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博多は豚骨、札幌は味噌、それでは名古屋は…愛知県民に愛されるラーメン「スガキヤ」の意外な味わい

プレジデントオンライン / 2023年6月30日 18時15分

JR名古屋駅周辺は超高層ビルが多い - 筆者撮影

愛知県民に愛されるラーメンチェーン「スガキヤ」の特徴は、魚介と豚骨をブレンドしたオリジナルのスープだ。味噌を多用する愛知県で、なぜ豚骨ベースのスープが生まれ、人気となったのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。(前編/全2回)

■なぜ愛知県民は「スガキヤ」のラーメンを偏愛するのか

世代を問わず人気の飲食店のラーメン――。昔に比べて、最近は夏でも温かいラーメンが支持されるという。「日本3大ラーメン」は、札幌、博多、喜多方だそうだが、全国各地には「ご当地ラーメン」と呼ばれる個人店やチェーン店がある。

このうち、人口約748万人の愛知県で支持されるのが「スガキヤ」(本社・愛知県名古屋市。正式店名は「Sugakiya」)だ。静岡県から兵庫県まで260店(2023年5月末現在、グループ店は除く)を展開。うち愛知県は163店と、全店舗の6割以上が同県内に集中する。

一番人気の「ラーメン」は1杯390円(税込み、以下同)。原材料費や人件費の高騰で1000円前後のラーメンが珍しくない中、低価格路線を貫く。現代の名古屋人(名古屋文化で育った人)には「DNAにスガキヤが組み込まれている」とすらいわれる店だ。

なぜ、長年愛されるのか。名古屋めしとは一線を画す、同店の横顔に2回に分けて迫ってみた。

■売り上げの2割は「390円ラーメン」

コロナ禍で外食産業は大きな影響を受けた。それまで年間売上高が約120億円の黒字経営だったスガキコシステムズ(「スガキヤ」の運営会社)も例外ではない。現在はどんな状況なのか。

「既存店売り上げは現在、コロナ前2019年比で約103%になりました。2020年度は約76億円まで落ち込んだ年間売上高も、2022年度は約96億円と回復基調にあります」

スガキコシステムズの高岡勇雄さん(営業管理部 ゼネラルマネジャー)はこう説明する。ショッピングモールなど商業施設への出店が多く、施設の休業や時短営業の影響を受けた「スガキヤ」だが、ようやく通常営業となり、客足も戻ってきた。

店の象徴が、前述した390円のラーメンだ。発売以来、庶民価格を貫く。

「『ラーメン』は、あっさり豚骨系で赤い丼に入っており、社内では通称『赤丼』と呼びます。全売上高の約2割、麺類全体に占める構成比は約4割という看板商品です」

若山昌樹さん(営業管理部 マーケティンググループ グループマネジャー)はこう説明する。岐阜県出身の若山さんは、子ども時代からスガキヤの味に親しんできたという。

■実は創業当初は甘味処だった

戦後すぐの1946年に創業した店は、翌々年(1948年)にラーメンが加わり、店名が「寿がきや」となった。当時は1杯30円。1960年代には90円、76年から78年まで140円で販売した。その後も長年200円台で販売するなど、「子ども時代にスガキヤのラーメンがいくらだったかで、大体の年齢がわかる」ともいわれた。

原材料など諸経費の高騰が続き、近年は小刻みに値上げしてきたが、「スガキヤのラーメンは低価格で食べたい」も、お客が同ブランドに抱く期待値なのだ。

【図表1】スガキヤの「ラーメン」1杯の価格
(注)1950年代~60年代の価格は推計。取材を基に筆者作成

「スガキヤ」は甘味も名物。実は、創業当初は「甘党の店」だった。今でもソフトクリーム(レギュラー190円、ミニソフト130円)やクリームぜんざい(280円)が人気だ。

「ソフトクリームは動物性ではなく植物性油脂を使い、あっさりした味です。クリームぜんざいのぜんざいには、北海道産大納言小豆を100%使用。塩気のあるラーメンの後を甘味でシメるというお客さまも多いです」(高岡さん)

今回、名古屋市内の店を訪れて「ラーメンとミニソフト」を注文した。2品で520円。「ソフトクリームは後にしますか?」と聞かれたので、ラーメン後に食べる人が多いようだ。

スガキヤ路面店の外観。スーちゃんもラーメンとソフトクリームを持っている
筆者撮影
スガキヤ路面店の外観。スーちゃん(イメージキャラクター)もラーメンとソフトクリームを持っている - 筆者撮影

