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ちょっと高いけど、圧倒的にうまい…角上魚類が「ライバル店の5倍」という驚異的な集客力をもつ4つの理由

プレジデントオンライン / 2023年7月3日 15時15分

筆者撮影

関東や信越地区を中心に22店舗を展開する鮮魚小売りチェーン「角上魚類」が好調だ。直近の売上高は400億円と過去最高を記録しているが、その理由は店舗数を増やしたからではない。既存店舗の集客がどんどん増えているのだ。いったいどんな店づくりをしているのか。経営コンサルタントの岩崎剛幸さんがリポートする――。

■業界大手を圧倒する利益率

毎週末、店の前で大渋滞が起きる。そんな鮮魚専門店があります。新潟県長岡市寺泊発の鮮魚専門小売店「角上魚類」(以下、角上)です。

江戸時代から続く網本兼卸問屋で、1970年代に小売業に進出。1984年に県外(群馬県高崎市)に出店したのを皮切りに、現在は首都圏郊外と新潟など全22店舗を展開しています。

なぜ人気なのか。まずは角上魚類の業績推移を見てください。

【図表】角上魚類HD損益実績比較表

22年3月期の角上の売上高は400億円。コロナ前の18年同期比で120.5%です。さらに驚くのは営業利益、経常利益が18年同期比で1.7倍。経常利益率、営業利益率共に7%を超える高い利益率です。23年3月期も過去最高売り上げとなり、勢いは続いています。

一般的に生鮮食品分野は粗利率が低いカテゴリーです。粗利が低いため営業利益も低くなるものですが角上は非常に高い利益をたたき出しています。

角上のすごさは同業他社と比較するとさらによく分かります。

【図表】鮮魚小売り大手3社の損益比較表

鮮魚小売り大手の中島水産(64店舗)と魚力(うおりき、96店舗)は百貨店や商業施設で引っ張りだこの鮮魚小売り事業者です。両社ともに売り上げは200億円を超え、全国展開している有名企業です。角上は営業利益率、経常利益率、当期利益率でこれらの業界大手を圧倒しています。

営業利益率が7%を超え、東証プライム上場企業である魚力の2倍以上の利益を出し、1店舗当り売上高5倍強の実績というのは驚きです。なぜここまで儲けられるのでしょうか。

■1店舗あたりの売上高は業界トップ

その強さを支えているのが1店舗あたり売上高の大きさです。グラフを見ると店舗数は一定ですが売上高は右肩上がりであるのが分かります。

【図表】角上魚類 売上高と店舗数推移(18.3~22.3)単位:百万円
角上IR数値より筆者作成

22年の1店舗あたり売り上げは18億2000万円です。競合の大手2社に比べて店舗数は4分の1以下ですが、1店舗あたり売り上げは圧倒的に上回っています。

また店舗数が少ないことでローコストオペレーションが可能となり、人的資本を集中することができ、結果として利益率の高い経営になっているのです。

■スーパーの約5倍という「坪効率」の秘密

角上全22店舗の中で売上高トップは、東京の小平市にある角上魚類小平店です。西武新宿線の小平駅から徒歩で20分程度。新青梅街道沿いにあるこの店は、完全なるロードサイド型店舗。ほとんどのお客さんは車で来店します。

平日昼間でも小平店の駐車場はほぼ満車状態
筆者撮影
平日昼間でも小平店の駐車場はほぼ満車状態 - 筆者撮影

敷地面積が約300坪(990平方メートル)で建物面積が約150坪(495平方メートル)です。

売場面積は120坪弱で、残り30坪程度をバックヤードとして使っています。魚屋さんとしては大きな店ですが、食品スーパーなどと比べれば小さな店舗です。これで年29億円を売り上げています。年間坪あたり売り上げ(年坪効率)は2400万円(売り場120坪計算)以上です。

