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日本が成長できないのは「財務省の大増税」のせいである…日本は「世界有数の重税国家」という不都合な真実

プレジデントオンライン / 2023年7月6日 9時15分

国民負担率の上昇は、本当に高齢者の責任なのだろうか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Ridofranz

日本経済はなぜ低迷しているのか。経済アナリストの森永卓郎さんは「日本の国民負担率はイギリスより高い。社会保障のレベルを考えれば、日本は『重税国家』。手取り収入が減り、消費が落ち、企業の売上げが減って、人件費を削減、という悪循環が続いている」という――。

※本稿は、森永卓郎『ザイム真理教』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

■最大の理由は「消費増税」にある

国民負担率の上昇は、本当に高齢者の責任なのだろうか。

国民負担率は、2010年の37.2%から22年に47.5%へと10.3ポイント上がっている。

そのうち租税負担が7.2ポイント、社会保障負担が3.0ポイントの上昇。つまり、国民負担増の大部分は、税負担が上昇したことの結果だ。

なぜ租税負担率が上昇したのか。

最大の理由は、2014年と2019年の2回にわたって消費税率が引き上げられ、消費税率が5%から10%に倍増したからだ。

この大増税によって国民生活が追い詰められてしまった。

■「百姓と菜種は絞れば絞るほど取れる」

もともと徳川家康は「百姓どもを、死なぬように生きぬように合点いたし収納申し付けるよう」と命じていたと伝えられる。しかし、幕府は農民が死んでしまうほど年貢米の比率を引き上げた。

私は、小学6年生のときに教室で見せられたテレビ映像がいまでも忘れられない。

年貢米を少しでも減免してほしいと懇願する農民を袖にしたお代官さまがポツリとこう言ったのだ。

「百姓と菜種は絞れば絞るほど取れる」

■日本の国民負担率はイギリスより高い

次に国民負担率の国際比較(図表1)を見よう。海外の国民負担率は、少し古いデータしか公表されていないのだが、2020年のデータ(日本は2020年度)で見ると、国民負担率はアメリカが飛び抜けて低い。

日本はイギリスよりもやや高く、大陸欧州諸国は日本よりもさらに高くなっている。

国民負担率の国際比較
出典=『ザイム真理教』(三五館シンシャ)

■教育機関に対する公的支出はOECD最下位

大陸欧州との比較には注意が必要だ。大陸欧州は、総じて社会保障や教育のサービスレベルが日本より格段に高いからだ。

たとえば、スウェーデンは自国民であれば、私立大学でも公立大学でも学費は無料だ。

ドイツも公立大学は無料、フランスは政府が大部分の学費を負担してくれる仕組みになっている。

イギリスは地域ごとに大学の年間授業料が異なっており、イングランドでは上限が9250ポンド(約150万円)と高額だが、スコットランドの住民は域内の大学の授業料が無料となっている。

ちなみに2015年のOECD加盟国で、GDPに占める小学校から大学までの教育機関に対する公的支出の割合は、日本は2.9%で、比較可能な34カ国中で最下位だった。

■日本は税金や社会保障負担が大きい「重税国家」

また、厚生労働省年金局が2018年7月30日に発表した「諸外国の年金制度の動向について」という資料によると、公的年金の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する公的年金給付の割合)は、日本が34.6%であるのに対して、イギリス22.1%、ドイツ38.2%、アメリカ38.3%、スウェーデン36.6%、フランス60.5%となっている。

スウェーデンは、公的年金のほかに義務的に加入する私的年金があり、それを加えた所得代替率は55.8%となっている。

イギリスも義務ではないが、多くの人が加入する公的年金給付を超える私的年金がある。

このように日本は、社会保障や公的サービスの給付水準が低いのに、税金や社会保障負担が大きい、「重税国家」になっているのだ。

■消費増税の負担が大きかった

日本はどのようにして重税国家に変貌してきたのか。

消費税導入前の1988年度と2022年度にかけての負担増のなかで、主要なものを整理したのが次ページの図表2だ。

消費税導入前(1988年度)と現在(2022年度)の国民負担の比較
出典=『ザイム真理教』(三五館シンシャ)

もっとも負担増が大きいのは、もちろん消費税増税だ。

消費税収は、2022年度予算で21兆5730億円だが、これは国税分だけなので、地方税を入れると、27兆6577億円が国民に降りかかってきたことになる。

■厚生年金の保険料率は12.4%から18.3%へと引き上げられた

次に大きいのは、年金保険料率の引き上げで、たとえば厚生年金の保険料率は12.4%から18.3%へと7.9ポイントも引き上げられている。それだけ負担を増やしたのに、厚生年金の支給開始年齢は60歳から65歳へと繰り延べられた。

一方、国民年金の保険料は、月額7700円から1万6590円と2倍以上に上がっている。

そのほかにも負担増は目白押しだ。東日本大震災の復興を支えるための復興特別所得税は、2013年から所得税に2.1%を上乗せする形で設けられていて、25年間続けられることになっているが、防衛増税との関係もあり、延長される可能性が高い。

東日本大震災の復興特別所得税が上乗せされている(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/RyuSeungil
東日本大震災の復興特別所得税が上乗せされている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/RyuSeungil

