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鬼も旧統一教会も「壺」で攻めてくる…『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』での柱の激闘に元信者が自己を投影したワケ

プレジデントオンライン / 2023年6月25日 11時15分

吾峠呼世晴さんの人気漫画『鬼滅の刃』(集英社)全巻=2020年12月5日 - 写真=時事通信フォト

アニメ「鬼滅の刃(きめつのやいば)刀鍛冶の里編」(フジテレビ系列)は、6月18日が最終回だった。このシリーズを、固唾をのんで見ていた人がいる。元統一教会信者でジャーナリストの多田文明さんだ。「鬼をやっつけようとする柱たちの姿が、統一教会の解散命令請求に向けて戦っている元信者、宗教2世、被害者を守る弁護士、被害者家族らの置かれている姿にかぶって見えました」という――。

■“柱”の時透無一郎に自らを投影した旧統一教会の元信者

アニメ「鬼滅の刃(きめつのやいば) 刀鍛冶の里編」(フジテレビ系列)は、6月18日にて最終回を迎えました。なかでも、“上弦の伍の鬼”である玉壺(ぎょっこ)と、“柱”の一人である時透無一郎(ときとうむいちろう)との戦いのシーンについては、ひとかたならぬ思いでテレビを見ていました。

と言いますのも、この鬼との戦いがどうにも現在、旧統一教会の解散命令請求に向けて、巨大な組織に立ち向かう、元信者、宗教2世、被害者を守る弁護士、被害者家族らの置かれている姿に重なってみえてしまうからです。『鬼滅の刃』ではいくつかのシリーズがありますが、特に今回の「刀鍛冶の里編」ではその思いを強くしました。

『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)という少年はある日、外出しているうちに、家族が鬼によって惨殺されてしまいます。唯一、生き残った妹(禰豆子=ねずこ)ですが、鬼に襲われて、その血を受けて自らも鬼となってしまいました。しかし炭治郎は妹を人間に戻すための方法を探すため、自ら鬼を倒す(鬼殺隊=きさつたい)の剣士として立ち上がります。そして、世の中の人たちを鬼の攻撃から守るために、身を賭して、命の限界まで戦い、鬼を倒していきます。

このように鬼たちは平穏に暮らすなかにやってきて、人々を襲い、次々に家族の日常を壊していきます。その姿はまさしく普通に暮らす人たちを信者にさせてその家庭を壊すだけでなく、多額の献金をさせて経済的な苦しみを家族に負わせる旧統一教会の手口そのもののように見えたのです。

旧統一教会の信者は人を直接殺すことはないかもしれません。しかし、教団の教え(統一原理)は、この世の親はサタンの父母であり、文鮮明教祖こそが、神の側の真の父母としています。この思想に染まることで、自分の親をサタンと見て行動を取ることになります。「なぜ、わが子がこんな姿になったのか」と、多くの人たちを悲しみの淵に陥れます。以前には、大学生の息子・娘が次々に教団の信者となることで家族が崩壊して「親泣かせ原理運動」といわれたこともありました。多くの人の人生が、統一原理によって狂わされてしまうわけです。

鬼のグループには、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)という絶対的な権力者の元に、十二人の鬼(十二鬼月)という存在がおり、玉壺は5番目に強い階級の鬼とされています。

玉壺は次々に壺を出してきて、そこから出てくる魚のようなものが人々に襲いかかり食っていきます。見る人によって、さまざまな見方ができるかと思いますが、私はこの壺による攻撃が、どうにも旧統一教会の信者らが人々に高値で売りつけた霊感商法のように思えてなりませんでした。

信者らは「先祖代々から受け継がれる悪の因縁によって不幸になっている」と、占いや家系図などを通じて、悩みのある人を説き伏せ、また弱みにつけこみ、壺や多宝塔・印鑑などを売りました。人々が必死で稼いだお金を、霊感話を使って奪ったのです。その結果、身ぐるみはがされて、ご飯一杯を食べるのが精いっぱいという困窮者を出してしまう悲惨な状況を招きました。

■アメリカの寿司ビジネスで大儲けした旧統一教会系企業

壺によって、多くの人の人生が奪われていく。玉壺が次々に人を襲うなかで、それに重なって見えてしまうわけです。しかも、壺から魚が出て人々を襲います。「魚まで出るんかい!」と思わず、アニメを見て叫びましたが、ますます教団との戦いを想起させるものとなりました。

