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やはりTikTokは利用者をスパイしていた…「完全匿名アカウント」でも氏名や住所がすぐにバレる理由

プレジデントオンライン / 2023年6月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Urupong

■アメリカでTikTokを禁止する動きが進んでいる

中国発の動画共有アプリ「TikTok」の信頼性が再び揺らいでいる。

TikTokを傘下に持つ中国ネット大手・ByteDance(バイト・ダンス)社が、利用者の視聴履歴を収集。LGBT動画を閲覧した人々のリストを社内で保持していると、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。海外の有力メディアがこの報道を取り上げ、波紋が広がっている。

同紙が元従業員の証言として特報したところによると、TikTokは少なくとも1年にわたる利用者の視聴履歴を分析。性的少数者のリストを作成し、社内のデータベースに保持していた。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略)などのトピックの下でユーザーが視聴した動画を分類し、ユーザーのID番号は一部の従業員が閲覧できる「ダッシュボード」に保存されていたという。

TikTokは10~20代に人気のアプリで、世界で10億人が利用している。アメリカ国内の利用者は1億5000万人に上る。

一方、TikTokは中国企業に属することから、中国政府にユーザーデータを提供するのではないかとの懸念が絶えない。米国の議員らが国内の利用規制、あるいは全面禁止の検討を進めている最中だ。今回の報道を受け、TikTokにはさらに厳しい立場に追い込まれることになりそうだ。

■TikTokは性的少数者のリストを作っていた

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、LGBTユーザーのリスト作りは、ユーザーの趣向を分析するByteDanceのアルゴリズムによって行われていた。TikTokではユーザーが見たい動画を自身で選択することが少なく、基本的には下にスクロールし続けることで、アプリが選定したおすすめ動画が次々と現れる仕組みだ。

おすすめ動画はユーザーによって異なり、ユーザー自身が過去に視聴した動画の傾向をもとに、人工知能(AI)が好みに合うと思われる動画を提示する。この視聴履歴の分析の一環としてTikTokは、性的少数者であるLGBT向けの動画を多く視聴したユーザーのリストを作成していたという。

TikTokは直接的には、ユーザーに性的指向の開示を求めていない。だが、同アプリに関わった元従業員がウォール・ストリート・ジャーナル紙に明かしたところによると、LGBTなどのトピックごとに、視聴したユーザーを「カタログ化」していたという。

暗い部屋でパソコンのキーボードを打つ人の手元
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

■IDごとの性的指向がチェックできる状態だった

さらに問題なのは、ユーザーのIDと動画を関連付け、一部従業員が閲覧できる状態となっていたという点だ。

ダッシュボードと呼ばれる一覧表示ツールを使えば、LGBTなど任意のトピックごとに、関連する動画を視聴したユーザーのIDを一覧表示可能だった。また、IDをもとにユーザーが(例えば「動物好き」や「バイセクシュアル」など)どのカテゴリに振り分けられているかを検索することもできた。例えば、TikTok従業員が知人や興味を抱いた人物のIDを把握していれば、その人の性的指向をチェックすることも可能だったことになる。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、問題のダッシュボードは2022年中に運用が終わったという。だが、TikTokは同紙の取材に対し、ダッシュボードの表示に使われていた元データについて、その管理をアメリカの子会社に移し、より限定された従業員のみが閲覧可能になるよう対策を施したと説明している。

裏を返せば、個人の性的指向を収集したデータは現在も存在し、一部の従業員が閲覧できる状態だった恐れがある。

■なぜTikTokはそこまでデータを収集するのか

懸念されるのはリストの流出、それに伴う性的少数者のプライバシー侵害である。親しい家族にさえ開示していなかったはずのセクシュアリティーが、アプリを通じて勝手にネット上に流出する事態ともなりかねない。対象のユーザーが嫌がらせや攻撃のターゲットとなる恐れがある。

LGBTQの話題を扱う米『アドボケート』誌は、ただでさえ中国でのデータ管理体制に疑念が噴出しているTikTokにおいて、不信に輪を掛けるスキャンダルになったと断じる。

同誌は、オンライン広告の自主規制基準を策定している代表的な業界団体のひとつであるNAI(ネットワーク・アドバタイジング・イニシアチブ)の指針により、こうした扱いは禁じられていると指摘する。NAIは2015年以降、広告配信のためユーザーがLGBTQ+であると識別する行為を禁止しているという。

大手動画プラットフォームやソーシャルメディア各社は、この分野の個人情報の収集に極めて慎重な姿勢を示しているが、TikTokは従っていなかったというわけだ。

複数のSNSアプリのアイコンが表示されたスマホ
写真=iStock.com/P. Kijsanayothin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/P. Kijsanayothin

米テックメディア「フューチャリズム」の短編記事セクションである「バイト」は、この問題の異質さを指摘する。

同記事はまず、ソーシャルメディア各社は一般に、ユーザーの個人情報や好みの動画ジャンルなどを把握し、パーソナライズされたターゲット広告の表示を行っていると認めている。しかし「(一般的な)ソーシャルメディアは、性的指向など扱いに注意を要するあらゆるデータの収集を控えている。なぜならこれらのユーザーが標的となる恐れがあるからだ」と解説している。

