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かつて1位だった三菱商事は10位以下に…東大生がこの20年で「商社よりもコンサル」を選ぶようになったワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月28日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

この20年間で東京大学の卒業生の就職先には大きな変化があった。朝日新聞社 教育コーディネーターの中村正史さんは「かつては国家公務員や金融業界が人気だったが、いまは外資系のコンサルティング会社や金融に人気が移っている。激務でも給与水準が高くキャリアアップにつながることが東大生にとって魅力的なようだ」という――。

※本稿は、中村正史『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■2007年は金融や自動車メーカーが人気だったが…

かつては4年で学部をストレートに卒業して、官僚や伝統的な大企業を目指していた東大生の進路は、どう変化しているのだろうか。この20年間の国家公務員総合職(旧I種)試験の合格者数や、業種別の就職者数、2000年代半ば以降の就職先の推移を調べてみた。

東大の学部卒業生は毎年約3000人。工学部は7割近くが、理学部は8割以上が大学院に進学するなど、理系を中心に進学者が多く、学部を卒業して就職するのは3分の1程度の1000~1100人である。

就職先から見てみよう(出典は東京大学新聞)。2007年の大学院生を含めた就職先の1位は、みずほフィナンシャルグループ。以下、2位日立製作所、3位大和証券グループ、4位NTTデータ、5位東芝、6位野村證券、7位トヨタ自動車、8位に同数で三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)、東京電力が続いている。当時は、銀行や証券会社、重電や自動車メーカーが人気だった(図表1参照)。

【図表1】2007年卒業生の主な就職先
出所=『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』

■急激に人気就職先となった「外資系コンサル」

これが、2022年には、1位が外資系コンサルのアクセンチュアになる。以下、2位ソニーグループ、3位楽天グループ、4位マッキンゼー・アンド・カンパニー、5位日立製作所、6位に同数でソフトバンク、野村総合研究所、PwCコンサルティング、9位にヤフーと富士通が続いている(図表2参照)。

【図表2】2022年卒業生の主な就職先
出所=『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』

アクセンチュアは2018年にトップになって以降、2019年の2位を除いて首位が続いている。

学部生に限れば、トップは2年連続で楽天グループである。以下、2位マッキンゼー・アンド・カンパニー、3位三菱UFJ銀行、4位PwCコンサルティング、5位に三菱商事と三井住友銀行が続く。外資系コンサルやIT関連企業が上位に躍進しているのがわかる。一昔前の卒業生からすれば、全く意外な結果ではないだろうか。

次に、東大の公表データを遡り、学部卒業生の業種別の進路を調べてみた。20年前の2003年卒業生では、最も多いのは公務員(196人)で、就職者の18%を占めていた。金融・保険(183人)、サービス(162人)、情報・通信(157人)と続いている。

公務員は、2004年の学部卒就職者の20%を占めた。しかし、2005年に金融・保険が上回ると、以降、業種別では一貫して最も多くなる。公務員は、2022年卒業生では12%まで下がっている。業種別で増えているのが情報・通信で、2022年は公務員を上回り、金融・保険に次いで多くなった。製造業も2018年あたりから減少傾向にある。

■東大法学部から官僚を目指す学生は2~3割程度

続いて、官僚志望者が受ける国家公務員総合職試験(春)の合格者数の推移を見てみた(図表3参照)。

【図表3】国家公務員総合職試験(春) 東大からの合格者数の推移
出所=『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』

1990年代前半まで東大は毎年500人前後の合格者を出していた。90年代後半に400人を下回った時期があったが、2002年から増加し、2000年代前半には500人近くまで戻った。以後、漸減しながらも2016年まで400人台半ば~前半の合格者数を維持していたが、2017年以降は急激に減少している。

電通の過労死事件(2015年)をきっかけに、長時間労働が社会的な問題になるなかで、官僚が国会対応などに追われて深夜まで働いていることや、人事や政策が官邸主導になり、官僚の裁量権が減ったことなどで、学生にとって魅力が減っているようだ。かつてのような天下りが規制されるようになったこともある。

東大生に取材すると、今も「入学時は官僚になろうと思っていた」「官僚になって国を動かしたいと思っていた」という学生は少なくない。ただ、学生団体や地域おこしなど様々な活動をしたり、卒業生から官僚の実情を聞いたりしていくなかで、別のことに興味を持ったり、官僚への志望が薄まっていったりするケースもあるようだ。伝統的に官僚志望が多かった法学部の4年生たちに聞くと、「官僚志望は少なく、法学部の2~3割くらい。法曹志望が3割くらいでは」と言う。

■商社とコンサルでは人材育成のアプローチが違う

近年、東大生に人気なのは、外資系コンサルである(図表4参照)。

【図表4】東京大学就職先上位5社の変遷
出所=『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』

2022年の大学院生を含めた就職先では、1位のアクセンチュア(53人)のほか、4位マッキンゼー・アンド・カンパニー(40人)、6位PwCコンサルティング(34人)、25位EYストラテジー・アンド・コンサルティング(15人)が上位に入っている。