■「控除の縮小」も相次いでいる

一方、控除を縮小するという形での所得税増税も行なわれた。

たとえば、サラリーマンの経費相当額を概算控除する目的で設けられている給与所得控除は、1988年当時は、給与収入に応じて無制限に増えていた。

しかし、2013年分から、給与収入1500万円を超える場合の給与所得控除に245万円の上限が設けられた。

また、2017年分からは、給与所得控除の上限が給与収入1000万円超で220万円となり、さらに2020年分からは、給与所得控除の金額が、給与収入の金額にかかわらず、一律10万円引き下げられるとともに、給与収入850万円を超える場合の上限が195万円とされることになった。

こうして本来経費として控除されるはずの金額が所得に振り替えられ、増税されていったのだ。

■配偶者控除の減額、相続増税も

配偶者控除は、2018年から、夫婦どちらかの年収が1120万円を超えると減額になり、1220万円を超えるとゼロになった。

さらに、人によってはとてつもない増税になったのが2015年の相続税増税だった。

それまで相続税には、5000万円プラス相続人1人当たり1000万円の基礎控除があった。

たとえば、配偶者と子ども2人で相続をする場合、8000万円までは相続税がかからないし、申告の必要もなかった。庶民にとって、相続税は縁のない税金だった。

それが3000万円プラス相続人1人当たり600万円に減額されたため、配偶者と子ども2人で相続をする場合の基礎控除は4800万円に減額された。

つまり、基礎控除の額が4割減となったのだ。

このため、大都市に不動産を持つ人の場合、相続税の対象となる人が激増した。

■75歳以上の2割が医療費負担倍増

医療の負担も、サラリーマンの窓口負担が2割から3割に増額され、後期高齢者医療保険料も課されるようになった。

また、2022年10月からは、中所得の後期高齢者の窓口負担が倍増された。

75歳以上の2割が医療費負担倍増(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/laymul
75歳以上の2割が医療費負担倍増(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/laymul

単身者の場合、年収200万円以上383万円未満の医療費窓口負担は、それまで1割負担だったが、それを2割負担に変えたのだ。

それまでの制度では、後期高齢者の窓口負担は原則1割で、現役世代並み所得の人(単身世帯で年収383万円以上)のみが3割負担になっているのだが、新たに「中所得層」区分を設けて、その窓口負担を倍増させたのだ。

■75歳以上の2割が窓口負担倍増

この中所得層の200万円というラインはかなり微妙だ。現在の厚生年金受給者の平均年金月額は14万5665円だから、年額は175万円だ。年金が平均より少し高い人や勤労収入がある人は、対象になる可能性が高い。

実際、政府の試算でも窓口負担倍増となるのは、75歳以上の2割、370万人と見込まれた。

この窓口負担増は、2021年6月に成立した医療制度改革関連法で決まっていたのだが、実施時期については2022年10月から2023年3月の間と、幅を持たせていた。

実際には、そのなかでもっとも早い時期に負担増が実施されたのだ。

■社会保険料は111.3%も増えている

社会負担増政策の犠牲者になったのは、高齢者だけではない。一般の勤労者世帯も同じだ。

図表3は、総務省「家計調査」を用いて、消費税導入前と2021年度の家計の比較を行なったものだ。

消費税導入前(1988年度)と現在(2022年度)の家計の比較
出典=『ザイム真理教』(三五館シンシャ)

まず、勤労者世帯の家計を31年前と比較すると、世帯主収入は474万円から533万円へと12.5%増えている。

ところが、所得税と住民税を合わせた直接税は4万円増え、年金保険料や健康保険料などの社会保険料は41万円、111.3%も増えている。税金と社会保険料を合計した税社会保険料負担は45万円、50.1%増と、収入を圧倒する伸びを示している。その結果、手取り収入は14万円、3.8%しか増えていない。

■世帯主収入の手取りは18万円も減少

念のために付け加えておくと、この表で使っている手取り収入は、正確ではない。

なぜなら、税金と社会保険料には、世帯主以外の働き手が納めた分も含まれているからだ。

ただ、世帯主以外が稼いでいる勤労収入は家計全体の1~2割であり、その収入は所得税や社会保険料のかからない水準のものが大部分であるため、無視しても大きな間違いにはならないだろう。

さて、税金と社会保険料だけを差し引いた世帯主収入は、33年間で、384万円から398万円へと3.8%増加している。

しかし、注意しておかなければならないことは、この期間で消費税率が0%から10%(食料品は8%)に引き上げられているということだ。

この間接税の負担増は、32万円に及んでいる。つまり33年間で、税金は36万円、社会保険料は41万円も増えたことになるのだ。

消費税増税分も含めた税社会保険料を差し引いた世帯主収入の手取りは、384万円から366万円と、18万円も減少している。

■「急激な増税と社会保険料アップ」が日本経済を破壊した

なぜ、日本経済がこの30年間、ほとんど成長しなかったのかという疑問がしばしば提起されている。

森永卓郎『ザイム真理教』(三五館シンシャ)
森永卓郎『ザイム真理教』(三五館シンシャ)

日本企業がイノベーションを怠ったからだとか、終身雇用・年功序列処遇が時代に合わなくなったからだとか、企業が雇用を守るために賃金を抑え込んだからだなどといろいろな意見が出されているが、この表を見れば、答えは明らかだろう。

日本経済が成長できなくなった最大の理由は「急激な増税と社会保険料アップで手取り収入が減ってしまったから」だ。

使えるお金が減れば、消費が落ちる。消費が落ちれば、企業の売上げが減る。そのため企業は人件費を削減せざるを得なくなる……という悪循環が続いたのだ。

ザイム真理教は、国民生活どころか、日本経済まで破壊してしまったのだ。

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森永 卓郎(もりなが・たくろう)
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。

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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)

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