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手当て新設程度ではどうにもならない…教師が「若者の不人気職業」になるまで放置した日本のお粗末さ

プレジデントオンライン / 2023年6月23日 9時15分

旧文部省庁舎に掲げられた、文部科学省、文化庁、スポーツ庁の看板=2023年3月24日、東京・霞が関 - 写真=時事通信フォト

■教員不足が深刻化している

「教員不足『悪化した』4割 依然深刻、文科省調査」(共同通信6月20日配信)「新任教諭 増える退職 目立つ精神疾患 09年度以降で最多」(朝日新聞6月21日朝刊1面)。

このところ小中学校など公立学校の教員不足を伝える報道が増えている。前者記事の調査では、都道府県・政令指定都市の教育委員会のうち43%に当たる29で教員不足が前年度よりも「悪化した」と回答。「改善した」と答えた11を大きく上回った。「同程度」が28で、教員不足は深刻な状況が続いていることが明らかになった。その一方で、せっかく新規採用してもすぐに辞めていく事例が増えている、と報じているのが後者の記事だ。いずれも学校現場の職場環境に問題があり、学校での「働き方改革」や待遇の見直しが待ったなしだとしている。

■「全員合格」では質を確保できない

実際、教員のなり手は大きく減っている。公立の小中高校のほか特別支援、養護、栄養の教員も含めた「教員採用試験」の受験者数は2013年に18万人いたが、2021年には13万4267人にまで減少している。2000年前後は10倍を超える難関試験だったが、今や3.8倍にまで低下した。

それでも定員を充足しているのではないか、と思われがちだが、そうは言い切れない。教員の質を確保するためには全員を合格とするわけにはいかないうえ、合格を出しても民間企業などに就職して実際には教員にならないケースも少なくない。大分県や熊本市などで採用予定数を確保できない「定員割れ」が生じている。冒頭の調査の「教員不足悪化」と答えている都道府県では何がしらかの定員の不充足が起きていると考えられる。

なぜ、教員のなり手が足りないのか。ひとつは大学新卒年代の人口がそもそも大きく減っていることだ。加えて、新型コロナの終息で、企業の採用活動が活発になり、民間企業に流れる人が増えている。国家公務員や弁護士なども受験者が大きく減少しており、難関試験を避ける傾向が強まっていることも背景にある。

■「#教師のバトンプロジェクト」で噴出した悲痛な体験談

また、教員の場合、労働環境の劣悪さがしばしば報じられており、これが忌避される要因になっているという見方が根強い。

象徴的なのが、2021年3月に文部科学省自身が始めた「#教師のバトンプロジェクト」だ。本来はベテラン教師が教職の魅力をSNSで発信することで、若手にバトンをつないでいってほしい、という趣旨で始まったが、蓋を開けてみると、現場での悲痛な体験談が噴出した。

NHKが番組で取り上げたツイートには以下のようなものがあった。

『まだ中学校教員になって3週間も経ってないけど、正直この1年で辞めようかなって思ってる。理由は部活動。学級経営で頭がいっぱいで教材研究もろくに出来てないのに、放課後休日は部活動って意味わからん』
『3年勤めて精神疾患になりました。土日休めない。毎日残業。毎月90時間近くの時間外労働。死にたいってずっと思ってた。労働環境の改善こそが、これからの先生たちに届けたい本当のバトンです』

当時、文科大臣だった萩生田光一氏が「学校の先生ですから、もう少し品の良い書き方をしてほしい」と苦言を呈するほど、“苦情殺到”だったのだ。

誰もいない教室
写真=iStock.com/Yoshitaka Naoi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yoshitaka Naoi

■若手教員への負担増は予想されていた

実際、教員の勤務実態は厳しい。文科省が調査した「教員勤務実態調査(令和4年度)速報」によると、10、11月の1日あたりの在校時間は、中学校の一般教員で11時間1分。副校長・教頭になると11時間42分に達する。慢性的な残業体質が根付いていることが分かる。また、土日は、一般教員が2時間18分に対して、副校長・教頭は1時間16分と、部活の影響と見られる出勤が教員の負担になっている様子が分かる。それでもこの調査は6年前との比較になっていて、いずれも在校時間が短くなっている。おそらく文科省は「改善している」ことを強調したいのだろう。

