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10年前は「オタク専用アイテム」だった…ファッション業界が「アニメコラボ」に飛びつくようになったワケ

プレジデントオンライン / 2023年7月4日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yoshiurara

ファッション業界でアニメ・漫画のキャラクターをあしらったアイテムが増えている。ライターの南充浩さんは「現在は嗜好が分散化してトレンドがつくりにくくなっている。無理に新しいデザインの服を作るよりも、人気のキャラとコラボしたほうが売りやすいからだろう」という――。

■「ファッショントレンド」が生まれにくくなっている

衣料品が売れるためにはいくつかの要因が必要になりますが、その中の一つに「ファッショントレンド」というものがあります。ファッショントレンドが大きく動くことによって、買い替え・買い足し需要が発生しますし、衣料品の着こなし方も変化します。

ですから衣料品業界にとってファッショントレンドの変化というのは大きな商機になります。もちろんファッショントレンドが大きく広がれば広がるほど衣料品の売れ行きは好調になり、トレンドの広がりが小さいと売れ行きはさほど広がりません。そのため、業界はビッグトレンドが定期的に生まれてほしいと願っており、それを実現するためにさまざまな仕掛けを凝らしています。

しかし、ファッションのビッグトレンドというのは2015年以降極めて生まれにくくなっています。恐らく最後のビッグトレンドは2008年から2015年までのスキニーパンツブームだったでしょう。この間、カジュアルパンツはスキニータイプ一辺倒でしたし、スキニー以外のパンツを使った着こなしも提案されていませんでした。

■トレンドが分散すると売れ行きも分散する

2015年からスキニーとは正反対のビッグサイズトレンドが復活したと言われており、ビッグサイズのトップスやズボンが久しぶりに日の目を見ることとなりましたが、スキニーパンツも絶滅したわけではなく、シーズンごとにユニクロやジーユーなどのマスブランドで売られているので、ビッグサイズ一辺倒というわけではありません。

言うなら、ビッグサイズもスキニーも共存する状態ということになります。共存共栄というのは政治経済的には平和で好ましい状態ですが、商業的にはトレンドが分散すると売れ行きも分散することになるのであまり好ましい状態ではありません。

そして2015年以降のビッグサイズ復活に加えてスキニー残存という状況は2023年になったいまも変わりません。極端な言い方をすると、2017、2018年あたりと2023年の今とではファッショントレンドはほとんど変わっていないので、その当時に買った服は破損していない限り現在着用していても全く違和感がありません。

トレンドは分散傾向にあり、その上変化しにくくなってしまったため、衣料品業界的にはこれまで以上に服を売る工夫が求められています。

■「人気俳優に服を着せればそのブランドが売れる」時代は終わった

トレンドを人為的に変化させることは不可能ではありませんが、2010年代後半以降は非常に困難になっています。それまでに使っていたキャンペーン的な手法ではマス層があまり動かなくなってきたからです。これも個人の嗜好(しこう)が分散化してしまったためではないかと考えられます。その最たる例は、有名芸能人を起用したキャンペーンです。

2005年ごろまでは特定の人気芸能人がドラマで着た衣装はもれなく大ヒットするという法則が成り立っていました。メンズでいうなら90年代半ばから2005年までの木村拓哉さんがその典型でしょう。ドラマ出演時に着用した衣装はどのブランドも売れに売れました。女性では、96年にバーバリーブルーレーベルを大ヒットに導き、「アムラー」という言葉も作られた安室奈美恵さんなんかがその典型でしょう。

最近でも「ドラマで着用してくれたら売れる芸能人」という枠組みは存在しますが、当時ほどの威力はありません。恐らく消費者の嗜好が分散化している上に、ドラマの衣装なんてしょせんは借り物に過ぎないと多くの消費者が知ってしまっているためリアルに受け取っていないのではないかと思います。

■あらゆる価格帯のブランドで増えている「アニメコラボ」

それに比してある程度の売上高が期待でき、かつ全ジャンル・全価格帯のブランドで共通して行われているのが、アニメ・漫画・特撮とのコラボ企画です。この傾向は2010年代に入ってから顕著に増えたと感じています。直近では、衣料品ではありませんが、ファッションスニーカーで有名なショップ「アトモス」が「DCシューズ」というブランドと組んで漫画『キン肉マン』とのコラボスニーカーを発売するという発表が6月6日にありました。

「アトモス」が「DCシューズ」と「キン肉マン」とのスニーカーを制作 オリジナルソフビを同封

スニーカーショップの「アトモス(ATMOS)」は、「DCシューズ(DC SHOES)」に別注して漫画「キン肉マン」の要素を落とし込んだ3型のスニーカー“DCシューズ マンテカ 4 アトモス(DC SHOES MANTECA 4 ATMOS)”を6月29日に発売する。価格は全て2万7500円で、「アトモス」の公式オンラインストアと一部直営店で取り扱う。

