア議論の最大の焦点である水環境問題はほぼすべて解決、リニア静岡工区の着工へ大きく前進する。
田代ダム案とは、JR東海が約10カ月間のリニアトンネル工事によって山梨県へ流出する最大500万トンの湧水を補償するため、大井川上流部の田代ダムで毎秒4.99トンの水利権を持つ東京電力リニューアブルパワー(東電RP)が毎秒約0.2トンの取水を抑制し、その水を大井川にそのまま放流するというものだ。
![山梨県へ大量の湧水が流出する田代ダム(=静岡市)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/4/1200wm/img_84f07a9c34475b86e809bab4297cb443400203.jpg)
川勝知事の求める「工事中の全量戻し」の解決策となる。
ただ東電RPは、田代ダム案を受け入れる前提条件として、今回の取水抑制が工事完了後の恒常的な水利権とは無関係であることを関係自治体に了解してもらうことをJR東海に託した。
■川勝知事の「不思議な回答」
「反リニア」に徹する川勝知事は、昨年4月にJR東海が田代ダム案を提案して以来、「取水抑制は東電RPの水利権と関係がある」などと繰り返して、一貫して田代ダム案を拒否してきた。
そんな中突然、静岡県の森貴志副知事は2023年6月14日、「田代ダム案は東京電力RPの水利権に影響を与えない」「静岡県を含めた大井川流域市町は同案を根拠に水利権の主張をしない」などとする通知をJR東海に送った。
つまり、東電RPの求めた前提条件をそのまま認めたのだ。これで、JR東海は東電RPと田代ダム案について具体的な協議を開始して、「工事中の全量戻し」の全容をまとめることができる。
ただ、川勝知事だけがいまだに東電RPの水利権と関係するという主張をあきらめていないのかもしれない。
JR東海に通知を送る前日の13日の定例会見で、共同通信記者から田代ダム案の協議状況について問われた川勝知事は「田代ダムの水利権を持つ東京電力の了解が取れないままである。東京電力からJR東海を通して、田代ダム取水抑制案の実現可能性について明確な返事が届いていない。少なくとも私のところに届いていない」などと何とも不思議な回答をした。
■部下の「助け舟」でようやく事態を把握
実際は、東電RPは全面協力するための前提条件を挙げ、その前提条件の中身を関係自治体に諮っている最中だった。
ところが、川勝知事は「東京電力の了解が取れない」と、まるで“入り口”の段階で止まっているかのような虚偽の発言をしてしまった。
記者の追及に、知事と代わったリニア担当の渡邉光喜参事が「4月26日にJR東海から東電RPと協議を開始する前提条件の確認を求められた。現在、(事務局の県を通して)関係自治体と内容について調整している」と説明した。
![川勝知事に代わって田代ダム案の進捗状況について説明する渡邉参事(右)(=静岡県庁)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/0/1200wm/img_f05fda0e8873c1d2d4a8654bf7eef56e464060.jpg)
事務方との説明の食い違いに、記者が「知事が言っていたことが間違っていたことなのか」とただすと、川勝知事は「そうです。正確な情報をいま初めて知りました」と情けない回答して、驚かせた。さらにもう一度、「いま初めて知りました」と述べたのだ。
事務方が「調整中」と説明すると、川勝知事は「調整していることさえ知らなかった」と明かした。言うなれば、部下の渡邉参事が公の席で、トップの川勝知事の「間違い」を本人がいる前で暴露してしまったことになる。
静岡県庁組織のトップである川勝知事が現在の調整中の中身を知らないと言っているのに、翌14日、県は「田代ダム案は東電RPの水利権とは関係なし」とする通知をJR東海に送ったことになる。
そんなことは普通ありえない。そのような組織で本当に大丈夫なのか、と誰もが心配するだろう。
筆者は、2018年夏に始まった静岡県のリニア騒動の中で、川勝知事がこのようなみっともない姿をさらすのを初めて見た。
本稿では、川勝知事が徹底的に妨害してきた田代ダム案がまとまった理由、川勝知事を含めて静岡県の内部で何が起きているのかわかりやすく伝えたい。
■「ただのJRの地域貢献」で田代ダム案を潰しにかかった
JR東海は昨年4月の県リニア専門部会で、川勝知事から求められた「工事期間中の全量戻し」の対策として、東電RPの内諾を得た上で田代ダム案を提案した。
その直後の会見で、川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる。水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」などと強く反発した。
8月に行われた田代ダムの視察後でも、川勝知事は全国新幹線鉄道整備法に新幹線整備は「地域の振興に資すること」との条文があることを引き合いに出し、田代ダム案を「(あくまで)JR東海の地域貢献」と表現。「リニア工事中の全量戻しにはならない」と湧水の全量戻しの代替案にはならない認識を示した。その後の会見でも、何度も田代ダム案を否定する発言を行った。
このため、JR東海は県リニア専門部会で、田代ダム案が河川法の水利権に抵触しないことを詳しく説明した。
さらに国交省が、田代ダム案が水利権を規定する河川法に触れないことを政府見解として発表した。JR東海が何らかの「補償」を行うことが問題ないことも説明した。
■県庁組織の「機能不全」が明るみに
12月4日の県専門部会後に、森副知事は「田代ダム案は工事中の県外流出の湧水の全量戻し策として有効だと川勝知事も了解している」と発言した。
県リニア専門部会で、全量戻し策として何度も議論しているのに、「JR東海の地域貢献」などと逃げられないことを事務方はちゃんと承知していた。
