日本株は今後も長期的な上昇が期待できる…お金のプロが「ようやく明かりが見えた」と言い切る根拠となる数字
プレジデントオンライン / 2023年6月28日 15時15分
■日本株の株価は10年で2.5倍に
最近、日本の株式市場が好調に上昇を続けています。今まではどちらかと言えば日本株はネガティブに見られることが多く、「やっぱりアメリカだよね」とか「S&P500最強!」といった声がいたる所で聞かれたものですが、最近は少し様子が変わってきたようです。
ところが日本株はダメだと、長年言われてきたものの、この10年を見てみると決して日本株のパフォーマンスが悪かったわけではありません。指数によって違いはあるものの、概ねアメリカと同じぐらいの上昇率になっています。例えばニューヨークダウでみるとちょうど10年前の2013年の6月は1万4700ドルぐらいだったのが現在は3万4000ドルぐらいになっていますので、倍率で言えば2.3倍に上昇しています。
一方日経平均で見ると、10年前の2013年6月は1万2800円ぐらいでしたが、ここのところ3万3000円を超えることもあり、こちらは2.5倍を超える倍率となっています。むしろ日本の方が上回っているのです。
■「日本株はダメだ」と言われてきた背景
日経平均株価の史上最高値は1989年の3万8915円でしたが、そこからは俗に「失われた30年」と言われるように日本の経済も株価も低迷を続けてきました。ところが実際の数字を見てみるとアベノミクスが始まった2012年以降は決して日本の株価がアメリカに比べて見劣りしていたわけではないことがわかります。特に最近は日本への見直しが顕著になりつつあります。
ただ、期間を30年以上にして、1989年の日本の株価が最高値だった時と比較すると日本はまだ高値を上回っていないのに対してニューヨークダウは何と12.5倍に上昇しています。恐らくこの差が「日本株がダメだ」と言われてきた背景だったのでしょう。
■日本に明かりが見えてきた
ではなぜこれまで日本の株価は低迷していたのでしょうか。さまざまな理由はありますが、私はひと言で言えば、日本の企業があまりにも“儲からない事業をやり過ぎていた”からだと思います。もちろん、中には非常に高収益の事業をやってきた企業もありますし、大企業の中でも日立やソニーのように思い切って収益が上がる部門に経営資源を集中した企業もあります。そういう企業の株価は、ほぼ例外なく大きく上昇しています。
“GG(爺爺)資本主義”という言葉がありますが、大企業の高齢経営者が旧来の成功体験にとらわれて新しいイノベーションを生み出すことができなかったということは明らかだと思います。加えてデフレが続いたことで製品やサービスの価格をなかなか上げることができなかったということも低迷の大きな理由と言って良いでしょう。少し前まではデフレが諸悪の根源と言われていたのに今は少し物価が上がっただけでインフレは悪といった論調も出ていますが、私は現在の程度の物価上昇は非常に健全なインフレであり、物価と賃金が上がることで企業収益も向上するという良い循環になっていくのではないかと考えています。
結局、企業の収益が上がらなければ次に向けた新しい投資もできなくなってしまいますから、ますます悪循環になってしまいます。そういう意味では私は少し明かりが見えてきたのではないかと思っています。
■直近の株価上昇の理由
さて、それではこれからの日本株はどうなっていくのでしょうか。ここ、直近の株価上昇の要因としてはいくつかの理由が挙げられます。
(1)積極的な外国人買い
このところ外人が積極的に日本株を買っています。6月の第1週まで11週連続して買い越しとなっていますが、これはアベノミクス以来9年半ぶりのことです。恐らくその背景にあるのは、日本が長いデフレを脱し、適度なインフレを伴って企業業績が成長していくであろうということを彼らが感じているからでしょう。
(2)バフェット効果
世界最高の投資家と言われているウォーレン・バフェットが今年の4月に2011年以来12年ぶりとなる2度目の来日を果たしました。バフェット氏は3年前から日本の商社株に投資していますが、今回も来日した際に「今後も商社をはじめとする日本株への投資を拡大する」と発言していますし、彼がCEOを務めるバークシャー・ハサウェイの年次総会でも同様の発言をしています。彼の発言は非常に影響力が大きいので、これも一つの理由でしょう。
(3)PBR1倍割れ企業への改善勧告
PBRというのは株価純資産倍率のことで、その会社の1株あたりの純資産に対して株価が何倍くらいになっているかという指標です。この数字が1倍割れということは、企業が保有する資産よりも株価の方が安いということになります。極端なことを言えば、その会社の株を買った途端に会社が解散すると買った金額以上に分配されることがわかっている、ということです。リスクのある株式がこういう状態(資産よりも株価の方が安い)になっているのは通常ではありません。そこで東証は、これらの企業に対して改善勧告を行いました。このアナウンスメント効果は大きいと思います。
■デフレを脱却し経済が拡大軌道に乗り始めた
上記3つの理由というのはいずれもここしばらくの現象でしかありません。本当に大事なのはこれから日本経済が持続的に成長し、それによって株価が好調を続けるか、ということです。これについてはさまざまな見方がありますが、私は日本の株価はまだそれほど割高にはなっていないと考えています。
6月8日に発表になった今年1~3月のわが国の名目GDP(国内総生産)は前期比で年率8.2%のプラス。年換算で572兆円と過去最高になりました。私はこれに注目すべきではないかと思っています。すなわちこの事実が示すことは日本の経済がデフレから脱却し、名目経済が拡大軌道に乗り始めたということだからです。これはとても重要な示唆です。
いわゆる「失われた30年」というのは正確に言えば「失われた20年+体質が改善していった10年」と言えるでしょう。80年代後半のバブル経済によって過剰になった設備、債務、そして雇用が20年かけてようやく解消され、過去10年間で利益の出る体質になった企業が増えてきたということです。この流れは急に変わることはないと思います。
■「乗り遅れた!」と焦る必要はない
ただ、経済にしても株価にしても短期的にはさまざまな要因でブレることがありますから、これからまったく下落することなく株価が上がり続けるということはまずあり得ません。もしあなたが「乗り遅れてしまった!」と思っても、焦って株を買わなければならないということはありません。あくまでも「長期的には企業の成長と株価上昇が期待できる」ということですから、次の短期的な下落局面を待って買っても決して遅くはないのです。
逆に、「下がったら怖いから」ということで慌てて売らなくても良いのではないでしょうか。もちろん株式への投資はあくまでも自身で判断するものですから、私は買いも売りも推奨するものではありません。ただ、経済全体の流れがようやく変わりつつあるところなので、この動きを見て少しじっくりと考えるべきではないかと思います。
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経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。
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(経済コラムニスト 大江 英樹)
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