1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

30代で年収2000万円はざらだった…超人気就職先だった銀行がダントツの不人気業界になった根本原因

プレジデントオンライン / 2023年6月29日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■「将来有望な若手行員が辞めていく」

地方銀行に勤めるかつての級友が上京して懇親する機会を得た。その級友曰く、「優秀な人材が採れないばかりか、将来有望な若手行員が辞めていくケースが増えている。どうしたらいいものか」と思案顔だった。級友は人事も所管する役員だけに悩みは深いようだ。

これまで地銀は、それぞれの地元にあって最優良な就職先というのが定番だった。実際、就職の際の競争率も高く、優秀な人材が集まってきていた。それはもはや過去の夢なのか。

地銀を取り巻く環境は、低金利環境の継続、人口減少・高齢化、デジタライゼーションの進展等を背景に厳しさを増している。若手行員の流出はそうした苦しい地域金融機関の現状を如実に表しているのか。件の友人は「将来に希望が持てなくなったのかもしれない」と嘆いた。

地方銀行は、かつて地域の就職ランキングでは常にトップ3に入る人気就職先だった。「地銀は県庁、地域の電力会社と並ぶ“就職御三家”と呼ばれていた。地元の有力大学や高校の卒業生のみならず、東京など大都市圏の有名大学を卒業した若者もUターン就職先として最初に選ぶのが地元の地銀だった」(九州の地銀幹部)という。金融界では、こんな笑い話も残されている。

■高齢世代では都市銀より地銀信奉が根強いが…

東京大学を卒業し、富士銀行(現みずほ銀行)に就職することが決まった高知県出身の青年が、勇んで帰郷した。母に日本一の銀行と呼び声の高かった富士銀行から内定をもらったことを報告するためだった。しかし、母親の最初の一言は意外なものだった。

「なんで好き好んで静岡の銀行なんかに行かにゃならんの? 地元の四国銀行があるじゃないの」と嘆かれたというのだ。都市銀行の富士銀行よりも地元の雄、四国銀行のほうが大きいと母親は勘違いしたためだ。それほど高知での四国銀行の知名度は高く、エリートが入るというのが地元の常識だった。

今も、高齢者にはこうした地元地銀を信奉する意識は根強いが、肝心の就職する若者には地銀の人気は長期低落傾向にあるようだ。

ブンナビ(文化放送就職ナビ)が行った学生アンケート調査(20年1月)によると、就活中の学生が志望している業界はどこかという質問に対し、最も志望者が多かった順で、①食品・住宅(34.2%)、②通信・情報(22.7%)、③マスコミ(19.3%)、その後商社や鉄道・運輸、自動車・電機・電子と続き、注目の金融業界はコンサルティング、不動産よりも下位の保険(9.8%)、メガバンク・地方銀(8.5%)、証券(6.2%)で、いずれも12位以下と見る影もない。

■「就職人気が下がる業界」は銀行・信金がダントツ

さらに、ブンナビが19年12月に行った学生アンケート調査によると、「今年『就職人気が下がる』と思うのはどの業界ですか」という問いに対して、「都市銀行/地方銀行/信用金庫」と答えた人は44.8%と、他の業界を圧倒した。同じ金融業界で「証券会社」は9%、「生命保険/損害保険」は10.7%だった。金融業界の凋落は顕著だ。

かつて金融界、とりわけ銀行は就職戦線の花形だった。ホイチョイ・プロダクションズが手掛けた『バブルへGO‼ タイムマシンはドラム式』(2007年)という映画があったが、主人公を演じる広末涼子がタイムマシンで1980年代後半のバブル期に戻り、遭遇する若者に劇団ひとり演じる就職が内定した大学生がいる。

彼は学生ながら1万円札を惜しげもなく使い、パーティーに明け暮れる。その彼が女性をナンパするときに使うフレーズが、「僕、チョー銀(日本長期信用銀行と思われる)に内定しているから」だった。これを聞いた広末涼子扮(ふん)する主人公は、「その銀行潰れるよ」と答えるが、劇団ひとりは「銀行が潰れるわけないじゃない」と信じない。バブル期まで銀行はどこも不倒神話が支配していた。

■「30代で年収2000万円」がバブル崩壊で一転

「バブル期は担保となる不動産価格がうなぎ上りで湯水のごとく融資した。どこの銀行も人手が欲しくて新卒を大量採用し、給与も30代で2000万円台はざらだった」(メガバンク元役員)という。「取引先からはお中元・お歳暮で高価な品が届けられる。仕立て権付きスーツなどは挨拶代わりだった」(同)というすさまじさだった。学生の就職ランキングでも銀行が上位を独占していた時代だ。