一般的には繁盛している食品スーパーの年坪効率は500万円程度です。その約5倍を小平店は稼いでいます。駐車場160台を確保していても渋滞が起こるのも分かります。

大みそかには午前5時の開店から閉店まで約1万1000人が来店すると言いますから、小さな百貨店よりも集客していると言えます。

■50種以上の魚が並ぶ

角上小平店の「繁盛ポイント」は以下の4つにまとめられます。

【繁盛ポイント1 刺し身一番店】

角上の一番単品は何といっても刺し身、そして寿司でしょう。刺し身の鮮度、味には定評があり、仕入れ力がもっとも表れていると言えます。魚屋さんは何といっても刺し身の商品力で決まります。

角上では毎朝、東京・豊洲と新潟の市場にいる鮮魚専門のバイヤーが仕入れ内容を決め、それぞれの水揚げ状況を共有し、買い付ける魚を決めています。結果として鮮魚売り場に50魚種以上が並ぶことも珍しくありません。

通常20種もあれば良い売り場ですが、その倍以上をそろえます。新鮮なネタをこれだけそろえていますので近くの飲食業者も日常的に角上に仕入れに来るほどです。コストコよりも少量販売して、珍しい魚種もあるため業者利用も多いのだと思います。

■スーパーの寿司との決定的な違い

握り寿司は常に8貫から40貫まで、8種類の握り寿司が大量に陳列され、次から次へと売れていきます。この日、私は8貫1000円(税込み)の本マグロ赤身入りを買いました。併せて近隣の大手食品スーパーでも10貫640円のお値下げ品(税込み)を買い食べ比べてみました。

食品スーパーの寿司は2貫多く、価格も安い。しかもまだお昼過ぎたあたりで値下げしています。一つずつ食べ比べてみましたが1貫目から圧倒的に角上のほうがおいしい。ネタもシャリもまったく違います。同じ寿司とは思えないほど違いました。これなら高くても角上で寿司を買います。

上は角上の握り寿司、下は大手食品スーパーの握り寿司。見た目から違う
筆者撮影
上は角上の握り寿司、下は大手食品スーパーの握り寿司。見た目から違う - 筆者撮影

角上の商品は必ずしも低価格というわけではありません。良い品質の魚を、適正価格で販売しています。そしていたずらな値下げはしない。常に適正価格で販売しようと心掛けているように感じます。

だから「値入」=粗利となります。値入(ねいれ)とはもともとの値付けでとれるはずだった利益、粗利は値下げして最終的にとれる利益です。スーパーなどはもともとつけていた値段を安くしてしまうから、値入と粗利が変わり、鮮魚は利益が出にくくなります。角上は値入と粗利が同じですから、しっかりと利益が残る仕組みになっているというわけです。

■オジサンの心をつかむ「つまみ」

【繁盛ポイント2 つまみや総菜の充実】

角上の強みは、刺し身や寿司だけではありません。つまみや総菜、弁当も充実しているのです。

小平店には、酒のつまみをパック詰めしたものが120アイテム以上はありました。それ以外の刺し身系やわかめなどの海藻系なども含めたら、つまみだけで200アイテムはくだらないでしょう。

このつまみを選ぶだけでも楽しい。しかもおいしい居酒屋に品ぞろえしているような海鮮系のつまみばかりですからどれも目を引きます。だから普通の食品店では少ない男性客、しかもおじさんや高齢者の客層が目立つ店なのです。

私は「釜揚げ桜海老」(306円)、「たこわさび」(285円)、「角上海幸漬け(小)」(750円)を買いました。

このような酒のアテになるようなアイテムが豊富にそろっていることが角上のリピーターづくりのポイントです。21年末時点で角上のスマホアプリ会員数は17万人を超えていました。毎月1000人ずつ会員は増えていましたから、今では19万人近くになっているでしょう。

「角上海幸漬け(小)」(750円)。少し高いですが絶品のつまみでした
筆者撮影
「角上海幸漬け(小)」(750円)。少し高いですが絶品のつまみでした - 筆者撮影