アトモスというショップはファッションスニーカー好きからは非常にあがめられている人気ショップで「DCシューズ」も決してそこら辺にある無名のブランドではありません。こういう人気店・人気ブランドが『キン肉マン』という漫画とコラボ商品を作って販売するというのが最近の風潮を顕著に表していると感じます。

■昔はアニメTシャツをファッションとして着る人はいなかった

ここで、唐突ですが少し自分語りをさせてもらうと、筆者は90年代前半に衣料品販売店に就職するまで一切ファッションに興味がなく、むしろアニメ・漫画・特撮を好む人間でした。今でいうところの陰キャでオタクだったわけですが、その頃は、いくら人気のある作品でもわざわざそれとコラボをした洋服や服飾雑貨なんて「まともな」ブランドでは企画生産販売していませんでした。

せいぜいアニメショップが取り扱っていた程度です。ましてやそのコラボ服や雑貨を「ファッションとして」身に着ける人は皆無でしたし、いたとしてもその手のイベントに参加するオタクくらいだったのではないかと思います。

それがいつの間にか一般アパレルでもコラボアイテムを頻繁に見かけるようになりました。ふと気が付いたのは2014年のことでした。スピンズやピーチジョンといった若者向けブランドが『美少女戦士セーラームーン』コラボアイテムを販売していたのです。また同時期には80年代の作品『魔法の天使クリィミーマミ』とのコラボTシャツを発売していたブランドもありました。

Tシャツの山
写真=iStock.com/Henda Tri Retnadi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Henda Tri Retnadi

■ファッション用途としてのキャラクターTシャツ

アニメショップ限定だったアニメキャラクターが全面にプリントされたアイテムが、早い時期だと2008年、遅くとも2014年にはファッション用途として販売されるようになったと考えられます。

さらに思い返してみると、2011年8月にはファッション雑誌『シュプール』が漫画『ジョジョの奇妙な冒険』とコラボを発表したことを思い出しました。この当時、まだお高く止まっていた海外ファッションを中心に取り上げる『シュプール』がいきなりコラボ号を発売したので驚いたことを今でも覚えています。2011年10月号でのことです。実際この号はこの目で読みました。

■しまむらはアニメコラボで売り上げが絶好調

低価格ブランドではユニクロ、しまむらあたりがいち早くアニメコラボ服を発売していましたが、その当時は「安物ブランドならではのおふざけ企画」ではないかと思って眺めていました。

ユニクロのUTから『機動戦士ガンダム』や『あしたのジョー』などのコラボTシャツが発売された当初は「こんなキャラクターの顔をデカデカとプリントしたTシャツなんて誰が買うんだろう? 500円に値下がりしても要らないわ。どうせ来年にはなくなっている企画だろう」と思っていたのですが、案に相違して、いまだにユニクロは毎シーズン、アニメコラボ服を定期的に発売しています。

アニメコラボ服の売れ行きはユニクロから公表されていませんが、毎シーズン継続しているということは少なくとも目標予算くらいは売れているのだろうと考えられます。通常の洋服ブランドが毎月の目標予算達成に四苦八苦している現状に照らし合わせてみると驚くべき売れ行きだといえます。

また、しまむらもキャラクターコラボ服は好調を続けており2023年2月期連結ではついに売上高6161億円(対前年比5.6%増)とついに売上高は6000億円を突破しました。もちろん増益しており、営業利益533億円(同7.9%増)、経常利益543億円(同7.5%増)、当期利益380億円(同7.3%増)と絶好調でした。決算資料には

「トレンド商品やインフルエンサー企画、キャラクター商品は、品揃えを拡充してコーディネート提案も強化し、客数増加に繋がりました」

とあります。実際にしまむらにキャラクターコラボ服を供給しているメーカーの担当者に聞くと「作品名やキャラクターによって売れ行きは上下動しますが、1日に2万枚くらいは普通に売れますよ」というからかなりの売れ行きです。

■アニメコラボは低価格ブランドに限った話ではない

こうして見てみると、衣料品の漫画・アニメコラボは低価格ブランドや若者向けブランドに限った話ではないかと思われがちですが、この手のコラボ商品は欧米ラグジュアリーブランドや百貨店にも広がっており、それも1シーズンに限ったことではなく、定期的に行われています。定期的どころか2020年代に入ってから一流ブランドとアニメ・漫画コラボは加速度的に増えているように感じます。

代表的なものをいくつか挙げてみましょう。

ドルチェ&ガッバーナと『呪術廻戦』
ロエベと『千と千尋の神隠し』
ANNA SUIと『鬼滅の刃』
グッチと『ドラえもん』
ヨウジヤマモトと『サイボーグ009』

といった具合でまだまだあります。繊維・衣料品業界メディアで「アニメ・漫画コラボ」の文字を見ない週はないほどです。

グッチとドラえもんのコラボ
写真提供=グッチ

■サブカルがメインカルチャーになった

こうしたラグジュアリーブランドや百貨店の動きについては「ユニクロ、しまむらなどの低価格商品とは異なる意味合いがあるのではないか?」と指摘する人もおられますが、個人的には同じ動機だと考えています。

まず、日本のアニメ・漫画類が『鬼滅の刃』や『スーパーマリオ』の映画の世界規模でのヒットを筆頭に世界中を席巻していることが挙げられます。世界的にも日本のアニメ・漫画類はビッグヒットコンテンツとなっています。そのコンテンツにファッションが便乗しているという状況にあります。

また国内に目を向けると、冒頭で述べたような「国民的アイコン」という人気者が見当たらなくなって分散化してしまったことのほかに、元来「サブカル(サブカルチャーの略)」と呼ばれていたアニメ漫画類が老若男女を問わない「メインカルチャー」となってしまい、逆に細かいディテールや先端トレンドに血道を上げるファッションが大衆からはオタク的に捉えられ「サブカル化」してしまったことが大きいのではないかと思います。

■ファッションの話よりもアニメの話のほうが全世代的

筆者が2023年3月まで6年半にわたって非常勤講師を務めていたファッション専門学校では、50代の筆者と、10代後半から20代前半の生徒との間にジェネレーションギャップがあったことは言うまでもありませんが、最も大きくジェネレーションギャップを感じたのが実は「ファッション」に関する話題だったのです。こちらが知っているなじみのあるブランドやアパレル企業の名前を今の生徒たちはほとんど知りません。

逆に生徒たちが好んでいるブランドについてはこちらがほとんどわかりません。その結果、ファッション専門学校なのにファッションで共通の話題を探すことが難しかったのです。ところが、アニメや漫画の話題ならジェネレーションギャップはほとんどなく意思疎通ができました。もちろん、めちゃくちゃマイナーな作品を持ち出せば共通の話題にはなり得ませんが、例えばメジャーな作品――『ドラゴンボール』や『ワンピース』、『ルパン三世』などは中高年でも若者でも共通の知識として話が通じるのです。

いつの時代もどの分野にもジェネレーションギャップは当然あるものですが、ファッション専門学校ですらファッションについてはジェネレーションギャップが大きいのに比べ、メジャーなアニメ・漫画作品にはジェネレーションギャップがないのです。いかにアニメ・漫画が全世代共通の「メインカルチャー化」しているかということが分かるのではないかと思います。

■大衆層に振り向いてもらうのにアニメは手っ取り早い

そうなると、一部のマニアしか注目しないような最先端トレンドや凝ったディテールを盛り込んだ服を発売するより、アニメ・漫画コラボの服を発売した方が、より多くの消費者、とりわけマニアックなファッション談義には興味のない大衆層に振り向いてもらいやすいということになります。これがラグジュアリーブランドからしまむらまでの全価格帯・全ジャンルのブランドがアニメ・漫画コラボを手掛ける最大の理由ではないかと考えらます。

筆者は今年53歳ですが、小学生時代に『ガンダム』ブームを経験し、中学生時代には『北斗の拳』ブームがあり、大学生時代には『ドラゴンボール』を読んで今に至ります。元々が好きなので今でも何本かのアニメを見たり漫画を読んだりしています。現在の70歳手前くらいまでの中高年はアニメ漫画の知識があるといえますから、小学生から70歳くらいまでが共通の話題として取り上げることができる全世代が支持する一大文化がアニメ・漫画類だといえます。

■アニメコラボは一般化する

国内的にも国際的にも今後もアニメ・漫画・特撮とブランドとのコラボは続くでしょうし、ますます「あって当たり前」という風潮になりさらに一般化するのではないかと思います。国内でも熱狂的なアニメ・漫画・特撮ファンのファッション業界人も増えており、モノ系月刊雑誌『モノマックス』では特撮番組好きのビームスのスタッフが「ビームス特撮部」として連載を持っていたほどです。

アニメ・漫画・特撮とファッションの立ち位置は長期的に変わることがなく、ファッションのサブカル化は半ば固定化されるのではないかと個人的には見ています。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)

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