TikTokのデータ管理体制は業界の基準を大きく逸脱し、デリケートなデータを多くの従業員が閲覧可能な状態で杜撰(ずさん)に管理していた。バイトは記事のなかで、「中国資本の企業内の、異常な数の従業員がアクセスできた」こと、さらには「中国の従業員がリストの権限を管理していた」ことに注目し、このリストの疑惑は際立ったものだと論じている。

■「視聴履歴は性的指向を示すものではない」と釈明

ByteDance社はウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に、リストはあくまでユーザーの視聴傾向を示すものであり、本人の性的指向を示すものではないと釈明している。例えば、パン作りの動画を閲覧したユーザーが、必ずしもパン職人だとは限らないのと同じように――との説明だ。だが、実質的にはLGBTのユーザーを管理するリストとなっていたと指摘されても仕方ない状態だったのではないか。

リストの存在は、中国国外の従業員たちには異質に感じられたようだ。FOXニュースは、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの従業員が、上級幹部に対して懸念を表明していたと報じている。「データが他の集団に共有されたり(社外へ持ち出されたり)、ユーザーへの『脅迫』に使われたりする恐れがあると警告していた」と同紙は述べている。

これに対して中国国内では、従業員は視聴データの収集をことさらデリケートな問題と認識していなかった。中国国内からこうした声が上がることはなかったという事実からも、巨大アプリのモラルの低さが懸念される。

■英紙記者は「匿名アカウント」でも身バレしていた

TikTokによる「監視」は、ユーザーの性的指向にとどまらない。イギリス人女性ジャーナリストのクリスティーナ・クリドル氏は昨年のクリスマスの2日前、TikTokから驚くべき電話を受けたという。

彼女は英フィナンシャル・タイムズ紙のテクノロジー特派員を務める。英BBCによると、クリドル氏は、中国の従業員2人とアメリカの従業員2人がアカウントのユーザーデータを同意なしに覗き見ていたことを告げられた。クリドル氏はBBCに対し、「本当にぞっとする恐ろしいことで、個人的には重大な侵害行為であると感じられました」と語る。

クリドル氏は、TikTokアプリを個人用の携帯電話に入れていた。アカウント名は愛ネコの名前(バフィー)。本名、職業は略歴に記載していなかった。約170人のフォロワーがおり、3年ほどの間に約20本のネコ動画を投稿していた。

このアカウントをターゲットに据え、TikTokの内部監査部門のメンバーが権限を悪用した。アプリの情報にアクセスし、クリドル氏のスマホのIPアドレスの位置情報(実質的に彼女自身の位置情報)を追跡。TikTokの従業員の位置情報と照合することで、クリドル氏に情報提供を行っていた従業員を突き止めようとしたという。クリドル氏は、仕事中に位置情報を把握されるのであればまだしも、「私の私生活にすら及んでいた」とおびえる。

スクランブル交差点を渡る人々の個人情報を特定するイメージ
写真=iStock.com/LeoPatrizi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LeoPatrizi

■「TikTokがわれわれの記者をスパイしていた」

TikTok側は事実関係を否定しているが、フィナンシャル・タイムズ紙は「TikTokがわれわれの記者をスパイしていた」と題する音声記事を配信。クリドル氏はこのなかで、こう問いかけている。

「標的型の監視です。これは非常に特異であり、間違いなく理由があります。政治家、活動家、ジャーナリストが問題提起をしていますが、アプリを利用している人も自分自身に問いかける必要があります。あなたはそのトレードオフに満足していますか? いつか標的にされるかもしれないことをうれしく思いますか?」

「パーソナライズされた広告など、私たちは自身の情報をSNS企業に提供することに慣れています。私たちにとって目新しいことではありませんが、今は認識を深める必要があるかもしれません。私たちは、プラットフォームから得られる利益のためにプライバシーのトレードオフを行う意思があるかどうかを自問する必要があると思います」

■アメリカ連邦政府は職員にアプリ削除を指示済み

TikTokをめぐっては、中国政府が求める任意のユーザー情報が中国共産党に渡される恐れがあるとして、アメリカ国内で規制する動きが広がっている。

懸念される最大の理由は、中国企業に情報開示や機微な情報の越境移転を制限することを義務付ける「国家情報法」(2017年施行)だ。第7条で「いかなる組織及び国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助及び協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人及び組織を保護する」と定めている。

また2014年の反スパイ法では、状況調査、証拠収集の際に「ありのままに提供し、拒絶してはならない」と協力義務を規定している。だから、あらゆる中国企業から、中国共産党にデータ流出のリスクがあると懸念されるわけだ。

アメリカ連邦政府は公用端末でのアプリ利用をすでに禁止。2月末、職員に対してアプリの削除を命じた。

こうした動きは州政府にも広がりつつある。西部モンタナ州では昨年12月、州政府の端末でのアプリ利用を禁止。5月には、個人端末での利用を禁止する法律が成立した。BBCによると、アメリカでTikTokの規制対象が一般利用者に広がるのは初めてだという。

米インサイダーは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道を受け、TikTokにさらなる不安要因が加わると指摘した。インサイダーの取材にByteDance社は「TikTokを使う人々のプライバシーとセキュリティーを守ることは、当社の最優先事項のひとつです」と述べているが、実態と乖離(かいり)があるようにも思われる。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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