しかし、バブル崩壊ですべては暗転した。不動産、ノンバンクなどに貸し付けた資金はことごとく焦げつき、担保価値も暴落。銀行冬の時代のはじまりだった。

不良債権の処理に奔走する銀行員は、日々、融資の回収に追われ、前向きな仕事はできない。そして果ては銀行そのものが消滅した。平成の31年間に破綻した銀行や信用金庫、信用組合などは180を超える。大手銀行(都市銀行、信託銀行、長期信用銀行)も23行から5グループに集約された。

「再編と言えば聞こえがいいが、破綻したためにいやいや統合したのが実態だった。大きすぎて潰せない規模にまで図体を大きくする。メガバンク誕生の舞台裏はそんなものだった」(元メガバンク役員)という。

だが、そうした破綻の嵐の中で、唯一、生き残ったのが第一地銀だった。

■令和に入り、「同一県内の合併」が加速

「旧相互銀行が前身である第二地銀は破綻が相次ぎ、再編の嵐に揉まれたが、全国地方銀行協会に加盟する第一地銀はバブル崩壊後も全国64行体制が続いた」(地銀幹部)とされる。各県の金庫番を務め、地域の雄である第一地銀はしぶとく生き延びたわけだ。

だが、その構図も20年10月、長崎県の十八銀行と親和銀行が合併し、翌21年1月に新潟県の第四銀行と北越銀行が合併。さらに21年5月には三重銀行と第三銀行が合併して三十三銀行が誕生した。同年10月には福井銀行が同じ福井県内の福邦銀行を子会社化している。

この流れは22年に入りさらに加速した。22年4月に青森銀行とみちのく銀行が経営統合を行い、共同持ち株会社のプロクレアホールディングスを設立した。両行は25年1月を目途に合併し、「青森みちのく銀行」となる予定だ。

銀行の窓口
写真=iStock.com/onurdongel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/onurdongel

■「1県1行体制」を描く金融庁のシナリオ

さらに22年9月に八十二銀行と長野銀行が経営統合を発表、23年6月に八十二銀行が長野銀行を完全子会社化し、25年を目途に合併する計画だ。また22年10月には愛知銀行と中京銀行が統合し、持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ」を設立、25年1月に合併する予定となっている。

さらに22年11月には地銀グループ最大手のふくおかフィナンシャルグループが、同じ福岡県内の福岡中央銀行を完全子会社化すると発表した。そして、しんがりは、学生の地銀就職ランキングで常にトップを独占してきた横浜銀行による神奈川銀行の完全子会社化だ。この統合では横浜銀行は神奈川銀行にTOB(株式公開買い付け)を行い、子会社化している。

これら一連の同一県内での統合の背後にいるのは、いうまでもなく金融庁だ。金融庁が念頭に置くのは、「1県1行体制」で盤石の地域金融を築くことにある。同体制は昭和前期の大蔵省の施策で「戦時統合」とも呼ばれる。国債消化と戦争遂行のために資金を集中投下することを目的に、同一県内の中小銀行を強制的に大手銀行に集約していった。現在の政治・経済情勢と酷似しているとの指摘もある。

■支店長ポストが減り、農業に出向することも…

金融庁は各県で「第一地銀と第二地銀を統合させる」というシナリオで動いている。そのシナリオの原点は2018年に金融庁の有識者会議がまとめたレポート「地域金融の課題と競争のあり方」に集約されている。このレポートでは、人口減少などにより1行単独でも地銀が生き残れない地域が23に上り、1行であればどうにか存続できる道府県が13になると指摘されている。金融庁内部には「地銀の数は現在の半分でいいのではないか」との意見も聞かれるほどだ。

全国の地域経済の中核をなす地銀。「地元の商工会議所や商工会の会合では、いつも地銀の支店長は会長とならび上座に座るのが慣例になっている」(新潟県の商工会事務局員)と言われる存在だ。「地銀の頭取は殿様」という地方もある。

社会的地位が高く、安定性があり、給与も地域の中では群を抜いて高い地銀。その地銀の地位がいまグラついていることは間違いない。「超低金利が続き、伝統的な預貸金利ザヤだけでは食べていけない」(地銀幹部)という。

支店の統廃合もあり、支店長になれない行員も増え、天下り先も細っている。「現職のまま他業種に出向することも増えており、銀行員なのに農業に従事しなければならないケースもある」(地銀行員)という。企業の将来に敏感な学生の人気がまさに地銀の置かれた厳しい状況を如実に映し出している。

----------

森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

----------

(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください