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港区は富裕層だけの街ではない…森ビル社長が「ヒルズ」を展開するときに最も注力していること

プレジデントオンライン / 2023年6月27日 9時15分

森ビルの辻慎吾社長 - 撮影=門間新弥

開業20年を迎えた六本木ヒルズ(東京都港区)が好調だ。2022年度の商業施設全体の売上高は過去最高となり、国内有数の集客力を誇る。開発・運営を手掛ける森ビルは、今年秋に虎ノ門と麻布台に2つのヒルズを立て続けにオープンする。なぜ六本木ヒルズは成功したのか。これからの東京に必要なものは何か。辻慎吾社長に聞いた――。

■開業20年で過去最高の人出を記録

――2003年に開業した六本木ヒルズは、開業20年を迎えた現在も成長を続けています。なぜ成長を続けられるのでしょうか。

街はつくるだけではなく、手塩にかけて育んでいくことが重要です。通常、街の「鮮度」は開業時が最も高く、時間の経過と共に落ちていく。新しい街ができて初めて見るので、「こんなお店がある、美術館や映画館、いろいろな施設がある。見にいこう」というわけです。

一方で、六本木ヒルズをおもしろいと感じ、ファンになってくれた人が残り、また新しい人が来る。これを繰り返していくことで、人々との絆は時間の経過と共に深まっていきます。

そこで、六本木ヒルズのコミュニティに根差したお祭りやクリスマスといったさまざまなイベントや店舗の入れ替えなどによって街の鮮度を保ちながら、人々との「絆」を深めていくことができれば、街全体の価値を継続的に向上させていくことができます。

■「オフィス、住宅、商業施設、文化、緑」が揃う街

六本木ヒルズには、開業から20年が経過する現在でも年間約4000万人の人々が訪れていますし、昨年のクリスマスイブの人出は過去最高の33万人を記録しました。商業施設の売り上げも2022年度が過去最高の年間売り上げを達成しました。

これらの数字が、時間の経過と共に磁力を増していく、まさに「都市をつくり、都市を育む」という森ビルの都市づくりを如実に表していると捉えています。

――もともと六本木ヒルズはどのような考えでつくられたのでしょうか。

森ビルは30年以上も前から、「東京は、世界の都市と国際都市間競争を繰り広げている」とずっと言い続けています。それを勝ち抜いていくためには、従来型のオフィス街、住宅街、商店街ではなく、グローバルプレーヤーが求めるさまざまな都市機能が徒歩圏内に集約されたコンパクトシティが必要だと考えています。

森ビルが理想とする都市は、オフィス、住宅、商業、文化施設、緑、公園といった都市機能が高度に複合したコンパクトシティです。六本木ヒルズもその考え方でつくっています。また、用途が複合しているため、住民やオフィスワーカーだけでなく、遊びに来る人もいる。いろいろな人がいて、層が広いから、街がどんどん活性化していきます。

■新たなヒルズにも根付く「文化を軸にした都市づくり」

――今年の秋には麻布台ヒルズや虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの開業も予定しています。2つのヒルズの開業は、東京にとってどんな意味がありますか。

森ビルはこれまでも、東京という都市に足りないもの、これからの時代に必要なものを整備してきました。

六本木ヒルズ開発時の社長であった森稔は、「文化のない都市は世界の都市間競争に勝てない。東京には文化が足りない」と言い続けていました。ロンドン、ニューヨーク、パリ、どの都市も代表的な美術館があり、文化があります。東京はもっと文化に力を入れるべき、文化に接する環境をつくるべきという考えで、六本木ヒルズでは街のコンセプトを「文化都心」としました。

本来なら高収益が期待されるタワーの最上層に、森美術館をはじめとする文化・交流施設をあえて置いたのは、街のコンセプトを世の中に強く発信するためです。

文化を軸にした都市づくりの考え方は、虎ノ門ヒルズにも活かされています。今年の秋に開業する「ステーションタワー」の最上部には、情報発信拠点となる「TOKYO NODE」がオープンします。最先端のテクノロジーを取り入れ、企業やクリエーターが世界に向けて文化や情報を発信する「場」と「仕掛け」をつくる空間にしていきます。

森ビルの辻慎吾社長
撮影=門間新弥

■「麻布台ヒルズ」は緑と健康、教育の施設に

また、「森タワー」は環状二号線、ステーションタワーは日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」と一体的に開発しています。都心部の既成市街地で都市インフラを整備するためには、再開発の中でやるしかない。100年、200年といった視点で都市づくりを進め、東京の都市力を向上させていくうえで、虎ノ門ヒルズが今後のモデルケースになると考えています。

一方、「麻布台ヒルズ」のコンセプトは「Green&Wellness」。緑とすこやかな暮らしをコンセプトに置いている街なんて、世界をみても他にありません。

高低差のある地形を生かし、低層棟の屋上を含む敷地全体を緑化しました。東京は緑が少ないと言われますが、麻布台ヒルズは6000m2の中央広場を含む約2.4haものスペースに緑が溢(あふ)れています。人が水と緑に触れられる、自然豊かな憩いの場をつくり出します。

拡張移転してくる慶應義塾大学病院 予防医療センターを核として、スパやフィットネス、フードマーケットといった施設との連携だけでなく、広場なども含めた生活のさまざまなシーンで心と体の健康をサポートする仕組みを構築することで、あらゆる世代の人々が健康で生き生きと過ごし、暮らし続けられる街づくりを目指しています。

