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将来の「米国超え」も難しい…習近平の想定以上に中国経済の落ち込みが深刻化しているワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月26日 9時15分

2023年6月19日、ブリンケン氏(左)と握手する習近平氏 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■米国との覇権争いにも陰りが

今年1月に“ゼロコロナ政策”を終了して以降も、中国経済の回復は期待されたほど進んでいない。むしろ、中国の景気が本格的に回復するには時間がかかりそうだ。そうした状況を反映して、中国の株式、債券、人民元が売り込まれトリプル安の様相を呈している。中国経済が米国を抜いてトップの座に就くとの期待も後退気味だ。

中国経済の中で不動産関連分野は約3割を占める。その不動産の市況に低迷はかなり重要だ。リーマンショック後、共産党政権は不動産投資を増やし高い経済成長を実現した。現在、その成長ビジネスが限界を迎えている。足許で不動産投資の減少は鮮明だ。中国は高度成長期の終焉(しゅうえん)を迎えつつある。

共産党政権は、その状況に懸念を強めている。6月19日、習近平国家主席は、ブリンケン米国務長官と会談した。経済面から考えると、対米輸出を増やす狙いがある。一方、不動産や地方政府の債務問題は深刻化している。共産党政権は景気対策を強化するだろうが、景気の持ち直しは簡単には進まないだろう。

■マンション建設が資材、建機、雇用を支えてきたが…

中国の不動産分野の回復は鈍い。2023年1~5月の不動産の開発投資は、前年同期比7.2%減少した。マンションなどの建設が増えないことには、中国の景気が上向くことは難しい。

リーマンショック後、地方の政府は、不動産デベロッパーに土地の利用権を売却した。また、米国など主要先進国の金融政策は緩和された。世界全体で、超低金利の環境が長く続くとの期待は高まった。中国国内では、共産党政権がマンションなどの建設を増やし、価格は上昇し続けると過度な成長の期待が盛り上がった。

不動産業者はマンションなどの住宅を急速に増やした。土地の利用権を売却することによって、地方政府は財源を確保した。得られた資金は、空港、道路、高速鉄道などのインフラ建設(投資)に回った。

インフラ投資、マンション建設の増加は、生産活動を押し上げた。鉄鋼、銅線、ガラス、コンクリートなどの基礎資材、ショベルカーなどの建機、自動車や白物家電などの耐久財の生産能力が増強された。雇用の機会も増え、個人消費も支えられた。

■“3つのレッドライン”が実施されると急激に悪化

中国は不動産などの投資を増やして、高い経済成長を実現した。それによって、地方の政府は、経済成長の目標水準の達成に取り組んだ。目標実現は、幹部の出世にも大きく影響した。

しかし、2020年8月に“3つのレッドライン”(不動産デベロッパー向け融資規制)が実施されると事態は悪化した。デベロッパーの資金繰りは逼迫(ひっぱく)し、建設活動は停滞した。建設が完了しないまま放棄されるマンション〔鬼城(グェイチョン)〕も増えた。マンションなどの価格が上昇し続けるという期待は低下した。

中国恒大集団(エバーグランデ)などのデベロッパーは資産売却を急ぎ、資金繰り確保に取り組んだ。それでも、財務内容の改善は容易ではない。今なお不動産業界全体の業況が持ち直す兆しは見いだしづらい。

中国のアパート建設現場
写真=iStock.com/lzf
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lzf

■“世界の工場”としての地位は低下している

それに伴い、過剰な生産能力の問題も深刻化した。5月、中国の鉱工業生産は前年同月比3.5%増加だった。4月の5.6%増から鈍化した。基礎資材から住宅に設置される家電など、あらゆる分野で過剰な生産能力は深刻だ。5月、生産者物価指数(PPI)は前年同月比4.6%下落した。

構造的にも、中国の生産は増えづらくなっている。2013年、生産年齢人口(15~64歳)はピークをつけ、それ以降は減少している。労働コストは上昇している。台湾問題など地政学リスクの高まりもあり、インドやASEAN地域などに工場を移す企業は増えた。“世界の工場”としての中国の地位は低下している。

その結果、雇用の環境も悪化した。5月、16~24歳の若年層の調査失業率は20.8%に上昇した。2023年の新卒者数は過去最多の1100万人に達する模様だ。一方、すでに職を得ている人は、景気が停滞する中で職と賃金を守らなければならない。危機感の高まりを背景にストライキも増えているようだ。若い人を中心に雇用、所得の環境は悪化するだろう。

■経済より政治重視の習主席のジレンマ

理論的に考えると、中国が過剰生産能力を解消するためには、大きく2つの取り組みが必要だ。まず、不良債権の処理を進める。次に、規制緩和などを行い、成長期待の高いITなど、先端分野などに生産要素(ヒト、モノ、カネ)が再配分されやすい環境を整える。

ただ、共産党政権にとって、一時的であれ、失業者の増加などは避けなければならない。政治を優先していると考えられる習国家主席にとって、不良債権の処理や構造改革による一時的な痛みは、民衆や党内部からの批判が増える要因になりかねない。2021年12月以降、そうした展開を避けるために中国人民銀行は利下げを再開し、金融緩和を強化した。

2022年3月以降、米国では利上げが実施された。中国と米国の金利差は拡大した。人民元の先安観は高まり、海外への資金流出は増加した。そうしたリスクが高まるにせよ、共産党政権は金融緩和によって目先の需要を下支えしなければならなくなった。足許、中国はかなり厳しい経済環境に陥っている。投資に頼った成長は限界のようだ。

■ブリンケン国務長官と面会した狙いは

6月19日、習氏はブリンケン米国務長官と面会した。半導体や人工知能(AI)など先端分野で米中の対立は激しさを増した。それに対して、日用品や雑貨などの分野で、相互の依存は深まった。2022年、米国と中国のモノ(財)の輸出入の合計額は過去最高を更新した。

足許、幾分か弱まってはいるが、米国の労働市場は改善基調を保っている。個人の消費も予想よりしっかりしている。習政権は、アパレルや玩具などを中心に米国への輸出を増やしたいと考えているだろう。それは、中国にとって過剰な生産能力を活かし、ゾンビ企業の延命に重要だ。そうした思惑もあり、習氏はブリンケン国務長官と面会したと考えられる。

だからといって、今すぐ、米中の関係が修復されるとは考えづらい。また、米国では想定された以上に物価が高止まりしている。連邦準備制度理事会(FRB)は追加の利上げを慎重に進め、個人消費は減少するだろう。それによって、中国の輸出も伸び悩む恐れがある。今後、中国が外需に頼って景気の本格的な回復を目指すことは難しいと考えられる。

■中国からの資金流出は増える恐れ

共産党政権は財政支出を増やし、追加的な利下げも余儀なくされる可能性は高い。6月15日には、電気自動車(EV)など新エネルギー車の農村部での販売支援策が発表された。20日、事実上の政策金利に位置付けられている期間1年と5年超の最優遇貸出金利も追加的に引き下げられた。

地方政府は、インフラ投資も積み増すことになるだろう。再生可能エネルギーを用いた発送電網の強化、内陸部や農村部の不動産開発なども強化されるだろう。それによって、一時的、かつ、小幅に、景気の持ち直し期待は高まるかもしれない。

それ以上に懸念されるのは、不動産企業、地方政府などの債務問題の深刻化だ。今後、米国での利上げによって世界的に株価が下落すれば、主要な投資家はリスクの削減を急ぐだろう。人民元建ての債券、株式への売り圧力は強まり、中国からの資金流出は増えると懸念される。当面、中国経済は厳しい状況が続きそうだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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