2021年は上位10社のうち、1位アクセンチュア、6位PwCコンサルティング、7位マッキンゼー・アンド・カンパニー、8位デロイト トーマツ コンサルティングと外資系コンサルが4社を占めている。

総合商社は以前から人気が高く、毎年、三菱商事、三井物産、住友商事などが就職先の上位に入っている。ただ、2016年以降は大学院生を含めた就職者数で上位10社に入らなくなった。三菱商事は、2011年は1位(41人)、2012年(39人)と2015年(37人)はともに2位だったが、2022年は16位(21人)に下がっている。外資系コンサルに流れている面があるようだ。

外資系コンサルの人気の背景には、仕事は激務でも自分の成長を感じられることや、高い目線で業界を見られること、給与水準の高さや人脈が広がることなどがあるようだ。コンサルの仕事をステップに、起業やキャリアアップを目指す学生も少なくない。時間をかけてじっくりと優秀な社員を育てる日本型の総合商社とは、人材育成で異なる点がある。東大生にとって「格好いい」業種が近年はここにあると言えるだろう。

■人気だった金融業界は上位10社にも入らない

増加が目立つのが、情報・通信である。

楽天グループは2020年から上位10社に入るようになり、2020年7位(27人)、2021年4位(32人)、2022年3位(44人)と上がっている。先に触れたように、学部生では2021年から連続1位だ。ソフトバンクとヤフーも2020年あたりから上位に入ってくるようになった。ソフトバンクは2020年20位(18人)、2021年10位(23人)、2022年6位(34人)と順位も就職者数も伸びている。

2022年は20位にファーウェイ、2021年は10位にアマゾン ウェブ サービス ジャパン、25位にアマゾンジャパンと外資系の情報・通信会社が入っているのも変化を表している。

金融・保険は、業種別の就職者数では最多を維持しているが、メガバンクを中心に数は減っている。2007年は、1位みずほフィナンシャルグループ(82人)、3位大和証券グループ(38人)、6位野村證券(32人)、8位に三井住友銀行と三菱東京UFJ銀行(各27人)と、上位10社のうち5社を占めていた。しかし、2022年では上位10社にはどこも入っておらず、11位三菱UFJ銀行(25人)が最上位になっている。

■新卒でベンチャー企業に就職するのも珍しくない

製造業は、就職者数が減っている。2007年は上位20社に、2位日立製作所、5位東芝、7位トヨタ自動車、12位に三菱重工業と富士通、15位キヤノン、17位ソニー、20位NECの8社が入っていたが、2022年は2位ソニーグループ、5位日立製作所、9位富士通、14位の中外製薬と富士フイルムの5社に減っている。

製造業が復活するかどうかは、日本経済の行方を左右する。「トップクラスの学生が行きたい産業に製造業が位置できるようになること」ができるかどうか、そのために生産性を上げられるかどうかが重要になる。

中村正史『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』(光文社新書)
中村正史『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』(光文社新書)

東大生の目指す進路や意識が変わってきたのは、日本社会や経済の環境の変化が背景にあるのだろう。就職先のランキング上位には、まだ規模が小さいスタートアップは出てこない。しかし、最近の東大生はスタートアップのインターンに参加することが普通になり、そのまま就職したり、有名企業に就職しても数年で退職してスタートアップに移ったりする卒業生が出てきている。

東大で長年、起業家教育を担ってきた各務茂夫・東大大学院工学系研究科教授は「学生たちの周りに東大関連スタートアップがたくさんあるので、スタートアップとかベンチャーとか言っても、学生は驚かなくなっている」と言う。東大生や卒業生の価値観がこの10年余りの間に大きく変化していることは間違いない。

東大生たちの価値観の変化は、就職先や進路だけにとどまらない。東大の現在を深掘りすると、定型化された「エリート志向」に疑問を持つ学生や卒業生が、進んでその『レール』から外れるようになっていることがわかる。

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中村 正史(なかむら・まさし)
朝日新聞社 教育コーディネーター
1958年生まれ、大分県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。毎日新聞社を経て朝日新聞社に入社。毎日新聞記者時代から長年にわたって教育・大学問題に携わり、「週刊朝日」記者時代の94年、受験偏差値と大学神話に代わる新たな大学評価を求めて朝日新聞出版刊『大学ランキング』を企画し創刊。2008~15年に編集長を務めた。『AERA with Kids』『医学部に入る』『月刊 ジュニアエラ』(以上、すべて朝日新聞出版刊)なども創刊した。20年4月から現職。大学教育、大学改革、高大接続、大学入試、文系・理系の壁、部活と勉強などを主なテーマに取材・執筆している。23年4月からは大学進学を考えるウェブメディア「朝日新聞Thinkキャンパス」の総合監修者も務める。著書に『東大生のジレンマ エリートと最高学府の変容』(光文社新書)がある。

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(朝日新聞社 教育コーディネーター 中村 正史)

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