銀座のステーキ店は「1人100万円以上」に…世界の美食家がこぞって訪れる日本の超高級レストランの秘密
プレジデントオンライン / 2023年7月5日 11時15分
※本稿は、柏原光太郎『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論――時代はガストロノミーツーリズム――』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■美味しい料理に出会うためにはネットワークが重要
さて、私の食文化における30年の歩みとフーディーたちの進化は、かなり似たようなカーブを描いています。
私がフェイスブックで数多くの食いしん坊と知り合ったように、フーディーたちも、ネットやSNSを駆使して世界中の美味しいレストランを探し、そこに訪れるためのルートを開拓し、仲間を募って出かけています。
そのために重要なのがネットワークであり、同じ趣味を持つ仲間なのです。彼らにとっては「美味しい料理に出合う」ことはなによりも重要。しかし、その料理が美味しいか美味しくないかの基準は、人によって違います。
私だって「この人が美味しいというのなら行ったことがなくても他人に推薦できるが、あの人がいくら美味しいといっても信じられない」という場合はあります。それはその人々と私の料理の好みの違いであったりもするし、経済力だったりもします。それ以前に料理に対するリテラシーの違いであったりもします。
■銀座の有名ステーキ店は「ひとり100万円」が当たり前
なのでフーディーたちは同じような趣味嗜好を持つコミュニティの中で情報交換をするわけです。そこには趣味嗜好だけではなく、やはり経済力も加味されます。彼らが訪れたい店は世界中のフーディーが訪れたい店です。しかし店のキャパシティは決まっています。いい食材だって限られているし、いい料理人の給料もどんどん上がっています。
料理がアートと同じような価値を持っていくと、内装や器、場所にもこだわるようになっていきます。それはすべて価格に跳ね返るわけです。
いまや銀座や港区の寿司屋は一人前のお任せコースが5万円を超えるのも不思議ではなく、3万円しないと「安いね」といわれるほどです。お酒を入れたらふたりで10万円は最低でもかかると考えなければいけません。日本海のズワイガニや天然ふぐ、ジビエなどの料理が出る冬の日本料理店にいけば、ひとり10万円は普通です。
銀座の有名なステーキ屋は、最高級ワインしか置いていないため、それらを開けるとひとり100万円以上の支払いになるのは当たり前といわれていますし、料理だけでも20万円を無造作に超えるようです。しかしカウンターだけの簡素な内装の店です。
■最新情報が飛び交う美食家のコミュニティ
そうしたレストランに行くことに価値を認めるかは人それぞれです。ファミリーレストランのステーキ御膳なら高くても1万円はしないわけで、それでいいという人にとっては銀座のステーキ屋に金を払う意味はまったく見いだせないでしょう。
しかし日本の最高級のアワビがすべてこの店にきて、黒毛和牛のシャトーブリアンの一番いい肉がここで食べられるのであれば、プライスレスだと感じる人もいます。
こうしたように、似たような価値観、経済的な価値を見いだせる人々がコミュニティを作っていくのです。
コミュニティはほとんどの場合クローズドで、存在すら知られていない場合も多々あります。そこでは「ミシュラン3つ星レストランの副料理長が来年、独立することが正式に決まったよ」「西麻布のあのフレンチのソムリエが今度、広尾の新しいレストランに転職するらしいよ」といった情報がいち早く飛び交います。
彼らにとっては、そうした情報を誰よりも早く知ること自体が快感なわけですが、コミュニティに属していると、さらに別の利点があるのです。
![仕上げのソースをかけるシェフの手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/2/1200wm/img_927e7ca130e19075fc0a2a783e868d71359624.jpg)
■これから人気が出そうな店への参加権が得られる
たとえば有名レストランの副料理長の独立が決まった場合を考えてみましょう。そのコミュニティの誰かがそのシェフと親しかったら、彼は開業間もないシェフを応援したいと思うでしょう。しかも、有名店で修業していたシェフの独立ですから、すぐに人気が出て予約が取れない店になってしまうかもしれません。
ですから開業直後に店を1日貸し切り、まずは仲間で出かけるのです。となると、そのコミュニティに属することで、新規開店で今後人気が出そうな店に参加する権利が得られるわけです。
比較的大きなコミュニティであれば、フェイスブック内に専用のページを立てて、こんな感じで募集をします。
〈先日ミシュランの名店××から独立した友人の××シェフのフランス料理店を×月×日×時から貸し切りました。参加可能人数は15人。いまから募集します!〉
早い者順で参加できることが多いようですが、なかには「参加の方々の関係性を考慮するので早い者順ではありません」などと書かれる場合もあり、そうなると主催者との距離感が近いほうが当選になるのかもしれない、などと考えてしまうでしょう。
■ミシュラン以上に信頼されているランキング
ただ世界的なフーディーたちは、そんな小さいコミュニティの中だけで動いているわけではありません。
先述しましたが、世界の飲食関係者にとっては、ミシュラン以上に信頼性を得ているといわれるものに「世界のベストレストラン50」があります。イギリスで『レストラン』という専門誌を発行するウィリアム・リード社が2002年からスタートさせたランキングです。
文字通り、世界中のレストランのランキングを行うもので、国と場所は毎年変わりますが、年に1回、ランキング発表のイベントが開催されています。
「世界のベストレストラン50」の上位に入ったレストランには予約が殺到し、メディアにも多く登場するだけに、いまや世界のトップレストランは、ミシュランガイド以上にここで上位に入ることを念頭に置いています。そして、そのランキングに世界のトップフーディーたちがとても大きく関わり、重要な役割を担っているのです。