■チラシよりもサービスデー

【繁盛ポイント3 チラシを打たない】

「折り込みチラシは完全な無駄だと思っている」(栁下浩三・創業者兼名誉会長)とのことでチラシは打たないのです。

基本的にお客が店で鮮魚や総菜といった商品の質や価格を見て、買って、家で食べて、角上にまた行こうと思ってもらうのが店の基本と考えているからです。特に仕入れや店舗担当者には「食べておいしいものだけを売ろう」ということを伝え続けているそうです。

一方で、いつも使っていただいていることへの感謝の気持ちとして月に1回、「角上の日」という感謝デーを設けています。10年前からの取り組みで、全店舗の商品が10パーセント引きになるサービスです(12月を除く。対象外商品もあり)。

通常は割引を一切せず適正価格で販売し、月に一度だけお客にご奉仕価格で提供する。

これだけをきちんとまわしていけば固定客ができてリピートしてくれるのですから、非常に効率のいい経営と言えます。チラシを打ったり通常値引きしたりする費用をかけず、その分、質のいい商品を仕入れることにお金をかけていることが角上の商品力につながっているのです。

■スーパーではなく大きい魚屋さん

【繁盛ポイント4 対面で人が売る】

角上が目指すのは、お客に「魚屋さん」と親しみを込めて呼ばれる店です。

店に足を運んでくれたお客のために、魚の調理方法を提案し、さらに調理の手間を省く「身おろし」のサービスもあります。

こうした接客を繰り返していけば、もともと魚好きの日本人に魅力を感じてもらえると考えているのです。だから角上の鮮魚売り場は、対面販売なのです。

商品補充をしながら接客する人、身おろしの注文を受けて番号札を渡して、おろした魚をお客に渡す人、今日入った魚を大声で案内する人など、売り場のあちこちで威勢のいい魚屋さんの掛け声が響いています。

角上は「人」を感じる魚屋です。これは同社の組織図にも表れています。組織図には店舗運営の営業部の中に育成指導課という課があります。

角上では、新入社員一人ひとりに、経験先輩社員をパートナーとして配属し、一から教える指導パートナー制度を導入しています。社会人としてのマナーや接客方法、心得、必須となる魚のさばき方もできるまで丁寧に教えるのだそうです。この教育システムによって、新人でも早期育成が可能となり、店舗や仕入れで活躍する若手社員が育っています。

■なぜ店舗数を増やさないのか

これほどの繁盛店ですから各地からの出店要請も多いのですが、あまりエリアを広げていませんし、店舗数もそれほど増やしていません。

理由は「新潟を早朝に保冷トラックが出発して、お昼ごろまでには到着する範囲で店舗展開する」というこだわりがあるからです。角上の思いは、日本海の鮮度の良い魚を一番おいしい状態でお客に届けたいという一点に尽きます。

角上には社心という言葉があります。「買う心、同じ心で売る心」。常に「お客さま目線」で仕事をすることこそが角上で働くすべての人が守るべきだという内容です。

これを徹底していくために「鮮度は良いか」「値段はよいか」「配列はよいか」「態度はよいか」という「4つのよいか」という現場の基準を作り徹底しているのです。

商品は冷ケースに整然と陳列されている非常にきれいな売り場
筆者撮影
商品は冷ケースに整然と陳列されている非常にきれいな売り場 - 筆者撮影

私が昔、一時期働いたことがある鮮魚小売店の品ぞろえや陳列などと比べて、角上の売り場は圧倒的にきれいです。クレンリネスも徹底されています。また価格設定がなにより絶妙で、商品の顔を見てきちんと値付けしているのがわかります。

これが全社で徹底できているからこそ、圧倒的に高い坪効率の店を作れています。店舗数をむやみに増やさなくても売り上げを大きくし、高い利益率をあげることができています。店舗数を増やしたり、大きな売り場面積の店を作ったりするだけが、これからの繁盛店ではありません。

角上のように人を大切にして、お客に商品で喜んでいただけるように、そこで働く人が誠心誠意商売をしていく店が結果的に超繁盛店になるのです。

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岩崎 剛幸(いわさき・たけゆき)
経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。

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(経営コンサルタント 岩崎 剛幸)

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