旧統一教会は多くの関連企業を持っています。

私は1987年~1996年まで旧統一教会信者でした。当時よく見せられた映像で今も鮮明に覚えているものがあります。それは、教団がアラスカのコディアクという場所に所有する水産工場を映したもの。「これがアラスカの精神」などと説明して、文鮮明教祖が働く信者らを激励するシーンや、川で魚釣りをしたり海にマグロを釣りいったりするシーンがありました。

実は旧統一教会系企業は、アメリカでの寿司ビジネス、鮮魚ビジネスを成功させています。水産ビジネスにおける、アメリカ国内に占める割合はかなりのものだといわれています。何より、このビジネスの原資になったものこそ、霊感商法で集められた資金だったと言われています。

寿司パーティではしゃぐ白人女性
写真=iStock.com/LSOphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LSOphoto

日本で壺をたくさん売り、信者から集めた献金などを元手に水産ビジネスで成功する。さらに、正体(教団名)を隠した伝道で信者にした者たちをアメリカに向かわせる。

要は、被害に遭った人たちの上に成り立っているのが、寿司と鮮魚ビジネスだと考えています。ですから、『鬼滅の刃』で鬼の壺から、金魚のような、マグロのような魚が次々に出てきて人々を襲ったのを見て、なんともいえない思いで、声をあげてしまったわけです。

鬼を退治する剣士らを「鬼滅隊」の最高位は「柱」と呼ばれる人たちです。今回はその一人である時透無一郎が、最終的に玉壺を退治し、安堵(あんど)しました。

話の中に頻繁に出てくる言葉がありました。巡り巡ってわが身によい巡りが返ってくるという意味の「情けは人のためならず」です。その意味を、無一郎が身をもって深く知ることで、戦うシーンは圧巻でした。

実はカルト教団の中に身を置いた経験から、私にとっても教団を辞めるにあたり、この「情けは人のためならず」はとても大きな意味を持つものでした。

心のなかに深く埋め込まれた教義、マインドコントロールを解く上で、家族、親族、元信者、カルト問題に詳しい専門家の多くのサポートや助言を受けました。彼らにとっては、当時の私の存在など、取るに足らない者であったにもかかわらず、彼らは自分たちの貴重な時間を割いて、見返りなど求めることなく対応してくれました。

そうした一つひとつの思いが、脱会に向けての大きな力となったわけです。そこには、当然、家族や親族が衣食住すべてを含めて、尽くしてくれた土台もあります。多くの人が私自身に「情け」をかけてくれました。

考えてみれば、私に対して助言をしてくれた元信者や脱会した信者を持つ家族らもまた、同じように、誰かからの助言と思いを受けて、前に進むことができたのではないかと思います。それゆえに、こうしたサポートを受けた私もまた別な人たちへの希望となるように力を尽くす。こうしたものがつながっていくことこそが、カルトによる被害をなくすための次の世代への希望となると信じています。

■“鬼殺隊”となって、壺で“攻撃”してくる敵を成敗したい

私の場合には幸いにも、ものを書くという仕事もしていますので、それをもとにカルト思想に染まり、その影響を受けて苦しむ人たちの手助けになることができればと思い、ペンをとっています。私の身に巡ってきた「情け」をまた誰かへの思いへとつなげていくことの大事さを強く感じています。

確かに、教団の信者は人を殺さないのかもしれませんが、彼らは教義に裏打ちされた非情な言葉を通じて、被害者の声を封殺しようします。しかも、それを鬼舞辻無惨とその指示を受けて行動する十二鬼月のような強烈な上下関係の中で行います。教団を批判するような考えや、教えに反する行動は許されないのです。

しかも衝撃的なことに、先日、顔を出して教団の批判をしている被害者家族の男性もとに、繰り返し「お前殺す」という誹謗中傷の電話がかかってきたという報告がありました。もちろん、この電話をかけてきた相手が旧統一教会の関係者なのかはわかりません。しかしこの男性もそうですが、被害を口にする人は、何をされるかわからない危険を身に感じながら、命がけで戦っています。改めて、この歩みが『鬼滅の刃』の剣士たちが戦っている姿に重なってみえました。

こうした個人に対する組織的な心ない言葉の攻撃は絶対に許してはなりません。こちらも正しい言葉の剣をもって立ち向かい、さまざまに繰り出される攻撃から、心を痛める宗教2世や元信者、被害者家族を守っていく。その強い信念を胸に誰もが自由に被害の声をあげられる世界、カルト思想による被害のないさらなる高みを目指したいと思います。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。

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(ルポライター 多田 文明)

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