というのも、ランキングを決める審査員は世界各国から選ばれた1040人ですが、「シェフやレストラン関係者」「フードライターなどのジャーナリスト」に加えて、「いわゆるフーディーと呼ばれる食通たち」が投票に関わるからです。フーディーの投票は全体の3分の1を占めますから、大変重要な決定権を持っています。
![レストランのセットが済んだテーブル](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/9/1200wm/img_d9bc7aa24c87438780dc1a31dcb62e1c461221.jpg)
■おいしいのは当たり前、何が体験できるかが評価される
審査基準はシンプルで「あなたにとってベストレストランとは?」ということ。「ベスト」の基準は人によってさまざまでいいとされ、料理のクオリティ、レストランの雰囲気やデザイン性、シェフの哲学や人間性、アクセスのしやすさなども投票の基準となるといわれます。
料理そのものの評価というより、「おいしいのは当たり前で、その上で何が体験できるのかが求められている」と、日本のチェアマンを務める中村孝則さんは話しています。(朝日新聞&「世界のベストレストラン50」に見る、美食のこれから 中村孝則さん 2018/08/31より)。
つまり、ミシュランがレストランに対する評価を紹介するガイドなのに対し、世界のベストレストラン50は人気ランキング。審査員も一定数、毎年常に入れ替わります。そして18カ月以内に実際に行ったレストランにしか投票できないので、世界中を飛び回って食べられる人しか審査員にはなれません。まさに、富裕層のためのレストランガイドといえるでしょう。
ここ数年でいえば、フードロスに取り組む社会活動家のシェフがいる店や、貧困者への食事提供などをしている店などが評価される傾向にあります。現在は「アジアのベストレストラン50」、「ラテンアメリカのベストレストラン50」などエリア分けしたランキングも派生しています。
■日本のレストランもランキング上位
日本のレストランもランキングの上位にはいくつも入っています。2022年7月にロンドンで発表されたランキングでは、20位に日本料理「傳」(東京)、30位にフランス料理「フロリレージュ」(東京)、41位にフランス料理「ラ シーム」(大阪)、45位にイノベーティブ料理「ナリサワ」(東京)が選ばれました。
日本のレストランがはじめて50位以内へ入ったのは2009年の「ナリサワ」でしたが、今年は過去最高の4店舗がランクインしただけでなく、傳は2022年3月に発表された「アジアのベストレストラン50」でもトップになっており、世界ランキングでもアジア圏1位でした。続く2023年のランキングでは、フランス料理「SÉZANNE」がアジア2位に輝いています(傳は4位)。
レストラン側は、フーディーの評価が順位に直結するだけに、彼らの評価には細心の注意を払っています。いっぽうフーディーも世界中の美味しいレストランをいち早く知り、そこに実際に訪れて、自分の高評価したレストランがランキング上位になることを無上の喜びとするのです。つまり、世界のレストラン産業にフーディーの動向がとても深く関わっているといっていいのです。
■4年連続で日本人が「世界一の食通」
さらにいえば、世界のフーディーたちのトップに君臨するのは日本人だということはあまり知られていません。
世界のフーディーのトップを選ぶランキング「OAD Top Restaurants」レビュアーランキングで2018年から4年連続世界第1位となったフーディーは浜田岳文さんという日本人なのです。
浜田さんは1974年生まれ。高校までは日本でしたが、アメリカのイェール大学に在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始したといいます。
![柏原光太郎『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(日刊現代)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/1200wm/img_d4b1a1a30149d48d18e8a59534234a27182227.jpg)
外資系の金融機関に勤めたのち、現在はエンターテインメントや食の領域のアドバイザーを務めつつ、これまで世界約125カ国を踏破し、各地で食べ歩きを続けています。浜田さんは酒を飲まないため、彼の評価軸はブレないといわれており、それがトップフーディーとしての信頼を勝ち得たのかもしれません。
また日本で2021年からはじまった、わざわざ訪れたい地方のレストランを評価する「The Japan Times Destination Restaurants」の創設に携わっており、彼は選考委員も務めています。まさに世界中の食に光を当てるのが浜田さんの仕事なのです。
浜田さんの訪れたレストランのリストを見ると、まさに美食のために世界中を飛び回っていることがわかります。その彼が、実は世界の中で日本の食には高い評価をしているのです。
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日本ガストロノミー協会 会長
1963年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、1986年、株式会社文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集部等を経てニュースサイト「文春オンライン」、食の通販「文春マルシェ」を立ち上げる。『東京いい店うまい店』編集長も務める。2018年、美食倶楽部「日本ガストロノミー協会」を設立したほか、「OCA TOKYO」ボードメンバー、食べロググルメ著名人、とやまふるさと大使なども務める。J.S.A認定ワインエキスパート。
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(日本ガストロノミー協会 会長 柏原 光太郎)
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