■味噌でもしょうゆでもないスープ

ところで名古屋といえば、味噌カツや味噌煮込みに代表される味噌文化の土地だ。定食などにつく味噌汁の赤だしも濃い。ご当地名物の「きしめん」はしょうゆ味だ。

一方でスガキヤのラーメンは「さっぱりとしながらも旨みたっぷりの和風豚骨スープ」(同社)となっている。なぜ、これが味噌文化の土地で支持されたのか。

「甘党の店がラーメンを始めたのは、お客さまが向かいにあった中華料理店に通う姿を目に留めて、ラーメンを開発したからです。当時の名古屋は、豚骨味のラーメンが流行っており、ベースは豚骨にしたのですが、差別化のためにさまざまな味を試行錯誤した末に魚介に注目。現在の『魚介と豚骨のWスープ』味になりました」(高岡さん)

高度経済成長期に各地のショッピングセンターなどに次々に出店。チェーン1号店は1969年の「ユニー大曽根店」(当時)で、1973年には直営店が100店に到達した。名古屋文化で育った人で、「子どもの頃、親と買物に行った後、スガキヤでラーメンを食べた」という原体験を持つ人は、この店舗拡大以降からだろう。

かつてラーメンは「中華そば」と呼ばれ、しょうゆ味が基本だった。それが戦後に味が多様化して、国民食となっていったのは高度成長期から。名古屋地区ではスガキヤの白濁色のラーメンが根づき、ソウルフードとなったのだ。

JR名古屋駅ホームにある店の「きしめん」。しょうゆ味が定番だ
筆者撮影
JR名古屋駅ホームにある店の「きしめん」。しょうゆ味が定番だ - 筆者撮影

■千葉の君津に豚骨ラーメン店ができたワケ

専門家に取材して記事にしたこともあるが、ご当地ラーメンの成り立ちは、大きく2つに分かれるという。

(1)「ご当地由来」(人気店追随)型
(2)「チェーン店由来」型

それぞれ補足説明すると、(1)では、各地域に「元祖」と呼ばれる個人店があり、それを模倣する形で店が増えて地域文化となっていった。

最も有名なのは、豚骨ラーメンの久留米市(福岡県)で、戦前に開業した「南京千両」が元祖で、その後に屋台発祥の「三九」の味が評判となり、地域に広がったといわれる。

(2)の象徴が、昭和時代の最強チェーン「どさん子ラーメン」だ。現在も町中華として健在だが、運営会社が変わった。往時の店は、最盛期には1157店(記録に残る店舗数値)もあり、当時まだなじみが薄かった味噌ラーメンを全国各地に広めた立役者だ。

「スガキヤ」の味が浸透した愛知県も、(2)のチェーン店由来型だ。

なお、これ以外には「文化移植系」ともいえる現象があった。昭和時代、大企業の工場建設で多くの人が移住して“郷土の味”が根づいた例だ。

代表的なのは新日鐵(当時)が製鉄所を新設し、2万人規模の従業員・家族が八幡製鉄所(福岡県)から移住した千葉県君津市。君津には、豚骨ラーメン店が開店していき、当時はリトル九州ともいえる食文化が生まれた。だが、今では往時の勢いがない。

■70年以上、スープの味は変えていない

コロナ前、札幌出張の際にご当地ラーメンを食べようと思ったが、以前に比べて「味噌ラーメン」を掲げる店が減り、豚骨ベースの店が増えたと感じた。

だが、専門家に聞くと「もともと札幌は豚骨ラーメンの文化で、ご当地の味噌味もベースは豚骨が多い。味噌がブレンドされるので、種類では味噌ラーメンになる」という。

最近取材した冷凍ラーメンの開発関係者からは、こんな話を聞いた。

「近年は好まれる味が多様化してきました。魚介や豚骨のみを使ったシングル出汁(だし)はウケず、○○ベースに△△や□□を足すといったブレンド出汁が多く、総じて濃厚な味が好まれています」

その意味で、70年以上前に「魚介と豚骨のWスープ」を開発した「スガキヤ」は先進的だったのか。これだけ消費者の舌が肥えた現代でも、味はほとんど変えていないという。

ちなみに日本全体では、しょうゆラーメンが一番人気で、豚骨は麺のかたさへのこだわりも含めてヘビーユーザーが多いそうだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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