実は、こうした教員、特に若手教員への負担増は、もともと予想されていたことだ。決して放っておいて、改善方向に向かうという話ではない。というのも、かつて大量採用されたベテラン教員が、ここへきて相次いで定年を迎えており、学校現場における年齢構成が劇的に変化しているからだ。例えば2013年頃ならば中学校の現場は50歳から55歳の教員が20%、45歳から50歳の教員も15%を占め、次いで40歳から45歳の教員が多かった。25歳から30歳の若手は全体の10%程度で少数派だったのだ。

つまり、新人が入ってきてもベテラン教員が面倒を見る体制になっていたのだが、2019年頃からこれが大きく崩れた。45歳以上のベテラン教員が大きく減り、30歳から35歳が最多層になると共に、若手の相対的な割合も高まったのだ。これが、まだまだ経験の浅い若手教員への負荷を大きくしていると見られる。

■事務処理作業に電子化対応…仕事が膨らみ続ける

この教員の年齢構成の変化はもちろん予測されたことだ。本来は、経験値が下がることを想定したうえで、仕事のやり方を見直す必要があったのだが、現場ではなかなか仕事の見直しは進んでいないという声が多い。圧倒的に書類作成や報告などの事務処理作業が多く、さらに部活などに追われて授業準備ができない、というのである。生徒たちと向き合うことにひかれて教員を選んだのに雑務に追われる、という若手教員の悲鳴はあちらこちらで聞く。

ギガスクール構想などで急速に電子機器を使った子どもたちへの教育が始まっている一方で、授業内での電子化対応は先生たちの力量に依存している。そうでなくても授業の準備が大変なところに電子化対応などの新しい業務も降ってくる。さらに事務処理もある、と仕事がどんどん膨らむ傾向にあるわけだ。

小学校の教室でタブレット端末を使用して授業中のクラス
写真=iStock.com/eggeeggjiew
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eggeeggjiew

追い詰められて精神を病んでしまう新人が増えているという冒頭の朝日新聞の報道は、現場からの切実なSOSだと捉えるべきだろう。

岸田内閣が6月16日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」いわゆる骨太の方針には、「2024年度から3年間を集中改革期間」として対策に乗り出すとしている。具体的には「小学校高学年の教科担任制の強化や教員業務支援員の小・中学校への配置拡大を速やかに進める」ことや新たな手当ての創設など給与体系の見直しを行うとしている。実質的な残業時間に当たる「時間外在校等時間」を月45時間、年360時間以内とする「上限指針」を実現するとしている。

■公立学校という職場に「将来性」を示せるのか

だが、現実には環境は一段と厳しくなる。教員を増やそうにも一段と人材確保が難しくなるのは確実な情勢だからだ。2022年10月に22歳だった人口、つまり2023年に大学を卒業した年齢に当たる人の総数は126万4000人だった。これが2024年は124万3000人、25年120万1000人、26年114万8000人、27年114万8000人と急速に減少することが分かっているのだ。そうした中で、教員へのなり手を確保していくことは容易ではない。

一方で、小学校1年生に入学する6歳年齢は今年入学が100万人を切って97万8000人となったが、3年後には87万1000人に激減する。その先6年後は79万8000人だ。これは生徒の数が減るから教員不足が解消する、という意味ではない。生徒が減れば学校自体の存続が危うくなり、統廃合などの議論が加速する。

つまり、これから教員になろうとする人たちにとっては、公立学校が「衰退」していく存在であることが一段と明らかになってくるのだ。自分が働く場としての「将来性」をどこまで信じることができるのか、大きな問題になってくるわけだ。これから教員になっていく若者たちの将来に向けたキャリア・パスを示すことができなければ、いくら手当てを新設したとしても、優秀な人材は集まらないだろう。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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