また、麻布台ヒルズではインターナショナルスクール「ブリティッシュ・スクール・イン 東京」を誘致しています。校舎には室内プールや校庭もあり、都心でここまで大きなインターナショナルスクールは初めてです。これは東京の国際競争力を高める大きな武器になるはずです。

■ヒルズの住宅はなぜこれほど高価なのか

――ヒルズが成功する一方で、森ビルが開発を進める港区に「富裕層の街」というイメージを持つ人も少なくありません。

オフィスの賃料は丸の内のほうが高いだろうし、お店はグレードによって価格帯が異なります。ヒルズのなかで、値段が突出しているのは住宅だけです。

私は、住宅にも多様な選択肢が必要だと考えています。自宅から徒歩で職場に行き、仕事が終わればすぐに映画館に行ける。近くの飲食店で食事をした後は美術館にふらっと立ち寄ってみる……。私たちが提供するまで、そうしたライフスタイルをかなえる住まいは日本にありませんでした。

世界の都市として東京を考えたときに、世界にはハイクラスな住居を求める人が多数いるという現実を踏まえれば、東京にもそれに応える住まいがなくてはなりません。

そうでなければ彼らは違う国へ行ってしまう、つまり東京が負けてしまうということになります。東京が世界の都市との競争に勝つために、これまで誰もやっていないことに挑戦してきたんです。

森ビルの辻慎吾社長
撮影=門間新弥

■森稔前会長から受け継いだ「森ビルらしさ」

――森ビルが長きにわたり、一貫した都市づくりができるのはなぜでしょうか。

森前会長が示した「都市づくりに対する高い志」「都市とまっすぐに向き合う姿勢」「決して妥協しない、諦めない」「常に新しいこと、難しいことに挑戦する」といったベースとなる視点、思想、姿勢。私はそれらを「森ビルらしさ」と呼び、経営における軸として最も大切にしていて、社員にもよく「森ビルらしい都市づくりをしよう」と呼びかけています。

この軸がいささかもブレないからこそ、長年にわたって一貫した都市づくりを進められているのだと思います。

また、森の思想は、森ビルにとってもプラスとなるだけでなく、東京や日本にとっても重要な思想だと思っていますから、今もあらゆる場面で森が残した言葉・思想を伝えるようにしています。

例えば、森の命日である3月8日を「都市について考える日」と名付け、毎年全社員が集まって、「森ビルらしさ」を確認する日としています。今年の「都市について考える日」でも、その思想を継承・発展させていくことがいかに重要かということを社員に伝えました。

■東京はまだまだポテンシャルがある

「都市について考える日」では、私の話の後に、都市づくりに関わるゲストをお迎えして、社員にむけた講演をお願いしています。今年のゲストであるデザイナーのトーマス・ヘザウィックさんからは、「森ビルほど真剣に都市について考えている人たちはいないし、こんなにも意見をぶつけ合ったこともない。しかし、その過程で自分の才能を超えて、良い街ができるのだと気がついた」という話をしていただきました。

東京が国際都市間競争に負けるということは、人々や企業が東京から去り、シンガポールや香港などへ行ってしまうということです。現在、森ビルのオフィスには多くの外資系企業が入っていますが、そのアジア拠点の多くは、東京ではなく香港やシンガポールにあります。これを何とかして東京に誘致したい。

東京は本当にいい都市で、まだまだ強い。働くにしても住むにしても遊ぶにしても、東京は他国の都市より絶対にいいんですよ。こうした強みをさらに伸ばして、弱い部分を底上げしていけば、東京はこの競争に勝てると思うんです。

しかし、そのためには、政官民の全員が「東京が熾烈(しれつ)な国際都市間競争のなかにある」ということを強く認識し、世界の都市と戦っていかなければいけない。東京一極集中が問題視されることもありますが、日本経済のエンジンである東京が弱くなったら日本は終わりです。

森ビルの辻慎吾社長
撮影=門間新弥

■都市間競争に勝ち抜くために森ビルがすべきこと

――国際都市間競争において、森ビルが果たす役割は何でしょうか。

東京は、面積も、人口も、GDPも、とても大きな都市です。オフィス面積もマンハッタンの2倍近くあります。なかでも、港区には大使館が多数立地し、外資系企業も多く集積し、外国人居住者も圧倒的に多い。さらに、緑豊かで、文化施設やミシュランの星付きレストラン、病院や学校も多く集積している。国際的で、多様性にあふれ、文化的にも豊かなこのエリアは、世界から人・モノ・金・情報を惹きつける「国際新都心」としてのポテンシャルが極めて高いと言えます。

麻布台ヒルズと虎ノ門ヒルズが誕生し、六本木ヒルズ、アークヒルズとつながる。それぞれ異なる個性を持つ複数のヒルズをビジネス、緑、文化、DXなどでつなぐことで、世界から人、モノ、金、情報、知恵を惹きつける強い磁力が生まれます。それが港区全体の、ひいては東京の価値向上につながっていくと考えています。

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辻 慎吾(つじ・しんご)
森ビル社長
1960年、広島県生まれ。85年横浜国立大学大学院工学研究科修了。同年森ビル入社。2001年タウンマネジメント準備室担当部長。05年六本木ヒルズ運営室長兼タウンマネジメント室長。06年取締役、六本木ヒルズ運営室長兼タウンマネジメント室長。09年取締役副社長。11年6月から現職。

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(森ビル社長 辻 慎吾 構成=辻村洋子)

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