ところが、その直後の会見で、川勝知事が従来と同じように田代ダム案を否定する発言を続けたことで、記者たちの質問が集中した。
川勝知事は「JR東海は水利権を持っていない」「田代ダム案には水利権が関係する」と再び発言して、森副知事の発言を台無しにしてしまった。県庁組織そのものが“機能不全”に陥っていることを川勝知事自らが明らかにした。
記者たちの厳しい追及で紛糾する中、川勝知事が「JR東海からちゃんとした説明が出てこない」などとJR東海に責任転嫁してしまった。
この発言にあきれた共同通信記者は「どう考えても、この県の組織の在り方を疑わせるし、不誠実でずるいと思わせる」と厳しい意見を投げつけた。
■流域自治体を懐柔できず逃げ場がなくなった
ことし1月4日の年頭あいさつで、川勝知事は「田代ダム案は水利権と関係する」と再び発言。1月24日の会見でも「JR東海が地元の(山梨県)早川町に電源立地交付金の補償をすると言われた。補償することで目的外使用というか、水利権の問題になる」などと述べ、ここでも勝手な解釈を行って政府見解まで否定した。
水利権を持ち出して東電RPにJR東海との協力を撤回させようと、川勝知事が田代ダム案をつぶすことに躍起になっている中、森副知事もさまざまな難癖をつける意見書をJR東海に送り続けた。
それでもJR東海は、県リニア専門部会の議論を経て、東電RPとの協議開始を求めた。とうとう逃げようがなくなった静岡県は、流域市町長らの加入する「大井川利水関係協議会」に諮ることを決めた。
県はこれまで大井川利水関係協議会を主導してきた。そのため、今回もいままで通り強引にまとめる形だけの会議を開くことができると思い込んでいた。
ところが、あまりにも「反リニア」を貫く川勝知事の姿勢に危機感を抱いた流域市町長らから「田代ダム案の協議を進めてもらいたい」旨の意見が出た。
![大井川利水関係協議会で県への不信を明らかにした流域市町長ら(=静岡県庁)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/1200wm/img_830d767aeff78991f39a66ace0567999482721.jpg)
森副知事は会議の結論を避けたが、流域市町長のほぼ全員がJR東海の主張を理解した上で田代ダム案に賛成の意見を述べた。これで県との意見対立が浮き彫りとなった。
その後も県の強引な手法に反発した島田市など流域市町長は、国が積極的に関与するよう国交省に直接要望書を手渡すなどし、県の対応に不満をあらわにした。
■13日の知事会見での発表は見送られた
そんな中で、JR東海は4月26日、東電RPと協議を開始するために「前提条件」の文言を確認する文書を県に送った。
当然、流域市町長らは田代ダム案の早期の協議開始を求め、県の誠実な対応を迫った。流域市町の強い圧力に、このまま放置しておくことはできないとみた森副知事ら幹部は、川勝知事へ流域市町長らの意向を説明して、田代ダム案が水利権と関係ないことを県も認める了解を上申した。
川勝知事は6月初旬までに、今回のJR東海への通知案を了解したのだ。
流域市町長らも13日正午までにこの通知案に同意したため、県は13日午後2時からの知事会見で、田代ダム案を了承したことを発表する準備を進めていた。
ところが、当日朝から、森副知事はじめリニア担当の3人の幹部が急遽、山梨県庁の長崎幸太郎知事への説明のために不在となった。
山梨県は、川勝知事の「静岡県の水が引っ張られるから山梨県内の調査ボーリングをやめろ」という科学的根拠のない主張に強い怒りをあらわにして、静岡県を何度も批判していた。このため、川勝知事の指示で森副知事らは予定を変更して、山梨県庁へ向かったのだ。
記者会見が始まる約1時間半前の同日午後0時半ごろ、川勝知事は森副知事から、「山梨県から出る水が静岡県の水」などという主張に長崎知事が納得できない旨の説明を受けた。山梨県とのごたごたが続く中で「田代ダム案承認」を発表することは適切ではないと考えた静岡県は、発表を見送ることを決めた。
■承認事項を忘れて思いつくまま話してしまう
当日の知事会見は、長崎知事との主張の食い違いなどが主なテーマとなり、記者の追及が続いた。厳しいやり取りの中で、田代ダム案を承認したことなど川勝知事の頭の中からすっかりと消えてしまったようだ。
最終的に、渡邉参事から知事の「間違い」を暴露される羽目に陥ったのだ。
県関係者によると、川勝知事は、このように承認事項を忘れてしまい、思うがまま発言してしまうことがしばしばあるという。記者たちも普通ならば、見過ごしていたのかもしれない。
ところが、田代ダム案はこれまで何度も知事会見の話題となり、川勝知事が都合よくごまかそうとしても、記者たちはちゃんと“事実”を承知していた。
結局、川勝知事が墓穴を掘る結果になった。
川勝知事はこの8月で御年75歳を迎え、後期高齢者の仲間入りをする。
今回のようなみっともない姿をさらしてしまったのを年齢だけのせいにするつもりはないが、「老害の人」と騒がれる前に、組織のトップとして後進の若手に道を譲るときが来たのだろう。
いまだに川勝知事は田代ダム案が水利権と関係あると思い込んでいるのかもしれない。だからこそ、渡邉参事は勇気を振り絞って、“裸の王様”である川勝知事に「間違い」を直言したのだろう。
田代ダム案協議開始のJR東海への通知内容とともに、「山梨県の調査ボーリングの中止要請」などと無謀な言い掛かりを続けるのをやめるよう、森副知事ら幹部は川勝知事にちゃんと伝えなければならない。
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ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)
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